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Who Wants to Be a Millionaire?(富を掴むのは誰の手か?)(1)






金、金、金!
きっと楽しいんでしょうよ、金持ちの世界は!
金、金、金!
いつだっていい天気なんでしょうよ、金持ちの世界は!
あああ、ああああああ
ちょっとばかりのお金があれば 私のやりたいことは何でもできる
ああ、それが金持ちの世界!
それが、金持ちの世界!
("Money,Money,Money" ABBA)





「あ〜、腹減ったなあもう!」
でかい腹をさすりながら、案外甲高い声で、その巨漢は不満を吐き出した。
ボスは…これはあくまで彼の本名ではない、通り名である…うろうろとせわしなくそのあたりをうろつき、台所で食事の準備をしている二人の手下に怒鳴りつける。
「おい!メシはまだなのかよう!」
「もうちょっとデシュ〜、ボシュ!」
「テレビでも見て待っててよ、ボス!」
が、エプロンかけてまめまめしく調理を続けるムチャとヌケにあっさりこう切り返され、彼は頭をばりばりかきながらつぶやいた。
「ん〜、それもそうだわね…」
ここは、彼らが誇る偉大なロボット・ボスボロットの倉庫。
ボスボロットの更なる強化改造に飽くなき情熱を燃やす彼ら三人は、今日も朝からこの倉庫にて改造作業を行っていたのだ。
しかしもはや既にとっぷりと日は暮れ、もうすぐ夜8時にならんとしている。
腹が減っては戦が出来ぬ、とばかりに、食事を二人に作らせているのだが…
どうやら、もう少し待たねばならないようだ。
「え〜と、何かないかしら…」
ボスはどっか、とテレビの前に座り込み、放り投げてあった新聞紙のテレビ欄を片目に見ながら、チャンネルを変える…
ぱっ、ぱっ、と移り変わっていくブラウン管の中の世界。
と、その時…編み出された映像の中から、よくテレビに出てくる有名男性司会者の声が流れ出してきた。

『…さあ、あなたの人生が変わるかもしれない、クイズ$ミリオネアにようこそ』

…が。
「…?!」
ボスの網膜は、彼よりもむしろ…その隣に立っていた「ある男」の姿をはっきりと捕らえたのだ!


「あ、ありゃりゃりゃりゃりゃ〜〜〜んッ?!」


唐突に上がった、すっとんきょうなボスの叫び声。
にら玉を作っていたヌケ、味噌汁をよそっていたムチャは思わず飛び上がる—
「どうした、ボシュ?!」
「お、お、おめえら!あ、あ、あれ…!」
慌てて駆け寄ってきた二人に、ボスは震える指で指し示す。
その指し示された先、14インチのテレビ画面の仲に映っているのは—!
「え?!」
「うそ?!」


『ええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ?!』




さあ、それでは本日最初のセンターシート挑戦者を紹介しよう!
日本某所にある、通称「地獄島」。
その地獄島を本拠地として、日夜「世界征服」を目標に働いておられるのが、こちらドクター・ヘルさん!
何と、筆記試験を何と98点というかつてない高得点でクリアした天才!
たくさんの部下たちに囲まれて、世界征服に一直線?!
…しかぁし!
そのための施設の維持費用、部下たちに支払う給料など、やりくりが結構大変とか。
そこで—?





