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◆ the cruel Destiny(2)
<Supplicanti parce Deus(許しを請う私を慈しみたまえ)>
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「…る、」
少女の唇が、驚きに満ちたかすれ声を搾り出した。
その声は、モニターに映る彼の女(ひと)の「名前」を呼んだ―
「ルーガ…?!」
死んだはずの友人を見つめるエルレーン…
「何故」という思いだけが心の中で一気に膨れ上がる。
「…」
ふと、それを聞いたキャプテン・ルーガが声の主に目を向ける…
それは、真・ゲッター1ではなく、ゲッタードラゴンからの通信。
…その刹那、その金色の瞳がかっと見開かれた。
「…?!」
金色の瞳、その内部を彩る虹彩が、きゅうっ、と縮まる。
モニターに映る、そのゲッタードラゴンのパイロット…
それは、「流竜馬」…?
いや、そうではない!
「…流、竜馬…違う!…お前、」
彼女は、瞬時にその声の主が誰であるかを悟った。
当然だ、キャプテン・ルーガは…彼女の「トモダチ」なのだから!
「お前…え、」
そして、その「名前」を呼ぶ。
困惑と動揺と衝撃が打ちのめした彼女の喉からは、囁き声のような音しか生まれなかったけれども。
…それは、たしかに彼女の「名前」だった。
自分が与えた、彼女の「名前」だった―
「『エルレーン』…?!」
かつて恐竜帝国が造り出した流竜馬のクローン、『兵器』として生まれた少女、自分の『友人』…エルレーン!
「ルーガ!…本当に、ルーガなの?!」
「お、お前…な、何故お前が生きているのだ?!何故、生きた身体を…?!」
沸き起こる混乱。
エルレーンが自らの身体、流竜馬とは別の身体を持ち、この場に生きている…
その理由を問いただそうとするキャプテン・ルーガ。
エルレーンも同様だ。
死んだはずの友人、あの勇敢な女龍騎士が、何故今自分の目の前に生きて在るのか?!
そのショックは、友人のよみがえりを迎え入れる歓喜よりもはるかに大きく、エルレーンを揺さぶる…
…が、突然、ガレリイ長官が二人の間に割って入ってきた。
「キャプテン・ルーガよ!そいつはまぎれもなく、かつて我々が作った流竜馬のクローン、No.39じゃ!」
「…?!」
まるで、指揮者然とした口調。
やたらと堂々としたその通告のようなガレリイのセリフに、キャプテン・ルーガの表情が変わる。
「な、何故…あの時代から遥か時のたった今の世界に、再び?!」
「それは知らぬ!だが、そ奴は我らに剣を向け、プロトタイプの身体を乗っ取りすらした!」
「…?!」
キャプテン・ルーガの顔にいぶかしげな表情が浮かぶ。
「…」
そして、にやりと笑うガレリイ長官。
彼は残酷な命令を彼女に下す。
冷酷無情にして、だが至極当然ともいえる命令を。
「…キャプテン・ルーガよ、あのできそこないを殺すのじゃ!」
「?!…なッ…?!」
雷に打たれたような衝撃を受けるゲッターチーム。
「…!!」
エルレーンの瞳が、一瞬、震えた。
「ど、どういうことですか、ガレリイ長官!」
「あ奴を見ろ!…ゲッターチームの側についておる。あのできそこないは、我々恐竜帝国を裏切ったのじゃ!」
「…!」
整った顔が、苦悩と動転でかすかに歪む。
ガレリイの言うことが、本当ならば…彼が自分に求めていることは、明白だ!
「わ、私に…」
キャプテン・ルーガの手が、怒りと混乱でがたがたと震えている。
「私に、エルレーンを…『仲間』を殺せというのですかッ?!」
悲痛な叫び。
だが、ガレリイはそのようなキャプテン・ルーガの心痛など解しない。
「何を言う!あ奴が乗っているマシンを見ろ!…ゲッタードラゴンじゃ!
