ドッキドキ!ドクター・ヘルの羅武理偉(ラブリィ)三国志珍道中☆ (5)


会稽のまだ東、海を越えたところにある「倭国」ってところの女も書くって言う日記っていうもんを、
いっちょアタシもしてみようとおもって、書いてみる!

○月×日
こないだから仕え始めたアタシの主君、ドクター・ヘルは変態だった。
何と言うか、非常に認めたくないが、変態だろうと認めざるを得ない。
今日も朝っぱらから市場に行って何をするのかと思えば、
仕立て職人の親父と盛大な口論を繰り広げていた。
「何故だ?!何故造らん、金はちゃんと払うといっておろうに!」
「へっ、俺はそんなもんを造るためにここに店構えてるわけじゃないんでね!」
「何を?!そんなもんとは何だ、そんなもんとはッ?!」
「あんたこそ正気なのかい、何でまた女物の装備なんぞ…!」
「いいじゃないか、俺はどうしても舞闘姫・桃が着たいんだッ!俺にあわせて今すぐ造れッ!」
「ふ、ふざけちゃいけねえ、そんなバカでかい身体に合わせて造れっこねえよ!」
「造ってみせろ親父、職人の誇りにかけて!」

…こうやって書き写すにも、あまりに馬鹿馬鹿しくて情けない。
見物人がざわざわ集まってきてマジこっぱずかしかったので、とりあえず真無双乱舞で黙らせて家引きずって帰ってきた。

○月△日
今日は雨。一日家でおとなしくしているほかない。
おかげで退屈で退屈で仕方ない。
ヘルさんは日がな机に向かって小難しそうな書物を読んでいた。
こうやって真面目な顔してりゃ、結構な色男なのにな…
あの変態の部分さえなけりゃ、マジに。
一応アタシを倒したんだから、相応の実力者のはずなんだが…
同じ副将のアシュラ男爵はといえば、何やら手紙を書きまくっている。
文通が趣味なんだと。まめな女だな、まったく。

○月■日
出撃、孫権軍との戦いに出向く。
小規模な小競り合いだが、割かし相手が気合入ってたもんで、少々てこずった。
それにしても、ヘルさんの戦い方は…正直、目にキツい。
夏圏を使うのはいいとしても、何で走るときに内股で走るんだ…
大柄の兄ちゃんがそんな格好で走ってたら、絵ヅラとして気持ち悪いだろうに。
「自然とこうなってしまうのだ」とか言ってたが、ついて走るときどうしても目に入ってしまってそのたびげんなりしちまうから、速攻直してほしい。

○月◇日
今日はびっくりした。
朝、ヘルさんのところに出向いたら、いきなり下着姿で床に寝っころがってやがった。
そのそばには、なんか継ぎ目やらなんやらがぶち壊れた舞闘姫・桃が。
お、おっさん、無茶しやがって…!
仕立て職人が造ってくれなかったもんだから、仲買で買ってきやがったらしい。
「どうせ着られないくせにまたこんな無駄遣いして、仲買に返せないじゃないですかこれじゃ!」てなかんじで
アシュラがぎゃんぎゃん怒ってやがったが、おっさんふくれっ面ですねちまったまま何も答えなかった。
とりあえず服着ろ、と言おうと思ったが、なんかアホらしくなってしまったんで、アタシはほっとくことにした。

