--------------------------------------------------
◆ それはそれはもう最低なある大喧嘩の物語
--------------------------------------------------
それは、よく晴れた、とある日の午後のことだった…
アーガマの進路上に、異常な熱反応を示す洞窟の入り口らしきものが現れたのだ。
それの本体は地下にあるようだった…
そして、その暗く深い穴の仲から姿をあらわしたのは、何と…理性なき破壊の権化、機械の獣たち…機械獣!
それに似た場所を、彼らは以前にも見たことがあった。
これは、自動制御の機械獣製造プラント…
主を失ったプラントが、何らかの故障が原因なのか、それでもなおかつて下された命令どおり、人工知能搭載の機械獣を造り続けているのだ。
破壊の本能だけで動くそれらの「兵器」を野放しにしておくわけにはいかない。
このプラントが、恐竜帝国などの「敵」勢力に落ちる前に…完膚なきまでに破壊することを、即座にプリベンターは決定した。
決定はすぐさま作戦と姿を変えていきわたり、パイロットたちはすぐさま出撃準備に取り掛かっていく。
そして、15時30分…ついに、作戦実行のときが来た。
ブライト艦長もブリッジは専用シートに鎮座し、格納庫にて待機する勇士たちに次々と出撃命令を出していく…!
「ボルテスチーム、出撃準備完了!」
「了解!…ボルテスV、発進せよッ!」
ブライトの命令に従い、ボルテスVはアーガマより飛び立つ…
太陽のきらめきを反射し、無敵の戦士が大地へと降り立ってゆく。
そして、その次に控えるは…
「ゲッターチーム、スタンバイOKです!」
「よしッ!…ゲッタードラゴン、聞こえるか!」
ライガー号のハヤトの通信に答え、ブライトの雄雄しい声が響き渡る。
…が、緊張した空気が…次の瞬間、がたがたと音を立てて砕け散っていった。
「はぁーい☆」
「?!…え、ええッ?!」
場の雰囲気と恐ろしくミスマッチな、能天気で明るい間延びしたお返事…
そのあまりのすさまじさに一瞬、ブリッジ内の空気が静止した。
ブライトも思わず我が耳を疑ってしまったが…そんな彼の困惑をよそに、その声の主は、きゃらきゃらと陽気に笑いながら、もう一度こう通信してきた。
「聞こえますなのぉ、ブライトさん!」
「あ、え、え、…エルレーン君?!ど、どうして…」
ゲッタードラゴンのメインパイロット・ドラゴン号のパイロットたる流竜馬…通信画面に見える彼は、あの露出度の異様に高い「バトルスーツ」なるモノを身につけた姿で映っている。
何たる偶然か、運の悪い(?)ことに…彼女が目覚める時が、来てしまっていたらしい。
ライガー号のハヤト、ポセイドン号のベンケイも、何だかあいまいな笑いをつくろいつつ…こう言い添えてくる。
「…あ、あの…な、何か、ちょうどタイミングよく入れ替わっちまったみたいで…」
「ほ、ほ、ほんと…つ、ついさっきまでリョウだったんすけどねえ」
「…」
ブライト艦長、口を中途半端に開いたまま…思わず、言葉を失ってしまう。
いずこかより沸いてきた不穏な空気をごまくらかすように、あえてハヤトは自信ありげな口調で、そんなブライトに向けてこう言ってきた。
「ま、まあ…あ、安心してください、ブライト艦長。…こいつは、強いですよ…そう、下手すりゃ俺たちより、ずっとね」
「そ、そうか?…い、いいのか、ハヤト君、ベンケイ君?」
「ええ。俺たちはかまいません」
「俺も、別にー」
「まかせてぇ、ブライトさん!…私、すっごく強いんだからぁ!」
「そ、そう…」
「仲間」がそう言うのなら、きっとそうなのだろう…
それに、エルレーンの戦闘センスのすばらしさは、彼女がはじめて目覚めた時に、恐竜帝国のメカザウルス相手ですでに見せてもらっている。
きっと、心配ないだろう。…きっと。
だが、それにもかかわらず、ブライト(そして「仲間」たち一同)の心中に、一抹の不安が残るのは何故なのだろうか。
…が、そののほほんとした会話を断ち切る者が、やはりいた。
あの女が出てきたとあらば…しかも、自分の活躍の場とも言える、戦場に…もはや、その増長を黙ってみているはずがない。
