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◆ 得るだろうモノは「未来」、戦いの果てに奪い取る「未来」〜
 決意(たとえそれが間違っていたとしても)
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かつん、かつん、という硬質な靴音が、ひんやりとした空気に溶けて鈍く響く。
真・ゲッターロボの修理が行われていた、恐竜帝国地下基地。
その格納庫…真・ゲッターが眠る場所へ向かうのは、No.0…流竜馬のクローン・プロトタイプ。
少女の表情は、硬い。
憂いと悲しみ、惑いをその強張った面の下に押し殺したまま、彼女は真・ゲッターの元へ向かう。
…と、その行く手を遮るかのように…巨大な影が、前方の闇からすうっと姿をあらわした。
「…小娘、か」
「…」
それは、暗黒大将軍。ミケーネ帝国の勇士…
「…真・ゲッターは?」
「おお、すでに修復作業は終了した。いつでも飛び立てる」
「そうかよ…」
彼に向かい問いかけるNo.0に、暗黒大将軍は鷹揚に答える。
そこに、彼の盟友…虎の下半身を持つ男があらわれる。ゴーゴン大公だ。
「ん?…No.0とかいうガキではないか。真・ゲッターを引き取りに来たのか」
「…」
ゴーゴン大公の言葉に、No.0は無言。
うなずくことすらしないその小娘の態度に、多少気分を害されたゴーゴン大公だが…そんな彼を見やることすらせず、No.0は足取りを進める。
重い脚を、まさに引きずるようにして。
と、その時だった。
そのまま格納庫へ向かおうとしたNo.0…
彼女の首の辺りから、何かが…ちゃらり、とかすかな金属音を立てて落ちていった。
闇にひらめく、その光の反射。
きん、かちゃん、という小さな音。
だが、あまりにその音は小さかったために、No.0はそれに気づいていないようだ。
「…?…おい、小娘。何か、落としたぞ」
「…!」
ゴーゴン大公の指摘で、彼女もようやくそれを落としたことに気づく。
はっとなったNo.0は、慌てた様子ですぐさまかがみこみ、床にこぼれ落ちた何かをそっと拾い上げた…
そして、傷がついていないこと、壊れていないことを確認するや…その表情が一気にゆるんだ。
ほうっ、と、かすかな安堵のため息を漏らす。
どうやら、相当大切なモノであったようだ。
「…大事なモノなのか」
「…」
ゴーゴン大公にそう問われた瞬間、ぱあっ、と彼女の頬が真っ赤に染まった。
恥ずかしそうな、だがうれしそうな表情を浮かべる…
その幼女じみた、だが愛らしい変化に、思わずふっ、と笑みを誘われる二人。
No.0ははにかみながらも、こくん、と小さくうなずいた…
「う、ん…もらった、んだ…」
「…そうか」
それは、一対のシンプルなイヤリング。どうやらチェーンに通して首にかけていたらしい。
「『いやりんぐ』って、言うらしい…こうやって、つけるんだ」
そう言いながら、その場でイヤリングを自分の耳につけて見せる。
ちりん、と飾りのティアドロップを指ではじいてみせ…ちょっぴり恥ずかしげに、こう問いかけてきた。
小首をかわいらしくかしげ…まつげの多い大きめの瞳を何か意味ありげにうるませ、じっと見つめてくる…
「…どうだ、おっさん?…か、かわいい…か?」
「…あ、ああ、えー…」
「…即答してやりませんと、暗黒大将軍」
「い、いや、…こういうのは、どうも苦手で…」
照れてしまったのか、もごもごと何かわけのわからないことを言っている暗黒大将軍に、ゴーゴン大公がすぐさま突っ込む。
硬骨漢の彼には、ちょっとばかり難しい問いかけだったかもしれない…
「へっ…!」
泡を喰う暗黒大将軍を見やり、軽くおちょくるようにNo.0は鼻で笑った。
一瞬だけ…少しばかり、残念そうな顔を見せはしたのだが。
「お主…『人間』に会ったのだな、そうだろう?」
「…うん…そ、そいつら…と、とっても、やさしい奴らだったよ」
元通り、イヤリングをチェーンに通して首にかけながら…No.0は、どもりながらも、照れ笑いしながらそう答えた。
「ほう?」
「お、俺に、笑いかけてくれた…『釣り』を教えてくれた、…『ちょこれーと』っていう、不思議な喰いものをくれたり、したんだ…!」
彼らとの邂逅、そして彼らが与えてくれたやさしさを、まるで天からの賜りモノのように語る…
その口調、表情は驚くほどに素直で、あどけなかった。
頬を染め、その光景を思い出しながら語る、そのNo.0の様子…それはおそらく、彼女の本来の表情なのだろう。
己を冷遇する「ハ虫人」の前では見せることすらなかった、愛らしい、少し幼いしぐさや雰囲気…
暗黒大将軍も、思わず頬を緩める。
そう、やはりこの小娘は蒼き空の下、同じ「人間」と生きてゆくべきなのだ…
彼女を愛してくれる、同じ種族たる「人間」と。
「…よかったではないか…!」
「…」
だが、彼がそう言葉をかけたときだった。
No.0の表情が、かすかにゆがむ。
その笑みが、ふっと空疎なモノになる。
「…ん?どうした?」
「…で、でも…」
「…?」
No.0の強張った唇が、かすれ声で吐き出したのは…冷酷な事実だった。
「で、でも…そ、そいつらは、お、俺の…俺の、『敵』、…プリベンターの、プリベンターの、『仲間』だった…!」
「!」
「あ、あいつらは!な、何も知らないふりして、俺に近づいて…や、やさしくするふりして、俺を『飼いならそう』としやがったんだ!
