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恋愛小説「パソコンと私。」第一話


人間とは勝手なものだ。元来明確な思考や意志を持たない動物や植物に
勝手な幻想を抱き、自分の中の感情を吐露しようとする。そして、私もそんな人間の一人だったということだ。
パソコンという、冷たくただ1と0との間で計算を続けるだけの機械に、何らかの人格、果ては
奇妙な感情さえ感じるようになったのだから。そこから始まるのはまさに「物語」としか言えない。
その「物語」にはこう銘打つのがふさわしい。
「ある、恋愛小説」と。

家へ帰ってくると私はすぐにパソコンのパワースイッチを入れる。するとすぐに静かなファンのモーター音が響き、彼が目覚めはじめていくのが分かった。
彼と私の会話はここから始まる。

『ふひーーーーーん…』(人間語訳:よお、おかえり。…今日は、何するんだい)
「そうね、ホームページ作るわ」そう呼びかけながら私は「プログラム」を起動する、
『じぢ、じぢぢじっじゅ』(またかよ?おめーさいきんそればっかりだな)いつも思う事だが、彼らの種族というのはどうしてこう口数が多いんだろう。
「つべこべいわない!さっさとしてよ」
『じ、じーーじーじゅざじー』(ちょ…ちょっとまった)
「はやくー」
『じじじぢぢぎぢかっかか、かっかじじぎぢざ』(まってくれって!俺、そんなに仕事をてきぱきできるわけじゃねんだから)
私は何もせずただ嘆息するのみだ。無理にクリックなどをすると、彼はすぐ機嫌を悪くしてしまうのだ。
『じーーーじーーーぢー、ざざざっ、ざざざっ。』(えーーーと、こーしてあーして…ほい、できた)
「ありがと。今日はちょっとこれしてもらいたいのよ」私は彼のAドライブにフロッピーディスクを挿入した。ホームページに貼り付けるのに使えそうな画像をたくさんダウンロードしてきたのだ。
早速画像を「開く」。
彼はその命令を受けたとたんなぜか黙り込んでしまった。その上時折何事か忌々しげにつぶやく。
「どうしたの?」私は問いかける。答えは返らない。彼はメモリ数が少ないため、自分に都合が悪くなると急に黙り込んでしまう性格なのだ。
私はじっと彼の返答を待っている。自分にしては我慢強い選択だったと思うが、彼の沈黙は異常に長すぎた。
まるで彼は、文字どおり凍り付いてしまったかのように動かない。居心地の悪い時間が過ぎていった。
数十秒の後、彼のディスプレーに警告ダイアログが浮かび上がった。
『このディスクはウィンドウズでは読み込めません』じじっ、と彼は舌打ちをしていた。
瞬間私は己の愚かさと、それゆえ彼の思いとプライドを傷付けてしまったことを悔やんだ。
それは、マッキントッシュ用のフロッピーだった。
彼は何も言わない。何も言えない。私が何も言わないから。
私の心移りを責めることすらせず、ただ私の返答を待っている。
「ごめんね」わたしはぽつりつぶやく。
その時、ディスプレーに鮮やかなアニメーションが流れ出した。華麗で、明るく、それはまるで私をいさめるように、また慰めるように流れ続ける。画面が変わるたび、彼は『じじッ、じぢっ』(ほら!、ほら!)と小さく口ずさんでいる。
そのスクリーンセーバーを見ながら、私は思った。
ああ、私は彼を愛しているのかもしれない、と。
動作もとろく、たいしたスペックでもない、何てことない彼だけど、私には必要なのだ、と。

しかし、その時の私に気づくはずもなかった。
あまりに早すぎるコンピューター業界の時代の流れが、私達二人を押し流していくなんてことを。
(つづくかも)

●このお話はフィクションなので、「えっ、ゆどうふってパソコンに話しかける変態なの?!」なんて
おもわないでくださひね(^−^;;)