「ふん…まったく、戦場を遊び場だとでも思ってるじゃないのか?」
「!」
「て、鉄也…」
エルレーンのその能天気さを心底見下したような口調で、そう吐き捨てたのは…やはり、グレートマジンガーの搭乗者、剣鉄也その人だった。
通信画面の中で、はっ、と皮肉っぽくため息をついて見せ、ブライト艦長にすらこう言ってのける鉄也。
「…艦長、いいんですか?『あんなの』がパイロットになってるゲッターロボGを出撃させて」
「て、鉄也、てめえッ!」
「…」
「足手まといになるのだけは勘弁してほしいんですよ。邪魔になるくらいならアーガマに引っ込んでてもらいたいぜ」
「お、おい、鉄也君…少しは口を慎んでくれ!」
「…ま、その分の穴は、戦闘の『プロ』たる俺が何とかしてみせますがね」
困惑のベンケイ。怒るハヤト。いさめるブライト。そして自分を困ったような目で見ている「仲間」たちの無言の視線。
だが、それらに何らかまうことなく、鉄也はどこかしら得意げに、不敵な笑みを浮かべつつ毒を吐き続ける。
居丈高な態度を崩さぬままで…このようにすら言ってのけたのだ。
己の力に絶対の自信を持つ者ならではの、傲岸不遜なオファー。
「…」
…と、その時。
今まで、ずっと黙ったまま鉄也の暴言を聞いていたエルレーンが…ついに、口を開いた。
「…ねーえ、ハヤト君」
「?!…あ、ああ、何だ?!」
「…戦闘の『ぷろ』って…なあに?」
「!」
「ふん…!」
が…小首をかわいらしくかしげながら、彼女が発したのは…鉄也への非難や罵倒ではなく、単なる知らない単語への質問だった(かのように、見えた…その時は)。
ささくれだっていたその場の雰囲気が、エルレーンの発言で妙な風になってしまう。
そんなエルレーンをちらっと見やり、嘲笑するかのように唇の端をゆがめる鉄也。
「そ、それは…まあ」
一方、そう問われたハヤト、ちょっと面喰らったものの、一応それに自分なりの答えを返す。
「…要するに、戦うことがすごい得意で、そのために生まれてきた、って言えるくらい強い人のこと…かな」
「!…ふうん…じゃあ、」
破顔一笑したエルレーン。
にこにこと微笑みながら、エルレーンが放った一言、それは…
「…私も、戦闘の『ぷろ』ってことになるよねぇ?」
「…は?!」
…思いがけないほどに唐突な、その演繹的思考の結論。
意表を突かれた一同、思わず目が点になる。
「だってぇ、私はー、ゲッターロボを倒すためだけに造られたリョウのクローンだからー」
「あ、あ、は、はは…ま、まあ、そういうことになる…よなあ?!」
彼女の論理には確かに筋が通っている。あいまいに笑いながらうなずくハヤト…
ところが、その返答を受け取ったエルレーンの次なる反応は、さらに思いがけないものだった。
彼女は、ふっと鼻で軽く微笑い…ぽつり、と小さな声で、こうつぶやいたのだ。
「ふうん…なぁんだ、そのてーどのことか」
「?!」
が…彼女が、改めてもう一度そのせりふをはっきりと口にした時、やっとのことでハヤトたちは彼女の意図が飲み込めた。
「ふふん…なぁんだか、えっらそおーに言うから、どんなにすごいのかと思ったら…そのてーどのことなんだ」
「…〜〜ッッ?!」
「…ああゆうふうに、えらそーにいばってまで言うことじゃないよねー?」
三度繰り返される、そのハヤトへの同意を求めるように見せかけた…公然たる、鉄也への当てこすり。
そのかわいらしい口調とは裏腹に、エルレーンのとった報復は…案外に、えげつなかった。
ハヤトとベンケイの顔色がざあっと変わっていくのが、はたから見てもはっきりとわかる。
…もちろん、鉄也もそれにストレートに喰ってかかるほど、単細胞な馬鹿ではない。
侮辱された怒りにこめかみをぴくぴく震わせながらも、こわばった笑みを浮かべて詫びめいたことを怒鳴り返す。
「ふ、ふ、ふふ…そうか、そりゃあ悪かったなあ!!」
「て、鉄也よー…」
「ううん、わかればいいのぉ。…でもぉ、ま、鉄也君こそ、無理しないほうがいいよぉ」
が、エルレーンはまだ反撃の手をゆるめようとはしない。
にこおっ、と、見る者のこころをとろかすような、あどけなく無邪気なあのスマイルを鉄也にサービスし…その笑顔のまま、やはり恐ろしいことを言い放った。
「?!」