あ奴はもはや、サルどもの手先なのじゃ!」
ガレリイ長官が、もはや変えられない宣告を言い放つようにキャプテン・ルーガに怒鳴りつけた。
「…!!」
目を見開いたまま、操縦桿をぐっと握り締めて逡巡するキャプテン・ルーガ。
その唇はぎりぎりとかみしめられ、手は爪が食い込むほど強く握り締められている。
息苦しい、沈黙。
対峙する恐竜帝国軍とプリベンター、そのどちらもが動けず…事の成り行きを、ただ見ている。
戦場が、異常なまでに静まり返る…
そして、永遠に続くかと思われるようなその静寂を破ったのは…押し殺したような、キャプテン・ルーガの声。
「…エルレーン…お前は、本当に…エルレーン、なのか?
私の知っている、流竜馬のクローンの…エルレーンなのか?」
「そうだよ、ルーガ…私、エルレーンだよ。ルーガがその『名前』をくれたんだ!
だから私、エルレーン…!」
「や、やはり…やはり、そう、なのか…ッ!」
ぎゅっと瞳を閉じ、その残酷な事実を噛み締めるキャプテン・ルーガ。
信じねばならない、結局は。
…今、自分の眼前にある、ゲッタードラゴンに搭乗しているのは…エルレーン!
かつて、同じ時を過ごした、あの無邪気であどけない少女、ゲッターロボを倒すために造られた「兵器」なのだ…!
「…」
目を伏せたまま黙り込むキャプテン・ルーガ。
エルレーンも何もいわず、彼女をじっと見つめている…
「…エルレーン」
「ルーガ…!」
モニター画面に映るキャプテン・ルーガの唇が、自分の「名前」を紡ぐ。
かつて、彼女自身が自分に与えてくれた「名前」を…
だが、キャプテン・ルーガの次の言葉が、彼女を混乱と絶望のどん底に叩き込んだ。
「剣を取れ」
短く、小さな声でそう言い放った。
「?!」
「そして…私と、戦えッ!」
きっ、とその瞳が鋭くなる…
エルレーンを射る、金色の瞳。
かつて、自分をやさしく見つめてくれた、その瞳が…今、自分をにらみつけている。
…倒すべき、「敵」として!
「…お前は、『人間』の側につくことを選んだ、そうだろう?!
ならば、私は…お前を、恐竜帝国の『敵』として…倒さねばならんッ!」
しかし、強い口調とは裏腹に、彼女の顔にはいくばくかのやるせなさが浮かんでいる。
…いや、そのどうしようもない感情を振り払うかのように、彼女は叫ぶごとくに声を張り上げているようだった。
「る、ルーガッ?!…わ、私、嫌だよッ!ルーガとなんて、戦えない…!」
エルレーンは、当然のことながらそれを拒絶する。
その悲痛な声が、キャプテン・ルーガのこころを揺さぶる…
「だ、だが…!」
画面の中のエルレーンを見つめ、キャプテン・ルーガは決定的なことを口にした。
「だが…お前は『人間』だろう?!」
「!」
「私は…『ハ虫人』だ。青い血の流れる、『ハ虫人』だ…
今こそメカザウルスの装甲で守られてはいるが、ひとたび生身で地上に出れば、とたんにゲッター線にこの身を冒される…『ハ虫人』だ」
かつて、同じ時を過ごした親友。
その親友がそういう様を…エルレーンは呆然と聞いていた。
「人間」である自分を切り離すかのようにいうその言葉を…
「だから、私は…『ハ虫人』を、恐竜帝国の仲間を守るために戦う!」
