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恋愛小説「パソコンと私。」


人はみな恋をするとき、詩人となるという。
ではこの愚かしささえ、つむがれる詩となるといふのか。


今日も学校から帰った私は、いつものように彼のパワースイッチを入れる。いつもどうりの光景だ。
『ふうぃーーーーん…(人間語訳:お帰り。今日はどうだった?)』
「どうもこうもないわよ。なんかつまんなかったわよ」
『じぢーっ、がぢぢじがっ(へー、それで俺でストレス解消でもしようっての?)』
「いいじゃない。」そういいながらわたしは「スタート」ボタンから「ゲーム」の項を選ぶ。
『じじじ(待ってな、今表示するからよ)』彼の動作は、いまどきとは思えないくらい遅い。彼の能力は数メガバイトしかない。もはや老いた機械といえる。
そんなところに私は惹かれているのだろうか。能力のない彼を支える私。
まるで三文小説のようだと思いながら、私は彼の働くさまをじっと見つめていた。
『じーじーぢっっ(ほらよ、できたぜ)』
「ありがとう」私は久しぶりにタイピングの練習でもしようかと思い、この間インストールしてみた最新のタイピングソフトを起動しようとした。
『ぢがっ(うげっ)』彼が一瞬そんな風に毒づいたのを、私は聞き逃さなかった。
「なーに?文句でもあんの?」
『じぎじががみっ、がぢづづぢざざっ(そ、そんなことないけどさあ、でも…)』彼はなんだか言い訳がましくそういった。
彼の心を伝えるディスプレーには、不規則にカラフルな画像の断片が現れ始めた。彼はその間も必死でうなりながらデータを読み込んでいる。
と、突然彼の動きがぴたりと止まった。
「…?どうしたの?」私の問いかけにも答えず、彼はまるで凍りついたかのように静かなままだ。
そのとき、無機質な音が何もいわない彼の心を教えた。
『このプログラムは不正な処理をしたので強制終了されます』
「ちょ…ちょっと!あんた、どうしたのよ!」もちろんそんなことを言っても、彼は何も答えようとはしない。
私はいらつく気持ちを必死に抑えようと努力しつつ、黙って「閉じる」を選択した。
そんなときだった。彼の筐体が、まるでその卑屈な敗北感を必死に表現しようとしているかのように、ひずんだ音を発したのは。
『………じざざっ。(………ごめんな)』
『…あやまらなくていいよ」そう、私が悪いのだ。
もはやその盛りを、黄金時代をとっくに過ぎ、ウィンドウズ98すら取り込むことのできないくらい無力な彼に、無茶なことを要求した私が。
いや、それでは私はこの急なコンピューター時代の発展と進化の中で、愛着はあるけれども無能な彼と一箇所にたたずんでいなければならないのだろうか。
出会いがある限り別れは必ず存在する。その、別れのときがきたのだろうか。
私は彼に何もいえないまま、じっと彼の姿だけを見ていた。
彼はそんな私の視線に耐え切れず、ずっと何事かを声高に呼びかけているようだった。ようだった、というのは、そのときの私には何の音も聞き取れなかったからだった。
己の無力さをただ嘆き、哀願することしかかなわない、キカイ。
『ぢざざぢがるぢ(捨てないでくれ)』そう聞き取れる音を彼は、発した。
私は何も答えないままでいた。

<続いたらびっくり>


*繰り返しますがフィクションです!!ゆどうふがパソコンに話しかけてるわけじゃないってばあ(^^;;)