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◆ 再戦!メカザウルス・ラル
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早乙女研究所中に警報音が鳴り響く。それはいつも唐突に始まる、戦いの合図だった。
「メカザウルス出現!…研究所方面に進路を取っているようです!」
「接触まで後どれくらいかかる?!」
「はっ…はい、あと、このスピードで…40分くらいかと!」
「わかった!そのまま監視を続けるんだ!」
早乙女博士は急いでコンソールの通話機を手にし、控え室にいるであろうゲッターチームの三人に緊急連絡をとる。
「リョウ君、ハヤト君、ムサシ君…メカザウルスだ!出撃準備に入ってくれ!」
「わかりました!」
通信を受けたハヤトの短い返事。それだけを残し通話はすぐに切れた。

「ゲットマシン・イーグル号、発進!」
「ゲットマシン・ジャガー号、発進!」
「ゲットマシン・ベアー号、発進!」
ゲッターチームをのせたゲットマシンが軽やかに空に舞い上がる。
ミチルが操縦するコマンドマシンも同時に出撃した。
「そのまま北北東に進んでくれ!…まもなく、敵のメカザウルスと接触するはずだ!」
「了解!」
「…!!来たぞ!」
博士からの通信にリョウが返事をするや否や、彼らの目の前に…一体のメカザウルスが姿をあらわした。
その姿は見る見る大きくなり、全貌をあらわにする…
「…?!」
それと同時に、リョウたちの通信機に別回線からの通信が突然割り込んだ。
…そして、そこに映ったのは…!
「…ゲッターに乗ったあなたたちとあうのは、これで二回目、だね…リョウ!」
「?!…エルレーン!!」
そう、そのメカザウルスからの通信…それは、あのエルレーンからのものだった!
「そうだよ、リョウ…しばらくぶり、かな?」
「ああそうだな!…今度という今度は逃がさん!叩きのめしてやる!」
「…やぁん、怖ぁい☆…そんなに怖い顔しないで、リョウ☆」
両手を頬に当て、大げさに怖がるしぐさをしてみせるエルレーン。
意気上がるリョウに対し、エルレーンはまるでふざけているように見える。
「…なッ…?!」
その人をなめた態度に、一瞬怒りで言葉が出なくなるほどだ。
「り、リョウ!…まじめに相手にすんな!ペースをとられるだけだぞ!」ムサシが彼らしからぬことをリョウに言う。
が、それにもエルレーンのちゃちゃが入った。
「あら、ムサシ君…ちょっとは、練習とか、してきた?…でないと、また…思いっきり、投げちゃうぞ☆」
「何だとこらーーーー!!」
「きゃははははははははは☆」
「ムサシ!お前も落ち着けッ!!」
もはや冷静さをかろうじて保っているのはジャガー号のハヤト一人という体たらくだ。
エルレーンにいいようにおちょくられているようなものだ。
「貴様!何をしに来たッ?!」
リョウがようやく目的を思い出し、エルレーンを問い詰める。
「…ふふ…メカザウルスにのってるんだから、わかりそうなもの、だけど…でも、残念、ね。
…今日は、私、あなたたちの相手をしにきたんじゃないの」
「…何だと?」
いぶかしむハヤト。
「俺たちゲッターを倒しに来たんじゃねえのか?」ムサシも思わずきょとんとしてしまう。
「…それは、他のキャプテンの、仕事らしい…わ。今日の、私の、仕事は…」
エルレーンはそこで言葉をいったん切り、にっこりと笑ってこう言い放った。
「…研究所の、ゲッター線バリア装置を、破壊すること…なの!」
「?!」
「け、研究所の?!」
「…ほ、本気なのか…?!」
ハヤトの疑問ももっともな事だ。
確かに、研究所を守るゲッター線バリア装置を破壊するのは、ゲッターロボのサポートを無くす上でも有効だろう。
…しかし、もし本当にそうだとしても、こんな風に堂々と…敵に向かって、目的をさらすだろうか…?
