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◆ das SAMURAI=DRAMA(剣劇)
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「行くぞ!超電磁・ヨーーーーヨーーーーーーッ!」
「ぐ…!」
超電磁ロボ・コン・バトラーVの両手から伸び上がる、一対のヨーヨー。
鋭い鋼鉄のとげを持つ円盤は高速回転したまま、まっすぐにメカザウルスに向かっていく!
そのヨーヨーの攻撃を交差させた両腕で、何とかはじく―いや、はじききれない。
メカザウルスの肉が、ヨーヨーでえぐられる。散る火花。
「はん!どうしたどうしたトカゲちゃん!そんなんで、俺たちのコン・バトラーVを止められるかよ!」
「くっ、痴れ者がぁッ!」
ポイントZX・上空。
そこは、まさに激戦の場。砲弾が空を裂き、あちらこちらで斬りあいが交わされている。
ポイントZX内に侵入した獣戦機隊からの、SOSにも似た緊急の通信…だがそれに救助隊を出す間もなく、恐竜帝国に襲撃を受けたプリベンター。
ともかく、襲ってくる「敵」を迎え撃つ、とばかりに出撃した豹馬たちだったが…
出撃してくるメカザウルスの数はいささか多く、また人工知能搭載の自動操縦ではなく、有人…パイロットが中に乗って操縦しているメカザウルスも相当数いるため、思った以上に苦戦を強いられていた。
のらりくらりとこちらの攻撃を避け、隙あらば母艦群に攻撃を仕掛けようとしてくる。
少なからず、戦況が間延びして来た―その時だった。
「?!」
「な、何だ?!」
とてつもない轟音が、大地を響かせる。
空中にいる彼らの耳にも、まるで足元で鳴り渡るかのように鮮明に聞こえる―!
その轟音の発信源。皆の目が、自然にその一点に集まる。
廃基地・ポイントZX。
だが今、そのポイントZXの一角、今まで何もなかった場所から―地下から、せりあがって来るのは…
「…あ、あれは、」
「ミサイル…?」
…4機の巨大なミサイルが、天を睨んで、そこに在った。
それぞれは微妙に違う方向…四方にその鼻先を向けている。
驚く豹馬たち。
だが、あっけにとられているのは、恐竜帝国軍とて同じ…
「な…あの基地は、廃棄された跡地ではなかったのか?何故…!」
たった今まで豹馬と格闘戦を演じていた男は、いぶかしげな表情でそれをねめつけながら、そう漏らした。

「…!」
「な…」
「おわああッ!」
がたがたと大地が恐怖で震えているかのような、激しい揺れ。
低いうなり声のような地響きが、しばし司令室を、コントロールタワー中を揺るがした…
その揺れは、長い間続いたそのしばらく後に収まったが…
「!…まさか!」
だが、その地震とも思えない異様な揺れの長さは、むしろ別の要因を悟らせる。
イノセントの無謀な企みを知っている彼らなら、なおさらだ!
「どうした、亮!」
「まさか、核が…核が、発射されるのか?!」
「?!」
「な…にッ?!」
亮の喉から搾り出された言葉に、皆が凍てついた。
あの恐るべき超兵器が―とうとう、放たれるのだ!
「…!」
キャプテン・ラグナの紅の瞳に、一瞬光がよぎる。
かすかにその表情に、疑心と困惑がにじみ出た…
「急いでブライト艦長たちに知らせないと!」
「エルレーン!俺たちの縄を、早くッ!」
「あ…う、うんッ」
ハヤトにせかされ、エルレーンは黒いウエストポーチから小さなナイフを取り出し、それでハヤトの手首のロープをきしり切り始めた…
その時だった。
―龍騎士が、口を開く。
「…貴様ら、今、何と言った」
「…あぁ?」
忍のぞんざいな問い返しに、それでも龍騎士はなおも問い返す。
いつの間にか、その歴戦の剣士の顔には…焦燥の色。
「貴様らは今、『<カク>が発射される』と言ったのか?」
「…ああ、そうだよ!それがどうかしたってのかい?!」
「『カク』…『忌み火』のことか!」
そして、彼はその超兵器を別の「名前」で呼んだ―「人間」のモノではない言葉で。
その声音に絡まるのは、明らかな焦りと恐れ!
