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青春Fire!〜知力・体力・チームワーク!〜(6)


「!」
「…」
司会のアナウンサー・河豚沢の言葉に、場内がにわかにざわめき立った。
ほとんど全チームが勝ち抜け、楽勝か…と思われた矢先の発言に、動揺する参加者たち。
―が、我らが車弁慶は、どうもいまひとつ理解していないようだ。
「お、おい、一体どういうことだ?何か、それってそんなにヤバいのか?」
「つまり、間違ったりして誰も答えられない問題も、48問のうちにカウントするってことだろ」
「…だから、キャンセルされた問題分、失格チームが増えるんだよ」
「…」
俺とリョウが親切丁寧に解説してやると、どうやら奴も理解したようだ。
…両眉がハの字眉状態なのが気になるが、何とかついてきていると信じたい。
「…」
「…」
「…」
無言のまま、俺たちは思わず…奴らに目をやっていた。
俺たちの斜め前にいる、あいつらを。
神奈川県代表・百鬼帝国青龍学園。
(…あいつらがどう出るか、だな)
俺は、自分の中だけで一人ごちた。
(この本番中に何かを起こすかもしれん…その時は)
奴らの狙いが何なのかはわからんが、この収録の真っ最中に騒動を起こす…その可能性も、十分ありうる。
その時は、ゲットマシンを呼んでる暇もない。
俺たちが、やるしかない。
(俺が片をつけてやる)
ズボンのポケットに、手をやって確認する。
そこに隠したゲッター光線銃の硬い感触が伝わってくる。
万が一のときは、きっと役に立ってくれるに違いない。
ちなみに、ゲッターチームのリーダー・流竜馬は…あれだけ荷物を持ってきたくせに、武器はきれいさっぱり置いてきてしまっていた。
俺たちに指摘されたこいつは、ぽかん、とした顔をして…
「…あっ、」とだけ、つぶやいた。
…何が「…あっ、」だこのうっかリーダー
ゲッターチームの一員として、いつでも百鬼の奴らに襲われかねないと言うことがわかっていない。
いや、というより…純然と浮かれていたんだろうか、この「高校生クイズ」全国大会に出られるということに。
しかしその一方で、ベンケイはちゃんと光線銃を持ってきていた。
ああ駄目だ、やっぱりうっかリーダーだ…
「…さあ、準備はいいかな、精鋭諸君?」
―おっと。
そんなこと、今はもうどうでもいいか。
「それでは、行こうか―『BATTLE LAND』!」
いよいよ、始まるのだから。
「全ての問題は早押しだ…今回は、お手つきはなし、お手つきはなしです」
河豚澤が念を押す。
間違えてもあきらめずにトライしろ、と言うことだろう…
言われるまでもなく、そのつもりだ。
周りの誰もが、我知らず身を前に乗り出していた。
河豚澤の放つ言葉の一音一音を逃さずキャッチし、誰よりも早く答えるために!
「…では、」
147人が息を飲み、
147人が手を伸ばす―
卓上の早押しボタンの上に、
俺たちのブースの上、
早押しボタンの上に、
俺と、
リョウと、
ベンケイの手が乗せられる…!


「問題!」


「イタリア語で「米」を意味する、イタリア風雑炊といえば?」


途端。
涼やかな、それでいて緊迫を生むボタンの音。
「!」
「えっ―」
俺たちは、目を見張った。
そのボタン音の、ボタン音の出所は…


「神奈川県代表・私立百鬼帝国青龍学園!」
鉄甲鬼が、マイクに向かって自信たっぷりに言い放つ!
「―リゾット!」


「…」
一瞬の、間。
張り詰めたその空白を、突き破るのは…絶叫!


