ドイツ語アルファベットで30のお題
〜マジンガー三悪編〜


"M"--die Menschlichkeit(人間らしさ)

忘れられればいい何もかも
捨て去れればいい何もかも
消し去れればいい何もかも




忘れられればいい、何もかも

まぶしい太陽のきらめきも
ざわめく緑の森の美しさも
吹き渡っていく自由な風の心地よさも
音もなく降りそそぐ静謐な雪の輝きも

捨て去れればいい、何もかも

何かがこころをかすめるたびに性懲りもなく湧きあがるお前への想いも
何かが俺を打ちのめすたびにしつこく巻きあがる苦い後悔も
何かが俺に呼びかけるたびに幾度も幾度も燃え上がるお前への熱情も

消し去れればいい、何もかも

その全てを俺に与え、苦しめ、悩ませ、
そして、つかの間の甘い感傷と陶酔を残し、
その後に俺のこころを絶望と虚無で引き裂く




お前の、記憶を。




ああ、だが、畜生―




忘れようとしても忘れられない、忘れたくない
忘れることも許されず、その苦痛の中に埋もれている

畜生、
それさえなければ、俺はもっともっと楽でいられるのに
それさえなければ、俺はもっともっと残酷でいられるのに
それさえなければ、俺は―完全な、「バケモノ」でいられるのに

「バケモノ」になりかけた俺の中で、それだけが異様に眩い輝きを放っている
その輝きが俺を縛る
そして、俺を嘲けるように、またいたわるように励ますように言うのだ―




「彼女と生きていた時のお前と、お前が殺す彼ら―何が違う?」
「お前もかつては、彼らと同じだっただろう?」




畜生、俺には言い返す言葉すらない、
だから俺は「バケモノ」にもなりきれないままでいる




お前は死んでいなくなっても、ずっとずっと俺を縛りつづける
俺の片隅に残るお前の記憶が、俺に安楽な堕落を許してはくれない
それが「愛」だというのなら、








畜生、「人間」は何て―









マジンガー三悪ショートストーリーズ・"Zwei silberne Ringe, ewige Liebesbande"より。
その後の物語、ミヒャエルの独白。