「1000万とったら、世界を簡単に征服できる機械獣を造るぞーーーーッ!!」
『おおおおおおーーーーーーーーーーッ!!』





あまりきれいとは言いがたい字で「1000万とったら、世界を征服する機械獣を造る」と書かれたパネルを手にしたドクター・ヘルが、たくさんの鉄仮面兵と鉄十字兵に囲まれて拍手されている…
そんなとんでもなくシュールな挑戦者紹介VTRが終わり、画面は再び「クイズ$ミリオネア」スタジオに戻る。
中央に、液晶モニター画面がすえられたシートが二つ。
司会者・ものみんたが座る席と向かい合い、挑戦者が席に着くことになる。
この、「クイズ$ミリオネア」は—まさしく、millionaire(ミリオネア<大富豪>)になれる可能性を挑戦者に与えるクイズ番組として有名である。
クイズは全部で15問出題され、その度ごとに獲得賞金が上がっていく仕組みだ。
はじめは1万円、次が2万円…そして100万、250万、500万と。
世界中で放映されているこのシステムの番組だが、日本版では最終問題まで答えられると1000万円が獲得できる事になっている。
ただし、挑戦者は「ドロップアウト」という権利を持ち、次のクイズに答えることなく獲得した賞金を確実に手に入れることも可能である。
そのかわり、問題解答に失敗すると、獲得賞金が大幅減となってしまう。
ものみんたの司会ぶりも手伝い、今ではすっかり日本でもおなじみとなった有名クイズ番組である。
そのクイズ番組の解答席に…悪の老科学者は、威風堂々と向かっていった。
翻るは、漆黒のマント。裏地の赤が、見る者の記憶に鮮烈に突き刺さる。
とても老境にあるとは思えぬほどの、その肉体。
筋肉の猛る音が、その緑のスーツを通り抜けて聞こえるようだ—
世界有数の頭脳、邪悪なる意志の体現者。
その人ドクター・ヘルを、司会者は鷹揚な笑顔で出迎えた。
「ようこそ、センターシートへ」
「うむ」
解答者席についたヘルは、ものみんたの言葉に軽くうなずく。
と、ここでクイズ本編に入る前の、お決まりの談話モードだ。
「それじゃドクター・ヘルさん、今日は応援シートに誰を連れてきたんですか?」
「うむ、うちの部下を連れてきましたわい」
ものの問いに、ヘルは半身をひねって自分の背後…観客席の一辺にある応援者席を示して見せた。
その応援シートに座り、彼に手を振っているのは…
何と、身体の左半分がいかつい男性、右半分が白い肌の女性!
なんじゃこのバケモノ、と日本中の視聴者が突っ込みそうになった時—
「ヘルさんの部下・あしゅら男爵」というテロップが、実にいいタイミングで画面の下部に表示された。
こんなものをゴールデンタイムのお茶の間で映していいのか、といいたくなるような、ある意味ショッキング映像そのまんまのあしゅらを見た司会者もの。
しかし、さすがに日本でも名を馳せた超有名司会者。
身体が中心線で真っ二つに別れている怪人を目の当たりにしても、少しだけぴくり、とまゆ毛を動かしただけで—
「…おーーーー、だぁいぶ変わった外見の部下さんで」
あっさりそう言って終わらせてしまった。
「がんばってください、ドクター・ヘル!」
「うむ、まかせよ!」
当のあしゅらはというと、笑顔でセンターシートにいるヘルに手を振っている。
そして、応援者の紹介が終わると、次はテレフォン・ブレーンの紹介だ。
「ふむふむ。では、テレフォン・ブレーンのほうはどなたが?」
「そちらにも腹心の部下を待たせてある」
「なるほど。ではそちらちょっと見てみましょう」
「テレフォン・ブレーン」とは、「ライフライン」というヘルプシステムの一つである。
挑戦者はクイズに挑戦する際、自分がわからない問題に関してヒントを得る事が可能である。
会場の観客にクイズを解かせ、その結果を見せてもらえる「オーディエンス」。
四択で出される選択肢を、二択にまで減らす「50-50(フィフティ・フィフティ)」。
そして最後の一つが、自分の知人に電話をかけ、30秒間で答えを聞き出す「テレフォン」。
「テレフォン・ブレーン」とは、その時に電話を受ける四名の事である。
彼らはいつ挑戦者から電話がかかってきてもいいように、別の場所にて待機しているのだが…
「ヘル様ー!」
「ドクター・ヘルー!」
「…」
…切り替わったカメラ映像の中にあらわれたのは、これまた異形な人々だった。
添えつけられたカメラ、その向こうにいるヘルたちに向かってご陽気に手を振ってくる三人…と、黙り込んだままそっぽを向いているひとり。
鉄でできた兜をすっぽりかぶったうえ、古代ローマ兵士のような鎧を着込んだ男。
変なヘルメットをかぶった、第二次世界大戦時の兵隊のような格好をした男。
だがその4人の中でも異彩を放って奇怪かつ奇妙な姿をしていたのは、画面の右端で仏頂面をして黙り込んでいる男…
深緑の将校軍服を着込んだ男の首から上はなく、では何処にあるのかといえば彼自身の腕がその中に抱えていた。
まるで西洋の恐怖話に出てくるデュラハンがごとく—
なんじゃこのバケモノ、と日本中の視聴者が叫びそうになった時—
「ヘルさんの部下・ブロッケン伯爵と鉄仮面兵・鉄十字兵の皆さん」というテロップが、これまたいいタイミングでぱっとあらわれる。
こんなものを老若男女の見るゴールデンタイムで流していいのか、といいたくなるような、ある意味放送事故映像そのまんまのブロッケンを見た司会者もの。
しかし、やはりそこは日本でも名を馳せた超有名司会者。
「あらまー、こちらも大分変わった外見の方で」
「…」
見事、あしゅらの時と同じ反応で終わらせてしまった。
言われたブロッケンは、だがそれに対して怒る事もなく、ただ無言。
その不機嫌さそのものといった様子からは、「あれだけ反対しましたのにコンチクショウ」とでもいうような彼のやるかたない不快感が画面を通しても伝わってくる。
「ブロッケン、抜かるなよ。わしも出来る限り自力でがんばるが、いつ何時テレフォンを使うやもしれん」
「…わかっています」
しかし、彼の主はそういうブロッケンの憤りなどにはまったく気づかない模様で、力強くそう言ったのみだった。
…ためいき一つ。
もはや言っても無駄だ、という事は骨身にしみてよくわかっているので、憂慮するデュラハンもただそれだけ短く言い返した。