「あぁしでまといになるのだけはぁ、かんべんしてほしいのぉ!…だいじょうぶぅ、その分は私ががんばって、何とかしてあげるからぁ!」
あちらこちらといろんなところに不自然な抑揚をつけまくった、エルレーンのそのセリフ。
先ほどの鉄也のセリフをそのまま盗作してきたようなその言葉が、何を暗喩しているか…その意味は、誰の耳にも明白だった。
「…〜〜ッ!」
「え、エルレーン?!お、お前、止めろって!」
「お、お前、何でまた鉄也に対してだけそうなんだッ?!」
果たせるかな、鉄也は顔中真っ赤にして、ぎりぎりと歯を喰いしばっている。
冷や汗をかきながら、エルレーンをいさめるハヤトとベンケイ…
「…えー、だって、私…」
だが、当の彼女はしれっとした顔をして…真顔で、ずばっとこう言い放った。
「…鉄也君のこと、嫌いだもの」
「?!」
「う、うわ…」
そのあまりのストレートさに、一同は何も言えず。
その場の雰囲気を読むことをまったくしないエルレーン、困惑の一同をよそに鉄也の非道っぷりを数え上げていく。
「はじめっから私に冷たかったしー、私のこと『機械』みたいに言うしー、…リョウの悪口言うしー!」
「?!…え、エル…」
「あららー…案外、根に持つタイプだったのね…」
…要するに、初対面の時に嫌な扱いを受けた上、大事な「トモダチ」のリョウまで馬鹿にされた、というのが、彼女がここまで鉄也のことを嫌う理由らしいのだが…いかんせん、それもずいぶん前の話になる。
それにもかかわらず、エルレーンの中でその出来事が過去になっていないところを見ると、どうやらエルレーン、普段はあれだけほわほわしているとはいえ、自分を一旦キレさせた相手に対しては、どちらかと言えば粘着気質らしい(その点は、実は彼女のオリジナル・リョウも一緒である)。
思わぬエルレーンの裏面を見てしまい、驚きのベンケイ。
…と、通信画面に映る鉄也…こころもちうつむき加減になって、その表情は見えない…彼の唇から、不穏なくぐもった笑い声が響いてきた。
「ふ、ふふ、ふふふ…」
「て、鉄也君…」
「ふふふ…ああ、嫌いで結構だよ!俺も君のことが大ッ嫌いだよ、エルレーン君!」
と、顔を上げる鉄也。
ぎんっ、と音のしそうな視線で、通信画面の向こうにいるだろうエルレーンをねめつけ、ゆがんだ笑顔でさわやかに言い放った。
「うふふ…私もあなたなんて大ッ嫌い、鉄也君!」
もちろんエルレーンも負けていない。
極上の笑みを浮かべたまま、やはりこちらもさわやかに、きっぱりとどぎついセリフを吐き捨てる。
「ふはははははは吠え面かくなよエルレーン君!」
「うふふふふふふ何言ってんだかちっともわからないよ!」
「ふははははははははははははははははははははは!」
「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ!」
笑顔らしき表情を浮かべ、そこだけはまったく笑っていない鋭い目つきでお互いをねめつけ、狂ったような笑い声をあげる鉄也とエルレーンの二人。
そのどうしようもなく剣呑な高笑いが全機に響き、皆のテンションをどん底まで引きずりさげた。
「…」
「…」
「…こ、怖ー…」ぽつり、とつぶやかれた、それは豹馬の独り言。
だが、それは明らかにプリベンター皆の心境を正確に代弁していた。
「…と、ともかく…今から奴らを迎撃せねばならんのだ!喧嘩なら後にしてくれッ!…で、では、ゲッタードラゴン、出撃せよ!」
こんなことをしていては、いつまで経っても出撃準備が終わらない…何とかその二人の対立を押し込め、無理やり話を終わらせようとするブライト。
ゲッタードラゴンのエルレーンにそう命じる。
…数秒の後、エルレーンは無言のまま、ゲッタードラゴンをアーガマから発進させた…
とりあえず、は。

「…はぁッ!」
「ふう…すげぇな、エルレーンちゃ〜ん!やるじゃん!」
ゲッタードラゴンの剣が薙ぐ。
その一陣の風が、自動防衛モードで襲い掛かってくる機械獣を見事斬り払った。
そのそばで、これまた機械獣を一機屠ったブライガーから、キッドの陽気な通信が入る。
「うふふ…だぁって、私強いもの!…このくらいなら、ぜんぜ…!」
笑い返すエルレーン…が、その瞳があるモノを捉えた瞬間、その語調が鋭く変わる!
