--------------------------------------------------
◆ 奇妙なる共闘
--------------------------------------------------

『全機に告ぐッ！』

『イノセントの手によって、超長距離射程の核ミサイルが発射されようとしている！』

『発射角度から見て、東西南北四方…おそらく、アメリア、ガリアの主要拠点を目標地点としている！』

『核ミサイルの推進部のみを攻撃・破壊し、発射を止めろ！』

『なお、恐竜帝国軍もこのミサイル発射阻止に向かう模様！』

『時間がない！一時休戦だ！…各自、』

『恐竜帝国軍とともに、ミサイル発射を絶対に阻止するんだッ！』


「な…！」
プリベンター全機に向けて発進されたその通信を、兜甲児は信じられない思いでマジンカイザー内・コックピットで聞いた。
「な、何言ってやがるんだ、ブライト艦長？」
唐突にあらわれた巨大なミサイルにも驚いたのに、それが核を搭載していると言うのか？
その発射を防げ、という…
しかも、恐竜帝国のトカゲ野郎どもと一緒に！
惑う甲児。
一体自分は、どうすればいい…？
…しかし。
その瞬間だった。
「馬鹿野郎ッ、てめぇ何ぼおっと見てやがる？！」
「？！」
激烈な罵声が、甲児の耳をつんざいた。
驚く甲児が、目を向けると―それは、開かれた通信回線からのもの。
その通信画像には、「ハ虫人」の男が映っている…
今、眼前に在るメカザウルス・ゼン2号からのものだ！
鋭い牙を尖らせたその「ハ虫人」は、焦れたような口調で…なおも、甲児に激しく怒鳴りつける。
「お前ら、これが何なのかわからねえわけじゃねえだろう？！…なのに、何ぼさっと見てやがんだッ！」
「…え、」
「今はなぁ、こいつを…」
あごをしゃくり、核ミサイルを示す。
その目には、決然たる意思―
「こいつを止めなきゃならねえんだよッ、『人間』！」
「…！」
甲児は、息を飲む。思わず、息を飲む。
真剣な、その「ハ虫人」の言が、彼の胸を打つ…
だが、黙りこくってしまった甲児を見て、自分の言ったことが理解できていないと踏んだのか…
彼は、ふん、と鼻を鳴らし、自機をくるり、と反転させ、核ミサイル弾に向けてしまう。
「どうした？！…はっ、まだ状況がわからんか…やっぱりサルか！」
「！…な、何を〜ッ！」
そして、それだけ言い捨てて、ミサイル発射台にとりついた―
挑発的なそのセリフに、甲児の怒声が跳ね返る。
しかし、次の刹那。
「ドリルプレッシャー・パーンチッ！」
「！」
それは、甲児の雄たけび！
驚く「ハ虫人」のメカザウルスのすぐそばを、鋼鉄の腕（かいな）がかっとんでいく―
そして、そのまま発射台にぶち当たった！
「このマジンカイザーを甘く見んなよ、トカゲ野郎！」
「へっ…言ってろ！」
そのまま、リモートコントロールで再び魔神皇帝の元に返っていく―
甲児が、男が、にやり、と笑いあう。
マジンカイザーが、同じくミサイル発射台に取り付く。メカザウルス・ゼン2号とともに。
メカザウルス・ゼン2号が、マジンカイザーが、その牙をその爪をその拳をその熱線をミサイル発射台に浴びせる―！
この世界を汚染する邪悪を止めるために―共に！

「な…に？！」
司政官ビラムの見るそのモニターには、信じ難い映像が映し出されていた。
このポイントより脱出するため、格納庫内のランドシップに移動したビラム。
イレギュラー…プリベンターたちが恐竜帝国軍に襲撃され、この場に釘付けにされているのをこれ幸いにと、総員退避準備を進めていたのだが―
その作業も終わらぬうち、奇妙な事態が起きるのを彼は目の当たりにした。
これはどうしたことだ―
先ほどまでお互い戦いあい、つぶしあっていたプリベンターと恐竜帝国軍。
その二者が、いつの間にか戦いをやめ…ミサイル発射台に攻撃を始めている？！
その狙いは明らかだ―！
事の異常を悟ったビラムは、即刻カシム・キングに報告を行わんとする。
「か…カシム・キング様」
「どうした」
「と…トカゲどもが、地下勢力・恐竜帝国軍が…イレギュラーどもとともに、ミサイルを破壊しようとしています」
「…何？」
老人の目元が、わずかにひくついた。
「こ、このままでは、おそらくミサイルが…」
「それが、どうした」
「…え、」
だが。
平静に、あくまでも平静に答えは返ってきた。
モニターの走査線が形作るイノセントの支配者は、冷然と言ってのける。
「もともとあのミサイルは、ただの時間稼ぎ。地下の『あれ』の爆発までに、奴らをひきつけておくためのおとりだろうが」
「そ、それはそうですが」
言いよどむビラム。そんなふがいない部下に向かって、老爺は激烈に怒鳴りつけた。
無数のしわのよった顔が、冷酷な独裁者の表情をにじみださせる―
「それでも不安なら、防衛システムを最大限に働かせろ！所詮そのポイントは捨て駒だ！地下から発掘したあの古代超兵器も投入するんだ！」