「…FIREEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」


「熱血」をそのまま音波にしたような、河豚澤の絶叫…
だが、それは今の俺たちにとっては、絶望を告げる鐘の音にしか聞こえなかった。
「早くも二回戦進出けってーいっ!」
隣を見る。
リョウが、ベンケイが、驚愕の表情を浮かべたまま、固まっている。
「な、何、」
「そんな、あいつらが…」
「…」
そいつは、俺も同じことだった。
予想外だ、思いもしなかったことだ…
まさか、まさか―
この場で事を起こすどころか、いの一番でクイズに正解し、二回戦に進出するなんて!
わからない。奴らの狙いが、わからない。
…勝者はステージから降り、スタジオの外へ誘導される。
スタッフに促され、ブースから駆け下りていく鉄甲鬼たち…
だが、その時。
奴らは最後に、俺たちのほうを振り向いて―
「…」
「…ふふん!」
「…ッ!」
…畜生。
確かに、あいつらは…笑った。
俺たちを嘲笑っていったんだ、その去り際に!
さげすまれた怒りに、リョウの頬が、かああっ、と紅くなる。
「…〜〜ッッ!!」
「ち、畜生、あいつら…!」
「…おい、お前ら、本腰入れろよ」
「ハヤト…?!」
押し殺した声で、俺はリョウたちにささやく。
「あいつらが、何か騒ぎを起こすにしろどうにしろ…俺たちもあいつらの近くにいなきゃ、何にも出来ないんだぜ」
「…それで?」
「…とことん鈍いな、ベンケイさんよ!」
こんな状況になってもまだおつむの回転が遅いベンケイに、俺は軽い苛立ちを覚えながら…わかりやすく言い直してやる。
「だから!俺たちも、クイズに通って二回戦に進出しなきゃならなくなったんだ!」
「!」
「ここで負けたら…俺たちゃ、長野にとんぼ返りだぞ!」
早々に敵に逃げられた俺たちにできることは、もうひとつしかない…
俺たちもクイズに正解し、奴らの進んだ二回戦に進むこと!
「さあ、1チーム減ったところで…問題!」
2問目。後、47問。
「ナイアガラ、キャンベルアーリー、デラウェアなどの種類がある果物は?」
瞬間。
がたがたがたがた、ステージの様々な場所から、ボタンを叩く激しい音が聞こえた。
だが…鳴り渡るボタン音は、ひとつだけ!
「マ・メール高校!」
「ぶどう!」
「…ファイアーーーーーーーッ!!」
再び轟く、河豚澤の雄たけび!
「鹿児島県私立マ・メール高校、二回戦進出ッ!」
「…!」
がたがたん、と椅子の鳴る音を立て、強豪マ・メールもあっさり二回戦への切符を手に入れた…
そして、ステージを降り、出入り口へと消えていく。
…残り、46問。
「問題!」
レースは終わることなく続いていく。
生き残りの、サバイバルゲーム。
知力のみを武器にして戦う、過酷な奪い合い…!


「子どもに対する親の心配は尽きない事の例え、「子は三界の何」という?」


「…」
「…」
今度は、ボタンの音が即座には鳴り響かなかった。
問題の意味を理解するも、その答えがなかなか出てこないのだ…
それは、俺たちも同じ。
リョウも、ベンケイも、あっけにとられたような顔をしている。
「…!」
ボタン音。
意を決した1チームが、賭けに出た。
「札幌北東高校!」
「か、かすがい!」
「―違うッ!」
河豚澤の断じる声が、札幌代表の答えをぶちぎった。
そうだ、かすがいじゃない…これは別の言い回しだ、「子はかすがい」じゃないほうの。
三界の…三界の…
何だったか、見た事は絶対にあるんだ、どこかで。
「…」
「…!」
やな言い回しだが、「女は三界に家なし」ってのがあったっけ…違う、これじゃない、これじゃない。
ああ畜生、ここまで出てるのに!
静まり返ったスタジオに、緊張感だけが張り詰める。
誰もが息を呑み記憶を探っているのだ、
だが、かち、かち、かち、かち、と秒針が冷酷に時を刻む音だけが鳴り渡り、鳴り渡り、
俺の混濁した思考がその答えにたどり着く前に―


