A War Tales of the General named "El-raine"〜とある戦記〜(19)


「小説・衛将軍昇進試験(1)」


不可思議な、夢を見た。
私は、それをただ見ていた。
いつもの、あの夢。
私と同じ「名前」で呼ばれる、あの少女の夢。
だが、今日の夢には、彼女は出てこない。
そのかわりに私が見ているのは…ある、青年。
頭に凶悪な二本の角を持つ彼は、まるで魔物…「鬼」のようだ。
しかし、その双眸は真っ直ぐで、清らかに澄んでいる。
私には、何故かわかった。
彼は戦っているのだ。少女の「仲間」を殺すために。
彼の「名前」を、私はなぜか知っているような気がした。
嗚呼、そうだ。
とても、よく、知っている。

―「鉄甲鬼」。

「うひゃああああああああッ!!」
「きゃあああーーーーーんッ!!」
密林のうっそうと茂る木々の合間を、男女の悲鳴が突き抜ける。
地面をうがつような強撃を何とか辛くも避け、必死に逃げ惑う…
袁紹軍四征将軍・エルレーンと、その副将、双戟使いの鉄甲鬼。
今にも泣きそうな顔で逃げ腰の二人を、真覇道剣を振りかざす袁紹が追う。
「こらぁ!逃げてどうする、逃げてッ!」
「は、は、は、はぁいッ!」
袁紹の叱咤に、辛うじて大声で叫び返すものの。
目の前でその威力の凄まじさを目の当たりにしてしまった少女は、やはり怖気づいてしまったのか…
立ち向かうどころか後ろに大きく跳び退り、己が主から距離をとろうとする。
そのそばに頑双戟を構えた鉄甲鬼がすぐさまに寄り、言うことには―
「え、エルレーン様!でも、真っ直ぐ飛び掛ったんじゃ、すぐ打ち払われますよ?!」
「…ッ!」
「ど、ど、ど、どうします?!」
ぎっ、と、歯を喰いしばる。
確かに、彼の言うことも正論…
同じ宝剣を使う者とは言えど、自身の技量は、主・袁紹に及ぶべくもない。
眼前にて戦気を放つその姿は、あたかも険しい悪鬼のごとく…!
「く…!」
…少女の透明な瞳に、焦りが入り混じった。


「袁家の威光を受け、力をつけてきたと言うのは…お前か、エルレーン?」
「え、あの、…た、多分」
ことの起こりは、昨日の夕方にさかのぼる。
主君である袁紹軍が明主・袁本初に呼び出されたエルレーンは、開口一番このように問われた。
そして、笑みを浮かべた袁紹は、穏やかにこう告げたのだ…
「うむ、その力の真贋、私が見極めてやろう」
「!」
「四征将軍、エルレーンよ」
えへん、と、おごそかに、咳払いを一つし。
袁紹は、宝剣使いの少女に堂々と宣言する。
「誇り高き戦ぶりが認められたら、お前を衛将軍に任じよう…
ありがたく思うのだ!」
「は、はいッ!」
思いもかけぬ好機に、少女の両頬が興奮の朱の色を灯す。
まさか、この自分が、衛将軍に…
そんなにも高い身分を賜れるかもしれないとは!
「それでは、早速明日!衛将軍昇進の試験を行う!
場所は洛陽郊外の密林地域にて!」
「わ、わかりました!よろしくお願いします…ッ!」
勢い良く答え返し、慌てて拱手するエルレーン。
小さな彼女の心の臓が、どくどく、どくどく、と速い鼓動を刻む…
身が奮い立つような興奮と緊張の中、少女の精神で燃え上がる。
闘志と大志が、燃え上がる―

「と、言うわけで…とうとう、来ちゃった、の」
「衛将軍…すごいですね、エルレーン殿!」
その後、自宅にて。
主君から告げられた言葉を副将たちに伝えるエルレーン。
途端、わあっ、と歓喜の声が上がる…
感嘆の声を上げる流竜馬に、彼女はうれしげに笑い返した。
が、気の早い彼らをいさめるかのように、車弁慶が口を挟んだ。
「ふん、だが…試験とやらに受からねばならんのだろう」
「いちいち郊外まで呼び出す、と言うことは…」
「……武略の、評定」
「そうでしょうね、やはり」
神隼人の答えに、キャプテン・ルーガも同意した。
あの宝剣の名手・袁紹を相手に、己の実力を見せねばならないのだ。
…が、いまさらそれを心配したところで、何になろうというのか。
やるか、やらないのか。
人生には、結局その二つしかないのだから。
大きな転機を前にしたエルレーンは、意気軒昂。
副将たちを前に、猛ってみせる―
「だから…明日、がんばってくるね」
「ああ、気をつけてな!」
「それで、なんだけど。今回は、あなたについてきてもらおうと思うの」
そう言って。
彼女が指名したのは…