「！」
「な…き、基地の防御システムが作動していますッ！」
パイロットたちの視界に、飛び込んできたその光景―
誰かの悲痛な叫びが、通信回線を介して伝わってきた。
ポイントZXは、もはや廃基地という仮の姿をかなぐり捨て、その凶悪な能力をあらわにしていた。
せりあがる砲台。伸び上がる発射口。
ポイントのそちらこちらから、地下に格納された防衛用の兵器が姿を見せていく―
黒光りするその砲台が、無数の鋼弾を撃ち放つ！
「ぐ…！」
縦横無尽に降り注ぐその砲撃の嵐を、ある者は必死にくぐり抜け、ある者は何とか受け流す。
だが―それだけではない。それだけではすまなかった。
再び、ポイントの一地点から―飛び立つ、紅い影！
「あ、あれは…」
「ゴーストX-9？！」
「あんなもんまで発掘してやがッたかよっ！」
プリベンターの間から、ショックの色が隠しきれぬ叫び声が上がる。
その驚愕の視線を集めるのは―全体を紅に染められた、戦闘機。
圧倒的な機動力を誇る兵器開発の名の下に製造された、超高性能な人工知能が操る無人戦闘機…ゴーストX-9！
生半可な攻撃など、全てその紅の飛翔がすり抜ける―
かつてのプリベンターを苦しめたあの悪夢が、今地の底からいくつもいくつも飛び立っていく！
「ち、畜生ッ！こんな時に…！」
紅い不吉な鳥の飛翔を見上げる豹馬の表情に、重い影―
彼らバトルチームの駆るコン・バトラーVのようなスーパーロボットは、その体躯の巨大さゆえに、動きの遅さゆえに―容易に奴らの格好の的となってしまう。
「豹馬！上や！」
「…！」
果たせるかな、十三の警告に気づくも遅く…レーダーに映る、ゴーストX-9の放つミサイル群！
そのどれもが凄まじい勢いで、コン・バトラーVの頭上から迫り来る…！
避けられぬことを悟った豹馬は、反射的にコン・バトラーの両腕を頭上に出す―少しでもミサイルの被害を減少させようと！
そして、構える…
着弾。それに続く爆発音！
「…？」
だが。
耳を裂くような強烈な破裂音とは裏腹に…コン・バトラーVには、何の衝撃も伝わってこない。
いぶかしむバトルチームの5人。
その刹那、彼らのもとに通信が入る…
「まったく…呆けている場合じゃなかろうが、『人間』！」
「な…」
その声は、聞き違えるはずもない…
先ほどまで、コン・バトラーと格闘戦を繰り広げていた、「ハ虫人」の男！
見れば―彼の機械蜥蜴、メカザウルス・ギラが、コン・バトラーの頭上で制止していた。
その鋼鉄の翼を拡げて。
コン・バトラーVをゴーストのミサイルから護ったのは誰か―
問わずとも、それは明確だった。
「さあ、さっさとあのミサイルの発射を阻止するぞ」
「…あ、ああ！」
「行くぞ、『人間』！」
だが、彼はそれを鼻にかけるでも恩に着せるでもなく、豹馬を促すのみ。
すなわち、あの核ミサイル発射を阻止しろ、と。
そのために戦え、と―！
うなずく、バトルチーム。
異形の戦士とともに、彼らはミサイル発射台にまっすぐ向かっていった―！
「『人間』、しっかりついてこいッ！」
「…あのなあ、俺は葵豹馬ってんだ！『ニンゲン』『ニンゲン』って呼ぶんじゃねえ！」
「『ヒョウマ』…？変な名だな」
「放っとけッ！」
豹馬と彼の言い争いを、空に置き去りにして。

