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◆ Schwert-Schild(「敵」を倒す「剣」、「仲間」を守る「楯」)
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「そ、そんな馬鹿なッ?!」
「だ、だが…!本当なんだ!あいつは、たった今飛び出してった…誰も乗っていないのに!」
アーガマ・格納庫。
アストナージから呼び出されたゲッターチームが耳にしたのは、とても信じられないような事実だった。
メカザウルス・ロウ…かなりの破損状態にあるはずの、あの機械蜥蜴。
何と、彼が再起動し、何処かに飛び去っていったというのだ…動かす者など、誰もいないのに!
「メカザウルス・ロウ…一体?!」
「お、おい!リョウ!」
と、そこに、格納庫の奥から走ってくるベンケイ。
彼は慌てた口調でこう叫んだ。
「…ど、ドラゴンもない!ゲッタードラゴンもないぞッ!」
「な…?!」
「それだけじゃない…マジンガーZも、ビューナスAもだ!」
「甲児君、ジュンさん…?!」
眉をひそめるリョウ。
ゲッタードラゴン、マジンガーZ、ビューナスA…
甲児、ジュン、そしてエルレーン。
彼らがこの時間に出撃するなんて聞いていなかった。
彼らは勝手に艦を出たのだ。自らのマシンを駆って…!
「おい、リョウ…」
「ああ、わかってる」
勝手に出撃したエルレーンたち。そして…姿を消した、メカザウルス・ロウ。
そこから、何かを察したらしいハヤト…
リョウも、静かにうなずいた。
「アストナージさん、真・ゲッターは?」
「あ、ああ…一応全てのチェックは終わった」
「問題はないんですね。…じゃあ、今から俺たちは真・ゲッターで出撃します」
「?!」
いきなりの申し出に、泡を喰うアストナージ。
だが、リョウは真顔のまま、こう続ける。
「ロウが…メカザウルス・ロウが、パイロットも無しに動いたのは、これが初めてじゃない。あいつが、自らの意志で動いたのは…」
「No.0…エルシオンが、ヤバい状況にいた時!」
「そうだ!…だから、今、あいつが勝手に飛び出してったってことは!」
「…!」
その言葉で、ようやくベンケイにもはかがいった。
彼らの視線が、自然に…真・ゲッターに向く。
出立の時を、今か今かと待ちわびる邪神へ…
「エルレーン…!」

「…ぐうッ!」
「エルレーンッ!」
空を舞う鋼鉄の拳は、ゲッタードラゴンの腹部に勢いよくヒットした。
岩場に思い切り叩きつけられたゲッタードラゴン…そのコックピットに座すエルレーンの喉から、くぐもった声が響く。
が、彼女を気遣う甲児の背後にも、邪悪な魔の手が伸びる。
「甲児君!後ろォッ!」
「…!」
ジュンの鋭い叫びで、何とかその気配に気づくことが出来た。
素早くマジンガーZは身をよじる…
と、刹那、先ほどまでマジンガーの頭部があった場所に、まっすぐ剣先が落ちてきた。
地面をえぐるその凶悪な剣は、グレートマジンガーのものであった。
「…て、鉄也さんッ、い、いい加減に…正気に戻ってくれぇッ!」
慌ててグレートマジンガーから距離をとる甲児…彼の叫びが、むなしく空気を震わせた。
…マジンガーZ、ビューナスA、ゲッタードラゴン。
そのどれもが、己の強力な武器を使うことすら出来ず、逃げ回り続けている。
当たり前だ。
グレートマジンガーという強力な機体が相手だという事もあるが…それよりも、何よりも。
そのコックピットとなっている、頭部のブレーンコンドル…その中には、鉄也がいるのだ。
大切な「仲間」である、剣鉄也が…!
下手な攻撃を加えてしまえば、生身である彼にどんな被害をもたらすかわからない!
だから、彼らは攻撃することが出来ないでいる…
そして、自分たちを殺そうとしているのはグレートマジンガーだけではないのだ。
「魔神皇帝」…マジンカイザー。
マジンガーやグレートマジンガーをはるかに上回る脅威のマシン、強大なる機神…
その魔神皇帝すら今はダンテの手に落ち、自分たちを攻撃してくるのだ!
