ドイツ語アルファベットで30のお題
〜マジンガー三悪編〜


"W"--das Wiedersehen(再会)





はじめは、「奴によく雰囲気の似た男だ」と思った程度だった。
だが、その男が笑みを浮かべ―
「やあ、久しぶりだ」
とわしに向かって言った時、わしは気づいた。




それは、かつての親友であり、
ライバルであり、
そして、同じ未来を見つめた同志だった。




だが、その再会は―奴にとってはどうか知らないが、ともかくわしにとっては喜ばしいものではなかった。




その昔、同じロボット工学を修める学生として、奴とわしは同じ場所に立っていた。
日本からの留学生だった奴は気安く、明るく、まわりの人間の気を惹きつける術に長けていた。
それでいて、奴の出すアイデアは、どれもこれもが奇抜。
およそ凡人が思いつかないようなことを、あっさりとやってのける―
奴は、そんな男だった。
わしは、無能な人間が嫌いだった。
だから、奴のような―才能と才覚に恵まれた男と共にいるのは、不快ではなかったはずだった。
いや―不快ではなかった、むしろ最初は楽しくて仕方なかった…最初の頃は。
だが、そのうち…誰とも親しげに交わる、青春を自由に謳歌する奴の姿を見ているうち、わしは、「何か」が自分の中で不愉快そうに蠢くのを感じるようになった。
わしは、いつの間にか―奴と共にいることを、こころの奥底で拒むようになっていた。
向こうも、はじめのうちは、急によそよそしくなったわしに戸惑っていたが―
やがて、自分は避けられているのだ、と気づくにつれ、自分からも距離をおくようになっていった。
そうして、奴とわしは、進む道を別なものとした。




それから、幾十年。
わしはわしの道を歩んだ。
わしがあの頃漠然と抱いていた望みは、そのうち己の内に秘めた確固たる夢へと変化した。
そのための力を蓄え、そのための力を得るため、わしはひたすらに研究に没頭した。
わしの研究成果を見た軍部が、わしの力を利用したこともある。
―もちろん、人を殺すための力として。
だが、そんなことはどうでもよかった。
むしろ、潤沢な研究資金が得られて好都合だ、と思ったくらいだ―
もちろん、そんなはした仕事などより、わしにとっては自分の研究のほうが大切だった。
だから、軍の研究など、適当に茶を濁していたのだが―
が、何故か世間の馬鹿どもは、それを「非道な軍務に反抗した、研究者として賞賛すべき態度」ととったらしく…
軍が壊滅してからも、わしがその責任を指弾されることはなかった。
だが、そんなことはどうでもいい。
わしにとっては、わしの夢こそが何よりも大切なものなのだから。
その夢を実現するための希望―
具象化された力を、わしは求めていた。
その希望のひとつを、わしは「バードス島」という、エーゲ海に浮かぶ島に見出した。
…古代の伝説。
このバードス島に栄えたミケーネ帝国は、巨大な動く像を用いて、外敵を駆逐したという―
その正体を、わしは「ロボット」だと推測した。
ならば、取るべき道はひとつ―
わしの夢を実現するための手駒、その材料がそこにあるというのだから。
だから、わしは国際科学アカデミーから送られた、調査団参加依頼に応えることにしたのだ―




そのわしの計画を、奴の出現は打ち砕いた。




「やあ、久しぶりだ」




久方ぶりに見た奴の顔は、わしと同じく老いていた。
かつてわしと同じ場所に立ち、そして違う道を選んだ男。
その顔に刻んだ年輪は、奴が奴の道を歩んだことの何よりの証拠。




…いや―
ひょっとすると、奴とわしは、いまだに同じ場所にいるのかもしれない。
ただ、見つめている地平が、こころに求めているモノがまったく違うだけで…
―ならば。
ならばこそ、この男は…
わしを阻み得る、最も忌まわしい存在になりかねないのではないだろうか?




あの再会の日、数十年前分かった道が、再び交差した日。
あの日、わしが確かに感じたのは―




我が夢を脅かす暗雲に対する恐怖と、




過去をわしに突きつける運命に対する困惑と、




そして、




その昔、奴に感じていた―

こころの奥底に澱む、不快な嫉妬の闇だった。





Dr.ヘル様、兜十蔵とあった再会の日を思い出して。