「危ないッ、キッド君ッ!」
「…!」その声に振り向くキッド…そこには、遠距離からブライガーの背中に向けて放たれた、無数のミサイル群の姿!
だが、キッドがそれに反応するよりも遥か前に、エルレーンのゲッタードラゴンがすでに行動を起こしていた…
巨人が赤い残像をなびかせ、空間を裂いた。
「…恐竜剣法・必殺!」
すぐさまブライガーの後ろに回りこみ、ゲッタードラゴンは長剣…それは、キャプテン・バルキのメカザウルス・ラダから奪い取ったモノ…を構える。
「水・龍・剣!!」そしてその剣先は大きな円を描くように空を斬り、降りかかってくるミサイル群に触れていく。
…すると、全てのミサイルは、その勢いを殺されることなく、四方八方、あさっての方向へと飛び散らされていく…!
そこここで狙いをはぐらかされたミサイルの爆発する音が連続して響く。
「…ひゅう〜、助かったぜ!ありがとな、エルレーンちゃん!」
キッドの礼に、エルレーンはにこっ、とうれしそうな微笑みで答えた。
「すっごいわねぇ、あれだけのミサイルが…ちょっとしたジャミング装置クラスね」
「…『じゃみんぐそーち』?なあに、それ?」
「あらあら、教えてあげたいけど、今はおねーさんたち教えてあげられる余裕なさそうだわぁ」
「そそ、次の『敵』が迫ってきてますんで!」
お町のセリフの中に出てきた知らない言葉。
それを問うエルレーンを軽くたしなめ、美女は人好きのする笑顔を向ける。
ボウィーもそれに応じ、今はそれよりも『敵』に応戦すべき、と促した。
ブライガーは、今ミサイルを放ってきた敵機に狙いをつけ、ブライソードを構えて駆け出した。
「また帰還したら教えてあげるわね☆」
「うん!」
去っていくJ9、お町に笑顔でうなずき返し、エルレーンも再び『敵』と戦うべき、周りの状況を探る。
…が、すぐ見てとれる範囲には、どうやらすでに敵機はいない模様だ。
先ほど斬った機械獣で、どうやら一段落したらしい。
「…さて、次はどうするか、エルレ…」
「…ラゴン!エルレーン君!」
「!…なぁに、ブライトさん?!」一息ついたハヤトのセリフをさえぎるように、ちょうどよいタイミングで母艦・アーガマからの通信が入る。
ブライトからの新たな命令だ。
「すまない!至急、近くにいる味方機の援護に向かってくれ!」
「わかったの!…私は誰を助ければいいの、ブライトさん?!」
問い返すエルレーンの言葉に、何故か…しばし、とまどいの空白が入る。
…が、その一瞬のためらいの後…ブライトは、きっぱりとその援護すべき味方機の「名前」を彼女に告げた。
「…グレートマジンガーだ!」
「?!」
「き、君が鉄也君を嫌ってるのはもう嫌というほどわかっている!
だが、損傷が激しい上、すでに敵機数機に囲まれて、とてもじゃないが自力でその場を逃れられそうもない状態なんだ!
…君たちのゲッタードラゴンが、グレートに最も近い位置に在る!…すぐに彼をサポートしてやってくれ!」
思わぬ援護命令に言葉を失うエルレーンに、一気にブライトはまくし立てた。
彼女に反論させる隙を与えず、すぐさま彼の救援に向かうように指示を飛ばす。
「…」
…が、ブライトからの通信が切れた後も…エルレーンは、無言。
真顔でぼーっと通信画面を見つめたまま、そのくせその命令には迅速に従おうとはせずにいる。
「エルレーン!…あのなあ、迷うような問題じゃないんだ!鉄也の救援に向かうぞ!」
エルレーンのその態度には、さすがにハヤトも耐えかねた。
半ば叱責じみた怒気混じりの口調で、さっさとグレートマジンガーの元に向かうように怒鳴りつける。
「…」
「『仲間』のピンチなんだ!ためらってる場合かよ?!」
「…!」
…と、その時だった。
ハヤトのセリフの中にあった、一つの言葉。
その言葉が、ようやく彼女のスイッチを入れたらしい…
エルレーンは、ふっ、と弱々しく微笑んだ…思い出した、とでも言うように。
「そう、だよね…『あんなの』でも、…『仲間』、なんだよね…」
「?!…あ、『あんなの』って…」
「じゃあ…私は、助けなきゃ」
やはりどぎつい彼女の言葉に目を白黒させているベンケイ…
が、彼女はそれにもかまうことなく、ぽつり、ぽつりと、何事かを小さくつぶやいていた。
自分にそれを思い起こさせるように…自分にそれを確認するように。
通信機を通して伝わってくる、彼女のその独り言は…ハヤトたちの耳に、こんなふうに聞こえた。
「『敵』を殺して、『仲間』を守らなきゃ…」

「く…くそ…ッ」
剣鉄也の額を、嫌な汗が流れていった。
迂闊だった。
一機、離れたところから攻撃を仕掛けてきた機械獣を追い、そいつを仕留めたはいいものの…気がつけば、あっという間に数機の機械獣が自分の周りをびっちりと取り囲んでいた。
「仲間」たちとは多少離れた場所、そして彼ら自身も強固な装甲を持つ機械獣の破壊に手間取っているため、すぐさまの援護は期待できない…それまでは、一人で何とかするしかない。
そう腹をくくってからすでに、2機の機械獣を撃破した。
だが、相手は完全に「仲間」と離れた自分をまず倒そうと決めているらしく、新手がすぐさまやってくる…
3機の機械獣が、それぞれ自分の四方を囲む。じりじりとその包囲網を狭め、偉大な勇者を屠ろうと…
「…!」
眼前の機械獣に注意を取られている隙に、自分の背後に在った機械獣・ダブラスM2がミサイルを発射する!
