ドイツ語アルファベットで30のお題
〜マジンガー三悪編〜


"C"--der Charakter(性格)

「あのねえ、ラウラ…アンタ、そんなんじゃぜーったいお嫁になんていけないんだからね!」
「…!」
女友達のセリフは、何よりも直截にラウラの弱みを貫いた。

「う、な、何で…」
弱々しげながらにも反抗するラウラに、彼女の友人はため息まじりに答えてやった。
「わがままだし、言い出したら聞かないし!料理も裁縫も下手くそだし」
「う、うう〜…」
「がさつで落ち着きがないし、気が強くって男にもすぐ手を上げるし」
「う…」
「女らしさのかけらもないようなコ、誰がお嫁にもらってくれるっていうのよ?」
「…」
「わかってんの、ラウラ?この世にはね、アンタの言うこと何でも笑顔で聞いてくれる、『白馬の王子サマ』なんていないんだからねッ!」
「…」
痛いところを容赦なく連続で突かれたラウラ。
最後には、文字通りぐうの音も出なくなった。
しゅんとなってしまったラウラを見た女友達は、少し言い過ぎたと思ったのか…今度は、多少口調をやわらげてきた。
「ま、でも、アンタ…男の前じゃ、ネコかぶってうまくやるタイプなのかしらね?」
「え…?!」
「だってアンタさあ、いま付き合ってる男いるんでしょ〜?!」
「いいいいいいいいいいいいいいいないよ!いないってば!ほ、ほ、本当、いないよカーリンッ!」
「…アンタねえ、自分が嘘つけない人間だってコトくらい、いい加減認めなよ」
肯定もろ出しのめちゃくちゃに過剰反応な否定の仕方をするラウラを見て、カーリンは苦笑した。
「そいつの前じゃ、上手にネコかぶってみせてるんじゃないの?」
「え、と…」
「そうよね〜、普段のアンタの調子でいったら、普通…男逃げちゃうもんねー!あはははははは!」
「…」
違う、とも言い出せないままに、友人はそんなことを言ってからからと笑った。
何ともいえず、ラウラは…複雑な表情で、困ったような笑みを浮かべるのみだった。




「…」
ラウラは、すっかり考え込んでしまった。
先ほど、カーリンと交わした会話…
彼女のセリフが、ちっちゃなとげのようになって、こころのどこかで自己主張し続けている。
『そいつの前じゃ、上手にネコかぶってみせてるんじゃないの?』
『普段のアンタの調子でいったら、普通…男逃げちゃうもんねー!』
「…」
考えれば考えるほど、彼女の意見が正しいように思えてくる。
ラウラだって、自分の欠点くらいわかっている。
わがままで、がさつで、乱暴で。
家事も、あまり得意じゃない。特に料理は、致命的に苦手だ。
およそ、世間で言うところの「女らしさ」とは、あまり縁がない。
多分、たいていの男なら…すぐに愛想をつかして、逃げ出していくだろう
(逆説的だが、男だったとしたら…多分、自分でもそうすると思う)。
だが、それが自分の性(しょう)なのだ。
長い間これでやってきた性格が、そうホイホイ変えられるはずもない。
…でも。
ラウラの思考がそこにたどり着くたび、彼女のこころはふっと落ち込んでしまう。
(ミヒャエルは、何で…私なんかを、好きでいてくれるんだろう?)
思い出すのは、自分の恋人…いとしい男のこと。
ミヒャエルは、ずっと昔からの幼馴染だ。
ひょんなことから、彼に恋心をうちあけられ…それに応じた。
自分も、彼のことが大好きだったから。
が…よくよく考えてみるにつけ、その大切な恋人である彼に対して…自分は、あまりにひどくあたってはいないだろうか?
正直、子どもの頃は、彼のことを子分の一人だと思っていた。
宿題などをやらせたり、おやつを巻き上げたりと悪行を重ねていた(…ような、気がする)。
今でも、結構迷惑ばっかりかけているかもしれない。
いろいろ困ったことがあったら、まず彼に相談するのだが…その度、彼は真摯に考えてくれるし、自分のくだらない愚痴も、根気強く聞いてくれる。
そのくせ、自分と来たら…それに甘えてばかりで、まともに報いたことなど、数えるまでもなく…無い。
…考えるだに、肩身が狭くなる。
(…何で?)
こんな女らしくもない自分を恋人にしたところで、何の自慢にもならないだろう。
彼は、我慢して自分と付き合ってくれているのか?
いや、しかし…ミヒャエルは、割と自分の嫌なことに対しては、はっきりと異議を申し立てるタイプだ。
彼の性格なら、嫌なことは決してやろうとするまい。
だから、自分が嫌なら…とっくの昔に、とっとと捨ててしまっていただろう。
ならば、どうして…彼は、こんな自分に、黙って耐えていてくれるのか?
「…」
ラウラは、すっかり考え込んでしまった。
ミヒャエルが、こんな自分を好きでいてくれる理由。
だが、考えても、考えても、わからない…
本当に、不思議でならなかった。




次の日。
何やら思いつめた表情のラウラが、ブロッケン家にやってきた。
彼女は、彼の姿を探す…
そうして、柔らかい日差しの射すテラスで、紅茶を飲みながら本を読んでいるミヒャエルを見つけるなり…
彼女は、こう切り出した。
「ねえ、ミヒャエル」
「何だい、ラウラ?」
ラウラに気づくと、彼は本のページから目を上げ…カップを片手に、穏やかに微笑んだ。
そんな彼をじいっと見つめ、ラウラは…自分の抱えていた謎の答えを、彼に求めた。
「…アンタさあ」




「アンタさあ…ひょっとして、マゾだったりするの?
「ぶはッッ?!」




考えに考え抜いて、ラウラが出した結論は…あまりといえばあんまりなモノだった。





マジンガー三悪ショートストーリーズ・"Zwei silberne Ringe, ewige Liebesbande"より。
この後のお話は…R-der Ritter(騎士)に。