A War Tales of the General named "El-raine"〜とある戦記〜(8)


戦いが終わり、呂布軍の元に国は一つに統一された。
この世界に、平和な時がやってきた。
最早、私たちが剣を取って戦う必要はないのだ。
激しく切り結び、血を流し合う必要はないのだ。
そう―「この世界」では。


回廊。
静けさを破るのは、空を舞う鳥の鳴き声、
石畳を踏む私の足音、
そして、張遼様の足音。
目にも鮮やかな蒼き衣、深紫の外套、歴戦の重みを刻む甲冑。
その手にすなるは、青龍鉤鎌刀―
私が憧れ追い求めた、武の化身。
英知と武勇をその身に宿した、我が主君。


「貴公の内には、大いなる武が宿っている」


大いなる武、と張遼様は言った。
彼もまたそれを求めて、呂布の下にて戦ったのだろう。
そう、私と同じように。


「その頂(いただき)見えるまで、互いの武―」


空をゆらり、と薙ぐ、青龍鉤鎌刀。
私もまた、己の真覇道剣を振りかざす。
眼前にそびえ立つ、石柱は音も無く。


「磨き合おうではないか!」


貴方が求めた物を、同じく私も求めて。
貴方が目指した物を、同じく私も目指して。
力及ばぬ将であった私は、貴方を支えることが出来なかったのかもしれない。
力か弱き将であった私は、貴方を守ることができなかったのかもしれない。
それでも、
貴方とともに私が戦った日々は、消えるわけではない。
貴方とともに戦場を駆けた日々は、無意味ではない。


「―せやっ!」
「…!」


同時に、振り下ろす―
脊柱に吸い込まれる、二迅の斬撃。

…数秒の間を置いて。
崩れ落ちる、切り裂かれた石柱の切片が。
雪崩落ちる、重苦しい地響きの音を立てて。


―だが。
平穏な「この世界」にて、石をも断つほどの彼の武は、既に必要とはされていない。
それはもちろん、私の握る宝剣の鋭さも。


貴方は何処に往くのですか、そう思わず問おうとして、
私はその言葉を飲み込み、仕舞い込む。
それは私とて同じこと、
張文遠という武の化身に心を奪われその影を追ってきた私とて同じこと、
そのことにすぐ気づいたから。


静謐。
耳に聞こえるのは、鳥たちの鳴き声だけ。
私も、張遼様も。
最早斬る相手も大儀も無い武器を手に、砕かれた石柱を見据え、
じっと、黙って、そのままで―


貴方は何処に往くのですか、張文遠?


そして、




私は何処に往くのだろうか―?





Back