…だから、俺なんかに、あんなに、やさしく…!」
「…」
少女の語った残酷な現実に、思わず口を閉ざしてしまう二人。
先ほどまで少女の中にあった、あたたかさとよろこびは一気に霧散し、その代わりに突き上げるのは恐れと疑心、憤怒の念ばかり。
彼ら…プリベンターの「仲間」たちとの邂逅…それが本当にただの偶然なのか、それとも彼女の疑うとおり薄汚い策略だったのか、それを知る術は暗黒大将軍たちにはない。
ただ、はっきりしているのは…彼らの素性、プリベンターの…つまり、ゲッターチームの「仲間」であったという事実は、この臆病で傷つきやすい少女にとって、謀略以外の何物にも感じられなかったということだった。
「ゲッターチームの野郎どもに言われて、そうしたに決まってるんだ!あ、あいつらは…お、俺を、…だました、んだ…!」
「…小娘よ」
「…」
疑惑と不信と怒りとがないまぜになった、No.0のセリフ。
その哀しい言葉を、暗黒大将軍の静かな問いかけが断ち切った。
「…ならば、何故…それを捨てない?」
「…!」
暗黒大将軍の指摘に、少女は一瞬息を呑んだ。
…数秒の間の後。
しいんとした空気を、No.0の叫ぶような告白が裂いた。
「…す、捨てようとした!…ッ…けど…けど!…捨てられ、なかった…!」
「…」
「だって、あいつらは…あいつらは、本当に、やさしくて、ッ…」
まるで、自分を傷つけ裏切った、その彼らをかばうかのように…彼女は、そう口走っていた。
だが、その矛盾に気づくや否や…No.0の表情に、どうしようもない苦悩が浮かびだす。
「…畜生…ッ!…畜生ッ!…『人間』なんて!…『人間』、なんてぇッ!」
彼女の喉から、罵りの言葉がついて出る。
「…」
「『人間』なんて!…そんなふうに、とてつもなく冷酷なくせして、そのくせ…やさしくって…ッ!」
「…」
それ以上は、言葉にならなかった。
涙が、それに取って代わったから。
No.0は、身を突き上げるような哀しみと憎しみに耐え切れず、うつむいたまま涙を流し続ける…
ガラスのような瞳が悲嘆にくもり、ぽろぽろとこぼれ落ちる涙が、冷たい床にてんてんと落ちていく…
哀しげにしゃくりあげる彼女を、二人はただ見ていた。
裏切られた衝撃に絶望し、身を震わせる、あまりに小さな、はかなげな、か弱げな少女…
しいんとした静けさの中に、しばらくの間…少女の嗚咽だけが響いた。
…やがて、その声も聞こえなくなり…ようやく落ち着いたらしいNo.0は、涙を乱暴にぬぐい…はあっ、と短いため息をついた。
きびすを返す。
向かう先は、格納庫。真・ゲッターの在る場所…
「…」
「…行くのか」
「…ああ。…真・ゲッターの修理、手間かけさせて悪かったな」
「いいや…気にすることはない」
その背中に声をかけた暗黒大将軍に、No.0は振り向かぬまま答えた。
かつん、かつん、という靴音が、だんだんと自分たちから去っていく…
だが、彼女が去ってしまう、その前に。
暗黒大将軍は、再び口を開いた。
「…小娘よ。…お前は…哀れ、だな」
「あ、暗黒大将軍…?!」
暗黒大将軍のそのせりふに、ゴーゴン大公が驚いたような声をもらす。
「…!」
その言葉に、No.0は振り向いた。
無表情に自分を見返してきた、小娘に…暗黒大将軍は、視線を移す。
その目に映っている「兵器」は、やはり…ちいさく、はかなげで、か弱げだった。
その小さき身体に、さまざまな矛盾、さまざまな業を背負わされて…
「『人間』でありながら『人間』に組することもあたわず、『ハ虫人』の手先として、『兵器』として生きていくほかない。
それでいて『人間』に惹かれながら、『人間』を信用することが出来ない…
哀れとしか、言いようがない」
「…」