「?!」
「『いみび』…?」
「あんた、核のことを知ってるのか?」
「ああ、もちろんだ。貴様ら愚鈍な『人間』どもが造りし、大地を汚す大悪!」
「!」
どうやら、恐竜帝国にも「核」の…「忌み火」、と彼は呼んだが…情報があるようだ。
彼は、正確に言ってのけた。
その邪悪な本質を。破壊の本質を。
「かつて、この地球にその忌まわしい炎が降り注ぎ、緑は枯れ果て海は死に果てたと言う…その大悪を!」
きっ、と、尖る視線を突きつける。
忍たちを、「人間」を見下すその視線には…憎悪の炎が燃えている。
「その大悪を…貴様ら!また、大地に振りまこうと言うのか?!」
「馬鹿野郎!俺たちがそんなことやるかってんだよ!」
「ここをシメてる、イノセントの野郎どもの仕業だ!」
「…先ほどの奴らか」
忍とベンケイの抗弁に、キャプテン・ラグナはその相貌を歪ませる。
「ああそうだよ!どうやら奴らは、俺たちをつぶすために、ここにおびよせたらしい…!」
「…」
「けど、だからと言って…核を使うなんて!」
顔色を失い、悲痛な表情でつぶやく雅人。
怒りに満ちた、沙羅の嘆き。
「…」
同じ「人間」の行為を怒り、呪う彼らの姿は、彼らの純然たる「敵」たるキャプテン・ラグナの瞳にも…到底、嘘のようには思われなかった。
彼らは、同じ「人間」の…だが、敵対する者たち…無法に、猛っている。
大地を壊す「忌み火」を放とうとする、同胞(はらから)たる「人間」に…!
到底、嘘のようには思われなかった。
だから…キャプテン・ラグナは、剣を収め、身につけていた通信機のスイッチを入れた。
「…キャプテン・キザラ。聞こえるか?こちらはキャプテン・ラグナ」
『ああ、キャプテン・ラグナ!』
すぐさまに、通信機のスピーカーコーンを振るわせる声。
恐竜帝国軍母艦・メカザウルス・グダ、キャプテン・キザラからの通信だ。
「そちらから、このポイントZXの様子は見えるか?!」
『それが妙だ、キャプテン・ラグナ。突如、巨大なミサイルらしきものがその基地からせり出してきた…どう見ても、あれは長距離…いや、超長距離ミサイルだ』
「…」
『そこは廃棄地ではなかったのか?一体、どうなっているキャプテン・ラグナ!』
「…事態が変わった。全機、一時『人間』どもとの戦闘を中断しろ!そのミサイルを…発射させるな!」
キャプテン・ラグナは、言い切った。
ためらうことなく、言い切った。
「!」
「え…」
あまりにきっぱりと、自分たちプリベンターとの戦闘中断を命じたキャプテン・ラグナ。
その唐突な行動、そしてその真意が理解できず、エルレーンたちは困惑を見せる。
が…困惑しているのは彼らだけではない。
通信機の向こうのキャプテン・キザラも、明らかに声を荒げている。
『何?!どういうことだ、キャプテン・ラグナ!』
「事情を説明しているヒマはない!…それは『忌み火』だ、キャプテン・キザラ!」
『?!なっ…』
「忌み火」という、その言葉。
キャプテン・キザラが、見えない通信機の向こうで強張ったのが―手に取るように、わかった。
「ともかく!ミサイルの推進部を破壊すれば、爆発せずに止められるはず!」
『わ、わかった!すぐに全機に実行させる!』
「私も、出来うる限り早くそちらに向かう!…ともかく!」
惑うキャプテン・キザラに、怒鳴りつけるような勢いでキャプテン・ラグナは命じる。
力を込めて、確信を込めて―!