「ルーガ…!そ、そんな、私ッ…」
「…エルレーン」
と、突然彼女の顔から険しさが消えた。
穏やかな、小さな子どもに言い聞かせるような口調で、エルレーンに静かに語りかけるキャプテン・ルーガ。
「…かつてのほうが、おかしかったのだ。
我々『ハ虫人』と『人間』との、種族としての戦い…
その戦いに、同じ『人間』を『兵器』として造り出し戦わせようとしていた、昔のほうが」
「…」
「…お前が気に病むことはない。お前は、決して悪くはない…
これは、恐竜帝国の罪だ。…我々、『ハ虫人』の…だから、その罪は我々が背負おう。
お前は、お前の『答え』を選んだ…それでいい」
そう彼女が言った時、エルレーンには彼女が弱々しく微笑いかけてきたように見えた。
だが、そのくせその微笑みは、哀しそうにも見えたのだ。
「お前は、『人間』だ…そして、『人間』たちの側に戻った。
…これでいいんだ。かつて悲劇を生み出した歪みが、今まともに戻っただけのこと!」
だから、何も惑うことはない、と。
きっぱりとそう言い放つキャプテン・ルーガ。
「ルーガ!」
「…さあ、構えろ、エルレーン!そして、私と戦え…!」
メカザウルス・ライアは、ゆっくりと背に装着された剣を手にし、構える…
ぎらりと光る、白銀の大剣。
「お前の仲間を、『人間』を、『トモダチ』を守るために!『敵』たる『ハ虫人』の…私と、戦うんだ!!」
「嫌ァッ!嫌だよ、ルーガ!」
しかし、そう命じてもエルレーンは応じない。
何故、いとおしい「トモダチ」と戦わねばならないのか?!
そんなのは嫌だ、と、必死に首を振り、拒みつづける…!
「…!!」
自分と戦おうとしないエルレーン。
キャプテン・ルーガの胸のどこかで、いつかの彼女の姿がどっとよみがえってくる…
素直で可憐、無垢で傷つきやすい少女…ともに過ごした、短い時間。楽しい思い出。
それを振り払うかのように、キャプテン・ルーガは厳しい声で言い放つ。
少女の幻影が、自分の決心を…恐竜帝国の戦士として、龍騎士(ドラゴン・ナイト)として、恐竜帝国の「敵」を倒そうとする意思を砕いてしまう前に!
「エルレーン…私と戦うんだ、そうでなければ…」
だから、彼女を挑発するため、あえて残酷な言葉を口にする…!
「そうでなければ…私は、流竜馬を…殺す!」
「?!」
「そうだ…私は、流竜馬たちを殺す!私は、ゲッターチームを殺すぞ!」
エルレーンに怒鳴りつけるように、半ば脅すようにそう宣言するキャプテン・ルーガ。
自分の大切な「仲間」を殺すと言う…その言葉の一つ一つが、エルレーンのこころを切り裂いていく。
「な、なんで?!なんでぇッ…」
「お前は知っているはずだ!ゲッター線が、そしてそのゲッター線の塊、ゲッターロボが…
我々にとってどんなものであるかを!」
「!」
彼女の言葉に、はっとなるエルレーン。
そうだ、ゲッターチームは、リョウたちは…恐竜帝国の、「敵」なのだ…!
「ゲッターチームは、我々恐竜帝国軍の『仲間』を数多く殺してきた…
そして、それはきっとこれからも!彼らがゲッターロボに乗りつづける限り!我々恐竜帝国に歯向かう限り!」
「…」
「だから、このままなら、私は…ゲッターチームを殺すぞ!
