A War Tales of the General named "El-raine"〜とある戦記〜(5)




不可思議な、夢を見た。
私は、それをただ見ていた。
いつもの、あの夢。
私と同じ「名前」で呼ばれる、あの少女の夢。
少女は戦っている。苦悩の中で、それでも相手を殺す為に。
だが、少女のその殺意を受ける相手は、「人間」ではなかった。
屈強な肉体を覆う黒緑の皮膚。肌を覆うのは鱗か。
爛々と赤い瞳がたぎるその壮年の男の顔、その額には…二本の、そそりたつ角。
彼もまた戦っている。苦悩の中で、それでも少女を殺すために。
彼の「名前」を、私はなぜか知っているような気がした。
嗚呼、そうだ。
とても、よく、知っている。

「C・ラグナ」


209年7月某日 七夕特別特務「織女と牽牛」<新條健嗣.汝南+エルレーン.河内>

「…まさか、神仙よりの依頼を請け負ってこられるとは…驚きましたよ」
「う、うん…」
青年はそう言うと、静かな表情に軽い驚きを浮かべてみせた。
副将の蛮拳使い、キャプテン・ラグナ・ラクス・エル・グラウシード…通称、キャプテン・ラグナを伴って今回エルレーンが向かうのは、とある河港である。
その場所に住まうという神仙に会いに行くのだ―
「まさか、仙人様に会いに行くことになるなんて思いませんでしたわ」
「うん、私も驚いた…」
そして、その隣には―今回の任務を共に挑む、心強い仲間の姿が在る。
同じく呂布軍に使える前将軍・新條健嗣と、その副将・姫。
南天軽甲(なんてんけいこう)に紅羽祭面(こううさいめん)を身にまとったまだ年若い女将軍は、自由闊達なる長双刀使いとしてその名を馳せている。
神仙から出される課題、などという恐ろしげなものに挑むエルレーンにとって、これほどありがたい助力は無い。
そんなわけで、4人は一路、夕闇ももう去りかけた薄暗闇の中を往く―
「でも、どんな課題なんでしょうね?一体…」
「うん、本当にどんなんだろう…?ちょ、ちょっと、怖いなあ」
事の発端は、以前こなした仕事にある。
以前彼女は、市場に現れた「司天官」と名乗る老人の依頼を受け、五色の糸を道士たちから手に入れた。
その腕を見込まれ、再び司天官に声をかけられたのだが…
何と、彼は自らの正体を神仙だと告げたのだ―
驚愕する女将軍に、彼が語ることには。
彼の老人の正体は、天帝より遣わされし星の運行をつかさどる神仙・天津道君。
彼は、とある使命を携えて、この地に降り立ってきた。
近くに迫った節句、七夕の夜のために―
そう、織女と牽牛のために。
一年一度、七夕の夜にだけ会う事の出来る、引き裂かれた悲劇の男女。
その日、その夜にだけ、二人を別つ天の川にかささぎの橋がかかり、織女と牽牛の逢瀬がかなう。
だがもしその夜に雨が降れば、橋をかけることが出来ないという。
つまり、雨が降れば二人は年に一度しかない機会を失ってしまう…
なんでも、このあたりの天候をつかさどる神仙が、今年はどうしても雨を降らせると言い張っているらしい。
そこで、その仙人の機嫌を直すために。
男女一組となり織女と牽牛の伝説を再現して、彼の心を動かしめて欲しいのだ、と…
「まあ、ですけど」
仮面の奥から、くすり、と少女らしい微笑みをこぼしながら、新條健嗣は言う。
「せっかくの一年の一度のこと…少しでもお手伝いができるのなら」
「そうだね…!」
エルレーンもうなずき、微笑う。
お互いに笑いながら、彼女たちは神仙の待つ河港を目指す。
一年に一度の恋人たちの逢瀬が無事成就するようにと、まったくに人のよい考えから。
…だが。
彼女たちはとんと忘れていたのである。
天津道君から「男女一組となって織女と牽牛の伝説を再現し見せてやってくれ」
そして「仙人の機嫌を損なわんよう男女2人で伝説を再現」しろ、と言われていたことを。