振り向いたときには、もう遅かった…グレートマジンガーに向け、飛びかかる無数のミサイル…!
その時だった。雄雄しい少女の雄たけびが、空気を裂いて響き渡ったのは。
「恐竜剣法・必殺!水龍剣ッ!!」
「…?!」
鉄也の目の前に、突如赤い旋風が巻き起こった。
赤き風は銀色の刃を振りかざす…
すると、まるで魔術のように、炸裂するはずのミサイル群はその推進方向を狂わされ、あちこちに散って誘爆し、空中で無駄に燃え尽き去っていった。
「な…」
眼前に突如現れ、自分の窮地を救ってくれた赤き疾風…それは、真紅のウィングまぶしく輝く、ゲッタードラゴンであった。
と、そうこうしている間にも、当のゲッタードラゴンからの通信回線が開く。
「よーう、大丈夫か鉄也ー?」
「ど、どうして君たちが…」
「…」
困惑する鉄也。そんな鉄也の様子を、通信画面の中から、あの女が無言で見詰めている…
無言、だがそれ故雄弁にこの状況を物語る。
つまり、彼は何も言いかえすことが出来ない状態にいる…
何ということだろう、自分は助けられたのだ…貸しをつくってしまった、しかも…よりにもよって、この女率いるゲッターチームに!
「ぐ…」
「…ふふん」
まっすぐ顔を上げて、そのむかつく性悪女の顔を見られない。
うつむき加減になってしまう鉄也、だが…こもったような、だが確かにそれとわかる嘲笑の響きを聞くや否や、はじかれたように彼は面を上げた。
…その通信画面に映る性悪女…彼女はかすかにぶれながらも、その唇をゆがめている…その端に、嘲りの色をありありと浮かべて。
「!」
「…そうだねぇ、確かに…すっごい戦闘の『ぷろ』だねえ、鉄也君!この程度の『敵』に、やられそうになるなんて!」
「?!」
「ぐはぁーーーッ?!」
「ば、馬鹿?!何言ってんだ、お前?!」
普段のほんわか、ふわふわしたエルレーン。
そんな彼女の同じ口から出たとは思えない、恐ろしいほどに辛辣なその皮肉。
そのどぎつさのあまり、ベンケイは驚嘆の叫びを上げ、ハヤトは一挙に嫌な冷や汗をかいた。
…そして、皮肉られた鉄也は…ただ、歯噛みするのみ。
「まあー、いちおう『仲間』だしぃ、今回は助けてあげるけどぉ…もうちょっとしっかりしてよね、鉄也君!」
「う、ぐ、ぐ、ぐぐぐ…!」
鉄也の眉間のしわが、みるみる険しくなる。
怒りのオーラどころか放射能すら出しそうなすさまじい表情で、ただエルレーンをにらみつけ、黙りこんだままでいる…
対して、言いたいだけ言い捨てたエルレーンはどうやらすっきりしたと見え、何も言い返せないでいる鉄也を見て、満たされた優越感にひたっている。
してやったり、という得意げな表情…
…と、鉄也をぎゃふんといわせたエルレーン、ようやく本来の目的を思い出したようだ。
ちらり、と視線を走らせ、自分たちの周りを取り囲む敵機の数を確認する…
「ふん、残り…3体、ね。こんなの、私の恐竜剣法で…」
「…サンダァーーーッ・ブレェーーーーーークッ!!」
「?!…きゃあッ?!」
突如、真白き閃光が目の前に瞬く…
稲光に目と耳をくらまされ、とどろく轟音に驚くあまり、思わず怯えた悲鳴をあげてしまうエルレーン。
だが、次の瞬間…何とか目をまたたき開いた彼女の瞳に飛び込んでくる…
自機・ゲッタードラゴン向けて右腕をまっすぐ伸ばし、罪人を指弾するがごとくゲッターを指さしている、グレートマジンガーの姿…
天空にわかにかきくもり、グレートの頭上から雷エネルギーが降りそそぎ、そして…その高エネルギーのカタマリは瞬時に稲光となって、グレートの人指し指からほとばしる!
