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◆ 果てしなき大空に誓う〜
 Farewell to my "FRIEND"
 <そして、もう一人の「勇者」のために>〜
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いつの間にか、夕闇の時刻が忍び寄ってきていた。
戦い終わった荒野を、少しずつ、少しずつ…夕暮れの気配が浸していく。
無数のメカザウルスたちの破片、鉄の礫砂…
黒煙とオイルの匂いに満ちた戦場跡に、鋼鉄の勇者たちの姿が在る。
「偉大な勇者」・グレートマジンガーを取り囲むように…
モニターに映る鉄也は、疲労の色を漂わせてはいるものの…たいした怪我もしていないようだ。
ほっと胸をなでおろす「仲間」たち。
…と、その時、鉄也が口を開いた。
「…すまない」
彼の口からすべり出てきたのは、重苦しい謝罪のセリフだった。
「すまなかった、俺のせいで…俺が、馬鹿なことしたせいで、こんな目に…」
「まったく、驚かされたぜ鉄也さんよ…!」
「まあ、無事だったようで何よりじゃないか!」
「今度からはこんなのは無しにしてくれよな、ひやひやしたぜ!」
が、「仲間」たちにとっては、そんな謝りの言葉など何ら必要ではない。
鉄也が無事であったことこそが何より大切なのだから…
わやわやと、軽口まじりで返ってくる「仲間」たちからの明るい応答。
…しかし、鉄也の表情は、晴れない。
一瞬、彼は口ごもった…
が、それも刹那。再び、彼は言葉を発する。
今度は、甲児に…マジンカイザーの中に在る、甲児に向けて。
「甲児君」
「!…何だい、鉄也さん?」
「特に、君には…本当に、すまないことをした…」
「え?!…な、何言ってるんだい、鉄也さん!」
眉根を寄せた鉄也の顔は深刻そのものであった。
突然自分に向かって詫びの言葉を口にする鉄也に泡を食った甲児は、慌てて…あえて、いつも以上に明るい口調を装って言い返す。
だが、鉄也は詫びの言葉を重ね続ける。
「俺のせいで、君のマジンガーが…君の、何より大切にしていた、マジンガーZが…」
「あ、ああ…だ、大丈夫だよ、鉄也さん!あれくらい、アストナージに頼めばすぐ元通りに直してくれるさ!」
「いや…本当にすまない、甲児君」
「鉄也さん…」
その口調は重く、彼が自らの招いたその悲運をことさらに罪悪と感じていることがひしひしと伝わってくる。
目を伏せた鉄也の表情は暗く、モニター越しにそれを見る甲児を困惑させた。
「俺は、どうかしていたんだ。甲児君より兄貴のくせに、変にひがんだりして」
「い、いや…で、でも、」
面映くなったのか、少しばかりおどけたような口調で…だが、その中にいくばくかの真面目さを混ぜ合わせ、甲児は先ほどの鉄也の短慮をいさめようとした。
「あんな無茶は、もう勘弁だぜ…あれじゃ鉄也さん、いくら身体があってももたないよ」
「…俺のことはいい」
「…え、」
だが。
押しつぶしたような、短い返答が…その配慮を叩き切った。
「俺のことはいい…!俺が死んだって、哀しむ者はいないからな」
「…!!」
「そうさ、俺なんて…」
吐き捨てるように鉄也が口にする、あまりに哀しすぎる言葉。
そのうろ暗さに、思わず「仲間」たちも虚を突かれ、黙り込む…
うつむいた鉄也の表情には、どんよりとした影。
それは、あの時…あの格納庫で彼がジュンたちに見せたものと同じ…
彼はぼそぼそと吐き続ける…自嘲の色にまみれたセリフを。
…だが、その時。
鞭で打つような、鋭い怒声が…鉄也の自暴自棄を黙らせた。
「馬鹿言うんじゃねえッ!」
「…!」
うす暗い劣等感のもやで覆い隠された鉄也の視界が、その瞬間…突如、クリアになった。
その怒号にはじかれたように、鉄也はモニターを見る。
甲児は、モニター越しに、まっすぐ…まっすぐ、自分をにらみつけていた。
黒い瞳に、やりきれなさと怒りをこめて、彼は自分をにらみつけている…
走査線が形作る彼の唇は、大きく動き…こんなセリフを生み出した。
「死すら恐れない」といえば格好はいいが、その実、ただの自滅でしかない…
そんな鉄也の危険で哀しいあり方を、甲児は認めることは出来なかった。
いいや、彼だけではない。
鉄也のことを思う「仲間」なら、誰だって思う、当然のことを―!



「俺たちは、『仲間』じゃねえか!」



「一緒に歯を喰いしばって戦い抜いてきた『仲間』じゃねえか…!」
だから、まるで、叱りつけるように、怒鳴りつけるように…甲児は、鉄也をにらみつけ、言い放った。
「その『兄弟』を見捨てることなんて、俺には出来ねえ!!」
「…!」
「そいつは俺だけじゃない、みんなだってそうなんだ!…だから!」
甲児は、鉄也から目を離さない。
目を離さないまま、強い信念をそのまま音に変え、言葉に変えた―
「自分から死にに行くような真似するなよ、鉄也さんッ!生きのびるんだよ、みんなでッ!」
「甲児君…」
「そんなのは勇気でも何でもない!全然違うんだよ、鉄也さん…!」
胸の中の、「何か」が震えた。
そして、その一点を中心として、波紋のように静かに拡がっていく、発見。
それは、気づいてしまえば…何て事のない、当たり前のこと。
だが、今まで自分は無視してきたこと…
気づかないふりをしてきたこと、それでいて実感したかったこと…!




