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Grab the shining Star, α Canis Minoris




第三十四話 対決!百鬼三兄弟



闇が蠢く。
憎悪と怒気を糧として。


「…また、失敗だそうだ」
「ちっ…ゲッターチームめ!」
「どうやら、そろそろ俺たちも準備をしておかねばならないようだな」
「ああ、そのようだ」
「作戦は?」
「ゲッター線増幅装置・ゲッターロボGの機密を手に入れるためには、研究所に潜入せねば」
「潜入…か」
「だが、どうやって?」
「ゲッターチームの誰かに近づくのも手かもしれん」
「なっ…き、危険すぎないか?!」
「しかし、一気に敵の中枢へと切り込める」
「…」
「…」
「…」
「…一体、誰に?」
「決まっている。三人の中で、最も警戒心が薄そうな男…」
「…車弁慶、か」
「そのとおり」
「ではどうやって奴に近づく?」
「―これだ」


闇が蠢く。
憎悪と怒気を糧として。
そのカタマリは―真っ白な、何かをその手に握っていた。
赤い刺繍の縫い目も鮮やかなそれを、「人間」は何と呼ぶのだろう―


「ヤキュウ、で…だ」



「ちょっと、兄ちゃん!二角鬼兄ちゃん!」
ぎゃんぎゃんうるさいわめき声。
それを叩きつけられているその兄は、無言のまま…自分のベッドに寝転がり、手にした小さめサイズの本を読みふけっている。
「いい加減参考資料の5巻目貸してよ、いつまで待てっての?!」
「うっせえなあー!ちょっとぐらい待てっての!」
なおもがなる弟の三角鬼に対し、とうとう我慢できなくなったのか…二角鬼は、そこから目を離し、罵声でそれに相対した。
ちょうど今、主人公・ホシヒュウマがとんでもない必殺技・魔球を編み出そうとしているところだというのに…!
しかし、話の続きを読みたくて焦れている三角鬼もまた必死。
精緻なる百鬼帝国諜報部が手に入れた「ヤキュウ」の一級資料…その名も『巨人の星』を手に、言い争っている。
彼らは、この百鬼帝国中の精鋭・百鬼百人衆がメンバー。
兄弟ならではの抜群のチームワークを自慢とする、角面鬼兄弟である。
彼らはゲッター線増幅装置の情報を盗むため、ゲッターチームの一員たる車弁慶に接近することを決めた。
そのためには、車が所属し、そして情熱を傾けているという「ヤキュウブ」に近寄るのが手っ取り早い。
しかしながら…「ヤキュウ」なる「人間」のスポーツなど、百鬼帝国の若者が知るはずもない。
そういったわけで、まずは「ヤキュウ」について勉強すべく、諜報部に頼んで情報源を手に入れてもらったわけだが…
いまや、その貴重な情報源は、兄弟喧嘩の種である。
ホシヒュウマとそのライバルたちが繰り広げる数奇で熱血な物語は、既に本来の目的を忘れさせるほどに彼らを魅了していた。
「ホシがどうなるのかもう2日も気になりっぱなしなんだよ!」
「あーもう!兄貴に逆らうんじゃねえよ、弟のくせに!」
「…お前ら!いい加減にしろッ!」
「あ…」
「い、一角鬼兄ちゃん」
―と。
醜い兄弟の争いに割り入ってきたのは、いつの間にやら部屋に入ってきていた一角鬼。
この角面鬼三兄弟の長兄である。
彼の手には、講談社漫画文庫『巨人の星』の最終巻…
それを軽く見せびらかしながら、一角鬼は自慢げに弟たちに告げた。
「俺はもう最後まで読んだ。ヤキュウ…のことも、もう大体わかったぞ」
「おお、すげえな兄ちゃん」
感嘆の声を上げる彼らを前に、一角鬼はなおも続ける。
「で…だ。ちょっと必要なものがありそうだ。ヤキュウを極めるために」
「…必要な、もの?」
「どうすんの?」
疑問顔の二角鬼、三角鬼。
にやり、と、一角鬼は笑って、彼らに立つよう促した―
「決まってんだろ…行くぞ」