それが、グレートマジンガーの必殺技・サンダーブレークであることを彼女が悟る前に…本能からか、無意識のうちにエルレーンは空中へと回避行動をとっていた。
グレートの放った雷光は、ゲッタードラゴンがそびえたっていた場所を貫き…そして、その少し後方に立ち尽くしていた機械獣・トロスD7へと着弾した。
たまらず大爆発を起こすトロスD7…その衝撃が、地面を揺るがしていく。
「…!!」
「おっと…すまないな。そんなところにいつまでもぼけッと突っ立ってるから、邪魔で邪魔でしょうがねえぜ!」
「…〜〜ッ!!」いかにも装った、という、嘘丸出しのそんな弁明を、エルレーン向けてぬけぬけと言い放つ鉄也。
その顔には笑みを浮かべてはいるが、その目が思い切り「ざまあ見ろ」と言っている。
…嫌いな男からの不遜かつ危険な挑発を受けた時に…ただショックでしくしくと泣きぬれて、自分の中に怒りを押し込めて我慢してしまうような…エルレーンは、そんな女の子であるはずが…もちろん、なかった。
「え、エルレーン、落ち着け!『敵』にしゅうちゅ…う、うわッ!」
止めるハヤトの言葉など、頭に血の上ったエルレーンには届きはしない。
「ダブル・トマホーーーク・ブーーーメランッ!!」
「のわッ?!」
悲鳴をあげながらのけぞるハヤト、ベンケイ。
急激にゲッタードラゴンが身体を前面にしならせたため、その反動をもろに受けたのだ…
そして、ゲッタードラゴンの両手から放たれたのは…鋭い刃光る、二本のトマホーク!
その斧の向かう先は…偉大な勇者、グレートマジンガー…!
「くう…ッ?!」そのトマホークのうちの一本を、何とか間一髪のところで左へ回避するグレートマジンガー。
グレートの右腕をちりっ、とかすめ、飛びすさっていくトマホーク・ブーメラン。
鉄也にまっすぐ向かっていった(としか思われない)トマホークは、その真後ろ…グレートの背後に近寄ってきていた機械獣・ダブラスM2の脳天を見事に打ち砕いた。
…まるで、頭をトマホークで裂かれた彼自身が、あっけにとられているかのような妙な空白の後…青白い火花を散らしたダブラスM2は、橙色の炎を上げて爆散した。
「あっはははははははは!…ごっめぇん、戦闘の『ぷろ』の鉄也君なら、簡単によけてくれると思ったんだけど!」
高笑うエルレーン。
鉄也に向かって放つそのセリフに含まれる毒気、もはや普段の彼女からは想像も出来ないほどにどす黒いところまでいっている。B面大炸裂だ。
…リョウがこんな姿を見たら、きっと号泣するに違いない。
「く、…くっそぉッ!!」
「て、鉄也!お前も落ち着け!」
「!…あ、き、機械獣が?!」
ベンケイが、対立する二人の隙を見て攻撃を仕掛けようとした機械獣に注意を移す。
…しかし、それによる中断は、わずか数秒しか持たなかった。
「五月蝿いドリルプレッシャー・パーンチ!」
「邪魔なのトマホーク・ブーメランッ!」
2機から同時に強力な攻撃を受けた機械獣・ガラダK7…
哀れ、耐え切れるはずもなく、トマホークに右肩から腹部をぶち割られ、ドリルプレッシャー・パンチで左腰部を砕かれ、数秒で彼は舞い散る鉄クズの雨と化した。
…そして、そのガラダK7を最後に…とうとう、邪魔者はいなくなった。
「う、うわ…」
ベンケイの喉から、しぼりだすような声が上がる。
無言のまま、自分たちのほうに近づいてくるグレートマジンガー…
それは明らかに、勝利を分かち合ったり、お互いの敢闘を称えあったりするためのものではなかった。
ゲッタードラゴンも剣を放り捨て、グレートマジンガー向かってまっすぐに向かっていく…
相対し、激しい火花を散らしあう2体の巨人。
ゲッタードラゴンのほうがグレートの二倍の体長があるため、グレートマジンガーがまるで子どものように見えてしまうが…それでも、歴戦の勇士たるグレートの放つ闘気はすさまじく、エルレーンのゲッタードラゴンにまったくひけをとっていない。