(ほう…物好きが2人来おったな。じゃ…腕試しといくか)
空気が震え、ほくそ笑むような響きを含んだ老爺の声となる。
姿を見せぬその正体こそは、ここら一帯の天候を支配する神仙。
鐘山龍仙、と人は呼ぶ。
その神仙が下す課題、それは…
(2人には、手始めに近くの拠点を落としてもらうかな)
「!」
まずは、比較的容易そうなものから始まった。
「それでは、参りましょう!」
「うん!」
新條健嗣とエルレーンはそれぞれ手近な拠点に向かって駆け出していく。
それはどちらも、4人の将が防御を固める兵長拠点…
普段より敵軍との激突にて戦いを重ねる二人にとっては、それは造作も無いこと。
鐘山龍仙の声を聞いてより、数分もたたぬうちに―

<呂布軍 新條健嗣の活躍により仙人軍の拠点を奪取!>
<呂布軍 エルレーンの活躍により仙人軍の拠点を奪取!>

が…安心したのも、つかの間。
次に下される老人の命令は、いきなりその難易度が跳ね上がった。

(ほう……少しはやるようだの!では次の課題なるぞ)

(新條健嗣は敵を600人撃破して兵糧庫を制圧せよ!)
「あら…」
長双刀を振りかざしながら雑兵を薙ぎ払っていた新條健嗣の表情が、仮面の下にて確かに曇る。
(エルレーンは我が配下の将星10人を倒してみぃ!)
「え…っ、10人?!」
宝剣を片手に拠点から駆け出そうとしていたエルレーンも、同様に面食らったような顔になる。
相当なる難題、というわけではないが…
敵を600人撃破した後兵糧庫を制圧するのも、敵の名のある将10人を倒すのも、結構に骨の折れる。
自然と嫌そうな顔を浮かべた二人に、
「ほれほれ〜、2人とも!わしに誠意を見せんか〜」
何処か人を小馬鹿にしたような、気まぐれ神仙の声が落ちてくる。
「ふう…仕方ないようですね」
その声に、整った相貌を軽く不快げに歪ませながら。
新條健嗣は、一度、大きくため息をつく。
600人もの敵を斬り、なおさら敵兵糧庫を征圧する…
ここより遥か離れた場所にある兵糧庫まで走っていかねばならないのか、と思うと、少し気がめいる。
が…
「やるしかない、のですか」
「ですね…」
己の副将を見やり、物憂げな顔でそう言いあって。
長双刀の柄を握り、ゆっくりと首を振り。
再び面を上げた時には、紅のたてがみを燃やす仮面が闘志と共に燃え上がる。
「うおおおおおおおおおおおおおーーーっ!」
時の声をあげ、雑兵たちが新條健嗣に襲い掛かる…
まるで、滝のように。
「…!」
跳躍。空を舞う。
跳躍。空を斬る。
長双刀の刃が切り裂く―
空間も時も、彼女に立ちふさがるものは、何もかも。
「それでは、参りましょうか」
「ええ!」
上がる悲鳴も踏み超えて、彼女たちは奔り出した。


迢迢たり 牽牛の星  皎皎たり 河漢の女……
纖纖として素手を擢げ 札札として機杼を弄ぶ……
終日 章を成さず  泣涕 零るること雨の如し……
河漢は清くかつ浅し 相去ることまた幾ばくぞ……
盈盈として一水の間 脈脈として語るを得ず……
天漢 鵲橋を缺く 冀う 驟雨疾く去れ……ってか?



老人が調子よく朗々と歌い上げる詩篇が、否応無く戦場の二人の耳に直接響く。
そのやかましく押し付けがましい神仙の声にいらつかされながらも、二人は黙々と与えられた課題をこなさんとする。
これも織女と牽牛のためだ、せっかくの一年に一度のことじゃないか…
「ぐはっ!」
「ひいっ!」
「むむっ!」
そりゃまあ、このおじいさんが素直に七夕の日を晴れにしてくれればいいだけの話だ、それだけの話だけれど…
「ひょえー!」
「きゃっ!」
「うぬう!」
そのご機嫌を取るために、自分たちがこんなにひいひい言いながら戦場を駆け回っているのは、なんか理不尽な気がするけれど…
「くっ……!」
「あちゃぁ!」
「とほほ……」
で、でも、それでも。
これさえ終わったら、きっと七夕の日に雨を降らすのは止めてくれるに違いない。
「だから…ごめんね!えいっ!」
「ぎゃーーーーーーーッ!!」
そう言いながら、懇親の一撃を最後の将星に叩き込み…撃破する、と。