もはや、甲児たちには抗うことすらできない。
必死に二体からの攻撃を避け、グレートの中に捕らわれている鉄也に必死で叫ぶ事くらいしか出来ない…
「鉄也ッ、お願い、やめてぇッ!」
が、無二のパートナーであるジュン…彼女の懇願すら、彼は聞かなかった。
ビューナスAの胸をしたたかに殴りつけたのは、グレートマジンガーの鋼鉄の腕(かいな)だった。
「ぐ、ううッ!」
ゲッタードラゴンの通信機を、ジュンの苦悶の声が貫く。
その声がエルレーンのこころに刺さる…
彼女の瞳が、グレートを射た。
あの黒い魔物に操られ、言うままになって自分たちを殺そうとする…剣鉄也。
エルレーンの瞳に映る今の彼は、もはや…あの時の彼ではない。
自分と同じように戦うために育てられたと語り、ルーガを想う自分をなぐさめてくれ、そして…「しょちょう」という人のためにまた働けたら、と言っていた時の…!
その時の鉄也の言葉が、やけにリアルにエルレーンの耳によみがえり、鼓膜を揺らしたような気がした。
その途端、エルレーンの中で…何か、怒りにも似た熱い感情が、急激に荒れ狂った。





…てつやくんは、「つるぎ」でしょう?!





苛立ちと怒り、やるせなさをまぜこぜにした強い感情…
それらをそのまま音にしたようなその言葉は、戦場に大きく鳴り渡った。
「鉄也君は、『剣』でしょう?!…鉄也君は、『楯』でしょうッ?!…『敵』を倒す、『剣』…『仲間』を守る『楯』!」
「…」
「グレートマジンガーは、そのためのロボットでしょう?!どうして鉄也君は、グレートに乗って戦うの…それは、『仲間』を守るためじゃないのッ?!」
「ふん、無駄だ小娘!そんな言葉が今の剣鉄也に届くものかッ!」
「…」
エルレーンの怒り混じりの言葉を、ダンテはせせらわらう。
そして…鉄也は、無言。無言のままだ。
それでも、エルレーンは叫ぶ。叫び続ける―!
「鉄也君!私も、…私も『剣』!私も、『楯』…!あなたと同じ、戦うために生きてきた…!」
「…」
「…だ、だけどね、鉄也君!…私は、」
瞬間、エルレーンの瞳に…透明な涙が揺らいだ。
「…私は、一回死ぬまでは…恐竜帝国の、『剣』だったんだ…ッ!」
「え、エルレーン…?!」
唐突な彼女のセリフに、動揺する甲児たち。
しかし、彼女はなおも続ける。
まるで、半ばやけになったかのように…いや、それは懺悔なのだ、告解なのだ…エルレーンは、己の過去を叫び連ねる。
「そうだよ!私は、恐竜帝国の『兵器』だったんだ!そうして、私、殺そうとした…リョウたちを、あんなにやさしいリョウたちを殺そうとしたんだよおッ!」
「エルレーンさん…!」
「…」
「私は、リョウたちが好きだったのに!私は、リョウたちを殺したくなんてなかったのに!
…なのに、私は、結局リョウたちを裏切った!『ハ虫人』たちの『剣』になって、メカザウルス・ラルで、リョウを殺そうとしたの…ッ!」
「…」
「リョウは、そんな私を助けてくれた…そうして、私を許してくれた。…だ、だけど!
私が、リョウたちを、殺そうとしたっていうことは、ずうっとずうっと消えてくれないんだよおッ!」
「…」
「私、今でも後悔してる!私、今でも自分が許せない!あの時の自分が、許せない…ッ!恐竜帝国の『剣』、恐竜帝国の『楯』だった自分が…!」
「…」
いつの間にか、エルレーンは泣いていた。
透明な瞳から悔恨の涙を流しながら、エルレーンは叫ぶ…己の許されざる過去の罪を。
だが…鉄也は、無言のまま。
ヘルメットの影になって見えない表情からは、彼女の必死の言葉が届いているのか、それすらもわからないままだ…
しかし、彼女の言葉は、確実に鉄也の中に響いていたのだ。
「鉄也君ッ!今、鉄也君が甲児君を殺しちゃったら…鉄也君は、私とおんなじになっちゃうんだよ?!