ゴーストX-9のミサイル、そして防衛システムの放つ射撃は、「人間」・「ハ虫人」の別なく襲ってくる。
自らをロック・オンし、追撃してくるミサイル―
それらから必死に逃げる、一機の機械蜥蜴。
「くっ、ミサイルが…」
見る見るうちに迫る追尾ミサイルの姿。
その差はぐんぐん縮まる―彼のメカザウルス・バルが、最高速度で飛行しているにもかかわらず！
一瞬、彼は死を覚悟した―
「…？！」
だが。
その姿を彼らは決して看過しない。
何処かより発射された大口径のライフル弾が、追尾ミサイルのどてっぱらを貫いた！
突如飛び散る火花に驚く彼、その耳に「人間」からの通信が届く。
「へっ、俺たちゃ空は飛べないけど！援護射撃ならまかせとけ！」
「ミサイルなんて、アタイらが全部打ち落としちゃうだわさ〜ッ！」
グリーンの機体から、勢いのよい通信。
大地よりミサイルを狙撃・撃墜した、ジロン・アモスとチルの二人―
煙をたなびかせる専用ライフルを構えたウォーカー・ギャリアが、こちらに向かって手をふった。
「！…よおし、頼んだぞ！」
「オッケー！ウォーカー・ギャリアに任せなッ！」
飛び去っていくメカザウルス・バルが、ジロンたちに背を向け、再び発射台に攻撃を加えだす。
ジロンもライフルの狙いを定め、バルを狙うミサイルを一発たりとも逃がさぬために集中する…！

空からも、陸からも、絶え間なく攻撃が降り注ぐ。
しかし、何というその4基のミサイル発射台の強度…
恐竜帝国軍が誇るメカザウルスが、プリベンター屈指のロボットが、幾度も攻撃を加えても、なかなかその機能を止めるに至らない。
もちろん、彼らが本気を出せば、必殺技の数々がその発射台を砕くだろう。
だが、それでは…ミサイルもろともに、砕けてしまう。核を搭載したミサイルとともに。
それ故、彼らは否応なく攻撃力の弱い武器での攻撃を強いられている…
しかしそれでも、彼らはいらだつことなく幾度も幾度も攻撃を加え続ける。
―この大地を、再び汚させぬために！
「…！ちっ、燃料切れか！」
…一機の有人メカザウルスが、力尽きた。
空中からミサイル援護を行っていたそのメカザウルスは、エネルギーを使い果たし…最早、滞空することも不可能になった。
うるさく鳴り響くエラー音に、仕方なくパイロットの「ハ虫人」は大地にメカザウルスを降下させる。
―と、その時。
「…い！」
「？！」
エラー音の隙間から、何やら男の怒鳴り声が…聞こえた。
開く通信。「人間」の男が、こちらに呼びかけている。
「おうい！おうい！…エネルギー切れなら、俺にまかせな！」
見ると、なにやら見るからに怪しげなポンコツロボットが…もちろん、ボスボロットだ…こちらに向かって、大きく手を振りながら近づいてくる。
その右手に、機体から出ているこれまた怪しいノズル付きパイプを掲げて…
「な、何だ、お前？！」
「ハイオク満タン、たっぷり補給してやるだわさ！」
戸惑う彼に、ボスはにやり、と笑って言ってやった。
そして、手にしたパイプを誇示するようにぶんぶん振り回す―
「…！すまない、恩にきるぜ！」
「へん、次からはリッター百万円でやらしてもらうかんな！」
「ヒャクマンエン？何だそれ…」
メカザウルスに給油しながら、ボスはいつものごとく軽口を叩く。
それは、普段甲児やリョウたちに言うのと同じように。
ボスのわけのわからないジョークに、男は…ふっ、と微笑った。
不思議なことに、異種族の…まったくトカゲそのもの、と言ったその男の微笑は、ボスにも簡単に理解できた。
それが、微笑であることが―
「ともかく、ありがとよ…『人間』！」
「どういたしまして、ってとこよ！」
再びミサイル発射台に向かっていくメカザウルスを見送り、すぐにボスは次の補給目標を探す。
…彼のボスボロットは、残念ながら攻撃力に秀でない。
だが、彼は助けることが出来る…
戦う彼らの機体に、もう一度立ち上がるエネルギーを分け与えることが出来る。
そう、だからボスは声の限りに叫ぶのだ。
共に今、あの邪悪に立ち向かう「仲間」たちに叫ぶのだ―
「人間」の勇者たちに、そして「ハ虫人」の勇者たちに叫ぶのだ―！



「…さあああ、他に燃料切れの奴ぁいないかーッ！」

back