1987   クローンいんげん研究
2004/07/09 19:47:31  ijustat   (参照数 151)

こんにちは、pdca様。ijustatです。

>クローン人間 kuronningen
>苦労人間 kuroningen
>クローンいんげん kuroningen
>
>日本語話者でなければ、区別がつかないのではないでしょうか。
>なぜ日本語話者は区別して/区別できて、他の人は区別しない/できないか。
>ijustat さんがきっと解説してくださると思います。

いや、振られてしまいました(笑)。他の方々のお話を楽しもうと思っていたんですが。

そういえば、「1万円」と「1万年」も外国の人たちには難しいです。これは、「クローンいんげん」と「クローン人間」に当たりますね。

韓国語の話者は、「クローン人間」と「苦労人間」の区別はできます。でも、「クローンいんげん」という発音は難しく、何も説明をしないと「苦労人間」と発音してしまいます。実際によく起こるのは、「ニホネ(=日本へ)行きました」とか、「イチマネン(1万円)」のような発音です。また、「クローンいんげん」と発音すると、“苦労いんげん”と聞こえることもあるようです。

こういう日本語の現象は、私たちが外国語を勉強するときに、色々な洞察をあたえてくれるはずです。

まず、「クローン人間」と「苦労人間」の区別をするのは、日本語が子音の長短を区別する言語だからです。長い“nn”と短い“n”とを区別するのは、日本語の特徴といえるかもしれません。

どのくらいの言語で区別するのか知りませんが、韓国語では区別しています。ただし、日本語の“nn”ほど長く発音しません。

英語では、単語の中では長い“nn”は存在しないようですが、単語と単語の境界で“n”が重なる時に長い“nn”が発生するようです。

ギリシャ語では、単語の中であれ単語と単語の境界であれ、決して重なる同一の音を長く発音しません。それで、“ナヌイジ アンヌン キョフェ(分かれることのない教会)”と発音しなければならないのを、ギリシャ語の先生は、どうしても“ナヌイジ アヌン キョフェ(分かれることのなかった教会)”と言ってしまって、正しく発音してもらうのに苦労しました。だから、ギリシャの人が日本語を話す場合、「苦労人間」研究が是か非かという議論をすることになると思います。(実際には“黒人間”になるはずですが。)

外国語の発音を学ぶ際、“nn”のように重複した子音字を、長く発音するか、単子音のように短く発音するかを考える、いいきっかけとなります。日本語に音訳するときに重子音のように表記されるけれども、実際には単子音である場合があるからです。フランス語の場合はどうでしょうか。

「クローンいんげん」という発音は、非常に特殊で、日本語の「ん」が持つ独自な特徴をあらわしています。「ん」の特徴は、1)鼻音であり、2)1拍の長さを持ち、3)後続する音に調音点が同化するということです。この3番目の特徴は日本語にしかないと、長い間思っていましたが、オランダ語の教材テープを借りて聞いていたとき、この音が出てきました。オランダ語にも、この音があるのです!

ワールドカップのあと、学生たちに“ん”の音を教える時、これは日本語とオランダ語にある特徴で、ヒディンク監督もこの発音をしているはずだと説明すると、学生たちの顔色が変わり、多くの学生が正しく発音できるようになりました(笑)。いや、実際には、私の説明のしかたが昔と変わったのかもしれません。説明を聞いてすぐに正確な発音をできる学生が、心なしか多くなりました。

日本語の“ん”の音には、神秘めいたところがあります。この音の特徴を意識化できればできるだけ、外国語の鼻音の発音が分かるようになると思います。

ところで、皆さんは、「ん」には何種類の音があると習いましたか(思いますか)。以下の1〜11に分けられた単語の“ん”は、それぞれ発音が違うでしょうか。統合すべきものがあるでしょうか。それとも、もっと細分できるでしょうか。(これは本によって記述がまちまちなのですが。)

1.散歩、こんぶ、勤務
2.弁当、現代、女、範疇、真珠
3.連絡、反論、論理
4.電子、参照
5.検査、建設、反則
6.研究、産業
7.健康、言語
8.本屋、千円、ダンヒル
9.親愛、漢音、ピンホール
10.暗鬱、電話、温和、ヒルトンホテル、シンフォニー
11.時間、日本、すみません、うん、ふうん

追伸:『ピーター流外国語習得術』は、私も読みました。ずいぶん前なので、だいぶ印象が薄れてしまいましたが、面白く読んだ記憶があります。また読み返したいですね。

この発言に対する返信…1988   Re^2:クローン人間研究は是か非か
                 1989   苦ドウ人間?
                  1990   苦労の研究