(ほっ!やるもんじゃなぁ。少しだけ感動したぞい)

天蓋から、またもや人を喰った老人の声が落ちてくる。
どうやら、新條健嗣も与えられた課題をこなしたようだ。
「や、やった…!新條健嗣さんも、兵糧庫を落としたみたい!」
「そのようですね。では、これで…!」
―が。
C・ラグナが主君にそう応じるその台詞も、まだ中途だというのに。
あの老人の声が、またもや彼女たちに追い討ちをかける。
(では次の課題だ!エルレーンよ、3番の拠点を落とせ)
「え…?!」
(新條健嗣は2番の拠点じゃ!急げ急げ!
2人とも拠点を制圧したら そこに留まっておくのだぞ)
「ま…まだ、ですの?!」
女将軍たちの口から思わず非難めいた声が出たのも無理はない。
彼女たちが落とせと指示された拠点は、それぞれ今いる場所より遥かに遠く…
また、相当な距離を走っていけ、というのか。
…嗚呼、だが、しかし。
「もう…ッ!行こう、C・ラグナ!」
「わかっています、エルレーン殿!」
だからと言って、これまで懸命にやってきたことが、ここで無駄になるのも腹立たしい。
「行きましょう姫、急がなくては!」
「承知!」
萎えかけた意思を何とか奮い立たせて、再び4人は向かうべき場所に駆け出した。
散々武器を振り回し続けた疲労がたまった身体を叱咤して。

そして―

<呂布軍 新條健嗣の活躍により仙人軍の拠点を奪取!>
<呂布軍 エルレーンの活躍により仙人軍の拠点を奪取!>

「はあ、はあ…」
「…」
数分後。
何とか新たなる拠点を制圧したエルレーンたちは、力なく地面にへたり込んでしまう。
と、拠点の奪取を察知したか、再び鐘山龍仙の声。

(これも難なくこなしたか…なかなかの意気だ、感心感心!)

(苦難を乗り越えて出会う『男と女』…いやオツなもんじゃ)
「もう…勝手な、こと、ばっかり、言って…る」
「…?」
めずらしく人に対して毒づくエルレーン。
今までずっと好き放題に引きずり回されたせいか、おっとりした性格の彼女でも、さすがに少しむっときているらしい。
が、一方のC・ラグナ…
なにやら今の仙人の台詞に何処か違和感を感じたらしい、不可思議そうな顔で空を見上げている。
『男女』の出会いに、雨は不似合いか…よし!)
「あの、エルレーン殿…」
「何?」
「何か、話がおかしいような気がするのですが?」
丁寧な口調で違和感を伝えるC・ラグナに、不思議そうな顔を返す少女。
(雨を止めてやろう!橋の上で2人会うがよい)
「え、何が?…もう大丈夫だよ、雨を止めてくれるって言ってるし」
「はあ…」
「さ、橋に行こう!これでやっと終わりだよぉ!」
だが、疲れきってしまった少女は、そんな違和感を深く考えることなどもう出来なかった。
頭の中にあるのは、ただもう早くこの課題を終わらせてしまいたい…という切実な思いだけ。
なので、エルレーンは何とかまた立ち上がり、拠点を飛び出し、走り出す。
指定された橋に、一直線に向かう…
いぶかしげな顔をしていたC・ラグナも、仕方なく己の主君を追いかけていく。
…と、みるみるうちに、その木で出来た橋が見えてきた。
見れば、向こう岸からやはりこちらに向かって駆けて来る二人組の姿…新條健嗣たちだ。
「やった!新條健嗣さん、これで…」
「ええ、終わりですわね!」
橋の上で、落ち合う。
お互いに荒い呼吸をしながら、それでもこの難題をやり遂げて見せた喜びを分かち合っていた―
その時だった。

(よしよし…って よく見たらお前ら女同士かよ!)

