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青春Fire!〜知力・体力・チームワーク!〜(10)


睨み合う。
俺たちと奴らの間に存在する空気が、緊迫感でびりびりと震えるくらいに。
「…」
「…」
「…」
俺は、リョウは、ベンケイは、奴らの前に立ちふさがる。
奴らも、俺たちをにらみつけている。
―と。
「おい、」
「…何だよ」
その緊張を打ち破って、自雷鬼が口を開いた。
俺たち、ゲッターチームを見下ろし、
「お前らなあ―」
俺たちを見下しながら、冷たい瞳で―こう言った。


「お前らなあ、お手つきしやがったらただじゃすまさねぇぞ?」


「…は?」
間の抜けた声が、リョウの喉から漏れた。
馬鹿に仕返したのではない、本当にあっけにとられたのだ。
自雷鬼の思わぬ言葉に。
しかし、そんな俺たちの反応は、奴にとっては不快だったようだ。
焦れたような表情で、なおも強い口調でこう言ってくる。
「何ぼけっとしてやがるんだよ、さっきの河豚澤アナの説明聞いただろーが!」
「このクイズは間違うと点数が引かれちまうんだ」
「…あ、ああ」
そして、ご丁寧なことに、さらに説明を付け加えてくる鉄甲鬼。
いや、そりゃこっちだってわかっちゃいるが…
違う、違うんだ。
俺たちが予想していたのは、そんなセリフじゃなかったんだ。
「いいな、連帯責任だからな?お前ら一回間違うごとに、後で一発ずつ殴らせてもらうぞ」
「な、何だとコラ?!」
「やめろ自雷鬼!不本意とは言えど…今からともに戦わねばならんのに、けんかなんてするな!」
「…」
…何だ?
何だ、何をこいつらは言ってるんだ?
こぶしを固めながら挑発してくる自雷鬼、それを留める胡蝶鬼。
やっていることはおかしくない、けれど言っている内容が…
「お…」
自雷鬼の言葉に思わず反発するベンケイを押しのけ、俺はとうとう…自分の中にあふれかえるその疑問を、言葉にしていた。
「お、お前ら…本気なのか?」
「あぁ?」
「本気で、やるつもりなのか―?!」
そうだ。
さっき奴らに問い詰めた時も、いや…この大会が始まる前、奴らと改めて対峙したその時も。
俺は、俺たちは、奴らに同じことばかり問い詰めてきた気がする。
こいつらは、百鬼の鬼どもだ。
百鬼の鬼どもがこんな場所に現れたんだ、きっと何か悪巧みを仕掛けてくるに違いない、と。
だが―
「…?」
「はぁ?お前らこそ、本気なのかよ?…っていうか、本気出せよ!」
「そうだぞ!俺たち2チーム合わせて、5ポイント先取しないとだめなんだぞ!」
その俺の問いに、奴ら三人は…むしろ、不思議そうな顔をした。
「何をいまさら、そんなことを?」とでも言いそうな顔。
そうだ、それも同じだ。
こいつらは、そんなことを言ってくる俺たちに、そんな表情を見せていた。
ずっと。
つまりは、最初から―そうだった、ってことだ。
「…わ、わかってる」
「ならよし!」
それどころか、俺たちにハッパすらかけてくる始末。
真剣な顔つきで、半ば怒ったように。
その勢いに押され、俺たちはつい首を縦に振ってしまう。
―と。
鉄甲鬼が、こちらに目を向けた。
黒い黒い瞳。日本人みたいな、「人間」みたいな瞳。
「…」
「!」
その目が、俺たちゲッターチームを見る。
「人間」みたいな瞳が、俺を、リョウを、ベンケイを見る。
そして…


「お互い、がんばろうな!」


「人間」みたいな鬼は、そう言って笑った。
それは、毒気のない爽やかな笑顔だった。
うらおもてもない、真っ直ぐな笑顔だった。
だから、俺たちは…戸惑ったのだ。
「…!」
「人間」みたいな目で、
「人間」みたいな声で、
「人間」みたいな笑顔で、俺たちを見ている―「人間」じゃない男。
俺たち人間の「敵」。俺たち人間を支配しようとしている、百鬼帝国の手先。
―けれど。
「あ…」
戸惑っていた。
けれども、リョウも、
「あ、ああ!」
笑って、そう言い返した。
ベンケイも、笑った。
俺も、笑おうとした。
きっとぎこちない笑みになってるに違いない、それでも俺は笑い返した。
鉄甲鬼に…いや、
…「霧伊鉄人」君に。
これから一緒に戦う、「霧伊鉄人」君に。
「さあ、それでは準備はよろしいかな?!」
「!」
「はじまる―!」
その時、河豚澤の声が、俺たちを現実に引き戻した。
それぞれに健闘を誓い合っていた各チームが、三々五々自分たちのブースへと戻っていく…
俺たちも、軽く手を振ってお互いのブースに戻る。
馬鹿げてるよな。皮肉だよな。
殺しあっている「敵」同士の俺たちが、手を振り合うなんて。
馬鹿げてるよな。皮肉だよな。
それでも、同じチーム同士のブースは対角線上に配置され、俺たちのブースの真正面に、あいつらのブースが置かれている。
神奈川県代表の、百鬼帝国の鬼ども。
鉄甲鬼。胡蝶鬼。自雷鬼。
俺たち人間の「敵」。俺たち人間を支配しようとしている、百鬼帝国の手先。
―けれど。


