--------------------------------------------------
◆ El-raine(「エルレーン」)
--------------------------------------------------
アーガマのブリーフィングルーム。
戦闘を終えたばかりだが、パイロットたちは皆そこに集合している…
その理由は、当然先ほどの事件。
ゲッターチームのリーダー、流竜馬の突然の変貌…そして、その理由を誰もが知りたがっていた。
その事実を知るものは…この場に、ただ一人。
「彼女」の「名前」を呼んだ男…神隼人。
「…さて…ハヤト君…君は、知ってるんだな」
ブライト艦長が皆を代表し、壁を背にして立っているハヤトに向かって呼びかけた。
「恐竜帝国が、まだ生きのびていたとは…それも確かに、驚くべきことだ。
そしてそれは、我々にとってまた強大な『敵』があらわれたという憂慮すべき事実でもある…だが、それよりも」
顔を上げるハヤトに、彼は問う…
「…説明してくれないか。リョウ君は…いったいどうしたんだ?」
「ハヤト…リョウはどうしちまったんだ?」ベンケイが続けて問う。
恐竜帝国との戦いが終わった後にゲッターチームに入った彼には、事情がさっぱりわからない…
あの「エルレーン」というのは、一体誰なのかすら…
「なあ…リョウの奴、…二重人格だったのか?あんなあいつ、…っていうか…完璧に、別人じゃないか…!」
皆の視線が一気にハヤトに集中する。
彼は一旦息をついた後、ゆっくりとそれを説明し始めた…
「二重人格、っていうのとは、ちょっとニュアンスが違う…だって、あいつはもともと生きて、自分の身体だって持ってた、
…れっきとした別人だったんだからな」
ハヤトは一旦そこで言葉を切る。
「あれは、『リョウ』じゃありません。あいつは…
以前、俺たちが恐竜帝国と闘っていたときにやつらに造られた、リョウのクローン…『エルレーン』です」
「クローン…?」
「ええ」うなずくハヤト。
「あいつと俺たちは、恐竜帝国とゲッターチームとして対立して…戦いあった。
…だけど、いろいろあって…俺たちとあいつは、…『トモダチ』になったんだ…」
一瞬、彼はふと遠い目をした。
過去の記憶、彼女との思い出を思い起こしているかのように。
「…だけど」しかし、その表情にすっと影がさす。
「あいつは、エルレーンは…俺たちとの、最後の闘いで…命を落とした。
…でも、その時…死んだ時に、その精神だけが…リョウに取り込まれちまったらしいんだ」
「…精神だけが?」それを聞いた皆が一斉にざわめく。
彼が話していることは、まるで荒唐無稽…三流のSF小説の筋書きのような話だったからだ。
にわかには信じがたい…だが、ハヤトはジョークを語っているわけではない。
ただ、真実を語るのみ。
「…そうです。本人はそういっていました。それから…あいつは、俺たちに協力してくれるようになった…
時々、今日みたいな感じで、リョウを眠らせて…いきなり目覚めて…」
「そ、そうなの…?!…で、でもさあ」ベンケイが困惑気味に問い掛ける。
「俺、全然その…エルレーンっていう人に会ったことないぜ?!