『?!』
突如あがった吃驚の叫びに、少女たちが目を丸くした次の瞬間。
これまた唐突に、その驚愕の感情が、立腹のものへと入れ替わる。
(よくもわしをたばかりおったな!お仕置きじゃ!)
「え?!」
まばたきするよりもより短いその刹那、少女たちの背後に気配が生まれ―
「きゃっ!」
「あうっ?!」
打ち据えるような、強烈な衝撃!
不意をうたれ防御もする間もなく、二人はもんどりうって吹っ飛び、地面に転がる。
痛みに顔をしかめながら、面を上げれば…
「お仕置きじゃ!この小娘ども!」
などとほざきながら気勢を吐いている一人の神仙。
つまりは、彼が物事の元凶であり、
少女たちを面白半分に振り回したのであり、
その挙句に勝手な勘違いをして勝手に激昂したのであり―

「(・∀・)…」
「…(・∀・)」

女将軍、エルレーンと新條健嗣。
しばし、お互いの顔を見合わせて。
その、ほんの数秒後に…
『(#・∀・)(・∀・#)』
女将軍たちの堪忍袋の緒が、まったく同時にぶっつりと切れた。

『えーい』
「ぎょわっ、ひ、ひぎゃああああ?!」

走る稲妻、轟く悲鳴。
長双刀と宝剣が、目にも止まらぬ連撃を叩き込む―!
「嗚呼、綺麗に決まりましたね!同時に無双攻撃を放っての真・無双乱舞!」
そう、これぞまさに切り札、真・無双乱舞。
生命の轟き、滾る勇猛、その最たる武の極み、
だがしかし今の一撃は、何処からどう見ても逆切れ八つ当たりだった。
なす術もなく数十の攻撃を受けた老人が、よろよろぼろぼろ地面にくず折れる。
だが、まだ終わりではない―
「ちょ、ちょっと、ま…」
「…たう!」
「ぐほへッ?!」
地面に倒れた老人が、ちょっと待ってくれ、と言って起き上がろうとするのを待たず。
エルレーンが宙を舞い、
倒れた老爺の背中に、その勢いのまま馬乗りになるように飛び乗って、
あがくそのあごを両手でしっかりと掴み、思いっきり身体を後ろにそらす、
と―
「とおっ。」
「のうううううああああああああああーーーッッ?!」

「あら、美来斗利偉・拉麺男(びくとりい・らーめんまん)の機矢滅留・苦落血(きゃめる・くらっち)ですのね。見事です」
喉も破けんばかりの絶叫が、犠牲者となった鐘山龍仙の口から吹き出した。
しっかりと決まった荒業に、ぱちぱち、と笑顔を浮かべて拍手を送る新條健嗣。
「では、今度は私が」
「うん!」
散々老人の背骨を痛めつけた後、今度は新條健嗣に選手交代だ。
ぱっ、と自分の上から少女が飛び去り、一気に腰が軽くなるのを感じた。
何をするこの小童めらが、と一喝しようとする隙すら与えず。
新條健嗣が素早くその後ろに回り、
動じた老爺の両腕を瞬時に取った挙句、その背に負ぶさるように乗って両脚を引っ掛けそのまま揺さぶりをかける、
と―
「そおれ、っ」
「うぎゃあああああああ!痛い痛い痛い、ぎゃああーーーー!!」

「あっ、戦争男(うぉーずまん)の羽露・巣辺死野琉(ぱろ・すぺしやる)!はう、ばっちり決まってるのぉ」
「ああーっ、た、頼む、放せ、おががががががががが?!」
夜空を貫く神仙の悲鳴。
にこにこと微笑みながら(神仙といえど)老人相手に、全力で関節殺しをかけるその少女たちの凄まじさ、並ではない。
今まで延々と振り回されたことへの恨みか、残虐超人もかくやの力強さである。
「じゃあ次は、また私がー!」
「ええ、もちろん!」
「ととと、年寄りをいじめるでない!か、か、か、勘弁しろぉおおおおお!」

そして。
そんな暴虐の現場より、十数歩離れた安全なところから。
少女たちに徹底的にとっちめられる悲惨なる老爺の姿を見ながら、服将たち二人。
「…こ、これは、そろそろ、」
「何ですか?」
困ったような顔を向ける新條健嗣の副将・姫に、C・ラグナはにこり、と笑う。
「これは、そろそろ止めるべきでは…」
「ふむ、そうですねえ」
主君たちをいさめるべきでは、と問われ。
その穏健なる蛮拳使いは、軽く首をかしげ、
さわやかに彼女に答え返す―
「後もう少し、あのご老体に反省していただいてからにしましょうか」
どす黒いことをさらりと言ってのけるC・ラグナの笑顔は、やはりどうしようもなくさわやかそのものだった。