そこで、画面が再びスタジオに戻る。
「…さあ、それでは、心の準備はよろしいですか?」
先ほどのざわめいた雰囲気も何処へやら。
瞬時に凍りついた空気の中、ものみんたの声が静かに響く。
「…」
向かい合ったドクター・ヘルは、やはり静かにうなずいた。
「…では、参りましょう」
そして、戦いは今始まる—
今、始まるのだ。


「ドクター・ヘルさんの、クイズ$ミリオネア!」


胸を突くファンファーレ!
センターシートにスポットライトがくらめく!
浮かび上がるセンターシート—
ナレーションがそれにかぶさるように時を告げる!


「ドクター・ヘルさんの挑戦が、今始まるッ!」


「フランス料理店などで、ワインを選定し、提供する専門職はどれ?
A:シェフ B:パティシエ C:ソムリエ D:ギャルソン」
「Cの『ソムリエ』じゃ」
「ファイナル・アンサー?」
「ファイナル・アンサー!」
「…正解!」
ものから出された第1問目に、ヘルは間髪いれず答え返す。
そして、キーフレーズをおうむ返しに叩きつける—
…"Final Answer"。
それが、キーフレーズだ。
このクイズは全て四択で出題されるが、通常の早押しクイズなどとは違い、挑戦者は自分の解答を何回でも変更する事ができる。
そして、その答えを最終決定する際に発するのが、この「ファイナル・アンサー」なのだ。
既に人口に膾炙したと言えるこのフレーズを、ドクター・ヘルは意気揚々と口にした。
なお、余談ではあるが、このキーフレーズは今ブロッケン伯爵の配下である「鉄十字軍」の中で大流行しているとのことだ。
間断すらなく、戦いは第2問目に滑り込む。
「ミッキーマウスの生みの親は誰?
A:ジェームス・ディズニー B:ジョージ・ディズニー
C:ウォルト・ディズニー D:ウィリアム・ディズニー」
「Cじゃ!」
「ファイナル・アンサー?」
「ファイナル・アンサー!」
「正解!」
軽々クリア、そして次は第3問目。
「メソポタミア文明の遺跡で発見された古代の文字はどれ?
A:象形文字 B:甲骨文字 C:くさび形文字 D:漢字」
「…『くさび形文字』、C!」
「ファイナル・アンサー?」
「もちろん、ファイナル・アンサーじゃ!」
「正解!」


その光景をテレビの前で、ボスたちは為すすべもなく見守っていた。
「…あああああ〜、着々と1000万に向けて進んでいるわよん!」
「どどど、どうなっちゃうんでしょうね〜、ボシュ!」
「このままじゃ、1000万円がドクター・ヘルに取られちまうぜ!」
そうこうしているうちにも、3万円を獲得した後、とどまることなくドクター・ヘルは第4問目へと到達する—!


「次のうち、もともとは水牛の乳から作られたチーズはどれ?
A:ロックフォール B:モッツアレラ C:カマンベール D:ゴルゴンゾーラ」
「B!『モッツアレラ・チーズ』ッ!」
「ファイナル・アンサーッ?」
「ファァァァイナル・アンサーーーッ!」