…いや、それどころか、リョウの奴だってそんなこと何にも言ってなかったじゃんか!何でだ?」
「…」
ベンケイの疑問ももっともなことだ。
実際、彼はリョウにそんなことを聞いたことがなかった…
そして、今まで自分がゲッターチームとして彼と行動を共にしてきた間も、こんな…今日みたいなことは一度だって起こらなかったのだから。
ハヤトは、もはやつくろってもどうしようもないと感じたのか…事実をそのまま、語ることにした。
「ベンケイ。…リョウの奴は…エルレーンが自分の中にいることを、知らないんだ」
「え…」
「エルレーンが目覚めるたび、リョウは気を失う。…そして、起きた時には…そのときの記憶をいっさいがっさい失っているんだ」
「そ、それじゃあ…」
「ああ…リョウはきっと、今日のことも覚えちゃいねえだろう。
…それに、俺たちはエルレーンに口止めされてたんだ。…自分がリョウの中にいることをリョウには告げるな、とな」
「…」
「でも、恐竜帝国が滅んでから…あいつは『さようなら』って言ってよ…二度と出てこなくなった…
ベンケイ、お前がゲッターチームに入る前のことだ。だから、お前は知ってるはずないんだよ」
「それが…今日?」
「…ええ」
「…なんてこった…」嘆息するベンケイ。
…数日前、フリーデンで聞いた、あの与太話みたいな「予知夢」は…真実を言い当てていた、というのか…
「ティファが言ってた、『眠り姫』ってのは…」
「…ああ。あいつのことだったんだ…」うなずくハヤト。「剣を持った、血まみれの『眠り姫』」…
そう、まさに彼女が見た夢そのとおりに、エルレーンは目覚め、戦った。
ゲッタードラゴンは剣を握り、メカザウルスを葬った…
「艦長、どうするつもりだ?」奇妙な状況、だが事実らしい…そのことに思いを馳せていたブライトに、クワトロが問いかける。
「どうする、とは?」
「その『エルレーン』という女性、気になることをいっていた」アムロ・レイが後を続ける。
「『大気改造計画』がどうとか…」
「…ああ、確かそういっていたな」
「…彼女は知っているんだ、恐竜帝国が何をしようとしているか…!」
「!…そ、そうか!」
「…艦長。まさか…エルレーンを呼び覚ますつもりですか?!」
彼らの会話から、意図することを読み取ったハヤト。
かすかにその声が上ずる。
「…もし可能なら…地下勢力である恐竜帝国の情報を得ることができる!」
「ハヤト君。彼女は…『エルレーン』というその女性は、我々に協力してくれるだろうか」
「…」
ハヤトは一瞬、口を閉ざし目を伏せたが…それでも思うままを口にした。
「…たぶん。リョウがそう望むなら」
「リョウ君が?」
「ええ。…さっきの戦闘でわかったでしょう。エルレーンはリョウを守るために目覚め、闘った。…リョウのために。だから…」
「そうか…ところで、そのリョウ君は?」
「ああ、医務室に寝かされてるはずです。あの後、そのまま…」
…と、その時だった。タイミングよく、壁の通信機がかんだかい呼び出し音を鳴らす。
ブライトが近寄って受話部を手にすると、小さな液晶画面に呼び出し側の映像が映る…
そこに映っているのは、医務室付きの医師。
「…はい、ブライトですが…何かあったんですか、先生」
「ああ…それが、リョウ君が意識を取り戻したんだが…ど、どうも様子が変なんだ…」
「様子が…変?」
「!…まさか!」医師の言葉に眉をひそめるブライト。
が、はっとそれに感づいたハヤトが素早く駆け寄り、半ば奪い取るようにして受話部を手にする。
「ちょ、ちょっといいですか?!」
「あ、ああ…」
「先生、ちょっとあいつと替わって下さい!」
「し、しかし…」
「いいですから!…『どっち』でもかまいません!」困惑しきりの医師にハヤトが間髪いれず怒鳴り返す。
…すると、画像に映る医師は困ったような笑みを浮かべながらそこから姿を消した。
…と、かすかに通信機を通じて、こんな会話が受話部に聞こえてくる…
「あ…あの…」おずおずと誰かに呼びかけているのは、先ほどの医師の声。
「ねえ、ここどこなの?!…ハヤト君は?!ベンケイ君はどこ…?!…ぐすっ…」その声にかぶさるようにして、別の人間の声が響き渡る。
涙混じりのその声は、確かにあの少女の声だった…!
「あ、ああ、な、泣きなさんな!…ほら、電話でハヤト君が…」
「!」医師のその言葉を聞くや否や、その声の主がばたばたと駆けてくる音が聞こえる。
そして、医師から受話部を受け取ったその人物が、ハヤトたちの見ている通信機の画像画面に映し出される…
それは、やはり「リョウ」だった!