『てっこーうきくーん!あーそびーましょーッ!』
「…うるさいッ、誰だ?!」

ここは、百鬼帝国海底研究所、その中の研究室…そのひとつ。
その扉の前に立って三人が声を会わせてこうハモった瞬間、中から怒号がこだました。
しゅん、と、音を立ててすべり開く扉。
その向こうに立っていたのは…白衣を身にまとった、若き研究者。
角面鬼兄弟と同じ百鬼帝国百人衆の一人でもある俊英、その名を鉄甲鬼と言う。
唐突に現れた客が角面三兄弟だと知った瞬間、彼の表情がやや不遜をまとったものになる。
「何だ…角面三馬鹿兄弟じゃないか、何か用か?」
「うっせぇ、自分がちょっと頭いいからってすぐ馬鹿っていうなばーか」
「っていうか馬鹿っていう奴ばーか」
「…」
放った皮肉に反射的に低レベルな反論を返され、ぴくり…と、整った秀才の顔が不快げに蠢く。
ぎりっ、と、冷たい目で、二角鬼と三角鬼をにらんで―
コンマ数秒。
そうして、開いた扉がまたしゅん、と音を立てて閉まる…
と。
がしっ、とそれを掴んでとどめたのは、彼の反応にちょっと慌てた一角鬼。
「ちょ、ちょっと待ってくれちょっと!お前らもちったあ自重しろ!」
「…お前ら、何しに来たんだ!」
「いや、お前にちょっと頼みがあってさあ」
「頼み…?」
無礼な発言をかました弟たちを怒鳴りつけ、眉をひそめる鉄甲鬼に頼み込む。
黒曜石の瞳の男は、彼の言葉に少し困ったような表情をする。
「頼むよ、同期のよしみで…作ってもらいたいものがあるんだ」
「…何だ?」
「実は…」
一角鬼と鉄甲鬼は出身校の同窓なのだが、彼はこうやって時折わけのわからん依頼をしてくるのだ。
今回は一体何を押し付けてこようと言うのか、何やら小さな本を取り出してくる一角鬼。
そして、彼が拡げて示したページを鉄甲鬼が覗き込んだ…
瞬間。
「な…何だよ、これッ?!」
「はは…」
驚きのあまり、素っ頓狂な声を上げる鉄甲鬼。
その率直で当たり前だろう反応に、角面鬼兄弟は思わず乾いた笑いを漏らしていた。
「こんなものつけたら、お前…間違いなく身体を壊すぞ?!」
「いや、でも、ヤキュウを極めるためには必要っぽい」
「そうなのか…?」
自分でも半信半疑らしいが、それでもそのページに登場するモノの必要性を主張する一角鬼。
兄の言葉にうなずく二角鬼と三角鬼の姿に、やはり鉄甲鬼の応答は微妙なものだった。
「で、どうだ?作れそうか?」
「馬鹿にするな。こんなものメカでもなんでもない、テキトーに作ってやるよ」
「やった!悪いな、鉄甲鬼!」
「後兄ちゃん、アレも頼まないと」
「ああ、そうだな」
「…『アレ』?」
この奇妙なモノのほかに、まだ頼みごとがあるというらしい。
ぱらぱらと参考資料のページをめくり、もう一つのそれを指し示す…
が、今度のモノはだいぶまともに見えた。
少なくとも、さっきのモノよりは直感的に理解ができる。
「ふむふむ、…要するに、ボールを自動的に打ち出すような装置か」
「しかも、時速160キロでも打ち出せるように頼むぜ!」
「わ、わかった…明日にでもまたここに来い、用意しといてやる」
根本的に人がいいのか、一角鬼の唐突な(そしてわけのわからない)依頼をそれでものんでやることにしたらしい。
鉄甲鬼は参考資料の小さな本を受け取ると、そう言って軽く兄弟に笑いかけた。
「マジで!いやぁ頼れるなあテッちゃん!」
「テッちゃん言うな!」



「ふん、来たな!ちゃんと用意してあるぞ」
「お、おお!」
そして、次の日。
海底研究所は第三実験室を再び訪れた兄弟を待っていた鉄甲鬼は、やはり律儀な男だった。
だだっ広い実験室の中には、彼ら四人。
突然のむちゃくちゃな依頼にもかかわらず、彼は頼まれたその二つのものをきちんと完成しておいてくれたのだ(だからといって報酬が出るわけでもないのに)!
「まず、この…『だいりいぐよーせいぎぶす』?とやらだ」
「…!」
そう言いながら、鉄甲鬼がじゃら、と取り出してきたもの…
まさしく、それは彼らが参考資料の中で見たもの、そのとおり。
強力なバネとベルトで構成されたそれは、どう考えても強烈なエキスパンダーの進化版。
資料内では、幼い少年のホシヒュウマは、これをつけて食事などを行っていたのだが…
…ごくり、と。
誰かが息を呑む音。
異様だった。
その器具は、その漫画から飛び出てきた器具は、明らかに異様だった。
本当に、これをつけてホシは生活していたのか?
そんな素朴な疑問すら、誰も答える術を持たない。
異様だった。
「人間」の考えることは…本当に、異様だった。
「あのな、一角鬼…お前、本気でこれをつける気か?」
「応!」
鉄甲鬼に不安げに問われ、間髪いれず答えたものの。
一角鬼の顔面は、見事に蒼白だった。
現実に浮かび上がったそれを見て、やはり恐怖が湧いたのか…
「俺は渡された資料どおり作ったわけだが…
悪いことは言わん、絶対に身体を痛める。やめといたほうが」
「い…いいや!俺はやるぜ!」
しかしながら、重ねて問い掛けられるにいたって、一角鬼はむしろ強く強く奮い立った。
「だって、ホシだって、ちっちぇえガキのころからこれをつけっぱなしにして生活して、
そんでもってすげえトウシュになったらしいぜ!」
「…そ、そうか」
「よし、やるぜ…!」
ふん、と、ひときわ強く鼻息を荒くして。
一角鬼は、大リーグ養成ギブスに手を伸ばす―