「…三分経過、この問題はキャンセルされた!」


河豚澤の宣告が、俺たちの頭上に絶望感を振りまいた。
思わずこぼれ出るため息は、残り47チーム分を巻き込んで、重苦しいスタジオの空気をかき混ぜる。


「「子は三界の…」、答えは、「くびかせ」だ」


「…」
「…!」
河豚澤がゆっくり述べた答えに、何人もの参加者が悔しそうな顔をする。
そうだ、「首枷」だ…
すとん、と腑に落ちたと同時に、こんなものを思い出せなかった自分自身に怒りの感情が湧いてくる。
俺も、思わず唇を噛む。
…すまない、リョウ、ベンケイ。
俺がとっとと思い出してボタンを押してりゃよかったのに―
「問題!」
だが。
俺の感傷も引きちぎって、ゲームは進んでいく。
俺は慌てて耳を澄ます。朗々と響き渡る、河豚澤の声。
「「君主はライオンの力と狐のずるさが必要」と説いた、イタリアの政治家は誰?」
刹那の速さで、とどろくボタン音。
「鴨川高校!」
「まき…マキャベリ!」
「FIREEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」
鴨川高校の答えに、祝福の叫び―!
「岐阜県立鴨川高校、二回戦進出決定ーッ!」
「よっしゃあああーーーーっ!!」
そしてまた勝者が決定し、喜びを分かち合う岐阜県代表が明るく笑っている―
だが、それは俺たちにとって…また一歩、がけっぷちに追い詰められたということ。
「…」
(また…一つ減ったか!)
だが、レースはまだまだ続くんだ…
「問題!」
そう、まだまだ!




「きびしくひっきりなしに催促する事を、ある武器に例えて「何の催促」という?」
「外見は立派だが、土台が弱くて物事が実現出来ないことを例えて「砂上の何」という?」
「妻の収入で養われる夫の事を、かつて稼ぎがよかった女性の職業になぞらえて「何の亭主」という?」
「ことわざで、「死して名を残す」のは人。では「死して皮を残す」動物は何?」
「アラビア語で「禁じられた場所」という意味を持つ、イスラム教徒の夫人専用の部屋を何という?」
「花札の10月の札に書かれている鹿が横を向いているところから、無視する事を俗に何という?」
「ヘブライ語で「油を注がれたもの」という意味で、ユダヤ教の救世主をさす言葉は?」





問題数は全48問。
だが、その問題はどんどん消費され、どんどんキャンセルされていった。
49チームが詰め込まれていたステージは、今はくしの歯が抜けたようになった。
ぽつりぽつり、正解チームが抜けていく。
ひとつひとつ、問題キャンセルで勝者の椅子が減っていく。
簡単な問題もあるし、俺が答えをすぐに思いつくようなものもある。
だが、これは早押しだ―
わかるだけでは駄目だ、誰よりも早く問題を理解し、誰よりも早くボタンを押さねばならない。
リョウやベンケイも思いは同じらしく、じりじりした焦りの色が浮かび始めた…
いや違う、その思いはこの場にいる…スタジオに残っているどのチームも同じなのだ。
皆目を血走らせ、喰い入るように河豚澤を見つめている…
(―!)
視線を、感じた。
反射的に目線を走らせる。
スタジオの出入り口。正解チームがくぐり抜けていった、勝者への道。
そこに、いつの間にか…あいつらが、いた。
揃いのダサい真っ赤なシャツで、奴らはそこから覗いている―
俺たちを、笑いながら!
(…畜生ッ!)
俺は、歯を喰いしばった。
ぎしっ、という硬い音が、嫌なくらいに頭蓋に響く。
リョウやベンケイも、奴らに気がついていた。
怒りに燃えるリョウの目、ベンケイの目。
ああ、きっと、俺も同じような目をしてるんだ―


「問題!」


河豚澤の声。
俺たちは、それでも前を向く。
あきらめられない。負けるわけにはいかない。
逃げるわけには、いかない。


「ドイツ語で「木のお菓子」という意…」
「!」


問題文を、最後まで聞かずに。
ボタンに伸ばしていた右手のひらに―衝撃。
軽く痛みすら感じるほどの、衝撃。
重なっていたその手を押したのは…
「?!」
「べ、ベンケ…」
「浅間学園!」
思わず、俺たちはベンケイを見返す。
問題はまだ、全てが明らかにされていない…
つまり、引っ掛け問題などの可能性もある。
俺とリョウは、息を呑む。
だが、ベンケイは…たじろぐことすらなく、スタジオ中に響くようなでかい声で、目の前のスタンドマイクに向かって叫んだ!