「もしもし?!」通信機の向こうにいる彼に向かい、呼びかけるハヤト。
…が、その声が届いた途端、ようやくハヤトを見つけた安堵のあまりか、画面の中の「リョウ」の瞳にみるみる涙が浮かんできた。
「…ハヤト君〜!うわぁあぁんっ…!」
…思わず、それを聞いた一同の目は点になってしまった。
通信機を通して聞こえてきた、彼の声…
似てはいるが、それは明らかに彼のものではない…!まったくの別人のものだ!
「え…」
…一瞬の間の後、ハヤトは…その、「別人」の名を呼んだ。
「エルレーン…か?!」
「うん!そうだよぅ…ねえ、ここどこ?!ハヤト君どこにいるの?!」
「リョウ」…いや、「エルレーン」はそう言ってうなずき、ハヤトがいる場所を聞いてくる。
どうやら自分の今いる場所がわからずに、少し混乱しているらしい。
「ブリーフィングルームだけど…」
「…『ぶりーふぃんぐるーむ』?!それどこにあるの?!」
「い、今から先生に連れてってもらえ!」
「…うん!わかった…!」そういうなり、通信機の「エルレーン」はこくりとうなずき…通信回線を切断した。
ぷつん、とかすかな音をたて、今まで彼女が映っていた画面は真っ暗になる…
「…ハヤト君、まさか…」
「ええ。…どうやら、まだあいつは…『エルレーン』のままらしい」問い掛けてきたブライトに、受話部を通信機に戻しながらハヤトはそう答えた。
「そうなのか?!…それじゃあ、ちょうどいい…!」
それを聞いたブライトの目が、期待で輝く。
「…その、『エルレーン』君から、恐竜帝国の情報を聞かせてもらおうか…!」

…数分後。何の前触れも為しに、ブリーフィングルームの扉が音もなく開いた。
全員の視線がそちらにいっせいに集まる。
…そこに立っていたのは、流竜馬。
ゲッタードラゴンのパイロット、ゲッターチームのリーダー…
だが、彼の様子がおかしいことは一目で見て取れた。
何が違う、というのではない。
ただ、感じられるのだ。
何かが違っている。
…全身から漂う雰囲気が違ってしまっている…
彼をここまで連れてきた医師が、彼に中に入るように無言で促した。
そして、ブライトに目で会釈するなり、彼自身はいそいそと医務室に帰ってしまう…
後は、「リョウ」だけが残された。彼は、医務室に帰ってしまう医師の背中をぼーっと見送っている…
「お、おい…」…そんな彼に近寄り、声をかけたのは…やはりハヤトだった。
「…!」と、彼がハヤトのほうにふりむいた…
その途端、その瞳にぱあっと喜びの光が一気に広がった!
「ハヤト君ッ!」
「う、うわッッ?!」突然ハヤトの胸にあたたかいものが飛び込んできた。
…それは、「リョウ」。
笑顔の「リョウ」が、自分に飛びつき、思いっきり抱きしめてきたのだ!
…ハヤトをいとおしげに、その手に抱きしめるリョウ…
あまりの光景に、周りの人間は口をあけてその様をぽかんと見ている…
まるで恋人にするように、「リョウ」は自分のチームメイトを抱擁している。
「お、おい?!」唐突にぎゅうっと抱きつかれ、真っ赤になって狼狽するハヤト。
やわらかい身体をぴったりすりよせられ、固まってしまい身動きが取れない…
「わあ、ハヤト君だ!ハヤト君だ…!久しぶりなの!私のこと、覚えていてくれたんだ…!」
ハヤトの顔をきらきら輝くような瞳で間近から見つめ、心底うれしそうにそういう「リョウ」…
その声は、普段のリョウの声とは違う声。
普段より幾分高い感じの声だ。
なにより、その口調そのものが違う。
軽く鼻にかかったような、甘えたような口調…とてもあの常に凛とした「流竜馬」とは思えない、小さな女の子のような口調。
「え、…エルレーン…!」ハヤトがその名を呼んだ。
…「リョウ」が、嬉しそうにそれにうなずく。
「ずっとずっと、会いたかったよ、ハヤト君!…うふふ…!」