そして。
その結果がどうなのか、と言うと。
それは、言わずもがな…


「い、いで、いででででででええええええええ!!」
「に、兄ちゃ〜ん!」
「兄ちゃん、ファイトファイトー!」
「お、おう、俺は負けねえぞ!うおおおおおおお!!」
「…」



「あー…まあ、気にするなよ」
「…」
「…」
「…」
慰める鉄甲鬼の言葉も、何処か空虚で。
大リーグ養成ギブスを囲んで、しょんぼり座り込む角面三兄弟。
結局、ろくに腕の曲げ伸ばしも出来ないままに、彼らはこの装置を扱えないという苦い事実を飲み込まざるをえなかった。
しかも、はずす際には腕毛やらすね毛やらがバネ部分に巻き込まれ、一角鬼に地獄の痛みを与えたことも付け加えておこう
(その時三角鬼は、「これを日々つけていたヒョウマは、きっと全身脱毛してすべすべだったからこのギプスをつけられたのに違いない」などとくだらないことを想像していたことも)
「どだい、あの装置自体が無茶だ。あれ以上やってたら、本当にお前入院沙汰だぜ」
「く…俺はホシの高みには昇れんのかッ!こんなことで車弁慶に俺は立ち向かえるのか…?!」
「に、兄ちゃん…!」
「その無理な道具はともかく、こっちは…まだ、いけるだろう」
油断するとすぐ打ちひしがれて(ヒュウマのように)涙に暮れそうな一角鬼、彼を気遣う弟たち。
その一方で、あくまでも冷静な鉄甲鬼は、そんな兄弟のやりとりをするっときれいに無視して次の作品をあっさりと持ってきた。
すなわち、それは―
二つの大きなゴムリングを備え、三本に分かれた脚で大地をむんず、と掴む。
そしてゴムリングの間へとつながるワイヤーで編まれたボールガイド…
そう。
それは、「人間」どもがヤキュウの修練に使う機械、いわゆる「ピッチングマシン」である。
「…!」
「うおっ…資料どおり!」
『巨人の星』からそっくりそのまま抜け出てきたかのような出来栄えに歓声を上げる兄弟。
そりゃあ鉄甲鬼がその資料を参考にして作ったんだから当たり前なのだが、それでもそのピッチングマシンは見事な完成度を誇っていた。
「ボールを打ち出す速度はいくらでも調整可能だ。一応、時速170キロまでは出るようにしておいた」
「そうか…!ありがとよ、鉄甲鬼!」
「さっそくやってみろよ、試運転を兼ねて」
「兄ちゃん、バット持ってきた」
「おう、ありがとよ!」
促す鉄甲鬼、用意よくバット(二角鬼の手作り)を差し出す二角鬼。
一角鬼はそれを快く受け取り、マシンからしばし…18、19mほど…離れ、「バッターボックス」と呼ばれるであろう空間に立ち、
…構える。
両手でバットの端を握る。もちろん、細身の端のほうだ。
そして、決して両手は重ねない。交互になるように握るのだ。
そう、ハナガタが『巨人の星』の中でやっていたように…!
三角鬼は操作を担当すべく、素早くマシンに駆け寄る。
そして、ボールを込め、機械を始動させる…
ぶるるるうう、と、コンベアがうなる。リングがまわる。
躍動し始めたピッチングマシンを挟み、兄弟が叫ぶ―
「…行くよ!」
真っ白き野球ボールを手に、三角鬼が。
「おう!来いッ!」
その球を疾駆するリングとリングの隙間に続くボールガイドにすべりこませ―!
刹那、白が走った!
「…ッ!」
ぎらり、と、
一角鬼の瞳が鷹のごとく光る!
両腕の筋肉が瞬時に反射、握った木の棒が唸りを上げて空を斬り―!
そして次の瞬間、
鮮烈な衝撃がバットから伝わり、一角鬼を震撼させる!
と同時に加えられた力によって白球のベクトルは捻じ曲がり、その方向を変えて跳ね飛んだ…!
「…!」
その場にいる誰もが、空に飛んでいくその白い球を見上げる。
バットで打ち返され、飛んで行く飛んで行く飛んでいく…
…しかし。
ボールは、まっすぐに飛んでは行かなかった。
あさっての方向に向かって、そしてやがて重力にしたがって落ちていく…
ぽて、ぽて、と、床に落ちて転がる野球ボール。
「…くっ、確かこれは『ファール』だな」
「だね、兄ちゃん」
一角鬼のフォームを見ていた二角鬼が、悔しげな打者のつぶやきに和した。
そう、ヤキュウでは、このボールは「フェアゾーン」と呼ばれる守備側選手たちのいるエリアに飛ばさなくてはならないのだ。
つまり、ただ球を打つだけではダメで、打ち返す方向も大事なのだ。
「よし、三角鬼!もっとだ、もっと練習するぞ!」
「うん、兄ちゃん!」
きっ、と、一角鬼は再び気合を入れ。
握ったバットに込める力を、なおさらに強くし。
そして立ちはだかるピッチングマシンを睨みつけるのだ、
それはまるで、そこにあの仇敵・車弁慶がいるかのように―!
再び発射される剛球、巻き起こる風斬り音!
一角鬼は再び鋭くバットを振るう、
車弁慶を打ち崩すため、ヤキュウの真髄を掴まんと―!