「哀れ、だが…だが、しかし…お前には、力がある。『未来』を切り開いていける強さが」
そう。そのような、絶望的な現実の中に放り込まれているとはいえ…この小娘は、それを乗り越えられるだけの強さを、その身の内に秘めている。
少なくとも、彼にはそう思えた。
「自由」を得るため、「未来」を得るため戦うのだ、と語っていた、いつかのあの姿…あの瞳の中にきらめく希望と強い意志の輝きは、それを彼に確信させる…
「…」
「願わくば、その真・ゲッターとともに…お前が、あの蒼天の下、お前の望む『未来』を得られんことを」
「…」
暗黒大将軍の手向けの言葉を、No.0は無言で聞いていた。
まっすぐに彼を見つめる少女の瞳には、軽い驚きが浮かんでいる…
だが、やがて。
「…ふふ…」
彼女の唇が、ふわっとかわいらしく動いた。
「…!」
二人の目に、それが鮮やかに映った…
弱々しいが、だが…とても、穏やかな。
どこか諦念の色を帯びた、静かな微笑み…哀しいが、それでも美しい微笑。
彼女は、二人に微笑んでいた。
それは、今から死地に赴く「兵器」たるモノの見せるモノとは、とても思えないほどに穏やかだった。
「おっさん…おっさんの言うこと、難しすぎて…俺には、わからねぇよ…」
少し困ったように、両眉を軽く下げ…そんなことを小さく言い返す。
ふっ、と、その表情が真剣な顔になる。
暗黒大将軍たちを見上げ、訴えかけるような目を向け、彼女は…再び、唇を開いた。
「…おっさん。…俺なんかのせいで、あんたに迷惑ばっかかけてすまねぇけど…最後に、もう一つだけ。俺の、頼みを聞いてくれねえか…?」
「…何だ?」
「今、ロウは…俺のメカザウルス・ロウは、マシーンランドで修理を受けてるんだ。…ちょっと、傷つけちまってな」
「…」
「おっさん。俺は、今から真・ゲッターで、ゲッターチームの野郎どもと戦う。
もし、奴らに勝てば…俺はマシーンランドへ行って、ロウを連れて…そのまま、地上に出て行くつもりだ。…だ、だけど」
No.0は、目を伏せた。
「…だけど、俺が、もし、…勝てなかったら…俺が、死んだら」
不吉な結果を、口にして。
うつむいたまま、彼女は震える声色で、それを口にした…
「おっさん。頼む…ロウを、『自由』にしてやってくれ…!…あいつを、地上へ。地上へ、逃がしてやってくれ…!」
「…!」
「俺がダメでも、あいつだけでも!頼む…あいつは、俺の、…『トモダチ』なんだ…!」
「…小娘…」
「こ、こんなこと、頼めるのは…あんたしかいないんだ。頼む、おっさん…」
暗黒大将軍を見上げ、必死に哀願を続けるNo.0。
いつの間にか、彼女のガラスのような瞳には、再び涙が浮かび上がってきていた…
しかし、数秒の間の後。
暗黒大将軍は、にべもなく…こう言ってのけた。
「…断る」
「…!」
「あ、暗黒大将軍…?!」
思わぬ拒絶の言葉に、No.0は身を硬くした。
ゴーゴン大公も、その無慈悲に思える彼のセリフに困惑している…
しかし、そうではない…
暗黒大将軍は、すぐさまに続けて言った。まるで、諭すような口調で。
「…お主…戦も始まらぬうちから、己の死ぬことなど考えてばかりおってどうするのだ?!」
「!」
「わしらは知らぬ!…お主が、お主自身が!勝利を手に、堂々と彼奴を連れにいけばよいのだ!それだけのことだろう?!」
「お、おっさん…!」
彼が見下ろす少女の顔に、かすかな笑みが浮かぶ。
隣に立つゴーゴン大公も、彼の意を察し…にやっ、と笑った。
「わしは、信じておる…見守っていてやる、お前の戦いを!…だから、存分に戦ってこい!」
「おう、そうじゃ!…戦いぶり如何では、お主をミケーネスに…いや、将軍位に引き立ててやってもいいぞ!」