それが嫌なら、エルレーン…私を殺して、止めてみせろぉッ!」
…しかし。
これほどまでに強烈なキャプテン・ルーガの激は、エルレーンを動かせなかった。
エルレーンに剣を取る意思を燃やせなかった。
いや、それどころか…それは、彼女を無為に追い詰めていっただけだった。
「ルーガ…わたし、私…」
エルレーンが、その細い肩を震わせながら、混乱しきった瞳で自分を見返すのが見えた。
「…なさい…ッ…」
と、その彼女の唇から、小さな悲鳴のような声がもれた。
「…?!」
その言葉を聞きとった女龍騎士の表情が、いぶかしげなものに変わる。
…それは、詫びの言葉だった。
「ご、ごめんなさい、ルーガ…」
「…な、何を謝っているんだ?!」
か細い、弱々しい声…怯えきったような表情で、自分に謝るエルレーン。
何故彼女がそんなことを言い出すのかわからず、困惑する…
…だが、エルレーンの自責の言葉は、止まない。
震える瞳に、うっすらと涙を浮かべて、彼女はキャプテン・ルーガに謝りつづける。
「私…きっと、私が悪いんだ…だから怒ってるの…?!」
「エルレーン?!」
「私が恐竜帝国を裏切ったから…マシーンランドの事を、リョウたちに教えたから?!」
「お、お前…何を言っているんだ…?」
「お、お願い、ルーガ!…わ、私が悪いなら、私…ルーガに、殺されてもいい。だって、私、悪い子だから…
あんなにルーガにやさしくしてもらったのに、私、恐竜帝国を裏切った、ルーガの『未来』を…壊してしまった」
「エルレーン…」
彼女は、悲痛なまでに己を責めている。
いとおしい友人が今自分に刃を向けるのは…すべて、己の過ちのせい、己の裏切りのせいなのだ、と。
「殺すなら、私だけ殺して、ルーガ!…だ、だから、お願い…リョウたちは殺さないでぇッ、みんなを殺さないでぇッ!」
だから、その罰は自分に背負わせてくれ、と懇願する。
そのかわりに、「人間」の「トモダチ」には手を出さないでくれ、と絶叫する…!
「…!!」
キャプテン・ルーガの金色の瞳が、震えた。
「…ち、違う、エルレーン!お前が悪いわけじゃない!」
リョウが叫ぶ。喉が張り裂けんばかりに。
追い詰められてしまい、限りなく哀しすぎる自責のセリフを口にするエルレーン。
このままでは、エルレーンが壊れてしまう…!
彼女を何とか「引き戻そう」と、リョウが必死で呼びかける。
「エルレーン…!…そうだ、そうではない!
私はさっき言っただろう、これは恐竜帝国の…我々の罪だと。
…お前は…お前自身の『答え』を選んだだけだ。そして、我々もまた、我々自身の『答え』を選んだ」
キャプテン・ルーガもすぐさまリョウの言葉を肯定した。
あの時代の、あの結末は…何も、エルレーン一人が生んだものではない。
ゲッターチーム、恐竜帝国、それにかかわるものすべての選んだ「答え」…
その複雑な連合の結果が生んだものなのだから。
たとえ、彼女の変節がその発端であることが事実にせよ…
「そして、これは…その『答え』の結果。どちらがどうというわけではない。
あるのは、ただ…自分たちの『未来』のために、戦うことだけだ!」
そう言い放ち、再びキャプテン・ルーガは剣を握りなおす。
メカザウルス・ライアは、ゲッタードラゴンに目を向ける…
じゃきん、と剣が甲高い音を鳴らす。
私と戦え、と促す。
己の望む「未来」のために戦え、と…!
「…」
だが、エルレーンは動けない…動けないでいる。
強烈なジレンマとショックの中にたたき落とされた彼女は、もはやそれに応じるほどの決断力も持たなかった。
ただ、キャプテン・ルーガを涙に濡れた瞳で見返しているだけ…
「…くっ!」
その瞳が、その絶望の表情が…いつか見た、自分の腕の中で泣き叫ぶエルレーンを思い出させた。
己の残酷な運命に、泣くことしか出来なかった少女を…
そして、今。彼女を追い詰めているのは、他でもないこの自分なのだ…!
だが、それでも。
エルレーンは今、ゲッターチームの元にいる。
そして自分は、恐竜帝国軍に。
エルレーンにとって、どちらの側にいるほうが幸せか…そんなものは、改めて考えることもなく決まりきっている。
そして。
そのいとおしい「仲間」を、自分の居場所を守るために…彼女は、戦わなくてはならない。
…自分が、恐竜帝国の「仲間」、自分の居場所を守るために戦わねばならないのと同じように!