そういってエルレーンはハヤトを離し、今度は彼の両手をぎゅっと握って…にこっ、と笑いかけた。
そんなかわいらしいしぐさをする彼女に、軽く照れ笑いを返すハヤト。
ふっと昔の彼女を思い出した…あの頃とちっとも変わっていない、その無邪気な笑顔。
「あ…あの…」その有様を見ていたベンケイが、遠巻きに…おずおずと声をかけた。
…すると、くるっと「リョウ」は彼のほうをふりむく。
そしてハヤトから離れ、今度はベンケイに向かってにこっと微笑みかけた…
その微笑みは、今まで彼が見たこともない「リョウ」の表情だった…
「…ベンケイ、君…?」
「お、おお」
「うふふ、うれしい…私、ずっと、あなたとお話してみたかったの…!」うっとりと夢見るような瞳でベンケイを見つめながら、「リョウ」はそうのたまった…
そのしぐさにどぎまぎするベンケイ。
「お、俺と…?!」
「ふふ、そう…ゲッターポセイドンの、パイロット、新しいゲッターチームの、仲間、リョウの…大切な『トモダチ』」
そこでいったん言葉を区切り、軽く小首をかしげて笑う「リョウ」。
「…ねえ…私とも、仲良くして、くれるかしら…ベンケイ君…?」
「え、あの、はあ…」手を軽く胸の前でからませるようにあわせて、お願い事をするように「リョウ」がそういうのを、ベンケイは呆然としてみていた…
それは、明らかにリョウではない。
エルレーン。
その場にいる全員がそれを理解した。
そこにいるのは、流竜馬であって流竜馬ではなかった。
雰囲気、たたずまい、表情、声、話し方…すべてが…違っていた。
「ねーえ、ベンケイ君…よ・ろ・し・く、ね?」穏やかに微笑みながら、一言一言区切りながらそうエルレーンは言う。
その口調、しぐさはとてもかわいらしいものだった…
まるで、幼い女の子のように。
「あ、ああ…よ、よろしく…え、えっと」
…だが、ベンケイはハヤトとは違い、そんなエルレーンを見慣れていない…
まるっきり女の子みたいな「リョウ」を見慣れていないので、困惑しっぱなしだ。
「エルレーン。私の名前、エルレーン…ねえ、そう呼んで、ベンケイ君…?」エルレーンはそんな彼の両手をとり、ぎゅっと握りしめた。
かわいらしい微笑を浮かべて…おねだりをするような甘い口調で、ベンケイに自分の名前を呼んでくれるようにせがむ。
「?!…あ、ああ、…え、エルレーン…」手を握られたベンケイは真っ赤になってしまっている…
どぎまぎしながら、それでも請われるままに彼女の名前を呼ぶ。
「…☆」エルレーンが、心底うれしそうに微笑した。
リョウのパイロットスーツを着た、エルレーンの笑顔…
その笑顔は、普段のリョウを知る者にとってはとてつもない違和感を与えるほど子どもっぽいものだったが、だが…とても魅力的でもあった。
…と、自分をまんまるな目で見つめている周りの視線にようやく気づいたのか、はっとする。
「…?!」
「ど…どうした、エルレーン?」
「な…何で、ここに、いる人たち、みんな…わ、私のこと、じいっと見てるの?…わ、私、…な、何か変…なのかな?」
表情に、少し怯えの色が混じる…
どこかおどおどした目で、自分を見つめる人垣を見回し、そうつぶやく彼女…
「…ああ。めちゃくちゃ変だぜ」
…その言葉に、思わず間髪いれず突っ込んでしまった者がいる。
獣戦機隊の藤原忍だった。
彼としては、何の気なしに言った言葉だったのだが…
そう言いたくなるのも無理はない、今まで「流竜馬」として付き合ってきた「人間」が…まるで子ども帰りしてしまったような…しかも女の子…様子になってしまったのだから。
「?!」だが、エルレーンにはかなりの衝撃を与えてしまったらしい。
「…!!」…みるみるうちに、エルレーンの両目に涙が浮かんでくる。
ショックを受けてしまったのか、ふにゃふにゃとその場にへたり込んでしまう…