「―鉄甲鬼」
「ひ、ひゃいッ?!」


繊細なる双戟使い…鉄甲鬼。
少女が夢で見た、あの鬼の青年と同じ「名前」を持つ男…
だが、こちらの鉄甲鬼は、彼とは真逆と言ってもいいほど、性格が違っていた。
お人よしで細やかで、そして何より気弱。
常に下がり気味の両眉からも、それが垣間見える。
今回も、まさか自分が選ばれるとは思っていなかったのか…目を白黒させて、エルレーンを困ったような顔で見返している。
「…聞いてた?私の話」
「き、き、聞いてましたよもちろん!で、でも、拙者が…?」
「そうだよぉ」
あわあわしながら混乱する彼に、エルレーンは苦笑いしながら念を押す。
「袁紹様は、私以外に副将をひとり連れてきていいっておっしゃってたから。
準備しといてね、いい?」
「わ、わ、わかりましたぁ」
まだ動揺しているのか、ややどもりながら、それでも鉄甲鬼は了承する。
ともかく、明日は二人で立ち向かわねばならないのだ。
軍人として、大きな一歩を踏み出すために…
―が、しかし。
「…」
副将たちの中で、一人…浮かぬ顔をしているものが、一人。
偃月刀使いの、車弁慶。
その強面な態度が、何やら普段以上に頑なに。
彼はそんな表情のまま、己が主君・エルレーンを見返していた…
ただ、無言のままに。

「それじゃ、いってきまーす!」
「うぅ…が、頑張ってきます…」
そして、決戦の日…
出立するエルレーンと鉄甲鬼。
「いってらっしゃーい!」
「気合入れていけよー!」
「ご武運をお祈りいたします」
二人に、留守を預かる副将たちが口々に激励の言葉をかける。
そんな彼らに、少女は最後にくるり、と振り向いて―
「うん!…じゃあね!」
そう言って、元気良く手をふりかえした。
そのまま、軍馬に乗る二人の姿は小さくなり、小さくなり…
やがて、ふつり、と街の雑踏の中に消えていった。
それを見やると、副将たちもぽつぽつと家の中へと失せていく…
「…」
…そんなさなか。
最後までそれを見送っていた厳格なる偃月刀使い・車弁慶の表情は、やはり険しい。
何処か苦虫を噛み潰したような顔で、もう見えぬ主君とその連れの背を見ている―
「…くく」
と。
彼の背後から、小さな笑い声が零れ落ちた。
「…何がおかしい、キャプテン・ラグナ」
「いえいえ…何故かな、と思いまして」
「何がだ」
戸口から見ていたのは、やはりキャプテン・ラグナ…そりの合わぬ、何処か腹黒い、蛮拳使い。
自分をにやにやと見つめながら、それで面白そうな、楽しそうなふうで微笑っている。
その何かを含んだような微笑みが気に喰わず、返す言葉も自然と鋭くなる。
「昨晩から、車殿…なにやら、ひどく不機嫌そうで」
「…」
しかしながら、彼は全然それを気にもとめない。
にこにことやさしげな笑みを浮かべたまま。
そのままで。
決定的な、そして偃月刀使いが一番突かれたくない、認めたくないそのことを率直に言ってのけた―
「そんなに不愉快ですか?自分でなく、鉄甲鬼殿が選ばれたことが」
「…ッ?!」
刹那にして、顔色が変わる。
…「図星だ」と言っているのと、まったく同じ。
だが、さすがに口では否定しようとする…
「ち、違う!俺は、ただ…」
動揺に上ずる声音では、まったく効果がないにもかかわらず。
「…あの腰抜けが、まともに任を達することが出来るのかと思っていただけで!」
「おやおや」
今の言葉に、矜持が随分と傷つけられたのか。
一気に耳まで赤くした偃月刀使いが、言い訳みたいにそう吐き捨てた言葉。
けれども、キャプテン・ラグナはそれすら逆手にとって彼を追い詰めるのだ…
「けれども、エルレーン殿は彼を存外重用しているようですね。
何しろ、こんな重要な試練に鉄甲鬼殿を用いるのですから」
「…」
ぐっ、と、言葉に詰まったのか。
悔しげに睨み返してくるも、反論はなく。
そうして、とどめの一撃。
笑顔を絶やさぬままで、キャプテン・ラグナは…車弁慶が最も言われたくないであろうことを、またもやばさりと言ってのけた。
「頼りになる、と言うことではないですか?…私たち八人の中で、誰よりも」
「…ッ」
からかいの意味合いが充分に入っていたことは、声色からわかる。
だが、それ以上に…その言葉は、偃月刀使いの心を深く刺し貫いてしまったらしい。
一瞬、彼は激怒の表情を漂わせたものの…すぐに、それは失せ。
その代わりに、哀しみなのか、歯がゆさなのか、判じ得ないような微妙な感情が彼の顔に浮く。
…と思ったら、ふいっ、と彼は背を向けてしまった。
言い返すことも、最早せず。
「…キャプテン・ラグナ」
「…おっと」
それを見咎めたキャプテン・ルーガに軽くひじでつつかれて。
キャプテン・ラグナの表情に、ちょっとばかり気まずそうな色。
…どうやら、少しいじめすぎてしまったようだ。
そう思った彼が、ほんのちょっぴり反省した…その時。
「…」
ざっ、と、偃月刀使いの脚が、大地を一歩踏みしめる。
こちらに背を向けたまま、何処へと行こうというのか…
「何処に行かれるんです、車弁慶殿?」
声をかけたキャプテン・ラグナに、やはり振り向くことなく、不愉快そうに低く押し殺した声で。
「訓練所だ。…ここにいても、やることがあるわけでもなし!」
「…ほーう」
「キャプテン・ラグナ。貴様も暇なら付き合え」
「ええ、構いませんよ?私は」
そう短く答え返し、キャプテン・ラグナも歩き出す。
ずかずかと通りを歩んでいく後姿を追いかけながら。
へそを曲げてしまった偃月刀使いを見やりながら、相変わらずのにやにや笑い―
(ふふ、本当に…ひねくれているくせに、こういうところは愚直ですねぇ!)


