ドイツ語アルファベットで30のお題
〜マジンガー三悪編〜


"A"--die Antwort(答え)





この世が間違っているのだ、と。
彼は、結局そう結論づけた。




彼は幼い頃より、その感覚を抱き続けていた。
それは、「生きにくい」という実感。
あまりに漠然としすぎているので、それをうまく言葉で説明するのは難しいが…
だが、幼い彼は、確かにそれを感じながらに生きてきた。
時に、それは親から。
時に、それはまわりの子どもたちから。
時に、それは教師たちから。
降りかかってくる生ぬるい、そして不快な視線は、絶えず彼をいらだたせた。
…それが「好意」というジャンルに入るようなものではないことくらい、容易にわかった。
しかし、それだけなら…まだ、よかった。
ただ世を恨み、人を忌み、一生を嘆きながら生き、そして死んでいく…
よくいる無気力でやさぐれた「人間」が一人増えるだけのことだったのに。




だが、彼は不幸なことに―
「神に選ばれし子」であったのだ。




気まぐれか、それとも深いお考えがあったのことなのか―
ともかく、神は彼に途方もない才能を授けたもうた。
彼は、生まれながらの天才であったのだ。
だが、その幸運は―むしろ、彼を困惑させた。
この世の中では、才あるものが尊ばれ、大切にされ、称えられるのではないか?
そうして、彼らは己の才を存分にふるい、この世界に報いるのではないか?
―にもかかわらず、何故…自分は、愛されない?
何故に排斥され、疎まれ、追いやられる…?
その素朴な、そして道理にかなった疑問は、彼のこころの奥底にとどまる。
そして、「何故」「どうして」という、理不尽を恨む闇をこんこんと生み続ける源泉と化した―




その思いを抱えながら、「生きにくさ」を抱えながら…彼は長じた。
しかし、大学に入り抜群の成績をおさめても、
有能な科学者として名をあげても、
彼の中に在る尽きせぬ理不尽への怒りは消えなかった。
相変わらずに、彼は感じ続けていた―
自らの上から、ヴェールのようにまとわりつく「生きにくさ」を。
生ぬるく不愉快な、他人の視線を。




そうして、とうとう―彼は、決めつけた。
この「生きにくさ」は何なのか、あの不快な視線は何故自分に注がれるのか。
その理由を、こう彼は推察した―




このような仕打ちを受けるのは、自分のせいではない。
才ある自分を認めない、この世界が。
才ある自分を認めない、まわりの人間どもが。
彼らのほうが間違っているのだ。
ならば―自分は、正さなくてはならない。
才ある者がその力と特権を自由にふるえぬこの世界の規則など、書き換えてしまえばいい―




この世が間違っているのだ、と。
彼は、結局そう結論づけた。




彼の出したこの「答え」から、物語は始まる。
鉄と、血と、硝煙にまみれた、それは悲劇の物語―








その物語を生んだ男。
彼の「名前」は、ヘルといった。









Dr.ヘル様の物語。
何でひねちゃったのかなあ、この人。
兜十蔵博士と並ぶくらいの天才なら、いくらでも輝ける場所はあったはずなのに…