ドイツ語アルファベットで30のお題
〜マジンガー三悪編〜


"G"--das Geheimnis(不思議)



また、この日がやってきた。


また、やってきたよ―ラウラ。



お前は花が好きだろう?ラウラ。
俺の家の庭も、お前はうれしそうに手入れしていた…
俺にまで無理やり作業を手伝わせてな?
普通いないぜ、自分の家の庭仕事を命令されてやらされる次代当主なんてさ。
だけど、なかなか悪くなかった―
お前の作業につき合わされているうちに、俺はいろいろな花の「名前」を覚えた。




だから、覚えている限りの花を。
お前が教えてくれた、花の「名前」…
俺がその「名前」を覚えている限りの花を。




いつになっても、花を買うのは―なかなか、こっ恥ずかしい。
しかも量が量だから、いつも…頼んだ店員は、「この人、おかしいんじゃないだろうか」というような目で俺を見てくる。
その疑わしげな目線を向けてくる店員との応対は、正直いらだたしい。
だが、俺にはもう花は育てられないし―お前のための花は、こうやって店で買うしかないからな。
だから、俺は我慢して、花屋で花を買う。




ほら、ラウラ―


俺の両手に抱えられる限りの、
俺が「名前」を覚えている限りの、
お前への想いを込められるだけ込めた、お前のための―










「ねえねえ、マーマ!」
「どうしたの、ヴィン?」
ばたん、とドアを開け、息を切らせて飛び込んできた幼い息子に、母親は不思議そうな顔を向けた。
「あのねえ、あのねえ!」
小さな男の子は、母親に抱きつきながら…
はあはあと荒い息を落ち着かせようとしながら、それでも、自分の見た光景を母親に伝えようと、一生懸命に唇を開く。
「あ、あのねー!…今年もね、いっぱい咲いてたよ…あのお墓に、お花!」
「…まあ!」
彼の報告を聞いた母親の目が、驚きで丸くなる。
どうやら、今年もまた…どなたかが現れたらしい。
この街の共同墓地、そのうちの一つ…
その墓には、一年に一度、無数の花が咲く。
それは、手向けの花としては、驚嘆してしまうくらいの量の―
墓石が見えなくなるくらい、周りの土すら覆い隠してしまうほどの、華やかな、色とりどりのヴェール。
誰が捧げるのか、それすら知れぬまま…毎年のように、その墓は、美しい花の贈り物でうずもれるのだ―
「毎年、この日なのよねえ…一体、何なのかしらねえ?」
「わかんない…誰かなあ?あれって、誰のお墓なんだろ?」
「さあ…ママにもわかんないわ。…でも、」
母親は、ふっと微笑み…まるで独り言のように、こうつぶやいた。








「きっと、とっても愛されていたんでしょうねえ…その下で眠っておられる人は!」









マジンガー三悪ショートストーリーズ・"Zwei silberne Ringe, ewige Liebesbande"より。
その後の物語、これはその一つ。