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青春Fire!〜知力・体力・チームワーク!〜(11)


真夏の太陽が、じりじりするような熱線を投げかける。
コンクリートにぶち当たり跳ね返るその熱線が、俺たちを焼く。
静かに立ち上る熱気が揺らめき、俺たちの視界の中、マイクを握って立つ河豚澤アナの姿をにじませる。
「ようこそ、準決勝…『SUPER SHOCK LAND』へ!」
燃え滾るような空気に阻まれ、スピーカー越しの声は軽く歪む。
俺たちはその灼熱に耐えながら、立ち尽くしている。
野外。準決勝。
そこに残っているのは、18人。
「全国から集いし精鋭たちも、もはや6チームを残すのみとなった!」
そう。
第一回戦であれほどたくさんいた出場チームも、もう…たったの18人。
栃木県立鉄橋高校。
滋賀県立石達山高校。
愛媛県立東条高校。
鹿児島県私立マ・メール高校。
俺たち、長野県私立浅間学園。
そして―
神奈川県私立百鬼帝国青龍学園。
あの準々決勝を、俺たちは勝ち抜いた。
だから俺たちはここにいる。準決勝の場に。
俺たちも。
「奴ら」も。
「そして、次こそが決勝戦…勝利の栄冠は、既に君たちの眼前にあると言っても過言ではない」
そうだ。
次が、決勝戦なのだ。
鉄橋やマ・メールのような、高校生クイズ常連校ならまだしも…
まさか、自分たちがこんな場所までこられるなんて、思ってもいなかった。
「奴ら」にここで会い、そして同じように勝ち残ることなんざ、想像すらできやしなかった。
「…しかぁしッ!」
河豚澤アナの、演技がかった転調。
額に巻かれたハチマキが、風のない空を斬る。
「その、決勝戦に進めるのは!…たった3チームのみ!」
決勝戦は、いつも同じ。
3チームによる早押しクイズ、お手つきありの10ポイント先取戦。
今、この場に残っているのは―6チーム。
つまりは、半分のチームが…ここで、涙を呑むことになる。
「3枚の切符を手にする勝者を決めるのは―これだあッ!」
そして、河豚澤アナが大きくその右手を掲げ、指し示したその先、
「…!」
その先を一斉に俺たちも見る、
その先にあったモノは―!


一直線、一列に並んだ五つのブース、
たったそれだけのシンプルな解答席セット…!


「準決勝・『SUPER SHOCK LAND』!単独最下位脱落リレークイズだ!」


「リレー…?!」
「どういうことだ?」
リレー形式、しかも聞きなれない「単独最下位」という言葉に、ざわめきが湧き出す。
俺を見るリョウとベンケイの表情にも、かすかにいぶかしげなものが浮かんでいる。
「では、ルールを詳しく説明しよう!」
そんな俺たちを司会者席から見る河豚澤から、内容を説明するセリフが飛んできた。
そのクイズのルールは、こんなものだった―


準決勝・『SUPER SHOCK LAND』 単独最下位脱落リレークイズ
1・このクイズは解答をフリップボード(解答用記入板)に書いて行う方式を取る。
2・チームより一名が出て、解答する。6チーム一斉に行う。
3・その解答が不正解ならば、その選手は失格となり、チームメンバーと交代する。
4・ただし、それは、間違えたその時点でその選手が「失点が単独最下位」である場合のみ。
もし間違えた失点が同点の者がいれば、「単独最下位」が決まるまでクイズを続行する。
5・チームメンバー3名が失格となった時点で、そのチームは決勝進出権を失う。



「…」
「…」
俺たちは顔を見合わせる。
―思った以上に、厳しいルールのクイズだった。
「間違ったらほとんどそこで終わり、ってことか…」
「ああ、同じように間違った奴がいない限り、」
「そこで交代…」
しかも、自身が答えがわからなくても、仲間に聞くことは出来ない。
自分の得意分野と外れた問題が出ても、仲間に聞くことは出来ない。
解答ブースに立てるのは、一人だけ…
一人ぼっちの戦いなのだ。
「…」
「…」
周りを見回せば、他のチームの奴らも、多かれ少なかれ緊迫感をにじませていた。
今までのクイズとは違い、「三人のうち誰かが知っていれば…」という余裕はない。
しかも、もし自分ひとりが間違えたら…そこで終わりになってしまうのだ。
―あいつらも。
あいつらも、なにやら心配そうな顔で、お互い小声で何事かしゃべっている。
神奈川県代表・私立百鬼帝国青龍学園。
…「霧伊」、「蝶野」、「自雷」。
頭にツノのない、
「人間」と何も変わらない、
そして俺たちと同じ、今から始まる準決勝に戦々恐々としている―
「高校生」の。