「はあ、はあ、はあ…!」
一時間が経過。
握力を失った手から零れ落ちたバットが、がらん、と音を立て、床に転がった。
全身を痛めつける過酷なトレーニングに、悲鳴を上げる筋組織。
おぶさりかかってくるかのような疲労感に、一角鬼はとうとう両膝をついた…
全身汗にまみれ、その顔には苦痛の色。
あまりの様相に、二角鬼と三角鬼が慌てて駆け寄ってきた…
だが、それでいながら。
彼は弟たちを手で制し、泣き言を漏らす己の身体を叱咤し、再び立ち上がり。
「…さ、三角鬼!今のは何キロだ?!」
「ひ、150キロ!」
「最高速度にしろッ!」
「え、ええッ?!」
どよめく弟たちに、全身ぼろぼろになりながら…それでも、一角鬼は堂々と言うのだ!
「いけるところまでいくんだ!俺がハナガタのように敵の弾を自在に打てるまで!」
そう、あの名トウシュ・ホシの球を打つため、血のにじむ特訓に身を浸した天才・ハナガタのように、と!
兄の苛烈、だが真摯な言葉にうたれ、弟たちがはっとなる…
ピッチングマシンにすぐ駆け寄る三角鬼、二角鬼はまた一角鬼のフォームチェックのためバッターボックスのそばに立つ。
「い、行くよッ、兄ちゃん!」
「来いッ!!」
叫ぶ三角鬼、猛る一角鬼、
絶叫しながらまたもバットを振るう、その姿はまるで苦悶の中で道を探し続けるハナガタミツルのごとく崇高かつ勇敢で―!
「うおああああああああああーーーーーッッ!!」

「…」
そして、また鳴り響きだす球音。
彼ら角面鬼兄弟の苦闘を、はたで見ながら、見守りながら…
鉄甲鬼は、半ば呆れ顔でため息をついた。
打倒ゲッターチームのためとはいえ、あんなにまで心身を痛めつけてまで「人間」のまねごとに必死になっている一角鬼たち。
まったく、度し難い。
鉄甲鬼には、ちっとも理解のできない行動だった。
…が。
「…」
彼らから目線をはずし、鉄甲鬼は再び参考資料に没入する。
確かに、奴らから借りたこの参考資料は興味深い。
もうちょっといろいろなルールを覚えたら、俺たちでやってみるのも面白いかもしれない。
そうしたら、俺もあのマシンで少し特訓してみよう…
そんなことをぼんやりと考えながら、鉄甲鬼は『巨人の星』のページを繰る。
物語の中では、厳格なる父親イッテツが、幼いヒュウマに諭し促している。
夜空を指差し、そして彼は言うのだ―




「息子よ、あれが巨人の星だ」と。





第三十四話 対決!百鬼三兄弟より。
「異文化」というのは、結局こんなもんじゃないか…と、私は思っています。
日本で一番ポピュラーなスポーツ「野球」だって、知らない国は知りません
(例えば、ドイツではサッカーのほうが圧倒的人気で、それに比べたらあまり知名度は…)
百鬼帝国の若者である彼ら角面三兄弟が、もし「野球」を知らなかったら…
そんな想像で書いてみました。
ちなみにタイトルは、「巨人の星とは、こいぬ座のプロキオンのことだ」という
テレビ番組を以前に見たことがあるので、そこからとってみました。