「それでは行こうか!『昨日の敵は今日の友!一蓮托生クイズ』!」


「…まずは、第一問!」
熱風が、河豚澤のハチマキをたなびかせる。
いよいよ、始まる…!
「父はジョー=エル。母はララ。本名をカル=エルという、クリプトン星出身のヒーローは?」
問題文が終わるか終わらないか、それぐらい絶妙のタイミングで…解答ボタンの音が鳴る。
ベンケイもボタンを押したものの―俺たちのブースの解答ランプは、回っていなかった。
真っ赤な解答ランプがぐるぐる回るブースは、解答権を得たチームはひとつだけ。
ボタンを押したのは…鹿児島県代表、マ・メール高校!
「マ・メール高校!」
「スーパーマン!」
「正解!…石達山、マ・メール高校チームに、1ポイント入る!」
初の正解をもぎ取ったマ・メールチームは、ガッツポーズを決め、向かいのブースの石達山高校にもガッツポーズを決めてみせた。
石達山高校の連中も、笑顔でそれに応じた。
俺の隣で、ベンケイが軽い舌打ちをした。
奴も答えには自信があったようだが…いかんせん、早押しは先にボタンを押したほうが勝ちだ。
だが、チームで合計5ポイント取るこのレースは、長丁場になる。
まずは1問、一歩リード…それだけのことだ。
まだまだ、これからだ。
そして、2問目。
「問題!」
河豚澤のアナウンス。
「『どっどど どどうど どどうど どどう 青いくるみも吹き飛ばせ…』で始まる宮沢賢治の小説は何?」
またもや、問題文をぶちぎるようなボタン音!
そして、今度解答権を得たのは―
俺たちの真向かいで戦う、あいつらだった!
「!」
「百鬼帝国青龍学園!」
「風の又三郎ッ!」
自雷鬼が、マイクに向かって勢いよく叫ぶ…
すると!
「正解!百鬼帝国青龍学園・浅間学園チームにも1ポイント!」
正答に、鬼どもが喜んでいる。
俺たちに向かって、笑いかけてくる。
誇らしげに。挑発的に。
そして、「お前らもがんばれよ」、と。
―だから。
俺たちは、誰からともなくつぶやいていた。
同じことを。
「…負けられないな」
「ああ、そうだな」
「負けて、たまるかよ…!」
そうだ。
俺たちも、負けてたまるかよ。
「問題!」
河豚澤の声が、脳内を貫く―
「『聖書以上にホメロスを信じた』といって、トロイの遺跡を発掘したドイツの考古学者は誰?」
俺は、思いっきりボタンを押した。
そうだ。
俺たちだって、負けられない。
「浅間学園!」
「シュリーマン!」
「正解ッ!…百鬼帝国青龍学園・浅間学園チームに、さらに1ポイント!」
俺たちだって、負けられないんだ!




「3Kといえばきつい、汚い、危険。では日本三景といえば宮島、松島とどこ?」
「天橋立ッ!」
「正解!近々大学付属河山・狩日高校チームに1ポイント加算!」

「『行く河の流れは絶えずして、しかももとの水にはあらず』という書き出しで始まる、鴨長明の随筆は何?」
「ほ、方丈記!」
「正解だ!1ポイントを、鉄橋・東条高校チームに!」

「『革命未だならず』の遺言を残して死んだ、三民主義で有名な人物は誰?」
「孫文ッ!」
「正解!小手前・佐賀西南高校チームに1ポイント!」

「フランス語で『白い食べ物』という意味を持つお菓子で、アーモンド、砂糖、生クリームをゼラチンで固めて冷やしたものを何という?」
「ブラ…ブラマンジェ!」
「正解…石達山、マ・メール高校チームにさらに1ポイント!」

「ロシア語で『武器なき護身術』という言葉の頭文字をとった、柔道に似たロシアの格闘技を何という?」
「ちゃ、チャランボ?!」
「違う!…残念ながら小手前・佐賀西南高校チーム、1ポイントマイナスだ!」
「!」
「伊勢島高校!」
「サンボ!」
「正解!伊勢島・森岡第一高校チームに加算!」