「くだらない『兵器』で、これ以上に大地を汚してはならぬ!何としても止めるんだ!」
『!…了解!』
…一身に降りかかる、ハヤトたちの視線。
その視線の束に、今さらながら気づいたか…キャプテン・ラグナは、目をそらした。
こころもち、気まずそうに。
「…」
「…キャプテン・ラグナ」
「…ふん」
軽く、鼻で笑う。
そっけなく、あくまでそっけなく、彼は言う。
「一時休戦、だ。貴様らなど、いつでもひねりつぶすことが出来る。…だが、」
ぎりっ、と、その目が強い意志でつりあがる。
「この美しい世界を、これ以上『忌み火』で壊させるわけにはいかん!」
「…」
紅い瞳に宿るのは、決意。光。
愚かなる炎からこの世界を守ろうと言う、それは―
「正義」の光!
エルレーンの瞳にも、それは入り込む。
自分を殺そうと猛っていた男の、その姿が―
彼女の網膜の中で、壮年の男は、異形の男はなおも「仲間」に向かって呼びかけている。
悲劇を回避しようと、必死に。
「『忌み火』を載せたミサイルは、どうやらまだ発射されてはいないようだ」
『ああ、確認した』
「今のうちに、発射台を破壊して…!」
だが。
その時―
エルレーンの網膜に、別のモノが蠢く。
「!」
エルレーンは、それを見た。
「ハヤト君!後は、自分で切って!」
「?!…エルレーン?!」
身体が、半ば自動的に反応した。
突如、ナイフをハヤトの手に押し付け―エルレーンは、走った。
背中に叫ぶハヤトの声に、返事はしなかった。
右手を、携えた剣の柄に。
引き抜く。薄暗闇に、白銀の刃が輝線を描く。
あの女(ひと)が、キャプテン・ルーガが自分に贈ってくれた―「敵」を倒す、「敵」を屠るための剣。
だけど、けれど…そう今は、
その「敵」を守るために!
「…後ろ!」
「?!」
エルレーンの短い叫びが、通信に注意を向けていたキャプテン・ラグナの精神を無理やり引きずり下ろした。
はっ、となり顔を上げる、だがもうその時にはNo.39はこちらに向かって全力で駆け出してきている!
慌てて剣を握り、振りかざし、その攻撃を打ち砕こうと―!
「はあッ!」
しかし、己の眼前を少女はすり抜ける、まるで自分の存在など眼中にないがごとくに!
混乱のうちにその動きを両目が追いかける、No.39はそのまま自分の背後に回る、そのまま踏みとどまり構え―
振り返る、そこに片手剣を構えた小娘の姿、
まずい斬られる、とキャプテン・ラグナが思った瞬間!
「恐竜剣法・必殺!水龍剣!」
「…!」
一閃、円を描く一閃!
それとほぼ同時に、金属が金属をはじく甲高い連続音!
…一瞬の後、ばらばら、と、床に落ちてきたモノ。
それは、いくつもの銃弾だった。
見れば、いつの間に現れたのか―開きっぱなしになっていた司令室入り口に、十数人もの銃を構えた「人間」ども。
先ほど切り伏せた、「イノセント」なる連中か…
まったくその存在に気づかなかった。そして、その銃口は、一様に自分に向いていた。
…しかし、今自分の身は蜂の巣にはならず、五体満足。
その事実が、高潔なる騎士の深奥を貫いた。
何という不覚か、この私は、この私が…
仇敵にいのちをすくわれたのだ、このNo.39の剣によって。
このNo.39が放った、「恐竜剣法」によって…!
「…貴様」
「…」
小娘は、油断なく剣を構えたまま、彼奴らを見据えたまま―答えなかった。
奇襲を防がれたイノセントどもは、多少ざわめき…だが、その攻撃の手をゆるめるつもりもなく、再び照準をこちらにあわせてくる!
「…来るッ!」
No.39が、駆け出す。
素早く駆ける、剣を手に―
「エルレーン!」
「早くッ、ブライトさんに、連絡を…!」
「仲間」の若僧に、それだけ言い放って。
決然と、向かっていく。まっすぐに!