「よし!それでは、試験を行うぞ!」
「はい!」
そんな車弁慶の苦悩など、当たり前だがまったくに気づくことなく―
密林。
兵糧庫前にて、袁紹が命じる。
「まずは、四つ全ての拠点を落とし…その上で、900の兵を撃破せよ!」
衛将軍昇格のための試験が、始まる。
緊張した空気の中。
エルレーンは自分の真覇道剣の柄を、手に強く握り締め…待つ。
合図の時を―

「それでは…開始ッ!」

「行くよ、鉄甲鬼!」
「は、はいッ!」
軽革脚甲を纏った白い脚が、大地を踏みしめる。
空斬る勢いも鮮やかに、二人は敵陣に向けて同時に駆け出した―
「そ、そ、それにしても、エルレーン様!」
「何?!」
その疾走を止めぬままに。
頑双戟を両手に走る鉄甲鬼が、エルレーンに問う。
「な、な、な、何故、拙者をこんな重大な試練に…?!」
「あなたには、あの力があるから!」
「!」
同じく、エルレーンも疾走を止めぬまま。
彼を選んだ理由を、叫び返す。
「…袁紹様の一撃は、強くて重い!
だから、例え喰らってもすぐ私が立ち上がれるよう…
あなたの技『特攻』で、私を助けてほしいの!」
「な、なるほどぉー!わ、わかりましたあぁ!」
納得したのか、双戟使いは素っ頓狂な声を上げ、にっ、と笑う。
そんな彼に、エルレーンもにっ、と笑い―
「期待してるよ、鉄甲鬼!」
「ぎょ、御意ぃい!」
共に、密林の木々の中をくぐりぬけていく…!


「…これで、最後ッ!」
斬り捨てた拠点兵長の悲鳴が、唯一残った兵長拠点の中に響き渡る。
兵士、高楼、武将、兵長、指定された四つの拠点は、これで全てエルレーンの手に落ちた。
そして、既に倒してきた敵の数も、指示された900を超えている…
頃合と見た袁紹は、
「よし、拠点を落としたか…行けッ!」
配下に命令を飛ばす、すると―!