そうして、ずうっとずうっと哀しくて苦しくてつらいままになっちゃうんだ!」
「はっ、ほざけ小娘が!」
「ねえ、鉄也君ッ…鉄也君は、いったい誰のための『剣』なの?!鉄也君が『楯』になって守りたいのは、本当にその人なのッ?!」
「…お、れ、は…」
ダンテの罵倒。だが、エルレーンは怯むことなくなおも叫び続ける…
そして、とうとう。その言葉が、波紋を呼んだか―
鉄也の唇が、何か…彼自身の言葉を、紡ごうとした。
「そうだよ!思い出して、鉄也君…あなたは、」
「黙れッ、小娘ぇッ!」
エルレーンの説得の言葉。ダンテの怒号。
「…あなたは、私たちの『剣』、私たちの『楯』…!そして、私たちの『トモダチ』、『仲間』なんだ…!」
「…!」
彼女のセリフが、通信機のスピーカーを穏やかに揺らした…
と、同時に、かすかに鉄也の瞳に鈍い光がたゆたう。
かすかな、ぼんやりとした…しかしながら、確かに鉄也自身のモノである、意思の光が。
「…ちぃっ!」
ダンテの表情が醜く歪む。
彼は、手にしたリングを大きく振った。
途端、がくん、と鉄也の身体がけいれんした。まるで、不恰好な糸繰り「人形」のように。
再び、鉄也の瞳が―暗い、洞穴のごとく暗い闇で塗りつぶされる。
「剣鉄也!そのやかましい小娘を、今すぐ黙らせろッ!」
「!」
「ち、畜生ッ…え、エルレーンッ!」
甲児の表情に、焦りが浮かぶ。
グレートマジンガーが動き出した―ゲッタードラゴンに向かって。
「…」
「…!…て、鉄也君…!」
「ははははは…ゲッターロボGもろとも、砕け散れッ!」
「…」
「…〜〜ッッ!!」
そして、「偉大な勇者」は、その胸から朱き刃をもぎ取り、振りかざす―
全てを叩き斬る超合金ニューZの刃、グレートブーメラン…!
その刃は、今。己が「仲間」であるはずのエルレーン…ゲッタードラゴンを狙っているのだ!
エルレーンの表情が、恐怖で歪む―
だが、図ったかのように、まさにその瞬間…天空の彼方から、「それ」はあらわれたのだ。

「?!」
「な…何か、来る?!」
「…な、何だと?!」
すさまじい勢いで、戦場に近づく物体―
その襲来が、ゲッタードラゴン、マジンガーZ、ビューナスAのレーダーに示される。
そして、その気配をダンテも感知した…
が、次の瞬間。
その場にいる誰もが、飛びかかってきた影の正体を認知することが出来ないでいるうちに…「それ」が、すさまじい勢いで天空から落ちてきた。
グレートマジンガーが、「それ」を避けることも出来ぬまま、くの字に折れ曲がり…大きく吹っ飛んだ挙句、無様に地面に倒れふす。
そう、「それ」は、まっすぐにグレートマジンガー目がけて体当たりをかましたのだ!
「!」
「あ、あれは…!」
たった今、力の限りグレートマジンガーをふっとばした影。
ぐるる、と「それ」は低くうなった。
ずしり、と鈍い地響きの音を立て、ゲッタードラゴンの前に降り立つ。
突然のことに呆然となったエルレーンの唇が、ようやくその影の「名前」を呼んだ…!
「…ロウ…!」
彼は答えた。るうううん、と。
ロウはしっかりと大地を踏みしめ、己の主人の「敵」…マジンカイザー、そしてグレートマジンガーをねめつけ、大きな声で吼えた…!