「…黙って聞いててやりゃあ、つけあがりやがって!その生意気な口、二度と聞けないようにしてやろうか?!」
「ふふん!…よっわぁい、よっわぁい鉄也君が?!私に?!…あっははははは、本気でそんなこと言ってるの?!」
「何だと、この女ァッ!」
「はん!遅いよ!」挑発に乗ってしまった鉄也が思わず繰り出すグレートマジンガーのバックスピンキックを、いともたやすく回避してみせるゲッタードラゴン。
「え、エルレーン!止めろって言ってるだろ?!」
もちろん、ハヤトの命令など聞いちゃいない。
「何さ!鉄也君の馬鹿ァッ!!」
「う、うおッ?!…よ、よくもやってくれたなッ?!」
「きゃんッ?!…いったぁ、これはお返しなんだからぁッ!」
憎々しげにグレートマジンガー…そのコックピットにいる剣鉄也をにらみつけながら、エルレーンは思いっきり右操縦桿をぐいっと押し込む。
その動きに連動して振り上げられたゲッタードラゴンの右腕が、グレートマジンガーの左肩を激しく突き倒す!
張り手でバランスを崩されたグレート…よろよろ、と大きく体勢を崩したが、何とか無様にしりもちをつくことだけは防いだ。
すぐさま仕返しとばかりにアトミックパンチをぶちかます鉄也!高速回転しながらかっとんだアトミックパンチは、力の限りゲッタードラゴンの右腹部にぶちあたった!
そしてさらに、その攻撃はエルレーンの負けじ魂に火をつける…
透明な瞳に、かあっと怒りの炎を燃えたぎらせ、憎たらしい剣鉄也に再び向かっていく…!
「うわー、もう手がつけられねぇなぁこりゃ」
「べ、ベンケイ!強制的にドラゴンの合体を解くぞ!そうすりゃエルレーンだって…」
「お、おっけー!…ってえと、これだッ!」
ハヤトに促されたベンケイ、やっと気づいたかのように合体解除(オープン・ゲット)のボタンを思いっきり押す。
…すると、合体解除命令を受けたゲッタードラゴンは、強制的に分離をはじめた。
「きゃあんッ?!…な、何ッ?!」鉄也に再び殴りかかろうとしていたエルレーンは、突如機体が突き上げられるようなショックに襲われ、思わず悲鳴をあげる。
自機の状態が捉えられず一瞬混乱したが、ハヤトたちの手によってゲッタードラゴンが合体を解除させられたのだ、ということに気づいて、はっとしたような表情を浮かべた。
真紅の巨人はあっという間に三機の戦闘機…ドラゴン号、ライガー号、ポセイドン号の三機のゲットマシンに姿を変えた。
「エルレーン!もうおしまいだ!いい加減にしろッ!」
「ははははははっ!…ほらほら、どうやら『お仲間』にもあきれられてるみたいだぜ、馬鹿女!」
「〜〜ッ!!」
困惑する彼女に怒鳴りつけるハヤト…叱られたエルレーンは、ぱあッと哀しそうな顔になる。
だが、またも余計な茶々を鉄也が入れてきた途端、その端正な顔が怒りでかっと赤く変わった。
両眉がきっ、とつりあがる。
空中でバランスをとり、すばやく体勢を立て直すドラゴン号…
そして、彼女はすぐさま、グレートマジンガー目がけて暴言の仕返しを喰らわせた!
「う、うわ?!」
かかかかん、という甲高い連続音。
グレートのどてっ腹に、ドラゴン号のバルカン砲が炸裂する。
…もちろん、強固な装甲を誇るグレートマジンガーのこと、その攻撃はかすり傷一つ生み出さない。
しかし、グレートの周りを、まるで蜂のようにびゅんびゅん飛び回り、バルカン砲攻撃を加え続けるドラゴン号…明らかにその行動は挑発であり、喧嘩腰であった。
「え、エルレーン!」
「…くっそぉ!そっちがそのつもりならッ!」ハヤトの制止も間に合わず、頭に血が上った鉄也も同じく行動に出た。
戦闘機・ドラゴン号の機動力にはグレートでは追いつけない。
そう思うや否や、突如ブレーンコンドルをグレートマジンガーの頭部から離脱させる!