自分を叱咤激励してくれる、明るく力強い言葉を贈ってくれる…異形の、ミケーネ帝国の勇士たち。
彼らのあたたかさ、笑顔に見送られながら…No.0は、一瞬泣き出しそうになりながら…それを、すんでのところでぐっとこらえた。
そして、笑う。にっ、と二人に笑いかけ…憎まれ口めいた礼を述べる。
「…!…ありがとよ、おっさんども…!」
「…『おっさん』はやめんか、と言うたろう!」
「ふふ…!」
どこか茶化したような暗黒大将軍のセリフに、No.0はにこっ、と、ほころぶ花のように愛らしい微笑みを見せた…
その瞳から、きらり、とひとしずく、こらえきれなかった涙がこぼれ落ち…音も無く、空に散った。
No.0は去った。
その小さな背中を、暗黒大将軍とゴーゴン大公は、無言で見送っている…
靴音がひやりとした空気の中に溶け込んでいき、小さくなり…そして、とうとう聞こえなくなった。
しばしの無言。破ったのは、ゴーゴン大公の非難めいた嘆息だった。
「…残酷なことをしよりますなあ、『ハ虫人』どもは…」
「言うな…その彼らに世話になっている、今の我々が何を言えようか」
「しかし」
ゴーゴン大公は反論する。
「あれでは、あの小娘…救われぬではないですか。…ゲッターチームを殺したところで、彼奴は何処にいけるというのですか。
…それなら、いっそ奴らに…」
「ゴーゴン大公」
暗黒大将軍の低い声が、それをとどめた。
「わしは、信じる…あの小娘は、必ず己が望む『未来』を見つけられる、とな。そう、あの場所には…」
あの時のNo.0の表情が、一瞬彼の脳裏によぎっていった。
それに恋焦がれ、それが象徴するモノ、「自由」を勝ち取るために旅立っていった、あの小さな少女の―
「…蒼き空がある。あの小娘が願って止まない、『自由』そのものの蒼天が…」

…それから、数時間の後。
母艦・アーガマの広範囲レーダーは、確かにその機影を捉え続けていた。
識別コードは、明らかに「あの機体」を示す…あの少女の、襲来を。
それを受け、すでに十数分前より、彼らは己が機体のコックピットにて待機状態でいた。
フリーデン艦、アイアン・ギアー艦の格納庫でも。
彼らは、愛機の中で、その時を今か今かと待ち構えている…
じりじりするような待ち時間。だが、確実にその時は迫ってきていた。
…そして、その機影が、肉眼でも観測できるほどに艦隊に近づいた時…
「…!」
ゲットマシン・ドラゴン号の中を、呼び出しの高いデジタル音が満たす。
と、同時に、通信画面が開き、そこにはブライト艦長の強張った面持ちが映し出された。
「…いいか、リョウ君…我々は、スタンバイ状態で母艦内に待機している。…もし、彼女が君たちの説得に応じないようであれば、」
重い口調が、その最悪の可能性を…その可能性は低いとは、とても言えはしない…つむぐ。
そして、その可能性が実際のものになった場合、自分たちがとるだろう行動は何か、を…
「すぐさま、我々は真・ゲッターを…」
「わかっています」
「…」
ブライトの答えはわかりきっていた。だから、リョウは口早にそう短く述べ、それを遮った。
口を閉ざし、無言で自分を見るブライトの表情は硬い。
そして、それは…自分たち以外の「仲間」も、皆そうなのだろう。
それを十分理解したうえで、それでも…リョウは、穏やかに笑んだ。
静かな、だが熱の在る、希望の色濃い口調で、彼は言う…
「だけど…大丈夫ですよ。…そう、俺は信じています」
「ああ、そうだぜリョウさん!」
「ガロード君!…ティファさんも?!」
フリーデン艦・ガンダムエックスから、元気な少年の声が割り込んできた。
そこに映るコックピット画像には、ガロードと…その後ろには何と、ティファの姿もあった!