<衛士が3人登場!>
<3人の衛士を撃破せよ!>


エルレーンたちの前に、三人の屈強な男たちが立ちふさがった!
手に鉄槍を持った彼らは、勇猛で知られた袁紹が親衛隊の者たち…!
「袁紹様と手合わせしたくば我らを倒してみよ!」
「そう簡単にはやられんぞ!」
雑兵たちとは明らかに違う、気迫を全身にみなぎらせた刺客たちを前に。
エルレーンは、だが、退きはしない…
「…鉄甲鬼ッ!」
「はいッ!」
刹那、それは影になる!
あまりの素早い動きに、彼の姿は影になる!
宙に舞うのは双戟使い、鉄甲鬼!
頑双戟が光をはじき、それが放つは無双乱舞―!

「せ、拙者を甘く見ないほうがいいッ!」

「う、うおおッ?!」
副将の一撃に、さすがの衛士たちも怯まずにはおられない!
だがそれだけではない、同時にその無双の気迫が放つのは、彼が持つ特殊能力…
己の傷を癒す速度を倍にする妖力の波!
これこそが鉄甲鬼の特殊技・「特攻」なのだ!
その光の波を浴びたエルレーンの全身に、一挙に熱がみなぎっていく!
そして彼女も打ち放つ、一撃必殺の無双乱舞…!
「はあああッ!!」
「うわあああああーーーーッ!」
流れるような連撃を受けた衛士たちは、抵抗することもあたわずに吹っ飛んだ―!
「ぐはっ…み、見事だ!」
「さすがだな、降参だ…」
もはや立ち上がるだけの力も無いのか、地に伏したまま悔しげに漏らす。
しかし…
勝利の余韻に浸っている時間など、ない!
「後は…!」

<所属武将に己の力量を示せ!>

「…!行こう!」
「御意!」
四つの拠点。900の兵。そして三人の衛士。
最後に残ったのは、御大将!
疲れも癒せぬままに、エルレーンと鉄甲鬼は彼が待つ兵糧庫前へと急ぐ、
袁本初が待つ、あの場所へと―!
「よかろう、かかって来いッ!」

だが。
主君・袁紹の武は、彼女のそれより遥かに大きく強く―
そして、冒頭の絶叫と相成るわけである。
少女は、宝剣使いの少女は、明らかに怖じていた。
恐ろしいのだ。己の主君の、その剣の冴えが。
その剣撃のもとに倒される自分の幻影が、脳裏に付きまとって離れないのだ…
嗚呼、だが―
彼女だって、わかってはいるのだ。
やるか、やらないのか。
人生には、結局その二つしかないのだから。
そして…
この場にて、選ぶべき選択肢は―
「…〜〜ッッ!!」
「?!え、エルレーン様ッ?!」

一つしか、ないではないか!

駆け出す。
駆け出す。
真っ直ぐに。
愚かなまでに、真っ直ぐに!
鉄甲鬼の絶叫が聞こえる、
それでも駆け出す、駆け出している、
彼女は雄叫びを上げる、

「どのみち!逃げたって!仕方ない!」

これは試験だ、試練なのだ、
与えられた試練に尻尾を巻いて逃げることなど出来ない、
そんなことをするくらいなら、はじめからこんな道など選ばない、
戦いの道など、選ばない―

だから少女は叫ぶ、
宝剣使いの少女は叫ぶ、
そして大地を思い切り踏みしめ、
高く高く舞い上がる―
まさしく、若鷹のように!

「打ち勝って…みせるッ!」

黄金の甲冑をまとった袁紹の鼓膜を、少女の咆哮が貫いていく!
己が部下の勇猛さに、彼はにやり、と感服の笑みを漏らす―
「よし、その意気だ!」
だが、だからと言って…彼女の剣に倒れてやる気は、毛頭ない!
「袁紹様、お覚悟!」
「だが―浅いッ!!」
―ぎいいいん!
少女の魂魄の一撃は、それでも…あっさりと、袁紹の真覇道剣に振り払われた!
「ぐ?!」
少女の顔に、動揺と恐怖が浮かんだ―
次の瞬間。
強烈な鈍痛が、少女の胸部に穿たれた。
「きゃああああああああ!」
悲鳴を上げて吹っ飛ぶエルレーン。
そのまま地面に跳ね飛び、ごろごろと転げまわる…
がらん、と、同じく地面に放り出される、彼女の宝剣。
少し遅れて、全身に走るのは、痛み。
凄まじい衝撃が彼女の身体の神経も骨も筋肉も、精神すらも痛めつけ…
闘志を、挫く。
瞬時、意識が飛びそうになった。
だが、短く放たれた矢のような言葉。
死刑宣告にも似たそれが―彼女に、そうさせなかった。
「出直して―来いッ」
「!!」
頭上から落ちる影。
剣を振りかざしている袁紹の強大な姿。
少女の瞳孔が、這い上がるような悪夢の予感できゅうっと縮まった―
終わりの瞬間を、予測して!