そして、コンドルレーザーをぶっ放す!
「ば、馬鹿、鉄也ッ?!」
「あ〜あ…何ていうか、なぁ…」
挑発に乗ってしまった鉄也。
ハヤトの言葉は、やはり彼には届かない…
今度は空中戦へと舞台を転じた鉄也とエルレーンの大喧嘩を、ベンケイはあきれたように…ただ、見守っているのだった。

「…」
「…え、えと…」
戦い終わって、日が暮れて。
敵機の残骸、破片が散らばり、そこここから黒煙が立ち上る、戦場跡…
だが、戦いが終わったにもかかわらず、プリベンター全機の通信機には、先ほどから一向に止む気配のない、怒号と絶叫…それも、全部悪口…が響き渡り続けている。
敵機を全て撃破し、勝利を得た「仲間」たち…今、彼らの目に映っているモノ。
それは、主を失ってぼーっと突っ立っている、偉大な勇者の抜け殻と。
空中で並んで止まったまま、何も出来ずに見ているゲットマシン・ライガー号、ポセイドン号と。
そして…猛スピードで飛び回り、お互い向けて火器を思いっきり撃ちまくっている、ゲットマシン・ドラゴン号と、ブレーンコンドルの姿だった。
「馬鹿!馬鹿!鉄也君の馬鹿ッ!」
「はんッ!さっきから馬鹿馬鹿って、それしか言葉知らねえのかこの脳たりん娘!」
「鉄也君なんか、大ッ嫌い!せっかく助けてあげたのにッ!」
「うるさい!誰がそんなこと頼んだよ?!」
「むー…!かわいくない、かわいくないのぉッ!鉄也君の馬鹿ッ!」
今だお互い低レベルな舌戦を繰り広げながら、同時にドッグ・ファイトを繰り広げている鉄也とエルレーン。
ぎゅんぎゅんと宙を舞い、バルカン砲を撃ちまくるドラゴン号に、こちらも負けじとコンドルレーザーをお見舞いするブレーンコンドル。
相手の攻撃をすんでのところでかわして避け、すぐさま反撃に移っているあたりは、二人ともさすがに技量の高いパイロットというべきだが…
「だ、誰か止めてくれよ、こいつら!」
「…俺、情けなくなってきたぜもう…」
そのとばっちりを喰わぬ様幾分離れたところで、もはや為すすべもなく静止したままそのいさかいを見ているライガー号とポセイドン号…ベンケイの懇願、ハヤトの沈痛なため息が、通信機を通して全機に伝わる。
…が、そんな彼らの通信にかぶさるように、なおも低レベルな悪口合戦が大音声で入ってきた。
「鉄也君なんか、大ッ嫌いなんだからあ!鉄也君の、鉄也君の馬鹿ァッ!」
「だからそれ以外の言葉も知らねえってのかよ、このボキャ貧ぱっぱらぱー甘ったれ根性曲がりぶりっ子ひねくれ猫ッかぶり無知無知顔だけ女ぁッ!」
「…〜〜ッッ!!…な、何言われてるか、全然わからないけど!だけど、何だかめちゃくちゃ腹が立つのぉッ!」
そして、そんな二人が怖すぎて、ハヤトたち同様にやはり彼らを静観することしか出来ない『仲間』たち。
「…お、おい、誰か止めに入れよ…」
「じゃあ、お前ら行けよバトルチーム…」
「い、いや、俺らはちょっと…」
「俺らも嫌だぜ、こんなのに割って入るの…」
…夕焼け空をバックに、繰り広げられる鉄也とエルレーンの真剣(マジ)喧嘩。
ドラゴン号とブレーンコンドルの華麗な空中戦(かつ、程度の低い舌戦)を、半ば呆然として『仲間』たちは遠巻きに眺めている…
「鉄也君の馬鹿ァ!意地悪ッ!」
「あんたに言われたかねえってんだよ、ちっくしょうッ!」
まるで子どものようにムキになってしまっている二人。
血管ブチキレそうなほどに声を張り上げ、相手を罵りまくっている…
…そして、その有様にとうとう堪忍袋の緒がぶっつりと切れてしまったブライト艦長…
彼の泣く子も黙る大絶叫が、戦い終わってなおぎゃあぎゃあとやかましい戦場跡に響き渡るのだった。
「…お前らァ、い・い・か・げ・ん・に・しないかあぁぁあぁあぁぁぁぁああぁぁあぁぁぁあぁぁ!!!」


back