「!」
「ろ、ロウッ?!」
「ゲッタードラゴンを…かばうってのかよ?!」
「だ、ダメだよッ!ろ、ロウはまだ、ちゃんと直してない…!武器だってないのに!それなのに、動かすなんてッ!」
「え…?!」
「誰?!ロウを動かしてるのはッ?!お願い、戻って!…私なら、大丈夫だからッ!」
「おいっ、ロウに乗ってる奴!無茶すんな!戻れッ、退けぇッ!」
が、彼らの呼びかけに対し、返ってくるのは―無音。
メカザウルス・ロウからは、何の応答も返ってこない。
「お、おかしいわ!な、何で、何も反応がないの…?!どうして、返答がないの?!」
「…ち、違う!誰も乗ってないんだ!」
幾度呼びかけても返答が何もかえらないことに混乱するジュン。
しかし、ようやく甲児は気づいた…違う、そうではないのだ、ということを。
「?!」
「め、メカザウルス・ロウには…誰も乗ってない!」
「え…?!」
「そ、それじゃ…」
「あのロウは、無人で動いているってこと…?!」
「!…あの時と、同じだってのかよ?!」
ジュンたちの間に、困惑と同様が走る―
…が、その時。
ロウが、低い唸り声を上げた。
しかし、その唸り声は…エルレーンの耳には、明確な声となって響き渡ったのだ。
『No.0…』
「…?!」
はっとなるエルレーン。
顔を上げ、見据えたその先に在るのは…メカザウルス・ロウ。
ロウが、静かに喉を鳴らす…その音は、再び言葉となってエルレーンのこころに伝わってくる。
『よかったね、No.0…君は、<おねえさん>と、…いっしょに、なれたんだね…』
「ろ、ロウ…?!」
『だから、もう…君は、一人じゃない。たくさんの、<仲間>が、…君のそばに、いてくれる』
「…」
『だいじょうぶ…君を、殺させたりなんか、しない。僕が、君を守ってあげる』
肉食恐竜は…かすかに、その赤く輝く目を細めた。
それは、まるで微笑みのように。
そして、エルレーンは彼の言葉の意味を理解した。
「…!」
少女の唇が、哀しみで震えた。
「…や…やめて、やめてよ、ロウ…ッ!」
「!」
「私ならいい!私ならいいんだ!だから、戻ってよ!」
「え、エルレーン…!」
『ううん…<仲間>を守って、<敵>を倒す…それが、僕の仕事だから…』
メカザウルス・ロウがその右足を大きく踏み出した。
その途端、びちゃっ、ばちゃっ、と音を立てて…応急処置された破損箇所からオイルが落ちる。
それは、まるで「人間」の血のように思えた。
傷もまったく癒えていないにもかかわらず戦場に立つ、「仲間」を守るために戦うことを選ぶ、気高き「人間」の―!
「ダメだよ、ロウ!あなたは、私なんか、守る必要ない!」
エルレーンの悲痛な叫び。
それは、エルレーン自身のモノであり、そして…今は彼女の中に溶けてしまった、あの少女のモノかもしれなかった。
誰よりも深く彼のことを理解した、誰よりも彼のことを案じた、無二の親友であった、あの少女の…!
「私なんか守らなくったっていい!私なんか守って、死ぬ必要なんてないんだァッ!」
「ふん…いらぬ邪魔が入ったが、どうやら…ただ立ちふさがることしかできん木偶の棒らしいな。
…よかろう。下がれ、剣鉄也。この忌々しい恐竜は、私が直々に始末してやろう」
恐竜のタックルに吹っ飛ばされ、ようやく立ち上がったグレートマジンガー…鉄也は、指令に従って後退した。
そして、代わりに…魔神皇帝が、ロウの前へとゆっくりと歩み寄ってくる…
「だから戻って!私の言う事聞いて!お願い、ロウ…ッ!!」
「…燃え尽きろ、低能なトカゲめが」
「や、やめてええええぇえぇぇッ!」
エルレーンの絶叫をも、ダンテは冷笑で受け止めた。
そして、リングを握った右腕を…ゆっくりと、振り下ろす。
マジンカイザーの胸に取り付けられた発射板が、禍々しい紅に燃える―
「ファイヤーブラスター…!」
「!」
悪魔となった皇帝が、暴虐の光と熱を放った。
圧倒的な熱の前に、機械蜥蜴の力は…あまりに、無力だった。
「…〜〜ッッ!!」
『ああ…』
焼けただれていくロウの装甲。
鱗に覆われた肉を焼き、鋼鉄の武装を溶解させ、魔神の炎はロウを喰らっていく。
だが、誇り高き機械蜥蜴は、決して哀れな悲鳴などあげはしなかった。