ぺたん、と両足をひざのところで折り曲げた女の子ずわりで。
「あ…?!」
「ば、馬鹿野郎!よ、余計なこといいやがって!…こいつはリョウじゃないんだぜ?!」
そう、だから…すぐ泣いてしまうほどに、泣き虫でナイーブなのだ。
「うー…!…や、やっぱり、私…変なんだ…ふ、普通の、女の子じゃないんだ…だ、だから…ふぇええぇぇぇんっ…!」
…とうとう、しくしくと泣き出してしまった。
きらめく涙を一生懸命指でぬぐっても、後から後から湧いてくる…
「あ、あちゃー…」
「な、何か…す、すごい、違和感が…」
「お、おー…そうだな…」涙に暮れるエルレーンを囲む仲間たちは、困惑しきりだ…
何しろ、今目の前に在るのは、「あの」流竜馬の身体なのだ。
このプリベンターの中でも、どちらかといえばリーダーシップを積極的に取っていくタイプの。
漢気あふれる(再三言うが、身体は「女」であるが)、頼れるゲッターチームのリーダーが。
その、流竜馬が。
女の子ずわりで、哀しげにしくしくと泣いている…はかなげな幼女のように。
そのすさまじいギャップに、皆半ば呆然となってしまっている。
「…ベンケイ!」一旦は、皆と同様に多少おろおろしたハヤトだったが…
あることを思い出すとすぐさま、隣でやはり呆然とエルレーンの泣く様を見ていたベンケイに怒鳴りつけるように言う。
「な、何?!」
「お前、何か喰うモン持ってんだろ?!…何でもいい、甘いモノ系の奴何か1個よこせ!」
「え、えっと…じゃ、これ…」
「よし!」おずおずとベンケイが差し出したチョコチップクッキー(二枚一組個包装・「チョコチップを25%増量、さらにおいしくなりました」)をひったくるハヤト。
そしてすぐさまそれを持ってエルレーンのそばに行く。
「うっく…ひいっく…」
「エルレーン!」
「…?!」涙あふれる目をこすりながらも、ハヤトを見上げるエルレーン。
「こ、これやるから、泣き止め!」
「…これ、なあに…?」手渡された、なにやら茶色いものをじいっと観察する彼女。
「『クッキー』!甘くて美味いモノだから!」
「…!」ハヤトの「甘くて美味い」という言葉を聞くや否や、エルレーンの表情にぱっと光がさす。
わさわさと不器用な手つきながらその包装を引き裂いて開け、さっそくそのうちの一枚にかぶりついた。
「…☆」…ぱっ、と彼女の表情が変わる。
「美味いか…?」
「…うんッ!すっごく、おいしー!」さくさくと口の中でほぐれていくその甘味。
さっきまでの泣き顔は何処へやら、今度はにこにこと明るい太陽みたいな笑顔を満面に浮かべている…
「そうか…そりゃよかった」ほっとするハヤト。
どうやら昔同様、エルレーンは甘いモノに目がない様子だ…
あっという間に機嫌を直してくれた。
「…」
「…ブライト艦長。どうやら機嫌直ったみたいなんで、今のうちに」
「!…あ、ああ…」まるで、泣いてしまった幼稚園児をなだめるような手口を使って、見事エルレーンを泣き止ませたハヤト…
その光景を、皆同様にぼけーっと見ていた艦長に、話を始めるように促す。
「き、君が…エルレーン…君か?」ブライト艦長がその変化に戸惑いながらも問いかけた。
「そうだよ…私、エルレーン…!」クッキーを食べ終わったエルレーン…
彼女はぴょこん、と勢いよく立ち上がり、ブライト艦長に笑いかける。
操り人形のように立ち上がるそのしぐさもどこか子どもっぽく、微笑を誘うものだった…
その身体が、リョウのものでなければ。
「私の『名前』…エルレーン。恐竜帝国に造られた…リョウのクローン」
「お前、本当にリョウじゃないのかよ?」甲児がおっかなびっくり、呼びかける。
「…」無言でうなずくリョウ…いや、「エルレーン」。
「…私は、『ハ虫人』の弱点、思考スピードの…遅さを、カバーし、ゲッターチームを抹殺し、ゲッターロボを破壊するため造られ…