「では行こう!勇者たちよ、位置につけ!」


河豚澤アナの声が、夏の青空に大きく響いた。
わずかにハウリングしながら、スピーカーがその声を大きく大きく、拡げていく。
広がる残響に後押しされるように、俺たちはバラバラと自分の高校名が書かれたブースの後ろに集まる。
「うっし…!」
俺たちのチームのトップバッターは、ベンケイだ。
じゃんけんで決めたのだが、案外悪くはない。
雑学ならあるベンケイなら、うまいところまでいけるだろう。
「がんばれよ、ベンケイ!」
「ああ…早々に間違ったら勘弁な!」
「弱気になるなよ、お前さんらしくないぜ!」
段を上がり解答ブースに着いたベンケイに、俺たちは口々に声をかける。
ちょっとばかし不安げな顔を、無理やりに不敵なものに作り変えて、ベンケイはにやり、と笑ってみせた。
「じゃ、俺が一番に行くぜ!」
「ライちゃん、ガッツだ!」
その右隣では、神奈川県百鬼帝国青龍学園チームがスタンバイしている。
先陣を切るのは、「自雷正樹」。
「ドジを踏むなよ、自雷鬼!」
「おうよ!」
あきれるくらい、長身の男。
長身の男が、幾分緊張気味の様子で…それでもそれに負けぬぐらいの大声を出して、仲間に答え返す。
残り4チームも、それぞれに第一選手を選び、ブースに送り出した。
ベンケイの目の前に、「自雷」の目の前に、山とつまれたフリップボード。
このフリップをどれほど乗り越えれば―行くべき場所に行けるのだろう?
刹那。
異様な空気が、その場に流れた。


「では…単独最下位脱落リレークイズ、第一問ッ!」


しん、と、突然に静まり返る。
残響音が、またわずかなハウリングを伴って散っていく。
誰も、何も言わない。
解答席に立つ一人目の選手たちも。
その後ろで控える仲間たちも。
カメラや集音マイク、台本やボードを手に持ってこっちを見つめる、TVスタッフたちも。
―聞こえるのは、遠くを走る車のエンジン音。
そして、今を盛りに泣き喚くアブラゼミの声だけだ…


「文字遊び『へのへのもへじ』口の部分に来る文字は?」
問題文が終わらないうちに、皆目の前のボードに飛びついた。
そして、マジックで大きく大きくその文字を書く。
「…では、答えを上げてもらおう」
河豚澤の促しに、6チームの選手が同時にフリップボードをスタンドに差し込んだ。
俺たちからは、そこに何が書かれているかは見えない。
けれど、答えはわかりきっている―
「へ」、と書かれているはずだ。
ベンケイのフリップにも、「自雷」のにも。
「…」
河豚澤アナは、何も言わなかった。
ただ、出揃った六つの答えを睥睨しているだけ。
…奇妙な、空白。
その奇妙にあいた数秒の間に、何も宣誓されないその異様な間に、わずかな動揺が走る。
河豚澤アナは、何も言わない。
それはすなわち、「何も起こらない」ということか―
「単独最下位」が出来ない限り、メンバー交代が起こらない。
だが、この解答の正否すら知らされないままなのだ…
自分があっているか、間違っているか、
勝てそうなのか、負けそうなのか、
安全なのか、危険なのか、
何一つ解答者にはわからないまま、