「―!」
…こころの中の何かが、ざわり、と揺らめいた。
こころの深海、底の底…そこにある何かが、毛羽立つように揺らめく。
向こう側で、「人間」の若僧どもが何か叫んでいる。
「ブライト艦長!俺だ、藤原だ!」
『藤原少尉?!一体どうした、さっきは…』
「説明は後だ!イノセントの罠にはめられた!…そっからミサイルが見えんだろ?!」
だが、よく聞こえない。聞かなくてもいい。
私も、駆け出す。
素早く駆ける、剣を手に―
既に、小娘は、戦っている。
「仲間」を守るために。この世界を守るために。
目の前で、イノセントどもを切り伏せる―
まるで、可憐に舞うように。
『あ、ああ。どうやら、4基あるようだが…』
「あれは…核ミサイルだッ!」
『な?!…そ、それは本当かッ?!』
「ああ!…恐竜帝国のトカゲ野郎どもは、その発射を止めに入る!」
ああ、私にはわかってしまう。
あれは、「恐竜剣法」だ。
ルーガ先生が私たちに残した、そして疎ましいことにあの小娘が受け取った、「恐竜剣法」だ―
完全なる防御、そしてその後に放つ強撃。
『え…』
「ぼやぼやしてる場合じゃねえぜ、ブライト艦長!あのミサイルを止めるんだ、俺たちもすぐに行くッ!」
『お、おい、ふじわ…』
「忍…お前、もういい。貸せ」
「お、おい、ちょっと…」
ああ。
そして、わかってしまう―
あの小娘。
あの忌まわしい、憎らしい、妬ましい、怨めしい「人間」の小娘、No.39は―
何と、美しく舞うことだろう!
「ブライト艦長。司馬亮少尉です」
『司馬少尉?!説明してくれ、今藤原少尉が言ったことは…』
「ええ、本当です」
攻撃を受ける、剣の型。攻撃を放つ、剣の型。
その全てが、正しく過たず確かで、完成されている―
この若年でそれを身につけたことを思えば、いや、「兵器」たる身で強化(ブーステッド)を受けたにせよ、それは何と高度なことか―
「核ミサイルがイノセントの手によって発射されようとしています」
『…』
「すぐにそれを阻止すべきです。…説明は省きますが、恐竜帝国軍も我々との交戦を一時中断し、ミサイル発射阻止に向かうはずです」
『…』
そう、その動きは―
キャプテン・ラグナは、戦いの渦に飛び込み、剣を振るいながら思った。
キャプテン・ルーガ…ルーガ先生の剣に、驚くほど似ているのだ。
あたかも、彼の師匠の動きを、そっくりそのままトレースしたかのように…!
No.39。
忌まわしい、憎らしい、妬ましい、怨めしい、「人間」の小娘―
美しい。そして、強い。
…いつの間にか、自分は強く強く歯噛みしていた。
「ブライト艦長!俺たちも、奴らに習うべきです!」
『…』
「今は、そいつらと戦ってる場合じゃない!恐竜帝国と協力してでも…」
…ああ。
だが。
私とて。
私とて、かつては―ルーガ先生の教えを、受けていた。
ルーガ先生と剣を交え、学び―生きてきたはずだった!
「!」
「…」
小娘の後ろに回り銃を撃ち放とうとした男を、そのままに斬り伏せる。
気配に少女が振り返る。
戦いに緊張した表情が、わずかな困惑でゆるんだ。
何も答えず、次の「敵」に向かっていく。
…答える言葉など、出てきやしないから。
「核ミサイルは、核だけは止めなきゃならない!」
『…!』
そうだ。
これは、今だけだ。
今だけだ、No.39―小娘。
忌まわしい憎らしい妬ましい怨めしい「人間」の小娘よ。
今だけだ―世界を「忌み火」から守らねばならない、今だけだ。
そんなことをやっている暇など、今はない。
だから、今だけは…貴様を殺さずにおこう、No.39!
『…わかった。我々は、ミサイル発射を阻止する!』
「!」
『司馬少尉!君たちは大丈夫なのか?!』
「ええ、大丈夫です…何せ、」
ブライトへの通信。必要なことを全て伝え終わった通信の、その最後。
彼らの身を案じるブライトに、亮は薄く笑んでこう言い返した―
彼の視線の向こうには、イノセントの兵を全て倒した、二人の剣士の姿…!



「…頼もしい龍騎士(ドラゴン・ナイト)様が助けてくれましたしね!」
『…?!』




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