ドイツ語アルファベットで30のお題
〜マジンガー三悪編〜


"L"--das Licht(光)





薄暗闇の中、彼女は彼の腕の中に抱きしめられている。
その緩慢な、心地のいいけだるさの中で、彼女はゆったりとたゆたっている。

薄暗闇の中、彼は彼女を腕の中に抱きしめている。
その緩慢な、心地のいいけだるさの中で、彼はゆったりとたゆたっている。




(…あ、)
ふと、二人の視線が、闇の中で絡まった。




ラウラの視線が、ミヒャエルを射る。
ラウラの視線は、ミヒャエルを見る。
ミヒャエルの、瞳を見る。
彼の瞳の色は、黒。
薄暗闇の中においても、なお暗い、黒。
母方にスラヴ系の血が混じっているのだ、と、以前彼に聞いたことがある。
彼の髪の色は、黒に近い、茶。
だが、その瞳の色は、黒…
その黒があまりに深くて、引き込まれそうになる。
いや、引き込まれているのかもしれない…
光をすべて吸い込む、闇の深遠。昏き闇。ブラックホール…

ラウラの視線は、ミヒャエルの闇にとらわれ、動けなくなった。




ミヒャエルの視線が、ラウラを射る。
ミヒャエルの視線は、ラウラを見る。
ラウラの、瞳を見る。
彼女の瞳の色は、蒼。
薄暗闇の中においても、なお光る、蒼。
両親も祖父母も曾祖父母もそうなのだ、と、以前彼女に聞いたことがある。
彼女の髪の色は、きらめく光のような、金。
だが、その瞳の色は、蒼…
その蒼があまりに眩くて、目が焼かれそうになる。
いや、焼かれているのかもしれない…
闇をすべて払う、光の蒼空。瞬く蒼。輝く空の蒼…

ミヒャエルの視線は、ラウラの光にとらわれ、動けなくなった。






そのまま、二人して…動けないまま、お互いを見つめたまま。
だが、やがて。
どちらからともなく、くすくす微笑いがふきこぼれる。
くすくす微笑いは後をひき、なかなか二人を離してくれない。
薄暗闇の中、彼女は彼の腕の中に抱きしめられている。
薄暗闇の中、彼は彼女を腕の中に抱きしめている。








薄暗闇の中、彼らの秘めやかな微笑い声が、かすかに響きわたる。









マジンガー三悪ショートストーリーズ・"Zwei silberne Ringe, ewige Liebesbande"より。
本当は、完全に「黒い」瞳というのは存在しません(それは、「こげ茶」です)。
でもまあ、イメージ大事にしたかったんで。