「よ、よかろう…貴様らに免じ七夕の夜は晴天にしてやるわい」
「ありがとうなの!」
「ありがとう…」
「で、ではの!…ふんッ!」
しばしの後。
少女二人にこれ以上ないと言うほどに痛めつけられた鐘山龍仙は、こんな捨て台詞一つ残して消え失せた。
その後に、吹き抜けていく一陣の風を残して。
…静けさを取り戻した戦場は、星の天蓋で飾られている。
「…これで、大丈夫かな?」
「多分、大丈夫でしょう」
エルレーンと新條健嗣の声が、その夜空の中に吸い込まれていく。
「きっと、七夕には…」
そういって見上げた空には、数え切れぬほどの星々。
天の川をはさんで対峙するひときわ大きな、二つの星。
何故だか今宵は、その二つ星がひときわ強く輝いているように見えた。
まるで、女将軍たちに感謝の意を示しているかのように―

「…」
「…」
新條健嗣たちと別れ、帰途に着くエルレーンとC・ラグナ。
ろくに人も通らぬ道は、夜はなおさらに寂しげな空気を漂わせる。
疲れも手伝ってか、二人は口を閉ざしたまま、ただ淡々と歩き続ける。
「…」
と。
疲労を追い出そうとするかのように、エルレーンは大きく息をつく。
その時…また、彼女の透明な瞳の中に、無数の綺羅星が映り込んだ。
(あ…)
その時、何故か。
少女は思い出した、あの夢のことを。
自分と同じ名を持つ少女と、彼と同じ名を持つ男とが、
お互いを殺す為に、同じ空の下にいる―
あの、哀しい夢のことを。
(…)
軽く、胸に痛みが走る。
それは、夢の少女に対する同情ではない。
それは、軽い疑惑と疑念。
「…ねえ、C・ラグナ」
「何ですか?」
「こうやって、同じように並んで、同じ星を見られるって言うことは…」
まったく自分と同じ「名前」を持つ少女が経た道を、自分ももしかしたら往くのかも知れない…
己の副将たるこのC・ラグナと、袂を別ちそして戦う、その道を。
今、こうやって、自分の隣に並び。
今、こうやって、同じ星空を見ている彼と。
「きっと…幸せな、ことだよね?」
「…」
まったく彼と同じ「名前」を持つ男が経た道を、彼ももしかしたら往くのかも知れない…
己の主たる自分と、袂を別ちそして戦う、その道を。
その想像は、少女を軽く怖じさせる。
その想像は、少女を軽く惑わせる。
「同じ空の下にいても、それができないよりは…ずっと」
「…ええ」
弱い気持ちが発させた、あいまいで遠まわしな問いかけに。
C・ラグナは、一瞬少しだけ戸惑って…そして、いつもどおりの穏やかな、優しい表情を向ける。
「心配せずとも、私は―」
蒼い衣をまとった蛮拳使いは、
あの夢の男と同じ名、キャプテン・ラグナ・ラクス・エル・グラウシードという名を持つ男は、
いつも、そうやって笑うのだ。
「私は、ここにいますよ」
「…」
「主君たるあなたを御守りするために、ここに」
優しく、包み込むように。
あるいは、丸め込むように。
いつもは、これで黙ってしまうはずのエルレーン。
だが…今宵は何故か、更に言葉を継ぐ。
「…そ、」
何だか、何処か、こわごわと。
「それは、どのくらい…まで?」
「…くくっ、」
あまりに、直截な問い。
愚直というか、何というか…
その言葉に思わず苦笑を誘われたC・ラグナの瞳に、頼りなげな主君の姿。
「嗚呼、そうですね」
蛮拳使いは、ふっ、とその唇を微笑みのものに形作る。


「それでは、『この世界』が終わるまでは、あなたと共にいることにしましょうか―」


そう、その通り。
「この世界」が終わるまで、は―



七夕特別特務「織女と牽牛」…達成度S


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