普段は戦闘に参加することなど、とてもではないが出来ない…おとなしい、引っ込み思案な少女が。
驚き問い返すリョウに、しかし…彼女は、ふっと微笑みすらして見せた。
「ええ…!」
こくり、とうなずき返すティファ。
彼女もまた、戦場に赴こうというのだ…自分の「トモダチ」を救うために!
「俺たちも準備オッケーだ!」
「だわさッ!」
「ジロン君!チルちゃん!」
アイアン・ギアー、ウォーカーギャリアの分離形態・ギャリィホバーとギャリィウィルからも、力のこもった声が入ってきた。
ギャリィホバーのジロン、ギャリィウィルのチル…
そのどちらも、真剣な瞳に希望の光を宿し、しっかりとリョウを見返してくる。
「…やぁれやれ、ちょっとばかしハードなモンになりそうだな、『今回も』…よ!」
「文句を言うなハヤト、『今度は』お前にも付き合ってもらうぞ!」
「わかってるさ…!」
わざとらしく沈痛そうな表情を作ってみせるのは、ゲットマシン・ライガー号のハヤトだ。
リョウの冗談めかしたような、しかし本気そのもののセリフに、彼も薄く笑んでしっかりとうなずく…
「今回も」「今度は」。
その言葉が示すのは、かつての悲劇。
再び繰り返される過去の選択…「今度は」、自分もそれをともに選ぶ、と…!
「リョウ…」
「!…ベンケイ」
ゲットマシン・ポセイドン号のベンケイ。
他の「仲間」たちとは違って、彼の表情だけはやや暗さを残している。
そして、己の懸念を…率直に、リョウに述べた。
「…俺は…正直、今だって半信半疑だ。最悪の結果だって、十分あり得ると思ってる」
「…」
「だけど、よ」
それでも…にっ、と、ベンケイは笑みを浮かべた。
内心に澱む恐怖をも無理やり捻じ曲げたようなその笑みは、だからこそ…どこか、不敵で、自信ありげなモノに見えた。
「俺も、信じる…あいつは、俺たちと同じ…『人間』だから…!」
「…!」
「エルレーンが、あいつを信じようとするように…俺も、信じる!」
「ベンケイ…!」
きっぱりと、ベンケイはそう言い放った…
それを聞くリョウの胸に、あの文章がふっとあらわれた。
「交換日記」の中で、エルレーンが自分にあてて書いてきた、長い長いモノローグ…その、一節。

リョウ。
わたしは、No.0を、すくいたい。

ベンケイからも聞いていた。
エルレーンも…エルレーンもまた、はっきりと考えを変えた、ということを。
恐竜帝国で、「名前」すらなく生きてきた…それは、同じ冷遇の中にあったとはいえ、キャプテン・ルーガというやさしき友を持つことが出来たエルレーンとは違う…No.0。
その彼女に対して、エルレーンも…とうとう、理解してくれたのだ。
「敵」である故に殺す、という固執を捨て去って、No.0を「すくいたい」と望んでくれている…!
そう。
もう、心配することはない…
エルレーンも、もはやNo.0を殺そうとはしない。
彼女を哀れみ救おうと願っている、自分の「イモウト」として…!
…ようやく、自分たちの思うところは一つになったのだ。
No.0、恐竜帝国のパイロット…「人間」である彼女を、自分たちのもとにつける。
混乱の中を惑い彷徨う、あの哀しい少女を…!
準備は、全て整った。
誰ともなく、にやり、と笑みが漏れる…緊張で高ぶった嫌な空気を、わざと嘲ってみせるように。
「ふん、それじゃあ…馬鹿が三人揃ったところで、…行きますか!」
「おおっと、三人じゃないぜ、ハヤトさん!」
「全部あわせて、ええっと…七人!」
「いいや…八人、さ!」
だが、ハヤトのセリフにもすぐさま元気な突っ込みが入る。
No.0を救いたいなどと考える「馬鹿」…そんな奴らは三人だけではない、お前たちだけではないんだ、と…!
ガロード。ジロン。そして…リョウ!
「それじゃあ行くぜ、みんな!」
『おお!』
リョウの気合の入った呼びかけに、勢いよく返事が返ってくる!
「あの、わがままでさみしがり屋の『家出娘』を、とっとと連れ帰ってくるとしようぜッ!」


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