ドイツ語アルファベットで30のお題
〜マジンガー三悪編〜


"D"--die Dame(淑女)





ラウラは、本当に乱暴者だ。
何かって言うとすぐ手が出るし、ずけずけモノを言うしで、何の遠慮もない。
あのくりっとした大きな瞳で相手を見すえて、言いたい放題言ってくる。
その様があんまり子どもっぽくて、時折吹き出しそうになってしまうが―
そんなことをしたら、後から二倍ぶたれるのはわかっているので、黙って俺は我慢する。

ラウラは、がさつでどじな女だ。
作った料理は殺人級のまずさだし、部屋の掃除をすれば必ず何かやらかす。
とうとう俺は、壊されてはまずいモノをあらかた部屋から移した―
壊されてしまっては、こちらとしてはそれ以上どうしようもないし。
両方の眉をふにゃあ、と下げて、上目づかいでこっちを見つめて…
「許してくれるよね?」って感じの顔をされたら、俺は何にも言えなくなるから。

ラウラは、我がままで気まぐれだ。
さっき怒ってたかと思えば、今度はきゃらきゃらと笑い出す。
俺に向かって「もう口も聞かないんだから!」と怒鳴りつけたその3時間後に、
「ねえねえミヒャエル、お茶しない?」としゃべりかけてくる。何事もなかったかのように。
せわしないほどにくるくる変わる、ラウラの感情…
ついていく周りのほうが大変だが、ラウラはそんなこと気にもしないで笑っている。
そんな奴だから、俺の気持ちなんてなかなかわかってはくれないんだろう―




ラウラが、俺の花嫁になってくれたとしたら―
俺は、あいつを立派な淑女(レディー)にしてやれるのかなあ?
おしとやかで、優雅で、気品あふれる―




…いいや、きっと無理だろうな!
ラウラはそんな女じゃない、あいつはそんな色には染まらない。
あいつは、ラウラは…本当に乱暴者で、がさつで、どじで、我がままで、気まぐれで。
とらわれない、風みたいな女だから―




そう、だから―俺は、ラウラを好きになったんだ。
俺のかわいい、俺だけの…!








「…?何なの、ミヒャエル…さっきから、人のことじいっと見てニヤニヤしちゃってさあ!」
先ほどから感じていた視線に、とうとう…ラウラは、はたきがけをする手を止め、怪訝そうな顔をしながら振り向いた。
「いや?…ふふ、…ちゃあんと仕事してるんだなあ、って思ってさ!」
ミヒャエルは、そんなふうに笑ってごまかした。
「…まあ、気にせず続けてくれよ」
「…わけわかんないわね、ちゃんとやるわよ」
ラウラはぷいっ、と向こうを向き、再び調度品にはたきがけをしはじめた。
その姿を、どこかまぶしそうな目で見ながら…ミヒャエルは、再び本を読むふりを続けるのだった。





マジンガー三悪ショートストーリーズ・"Zwei silberne Ringe, ewige Liebesbande"より。