○月□日
今日はアシュラ男爵がヘルさんの出撃に付き従うことに。
夕刻には帰ってきたが、何かアシュラの奴がヘルさんを説教しながら帰ってきた。
えぐえぐ泣きながら真っ赤な顔して怒り続けてるもんだから、いったいどうしたのか聞いてみた。
アシュラの言うことには、何でも戦闘には勝ったらしい。
だが、その後…戦利品の武具・装飾品を仲間同士で分け合う時。
このおっさん、恥ずかしげもなく朱夏道着を取るといってはばからなかったらしい。
仲間たちがみんな「それは君には装備できないよ」「こっちの戦鬼神鎧(せんきしんがい)にしなよ、男物だし」って言ってるにもかかわらず。
おっさんは「いいや俺が取る!俺が着る!絶対に!俺がこれを着る!」ときっぱりと言い切った、と。
みんなが奇矯なことを叫ぶおっさんをこわごわ見つめるその目と、
自分に送られる「これが主とは可哀想に…」みたいな視線が何より恥ずかしかった、とアシュラはびーびー泣き怒っている。
しかし、当のおっさんは、そんなアシュラなどぜんぜん気になっていない様子だ。
分捕ってきたらしいその朱夏道着をうれしそうに見つめてにやにやしてやがる。
駄目だ…もう駄目だ…
ともかくアシュラを泣き止ませて落ち着かせるのに1時間かかった。
戦ってもないのになんだかめちゃくちゃ疲れちまった気がするぜ、今日は。

○月※日
訓練場で、一日武術の稽古に励む。
いつ大きな戦があるかもわからねぇ、常に気は張ってねえとな。
ヘルさんも自分の円月圏の鍛錬に余念がない。
遠方の的も、まるで目の前にあるがごとく、放り投げた夏圏で簡単に切り裂いていた。
技量はあるし、おつむも立派。黙ってりゃ、顔も申し分ない伊達男。
アタシらの頭をはるには十分なタマだとは思うが…
いかんせん、変態なのが痛い…変態なのが。

○月◎日
今日、ヘルさんは仕えている張儁乂将軍のところに出かけていった。
そんなわけで、今日はアシュラと二人で留守番だ。
しかし、張コウ将軍の部下だったとは…知らなかった。
「美しい物を何よりも愛する」というところに感銘したから、とアシュラに言っていたそうだ。
なるほど、わかるようなわからないような…
なんかそのうち、ヘルさんも無双乱舞と同時に蝶とか出しそうだな。

○月$日
ヘルさんのところに出向いたら、おっさんは何故か手鏡を前に、真剣な面持ちで座り込んでいた。
ずっと手鏡を見たまま深刻そうな表情をしていたので、どうかしたのかと聞いた。
そうしたら、おっさんがきりりとした顔で言うことには、
「いやな、俺は何故こんなに美しく生まれてきたのかと不思議になってな。
うむ、自分でも自分の美しさに空恐ろしくなる、何と言うことだ!」

ムカついたから、とりあえず無双乱舞で火球ぶち当てて、ついでに炎で燃やしといた。


○月★日
以前戦場で倒した鉄槍使いが、ヘルさん家を訪ねてきた。
背の高い屈強そうな男で、これは頼りになりそうだ!とアタシとアシュラは大喜びしたんだが…
ヘルさんはそいつを見るなり、「帰れ」と追い出してしまった!
何てことするんだよ、何で部下にしないんだよ、と言ったら、おっさんあっさりこう言った。
「俺は、美しくない者は嫌いだ」
いい年した人間が他人を顔で判断するのは…いや、このおっさんに言っても、きっと無駄なことなんだろう。
このおっさんにとっては美こそが「正義」、らしいから…
でもあの鉄槍使い、ちょっとかわいそうだったな。
遠路はるばるやってきただろうにさ…
でも、そういやアタシはあんな風に門前払いされずにヘルさんの部下になったわけだ。
ということは、アタシもちったあイイ女、ってことだろうか?!
そう思うと、ちょっとはまんざらでもねえけどな…!

○月☆日
ヘルさんが今日は俸給日。
普段からの働き振りが評価されたのか、そこそこもらえたらしい。
「お前たちにも何か買ってやるぞ!」と言われたので、遠慮なく相伴に預かることに。
アシュラは夏圏とともに使う氷玉を、アタシは駄目になりかけていた妖杖を修理してもらった。
おっさんはこんなふうに気前もいいし、部下思いだ…
嗚呼、本当に、本当に、ヘルさんが変態でさえ無ければ。
後、今日はいろいろ買ってもらったので、おっさんがまた仲買で舞闘姫・桃を買っていたことについては見ないふりをすることにした。

▲月×日
今日から新しい月だ。
うっし、今月もばっちりキメてやるとすっか!


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