自分も、たやすく死んでいいいのちではないのだ。
自分にとって、「仲間」がそうであるように―!




鉄也は、直感した。
そう。
それは、自分が求めていた「何か」そのモノなのだ。
自分が所長に重ね合わせて求めていたモノ…それと同じモノだ―!




自分は、それをすでに持っていたのだ。
あえて求める必要もない、自分はすでにそれを持っている―ここに!
そして、だからこそ…!




「…りがとう」
「え…?」
「ありがとう、甲児君」
「…?!」
だから、鉄也は…それを気づかせてくれた甲児に、礼を言った。
彼は、とても満足そうに微笑っていた。
驚くほどに柔和な表情を見せる今の彼からは、あの時のような、人を刺し貫くような鋭さはない。
一方、礼を述べられた甲児のほうは…その意味がわからず、目を白黒させているのだが。
「甲児君の言葉で、ようやく目が覚めたぜ」
が…鉄也は、静かな口調で、つぶやくように言った。
その言葉には、苦悩を乗り越えて来た者の、しみじみとした感慨があった。
今まで苦しみのたうってきた、醜悪な感情。
そして、それを自分に味合わせてきた何よりの根源、兜甲児への憎しみ…
そんなモノは、すでに消え失せていた。
その代わりに、今自分の中にあるのは…確かな実感。
(…血のつながりとか、存在意義とか…そんなことは、どうでもいいことなんだ)
そう、どうでもいいことなのだ。
何故ならば、自分はすでに持っているのだ。
自分と「仲間」をつなげている、何よりも硬く、強いモノを…!
「俺たちには、絆がある。幾多の戦いを共にして出来た、血よりも濃く…熱い絆が、な…!」
その鉄也の言葉に、皆…「仲間」たちは、皆、微笑んだ。
「鈍い奴だ、ようやく気づきやがったのか」と言いたげな顔をして―
鉄也も微笑んだ。穏やかに、微笑んだ…



…所長。



鉄也は、こころの中で…今は帰ることの出来ない、自分たちの時代に生きているはずの彼を思った。

所長、ようやく俺はわかりました。
俺が本当にやるべきことを…
所長が俺に望んでいたことを。
俺は、ミケーネと戦うための「兵器」じゃない。
…俺は、「戦士」なんだ。
俺の「名前」は、「剣鉄也」。
その名の通り、俺は…「剣」なんです。そして、「楯」になるんです。
「敵」を倒す「剣」、「仲間」を守る「楯」…
この大切な俺の「仲間」たち、俺の「名前」を呼び、俺を必要としてくれる…
絆で結ばれたこいつらを守るために。
そして…この世界を乱す「敵」から、多くの人々を守るために…!

ビューナスAのコックピットから、ジュンは鉄也を見た。
モニターに映る彼は、とても澄んだ目をしていた…
己のこころの中に巣くっていた煩悶や苦悩、嫉妬や無力感…
それらの影は、今の鉄也からは消え去ってしまっていた。
彼は、克ったのだ。己自身の弱さに、自分なりの決着をつけたのだろう…
…もう、大丈夫だ。
鉄也は、これからも…自分とともに、「仲間」たちとともに、道を歩んでいける。
今までどおりに、強く。そして、今まで以上に、強くなって―
「偉大な勇者」の操縦者として!
ジュンは、バイザーの隙間から指を差し入れ、瞳に浮かんできた涙を、そっとぬぐった。
今、彼女の瞳に移る彼…それが、それこそが、彼女の最も愛する「剣鉄也」のあるべき姿だったからだ。
真・ゲッター1の中にいるリョウも、鉄也の帰還に安堵の表情に浮かべている。
…が、その時。
ゲッタードラゴンのコックピット映像を映しているモニター…その中に、操縦者であるエルレーンの姿がないことに彼は気づいた。
…と、彼がそのことを奇妙に思った刹那。
がちゃり、と金属扉のきしる音が響き、そのコックピットの中に、ちょうど彼女が入ってくるのが見えた。
一旦ゲッターロボGの外に出ていたのだろうか…?
「…エルレーン、どうしたんだい?」
「!…ううん、何でもないの」
「…?」
が、コックピットに再び座したエルレーンは、にこっと微笑し…そう言い返してくるだけ。
彼女のそんな反応を見たリョウは、モニターの中で不思議そうな表情を浮かべている。
「うん…何でも、ないの…」
そうつぶやきを返しながら、彼女は…その右手の中にあるモノを、しっかり握りこんだ。
手の中に握られたそのモノは、とても冷たい感触を返してきた。
それはまるで、彼の脚に触れた時のような…
その手のひらほどの長さのボルトは、熱波を受けて少し溶け、歪んだボルトは…おそらくは、彼の身体。
自分を守る為、魔神皇帝の炎をその全身で受け止め、そして散っていった…彼女の大切な「トモダチ」、あのこころやさしい恐竜の…!




(ありがとう…さよなら、ロウ…!)




夕焼けの、美しい輝きが…荒野を、鋼鉄の勇者たちを照らし出す。
その黄金色のきらめきの中に、エルレーンは…彼の声を、もう一人の「勇者」の声を聞いたような気がした…


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