「…バウムクーヘン!」


そして、俺は見た―
右人差し指を天に突き刺し、地響きのような声で叫び返す河豚澤を…!


「…ファイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」


鼓膜を震わせるその宣言が、俺たちの胸をも震わせていく!
「長野県私立浅間学園、二回戦進出ーッッ!!」
「おっしゃああああああああああああああッッ!!」
「そう、そのとおり!…ドイツ語で「木のお菓子」という意味で、小麦粉で出来た記事が層になっている食べ物は?
答えは、「バウムクーヘン」だッ!」
ベンケイが、両手を挙げて雄たけびをあげた。
意外なベンケイのクリティカルヒットに、俺たちは救われた。
「や、やった、やったぞベンケイッ!」
「やるじゃねえか、ベンケイさんよ!」
「なぁ〜に、喰い物のことならまかしとけって〜」
しかし、当の本人は…(珍しく)褒めちぎる俺たちに、軽くそう言って笑うだけ。
妙なところで見せる底力は、こいつが本当一番だ―
ああ。
だが、ともかく…これで、つながった。
奴らを追うための道は、つながったんだ。


(…逃がさねえ)


会場に残った参加者たちのうらやましそうな、うらめしそうな視線を背中に感じながら、俺たちはスタッフに促されステージを降りる。
スタジオの出入り口に向かう。
足取りも軽い。うまくやってのけた快感と達成感が、俺たちを包んでいた。
そして―
出入り口のそばで、俺たちはもう一度…あいつらと、目線を合わせた。


(逃がさねえぜ、百鬼帝国!)


奴らが、苦みばしった表情で俺たちを見ていた。
軽く舌打ちでもしそうな表情で…
俺は、先ほどの分も込めて、奴らを強く睨み返す。
俺たちがそうやすやすとお前たちを行かせるわけがない。
挑戦と挑発を込めて、俺は冷然と奴らを睨み返したのだ―




(俺たちゲッターチームを、甘く見るんじゃねえぞッッ!)




マイオンスペシャル・第16回全国高等学校クイズ選手権
全国大会・第一回戦→第二回戦 49チーム→43チーム


=====第二回戦進出!!( )内はチームリーダー名=====

秋田県立明田高校(佐賀)
山形県立山形東南高校(竹田) 岩手県立森岡第一高校(千野)
宮城県立千対第二高校(富家) 福島県立愛馬高校(諏訪谷)
新潟県立五条高校(山林) 富山県立丘高高校(小田)
石川県国立沢金大学教育学部付属高校(大田)
福井県立羊歯高校(大昏) 栃木県立鉄橋高校(松木)
茨城県私立淀川学園(原笹)東京都私立弁天女子高校(下木)
東京都私立海山大学付属高校(荒瀬)
千葉県立橋船高校(北島) 神奈川県私立百鬼帝国青龍学園(霧伊)
山梨県立公武南高校(中条) 静岡県私立制法大学第二高校(宮路)
愛知県立古川高校(海谷) 長野県私立浅間学園(流)
岐阜県立鴨川高校(跡部) 三重県立伊勢島高校(伊豆)
滋賀県立石達山高校(川村) 京都府私立士同社高校(宇野辺)
奈良県私立正大寺学園高校(日野) 大阪府立小手前高校(川吉)
鳥取県立取鳥東高校(本田) 和歌山県私立近々大学付属河山高校(辻北)
島根県立雲出高校(狩野) 広島県立十五日市高校(上田)
山口県立狩日高校(森藤) 岡山県立岡山東城高校(松本)
香川県立松高北高校(谷脇) 愛媛県立東条高校(田富士)
徳島県立南城高校(長門) 高知県私立高知芸学高校(藤原)
佐賀県立佐賀西南高校(村下) 長崎県立長崎北西高校(道也)
宮崎県私立日向学園高校(満岩) 鹿児島県私立マ・メール高校(村松)
沖縄県私立沖縄聖楽高校(古雅)