「『低い土地』という意味の国。ヨーロッパではネーデルランド、では中東では?」
「イラク!」
「正解!」

「『不可能という言葉は余の辞書にはない』といえばナポレオン。では『あきらめるという言葉は私の辞書にはない』といった、クリミアの天使といえば?」
「ナイチンゲール!」
「正解だ!沢金大学教育学部付属・岡山東城高校チームに1ポイント!」




十数問の問題が終わり、それでも戦いは続く。
チームで5問、とはいえど、お手つきすれば点数が引かれてしまうため、どのチームもなかなかゴールまでたどり着かない。
だが―問題。
「『よい妻をもてば幸せになり、悪い妻を持てば哲学者になれる』。これは誰の言葉?」
刹那…
河豚澤のアナウンスに覆いかぶさるように、高らかに鳴り響く解答ボタンの音!
「!」
「!」
その場にいた誰もが、瞬時にその方向に視線を走らせる。
カメラもいっせいにそちらにレンズを向ける―
鹿児島県代表、私立マ・メール高校!
めがねをかけたリーダー格が、声を張り上げて答えた…!
「ソクラテスッ!」
「…FIREEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」
振り下ろされる河豚澤の腕!轟き渡る河豚澤の雄たけび!
そう、つまり―!
「5ポイント先取!…チーム、準決勝進出決定ーッ!」
「やったあああああああああ!」
「おっしゃーーーーーーーーーーっ!!」
8つの合同チームの中で、最も早くこのレースを抜け出したのは、優勝最有力候補…
滋賀県の石達山高校・鹿児島のマ・メール高校チーム!
お互いに駆け寄り、肩をたたきあって喜ぶ2チーム。
だが、それとは裏腹に、残された14チームの中に静かな落胆が広がっていく。
準決勝に進めるチームが減ったのだ―
つまりは、自分たちの可能性が消えていったということ。
―けれど。
「!」
ばしん!と、突然に、背中に強い衝撃が走る。
あまりの馬鹿力で叩かれたので、軽くむせ返りそうになったほどだ。
そんな馬鹿力を出す奴なんて、こいつしかいない。
驚いた俺は、ベンケイを見る。
…奴は、無言でにやりと笑いかけてきた。
「…大丈夫だ、まだ」
俺は、リョウを見る。
奴も、不敵な笑みを浮かべたままでうなずいた。
「リョウ…!」
「まだ、あきらめるもんか―!」
叩かれた背中が、ひりひりする。
畜生、ベンケイの奴め。
気合入れにしちゃ、ちょっとばかし強すぎるぜ。
(そうだ)
それでも、その痛みのおかげで、身体に血がめぐった気がする。
俺は、顔を上げる。
そこにも、俺たちの「仲間」がいる。
俺の視界の中で。八月の残酷な太陽の光の中で。
鉄甲鬼が、胡蝶鬼が、自雷鬼が―軽くうなずいた、ように見えた。
(あいつらだって、あきらめちゃいない―!)
そうだ、リョウが、ベンケイが、「仲間」たちが俺にするように…!


「問題!」


「人気の腕時計『Gショック』。その女性向けの名前は?」
先ほどの、絶望で濁った空気を切り裂いて、
青空に響いていくボタン音!
俺は、俺たちは見るんだ…
奴らが答える、その瞬間を!
「百鬼帝国青龍学園!」
「ベイビーG!」
「正解!…チームに、さらに1ポイント加算!」
胡蝶鬼の答えに、河豚澤が祝福する―!
「…よしッ!」
「…ッしゃああああああああああああーーーーー!」
「やった!後1問!後1問だ!」
目の前で、真向かいのブースで、奴らがはしゃいでいる。
演技などとはとても感じられないような、喜びの爆発…
神奈川県代表の、百鬼帝国の鬼ども。
鉄甲鬼。胡蝶鬼。自雷鬼。
俺たち人間の「敵」。俺たち人間を支配しようとしている、百鬼帝国の手先。
―けれど。
「リョウ」
「…ああ」
リョウが、静かにうなずく。
「ベンケイ」
「わかってる」
ベンケイも、同じく答えた。
「…あいつらは」
ようやく、腑に落ちた。
飲み込めたのだ。
飲み込みがたい、受け入れがたい、それでも真実としか思えないそれを、俺たちは理解した。
そうだ、そうなのだ。
あいつらは、百鬼帝国の鬼どもは―




「あいつらは―」




=====準決勝進出!!( )内はチームリーダー名=====
栃木県立鉄橋高校(松木) 神奈川県私立百鬼帝国青龍学園(霧伊)
長野県私立浅間学園(流) 滋賀県立石達山高校(川村)
愛媛県立東条高校(田富士) 鹿児島県私立マ・メール高校(村松)