ドイツ語アルファベットで30のお題
〜マジンガー三悪編〜


"R"--der Ritter(騎士)

「な、な、な…」
「…」
思わず、飲んでいたお茶を吹き出してしまった。
慌ててハンカチで口のまわりをぬぐいながら、衝撃発言をかました自分の恋人を見返すミヒャエル…
彼の視線の先には、何やら思い詰めた表情のラウラがいる。
「な、何を…いきなり何をわけのわからないことをッ!」
「…だってえ」
問われたラウラは、哀しそうなさびしそうな、そのくせ困ったような顔で、ため息をつくように、こう吐き出した。
「正直さあ、アンタ…おかしいよちょっと」
「お…俺の何がおかしいって言うんだ?!」
「だって…」
もじもじしながら、ラウラがぼそり、とつぶやいたその一言…
それを聞いたミヒャエルの目は、点になってしまった。
「アンタ、一体私の何がいいわけ…?」
「…え、」
「だって、だって、私…が、がさつだし、わがままだし、間抜けだし、…気も強くってすぐ手が出るし、その…し、正直、ちっとも女らしくなんかないし」
「…」
「そ、そんな女の何処がよくって、アンタが…わ、私のこと、好きでいてくれるのかわかんない」
「…」
「だ、だから…あ、アンタ、やっぱり、いぢめられるのが好きな変態さんなんじゃあ」
「…くく、ッ」
…と、今までぽかんとして彼女の自嘲を聞いていたミヒャエル…
彼が、急に破顔一笑した。
その突然の笑みは、ラウラをなおさらに動転させる。
「?!…な、何、その笑い?!…ま、まさか、や、…やっぱり、やっぱりいッ!」
「違う、違うよ…そっちの意味じゃないって」
ミヒャエルはくすくす微笑いながら、とめどなく発展していくラウラの妄想を否定する。
しかし、勢いのついてしまった彼女の思考は、全然止まってくれそうもない。
「そ、そんな、そんな…私の恋人が、変態さんだなんて…」
「違うって、ラウラ…別に、俺はマゾヒストじゃないよ」
「じゃあ、何で、」
「…愚問だな」
「…!」
言うなり、彼の腕が伸びてきた。
あっという間にラウラの身体はからめとられ、ミヒャエルの胸の中に取り込まれる。
「…俺は、」
抱きしめた恋人の瞳を見下ろしながら、見つめながら―ミヒャエルは、微笑んだ。
「俺は…お前の全てが、好きなんだ。いいとこも悪いとこもひっくるめて、ラウラ全部が」
「…!」
「わがままでも、がさつでも乱暴でも。そんなラウラが俺は好きなんだから、それでいいのさ」
「で、でも…!」
「…ふん」
「!」
降りかかってくる、やさしいミヒャエルの言葉。
お前にいくら欠点があろうと、俺はお前を愛している、と。
それでも、なおこだわるラウラ。
が、その文句を言う唇は、すぐさまにふさがれた。
反論をキスで封じておきながら、ミヒャエルは言葉を継ぐ。
「それに…さっきから、ラウラは自分のことをやたら卑下するけど、俺は…そうは、思わない」
「…」
「ラウラは、可愛い。すごくやさしい。俺のことをいつも気遣ってくれる」
「…」
「いつもがんばってる。誰にでも親切で、かげひなたがなくて…」
やさしくラウラを抱きとめながら、まるで赤子をあやすかのように…穏やかな、静かな声で、ミヒャエルは彼女を愛する。
やわらかい羽根がくすぐるように、ラウラの頬を彼の言葉がすべっていく。
「そんなラウラを、俺は知ってる…だから、いいんだよ」
そうして、彼女を胸に押し付けるようにして、抱きしめた。
無条件の承認。無償の愛情。何て心地いい幸福。
「いいんだよ…ラウラは、そのままで」




耳元でそっと散っていった、ミヒャエルの低いささやき声。
…胸の何処かが、きゅうん、と甘く痛んだ。




ばしいっ!




「…うッ?!」
やたらに景気のいい音が、ミヒャエルのおでこで派手に鳴った。
唐突に思いきり額をはたかれ、短い悲鳴をあげるミヒャエル。
「い、痛ッ…な、何するんだ、ラウラ?!」
「ふふ…!」
「ら、ラウラ…?!」
しかし、ラウラは…にこにこ笑いながら、混乱するミヒャエルをその腕に抱きしめた。
照れ隠しなのか、やたらとテンションの高い口調でけらけら笑う。
「ううッ、可愛いこと言ってくれるじゃないのさ…このでこっぱち!」
「で…?!」
さりげなく気にしていたことを、満面の笑みで、しかもうれしそうに言われ、目を白黒させるミヒャエル。
だが、ラウラはなおさらに彼を強く抱きとめ、その額にキスの雨を降らせる。
「…☆」
「ちょ、ちょっと!やめろよ、ラウラ…ッ!」
戸惑いと恥ずかしさで頬を赤く染めるミヒャエル。
じたばたと暴れる彼を、だがラウラは容易に放そうとはしない―
いとしい男をからかいながら、ラウラは…こころの中だけで、そっとつぶやいた。
…本人に聞かれるのは、ちょっぴり恥ずかしかったから。




ああ、いるもんなのねえ、
…「白馬の王子サマ」ってのも、と。




そう、つまりは。
最愛の騎士(ナイト)は、ずっと昔から変わることなく、自分のそばにはべっていたのだ―
ずうっとずうっと、昔から。





マジンガー三悪ショートストーリーズ・"Zwei silberne Ringe, ewige Liebesbande"より。
この話の続きで。
ベ タ 甘ですな。