「第二問」


次の問題に移る―
嗚呼。
それにしても、静かだ。
静かで、熱い。
「『そりが合わない』『しのぎを削る』『付け焼刃』想像される武器は?」
また、一斉に書き出す解答者たち。
そうだ、この答えも難しくはない…
「刀」、だ。
けれど、「簡単な問題」、「難しい問題」なんてものが、本当にあるのだろうか?
クイズの勝敗を分ける条件。それはたった一つ、
「知っているか、いないか」―
だから、自分が知っていれば「簡単な問題」、知らなければ…
「東条高校、浅木君」
「え…!」
「現在の問題で、単独最下位…残りのメンバーと、交代だ」
―「難しい問題」、それだけだ。
どうやら、今の問題を間違えたのは…彼一人だけだったようだ。
東条高校の一人目が、脱落した。
「ご、ごめん…」
「大丈夫だって!」
すまなそうに詫びる彼を励ましながら、二人目が解答席に上がる…
だが、まだ序盤。
まだまだ、勝負はわからない。
「皆で分けるのは「山分け」では、新しい分野を開拓した人は何わけ?」
第三問。
答えは、「草分け」。
6人が書いた答えは、果たして正答なのか、誤答なのか。
誰にもわからない。
誰にも。
誰ががけっぷちに立っているのかも―
わからないまま、ゲームは進む。
「オリンピックで「入賞」といったら、何位以内に入る事?」
第四問。
これは…俺も、はっきりと思い出せない。
隣に立つリョウも、微妙な表情をしたまま、ベンケイの背中をにらみつけている。
奴のでかい背中が、もそもそと動いている。
ベンケイは答えを見つけられたのか…?
空白。
静かなその空白を割ったのは―河豚澤アナの、無情なコール。
畜生、あろうことか、その呼ばれた名前は…
「…浅間学園、車君」
「!」
「単独最下位になった…よって、交代だ」
ベンケイのものだった。
無言のまま視線で促され、ベンケイは振り返って解答ブースから降りる…
「くそッ…すまねえ、俺…」
「気にするな、ベンケイ」
「ああ、その通りだ」
両肩をがっくりと落とし、申し訳なさげな様子で。
けれど、誰がお前を責めるものか。
責められるものか。
俺とリョウの言葉に、ベンケイは軽く…それでも、すまなそうに…微笑った。
そして、ちらり、と、俺を見る。
―任せろ。
「…俺に任せろ!」
今度は、俺の番だ。
俺は、浅間学園の二番手として、解答ブースに上る。
目の前につまれたフリップボード。
6人が一列に並んだ解答ブース。
俺の隣には、神奈川県代表チーム・百鬼帝国青龍学園のブース。
「毎年、野球界で名選手に送られる『MVP』。Mは『Most』、Vは『Valuable』、ではPは何の略?」
第五問目、俺にとっては第一問目。
「Player」、と、俺はフリップボードに書いた。
簡単な問題のはずだ。
けれども―
「マ・メール高校、田崎君」
「あ…」
「この問題で…交代だ」
「…」
一番向こうのブース、強豪校マ・メールの一人目が…脱落。
簡単な問題のはずだ。
けれども、そんなことは、誰にも本当は決められない。
自分が知っているか、いないか。それだけだ。
第六問目。
「南半球で最も高い山は?」
ああ、リョウの奴が持ってきた本に書いてあったような気がする…
半ば、強制的に大会の合間とかに読まされたんだ(百鬼の奴らを見張ってる最中にも!)。
答えは、確か…「アコンカグア」。
変わった響きだったから、印象に残ってるんだ。
…ようやく、リーダー様のおせっかいが役に立ったか。
俺は内心、そんなことを思って軽く笑ってしまった。
―と。
状況が、動いた。
「百鬼帝国青龍学園、自雷君」
「う…!」
「現時点で、君が単独最下位…よって、交代だ」
この問題を落としてしまったのは―自雷鬼。
…いや、「自雷正樹」。
「わ、悪い…お、俺、」
「そんなこと言うなライちゃん、よくやったぜ!」
「そうだ、後は私が!」
そして、奴の後を継いで解答席に上るのは…胡蝶鬼、「蝶野友里香」。
「蝶野」がブースの階段を軽やかに駆け上がる、長い金色の髪が揺れ動く。
ブースにつくその刹那、「蝶野」は俺に視線を投げた。
…挑戦的な、瞳。
だから俺は、にやり、と笑い返してやった。素早く。
そうだ、俺もアンタも、同じ二号機のパイロット―
けれど、今はそんなことは関係ない。
俺たちは、チームのために、チームの勝利のために、たった一人で戦う。
俺たちの戦いは、まだまだ終わらせやしない―!




=====準決勝・単独最下位脱落リレークイズ現在の状況=====
栃木県立鉄橋高校 松木(一人目)
神奈川県私立百鬼帝国青龍学園 蝶野(二人目)
長野県私立浅間学園 神(二人目)
滋賀県立石達山高校 芦屋(一人目)
愛媛県立東条高校 田富士(二人目)
鹿児島県私立マ・メール高校 三木(二人目)