1990   苦労の研究
2004/07/12 21:19:54  ijustat   (参照数 155)
これは 1989 [苦ドウ人間?] への返信です

ショウコさま、こんにちは。

>暫くしてから気がつきました。
>
>英語ではCLONE なんですよね。
>日本語のRの音は英語のDに似ているので
>
>CLONE(クローン人間)
>KUDOU(苦労人間)
>英語風に発音すると違いが分かり易いかもしれないですね。。

そういえば、高校生のころの話ですが、モルモン教徒のアメリカ人の住処へ行ったことがありました。そこにはアメリカ人が2人いて、一人は日本語が堪能で、一人は日本語ができませんでした。

日本語のできないアメリカ人と、どうやって意思疎通を行ったのか覚えていませんが、その人が、日本の犬を指して、「アキラ、アキラ」といっていたのを思い出しました。私が「あきら?」と聞くと、“Yes.”と言います。しばらくして、それが犬の名前だということが分かり、同時にそれは“秋田犬”のことだと分かりました。実に、アメリカ英語の“t”と“d”は、日本語の“ラ行音”とそっくりです。

“t”はともかく、“d”が語中で“ラ行音”になってしまうのは、日本語でも散発的に起こり、むかし赤塚富士夫の漫画で、誰かが「そうなのら」と言っていたのを思い出すし、高知県のあたりでは、語中のダ行音とラ行音は、ラ行音で発音される(中和するといいます)音韻規則があるという話を聞いたことがあります。

それで、アメリカで“工藤”さんは“苦労”さんになってしまうわけですね。

>いつも思うのですが、ローマ字表記で日本語のRの音がRで表記されることに対して。。。
>英語から借用したL系の言葉をLA,LI,LU,LE,LOで表記したらどうでしょうか。
>そうすれば、少しは英語の発音のときに混乱しなくて済むのではないでしょうか。
>
>KULOON,LONDONなどをローマ字で表記する必要があるかな、、、と思うこともありますが。

刺激的な意見ですね。私も前に同じことを考えたことがあるので、こういう話を聞くと、心が騒ぎます。しかしその後、気が付いてみると、自分はこの考えを捨てていました。

いつから(イギリス・アメリカ)英語の“r”が巻舌音になり、語中の“t”と“d”が日本語のラ行と同じ弾音になったのか知りませんが、“r”はともかく、語中の“t”と“d”がイギリス英語では弾音にならないところを見ると、もしかしたら、独立以後のことなのではないかと思います。

また、イギリス英語の“r”は、イギリス人の吹込みを聞いていると、時々日本語と同じ弾音になっていることがあります。これは、私が耳で聞いただけで、幅広い資料に当たったわけではないので何ともいえないのですが、“e”や“i”のような狭い前母音に挟まれた“r”は、日本語のラ行と同じ発音になっていることがありました。その他では、すべて巻舌音だったような気がします。

それと、面白かったのは、同じ朗読者が、医者や女王などの科白を言うときには、“r”を弾音で発音し、下層民の科白を言うときには、同じ“r”を同じ音韻的環境の中でも巻舌音で発音していたことです。イギリスに住んでいたある日本人の伝道師先生が、イギリス英語の発音は日本語と同じと言っていたのを思い出します。私は決してイギリス英語の発音が日本語と同じだとは思いませんが、アメリカ英語に比べると、日本語の発音と共通する部分がいくらかあるようです。

“r”の発音は、ヨーロッパでもけっこう不安定で、英語では一般に巻舌音で、フランス語とドイツ語ではのどひこを震わせる音ですよね。スペイン語とロシア語では、舌先を震わせるべらんめえ調の音で、ギリシャ語では弾音です。たぶんですが、舌を震わせる“r”の音と1回だけ舌先をはじく“r”の音とは、違う音と認識されることはあまりないのではないかと思います。

それらを考えるとき、日本語のラ行音を“r”で表記するのは、“l”で表記するよりも妥当だろうと考えられます。ちなみに韓国では、日本語のラ行音と同じ発音の音を“l”で表記するようになりましたが、それは多分、韓国の人たちは一般人も学者も英語が好きで、彼らにとって、アメリカ英語が世界の言語の基準だからだと思います。

“l”と“r”の対立は、けっこう多くの言語にあって、モンゴル語にもあったし、フィンランド語でも見ました。ヨーロッパの言語ではみなこの2つの音は対立していて、ヒンディー語でも区別していたと思います。日本語と韓国語では、この二つの音の対立はないのですが、ただし長く発音されるときは、弾音でなく、流音になって“l”にとても近くなります。たとえば、アラブ人が祈るとき発する“アッラー”を日本語で言ったときの音は、“arraa”ではなくて“allaa”だと思います。(韓国では、これをもって、韓国語にも“l”と“r”の対立があると学校で教えているようです。でもこの説は無理があり、語中における“ll”と“r”の対立だから、当然語頭では“r”一本に統一されて、対立が解消されてしまうし、語末でも中和して“l”になってしまいます。また、語中でも短い“l”と長い“ll”を区別することもできません。結局、韓国語における“ll”は、“〜l+r〜”なわけです。)

まあ、一つの音素が、環境によって別々の音になってしまい、それを別々の表記であらわすのは問題だともいえます。しかし、国字として使っているわけではないので、そのようなことは、便宜上必要でしょう。(また、区別がないのだから、どちらを使っても問題ないではないかという意見も、十分に考えられます。)

というわけで、日本語のラ行音のローマ字表記について、ちょっと考えてみました。