だが。
その終わりの瞬間は―

「え、エルレーン様ーーーーーッッ!!」

彼の双戟が、斬り捨てた!


「…?!」
「ぬ…!」
「ぐ、ぐぎぎ…ッ!」
まるで、身体ごと体当たりをかますような勢いで。
一対の頑双戟が、袁紹の真覇道剣を受け止めた―!
己の全ての力をその鋼鉄の武具に込め、己が主君を守らんと!
「え、え、エルレーン様!せ、拙者が持ちこたえている間に、早く―」
「…鉄甲鬼!」
自分の身を呈し、エルレーンを守らんと!
ざあっ、と、心中に拡がっていく。
勇気を奮い立たせ。闘志を燃え立たせ。
「特攻」の効果か、彼女の負った痛みは、みるみるうちに癒えていく。
少女は再び地に落ちた己の真覇道剣を取り返す、
と同時に、鉄甲鬼にも限界の時が来る…!
「てぇぇぇえええいッ!」
「ぎゃーーーーーーッ!」
思いきり振り払われ、先ほどのエルレーン同様吹っ飛ばされる鉄甲鬼!
彼の悲鳴が、宝剣使いの少女を激昂させる!
「うあああああああああああああああッッ!」
電光のごとき怒りを帯びて、エルレーンは突撃する!
「お願い、当たってええええええーーーーーッッ!!」
少女の絶叫が、再び密林の空気を震わせた―!

「…ふむ、まずまずと言えよう!」
満足げに髭を弄びながら、袁紹はうなずいた。
試練終了後。兵糧庫前にて。
足下に侍る宝剣使いの少女を見やり、講評を述べる主君。
「少しばかり危ういところもあったが、まあよい!
名族の臣として恥ずかしくないだけの技量は備えているようだな!」
最後の少女の一撃は、見事袁紹に膝をつかしめた…
とうとう、彼女たちはやり遂げたのだ。
「衛将軍を名乗るがよい!
袁家の将たる誇りを胸に、名を汚さぬよう尽力せよ!」
「は、はい!ありがとうございます…!」
土ぼこりに汚れてしまった顔。
だが、今そこに浮かんでいるのは…自分を誇らかに思う、美しい勝利の表情だ。
「…あれを」
「はっ」
と。
親衛隊の一人に、袁紹が短く命ずると。
彼は、大き目の赤い塗り箱を持ち出して来、それを袁紹に渡す。
その箱を、彼は少女の目の前で開く―
その中に入っていたのは、純白の外套。
「これを纏うがよい、誇り高き衛将軍の証よ!」
「…!」
衛将軍以上の身分の者にしか与えられぬ外套、神獣・白沢の描かれた白沢皓綺套(ハクタクコウキトウ)…!
今までは憧れでしかなかったそれが、晴れて自分のものとなったのだ―
震える手で、白き威信を受け取る少女。
その透明な瞳には、感激の涙があふれていた…
己が主の勇姿に、鉄甲鬼も思わず目頭を熱くしたのか…やはり、その目にはうるむものがあった。
「お、おめでとうございます、エルレーン様!
これもひとえに、あなたの…」
「ううん、鉄甲鬼…これは、あなたのおかげ」
彼の言葉を静かに制して。
今、衛将軍となった少女は、双戟使いに泣きながら笑いかけた。
きらきらと輝く、露のような涙をこぼしながら。
「あの時、あなたが身体を張って助けてくれなかったら…私、多分駄目だった」
そうして、柔らかな月光の微笑をもって、副将に報いる。
「ありがとう、鉄甲鬼」
「いいんですよ、だ、だって、せ…拙者は」
それでも。
この心やさしく、気弱で繊細な双戟使いは、そのことをちっとも鼻にかけない。
己自身の武勲など、どうでもいいかのように。
彼はただ捧げるだけなのだ、己の武勇も知略も、全て他の誰かのために。
それを実際に行うのは、頭で思うよりもずっとずっと難しいこと。
けれども彼はそうするのだ。
夢の中のあの青年とはまったく違った、
それはこの「鬼」の名を持つ双戟使いの、紛れもない心の強さ―


「あなたの、副将なんですから」


衛将軍に昇格しました
衛(えい)将軍は国の重鎮となる重い役職です
特務・衛将軍昇格の試練を達成しました


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