調整(モデュレイテッド)、強化(ブーステッド)された…『人間』、流竜馬の、クローン」
「…ほ、本当…なのかよ…」呆然とそれを聞くジュドー。
「そうだよ、ジュドー…アーシタ、君…?」と、そのつぶやきを聞いた彼女が、彼の「名前」を呼んだ…
まるで、自分の知っているその「名前」が、確かに彼のものかを確認するかのように。
「ど、どうして俺の名前…」
「!…わあ、やっぱりそうなんだ!…うふふ、私…あなたのこと、夢で見たの!」驚くジュドーの反応を見て、やはり間違っていないと感じたエルレーン。
うれしそうにそう説明する。
「ゆ、夢?!」
「うん」
エルレーンはこっくりとうなずく。
「…私…リョウの中でずっと眠ってた。…その間、いろんな夢を見たよ。…あなた達の事も、夢で見た…ような、気がする」
そう言いながら、ぐるっと自分の周りを取り囲むプリベンターの仲間たちに目をやる…その「夢」を思い出すかのように。
「お、俺たちのこと…?」
「そう。夢の中で、私はリョウになってるの。リョウになって、いろんな場所にいったの…ゲッターに乗って、戦ってた」
「夢で…?」
「そうだよ。ベンケイ君のこと、ゲッターロボのこと、たくさんの『敵』のこと…それで、そのせいで、この世界…未来の世界に、とばされちゃったことも」
「そうか…」嘆息するハヤト。
エルレーンは、リョウの中で眠りながら…それでも、リョウと同じ時を確実に生きてきたのだ。
彼の経験を、「夢」という形で見ながら。
「さ、さっき…ゲッタードラゴンで戦っていたのも君か?!」
「そうだよぅ…うふふ、でも、よかった!ゲッタードラゴン、ちゃんと私の言うこと、聞いてくれた!」ブライトの質問に即答するエルレーン。
「あ、ああ…そ、そうなの…」
「とってもいい子ね、ゲッタードラゴン!…でも、…私が前に乗ってた、メカザウルス・ラルだって、とってもいい子だったんだから!」
そういいながら、初搭乗にもかかわらずきちんと動いたゲッタードラゴンの聞き分けのよさをほめる。
…と、自分の以前の搭乗機であったメカザウルスも、もちろん「いい子」であったということを、強調するように付け加えて言った。
「め、めかッ?!」…が、ブライトたちはそれに当然驚愕する…
それも当然だろう、彼らにとって「メカザウルス」は「敵」でしかないのだから。
「?」すっとんきょうな声を出したブライトを、そんなことは何もわからないエルレーンが、不思議そうに見つめている…
「え、エルレーン…そ、それはいいから!…き、恐竜帝国のことを、聞かせてくれないか?」
「…恐竜帝国の、こと?」
ハヤトの促しに、一瞬エルレーンは驚いたふうを見せる…
しばしの沈黙。
…その後に、エルレーンはハヤトを見つめ返し、問い掛けた…
「…ハヤト君」
「何だ?」
「この人たちは…リョウやハヤト君、ベンケイ君の…大切な『仲間』、…『トモダチ』だよね?」
「!…あ、ああ!」真摯なその問いに、すぐさまうなずくハヤト…
「そう…なら、いいよ」
その答えを聞いたエルレーン。ふっと穏やかな微笑みを浮かべ、ブライトたちのほうへと向き直る…
「…私は、『エルレーン』…私の大切な『トモダチ』、ゲッターチームを守るため、戦う…だから」
リョウの唇が、エルレーンの言葉を紡ぐ。彼女の意思を紡ぐ。
流竜馬の姿をした、まったく別の存在―
「あなたたちが、リョウの『トモダチ』なら…私も、あなたたちを、助けるよ。だって…」
きらり、と彼女の瞳がきらめく。
その瞳は、リョウの燃えるような瞳に似てはいるが、違う瞳…
彼女の透明な輝きを持つ瞳が、プリベンターたちを、リョウの『トモダチ』を映しこむ。
「『仲間』を守って、『敵』を殺すのが…私の、仕事だから…!」


back