「エルレーン!私は教えたはずだ!…『敵』を前にしたなら、決してためらうことなく剣を振るえと!」
「…!」
「お前は、戦士だろう?!ならば、戦うんだ!…そして、私を倒してみせろッ!」
だから、キャプテン・ルーガはそう命じる。
戦うことを選べ、と。
「嫌ァッ!嫌だよ、そんなのぉッ!」
しかし、エルレーンは絶叫する。必死で呼びかける。
戦うことを、拒絶する…!
「…ルーガは、私の『敵』じゃないッ!…ルーガは、ルーガは…『トモダチ』だよ!
私の、大事な『トモダチ』なのぉッ!…『トモダチ』と戦うなんて、わ、私…できないよぉッ!」
「…!」
今にも泣きそうになりながら、それでも自分を『トモダチ』と呼び、戦うことは出来ないと叫ぶエルレーン。
キャプテン・ルーガの金の瞳が、迷いと困惑で揺れる。
こころの中ではっきりと決めたはずの決心が揺れ動く。
「お…お前が、そうであれ、私は…私は…!」
そのひとことひとことが苦悩と煩悶に満ち溢れ、キャプテン・ルーガの唇からもれる…
数秒の逡巡…
しかし、それでも、その逡巡の果てに彼女が選んだのは…やはり、恐竜帝国を守護する龍騎士(ドラゴン・ナイト)としての己であった。
エルレーンの「トモダチ」としての己ではなく!
次の瞬間、とうとう彼女は思い切り操縦桿を引いた…!
「…ッ!!…行くぞ!」
そしてメカザウルス・ライアが攻撃態勢を取る。
肩口からミサイルが発射され、ゲッタードラゴンに向かっていく…!!
「!!」
数発のミサイル弾が、自分に向かってくる。あやまつことなく、ゲッタードラゴンへと向かってくる。
その軌跡を、追い詰められたエルレーンは身動き一つしないで見守っていた…
いや、見守ることしか出来ないでいた!
「エルレーーーーーーーーーーン!!」
リョウの叫び声が空気を裂く。
身じろぎせぬまま、ゲッタードラゴンは立ち尽くす。
リョウたちの、必死の叫びという警告をも聞き入れずに。
着弾。破裂。
爆音。破壊。
ゲッタードラゴンの左肩と右足、そして頭部のアンテナ部分がミサイルによって砕け散る。
爆発がゲッタードラゴンのボディを赤く染める。
「エルレーン!大丈夫か?!」
「エルレーン!」
ベンケイやハヤトから、矢継ぎ早に通信が入る。
見たところ、ミサイルの被害はかすった程度らしく、ごく軽微のようだ…
むしろ、それは攻撃ではなく…あくまで挑発、もしくは…決別のためのように思われた。
…だが、それにもかかわらず。
それにもかかわらず、そのミサイル群は…何よりも重要なモノを破壊せしめたのだ。
彼女の瞳が、その光景を全て見ていた。
見開かれた両目は、まっすぐにキャプテン・ルーガを見つめている。
そしてその透明な瞳から、涙があふれだし…
「…っ、た…」
唇が、かすかに蠢く。
そこから漏れ出すのは、ただただ空疎な、弱々しいつぶやき声。
「…ルーガが…撃った…私を…撃っ…た…」
精彩のない瞳。
魂を奪われたような表情。
ざあっ、と心を一挙に絶望が支配していく…
「嘘だ…こんなの、嘘だ…」
哀しみと混乱で彩られたうつろな笑み。
「ルーガが、私を、撃つなんて…」
今目の前で起きたばかりの「現実」を、「嘘」だと笑い飛ばそうとするその笑みも…やがて保てなくなる。
「こんなの…こんなの、嘘だ…い、やだ、ッ、こんなの、こんなの嫌だ…ッ」
次の瞬間、彼女のこころが、その残酷な現実にとうとう耐え切れなくなった。
彼女のもろく、傷つきやすいこころ…
それを保つ、最後の砦が…音を立てて、ばらばらに砕け散った。

そして、

戦場の空気を、少女の絶叫が貫いた。




「いやああああああああああああああああああああああああああああ!!」





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