一歩も身じろぎせず、ゲッタードラゴンの前に立ちふさがり、邪悪な熱波をその全身で受け止めながら―
もはやエルレーン…いや、「No.0」の姿を省みる事すら出来ぬまま、穏やかにこうつぶやいた…
『…そうだ…君は、もう、<No.0>じゃないんだよね…』
一瞬の、間。
『…<エルシオン>、…すてきな、<名前>だね…!』
機械蜥蜴の口の端が、かすかに持ち上げられた…
ロウが微笑む姿が、荒れ狂う熱風と炎の中、それでもはっきりとエルレーンの瞳に映った。
「!」
『…さよなら、…<えるしおん>…!』
最期の言葉は、まるでささやき声のように小さく、弱々しく…しかし、エルレーンのこころに確かに届いた。
炎と熱波の中揺らめくロウの影が、一瞬…凍てついたかのごとく、動かなくなった。
そして、刹那。
誇り高き機械蜥蜴は、天を仰ぎ―静かに震えた。




網膜すら焼き尽くすかのような閃光に、思わず甲児たちは目を閉じた―
強烈な衝撃音。振動。
耳をつんざく破滅のフィナーレに、ダンテの狂笑が混じって聞こえた。
…数秒、いや、それは数十秒か…その後に、ようやく彼らは再び瞳を開く。
ゲッタードラゴンには、ほとんどダメージはなかった。
だが、その代わりに。
その眼前を中心点として、無数の鉄片が四方八方に散らばっていた。
砕け散った勇者のかけらが、かけらだけが、そこにはあった…
「あ…あ、ああ、うああ…ッ!」
「え、エルレーン…!」
エルレーンの瞳から、絶望の涙がこぼれ落ちる。
見開かれた瞳には、もはや…彼女の「トモダチ」の姿はない。
が、ショックに泣き続ける彼女の耳に、あの戦闘獣の不快なセリフがまたすべりこんできた。
「ははははは…哀しむことはない、小娘よ。…お前もすぐに、後を追わせてやるよ…」
「…」
「だが、しかし…無能なトカゲよの。何も出来ぬまま、無駄死にか!」
「…黙れ…」
「…!」
驚くほど静かな、だがその根底に激しい怒りを押し込めた声色が、ダンテの嘲笑を打ち切った。
「黙れ…」
「…ほう、まだ吠えるか」
「エルレーンさん…」
「あなたなんかに、何が、わかるって、言うんだ…私や、ロウの、何がわかるって言うんだ…」
「わかろうとも思わんな。お前たち『人間』のような低能なイキモノ…ましてや、低能なトカゲのことなど」
が、冷酷な戦闘獣に、エルレーンの憤怒など所詮はどこ吹く風…
あっさりとそう嘲って返したダンテの言葉に、エルレーンは唇をかみしめた。
「剣鉄也。…せめてもの情けだ。貴様の手で、その女をまず黄泉路へと送ってやるがいい」
しゃらん、とリングが鳴る。
後退したまま待機していたグレートが、再びゲッタードラゴンの前に近づく。
「…」
「鉄也君…」
「…」
「今の、あなたは…『兵器』以下だよ」
「…」
「その人の言いなりになって操られてる、今の鉄也君は…『いだいなゆうしゃ』でも何でもない。…ただの、『人形』だよッ!」
きっ、と鉄也を…今はグレートマジンガーの操縦席となっている、戦闘機・ブレーンコンドルのコックピットをにらみつけ、こぼれる涙を振り払って怒鳴りつけるエルレーン。
「ロウは、私を守るために、いのちを賭けてくれたロウは…
今のあなたなんかよりも、何倍も、何十倍も、何百倍も、立派な『剣』…立派な『楯』だよおッ!」
「…」
「…そろそろお前の演説も聞き飽きたな。…さあ、もういいだろう」
鉄也の返事は、返らない。
かわりに、陰湿な薄ら笑いを浮かべたダンテの宣告が返ってきた。
しゃらん、と、リングが涼やかな死刑執行の合図を響かせる。
「!」
「え、エル…!」
凍りつく甲児、そしてジュン。
グレートマジンガーは、ゆっくりとその両腕を上げる。
「では、死ぬがいい…やれ」
「…」
うろ暗い鉄也の瞳には、もはやエルレーンの姿など映ってはいない。
だから…グレートマジンガーは、何もためらうことなく、そのエネルギーを胸部の熱射板に集中させ始めた…
「…〜〜ッッ!」
エルレーンは、思わず恐怖で目を硬く閉じた…
閉ざされた暗闇の向こうで、鉄也が何をしようとしているか…
それを見るだけの勇気は、もはや彼女には残されていなかった。


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