モニターの向こうのエルレーンは、いつものように…微笑を浮かべ、こちらを見ている。
そこからは、彼女が嘘をついているのか本当のことを言っているのか、わからない…
だが、そのとき唐突にメカザウルス・ラルが再び加速したのをハヤトは見た!
「…!!」
「じゃあね!ゲッターチーム!」
ムサシのベアー号のすぐそばを駆け抜け、エルレーンの乗ったメカザウルス・ラルは高速で飛び去っていく…
その方向には、早乙女研究所がある!
「く、くそ!」
「合体してあいつを追うぞ!…チェーンジゲッター1ッ!!スイッチ・オンッッ!!」
それに一瞬遅れて、リョウたちゲッターチームも慌ててゲッター1にチェンジし、その後を追う…!
マッハの飛行速度を誇るゲッター1は、少しずつ、少しずつではあるが先行するメカザウルス・ラルに近づいていく!
…そして、とうとうその射程距離内にメカザウルス・ラルを捕らえた…その刹那、リョウが仕掛けた!
「トマホーク・ブーメラァンッッ!」
ゲッター1が肩口からトマホークを投げる…
それを察知したメカザウルス・ラルは素早く背中の大剣を手にし、トマホークを叩き落した!
「…まあ、逃げ切れるとも思ってなかったけど。…私と、やるつもり、かしら…?
…ゲッターにのっている、今なら…私、容赦、しないんだから…!」
エルレーンの瞳が、透明の瞳が…闘志にきらめく。
それは地上で…リョウやハヤト、ムサシにあったときには…見せることの決してなかった、闘うモノの、冷たさを秘めた光。
(…これがあの女の本性なんだ!)
リョウは一瞬、自分と同じ顔をしたそれに、ぞっとするような冷たさを見せたエルレーンに…慄然とせざるをえなかった。
「くっ!いくぞ!…ゲッター・トマホゥクッ!!」それでも負けるわけにはいかない、研究所を破壊させるわけにはいかない!
リョウは闘志を奮い起こし、再びメカザウルス・ラルに向かっていく!
メカザウルス・ラルもそれに応じ、剣を振りかざし向かっていく…
二者の間で剣戟がかわされ、鋭い火花が幾度も散る。
…だが、リョウの操縦するゲッター1のほうが、やや分が悪い。
…数回、メカザウルス・ラルの剣はゲッターの身体をかすめて傷を作る。
対してゲッター1のトマホークの攻撃は、すべて打ち払われているのだ。
「リョウ!どうした!やられっぱなしだぞ!」
「ああ、わかってる!」
「…無駄だよ、リョウ」
エルレーンの通信。メカザウルスを操縦しながら…剣を休むことなくふりながらも、焦りの色一つ浮かべないまま。
「…私は、リョウのクローンだけど…戦闘能力は強化(ブーステッド)されてるわ。…リョウは、私には…勝てない、のよ」
リョウを馬鹿にするでもなく、淡々と事実を語る、といった調子でエルレーンが告げる。
だが、それはリョウには侮辱以外の何者でもなかった。
「黙れぇぇぇぇぇっっ!!」
こんなコピーに、クローンに…負けるわけにはいかない!意地にかけても、負けられない!
リョウはあきらめることなくメカザウルス・ラルに向かっていく…!
「リョウ!ゲッター2にチェンジするんだ!」
「ダメだ!空を飛ぶ相手なら、俺のゲッター1でないと…!」
「…そうね。ハヤト君のゲッター2なら…もう、とっくに、落ちてる、かもねっ!」
「…!!」
エルレーンの挑発に歯を食いしばるハヤト。
だが、その時…突然、メカザウルス・ラルの攻撃の手が、ぴたりと止んだ。まるで、嵐の海が、台風の目に入ったかのように。
…リョウは当然、それを最大にして最後のチャンスだと読んだ。
「…くらえっ!…ゲッタービィィィィムッッ!」
そして、ゲッターロボ最強の攻撃、ゲッタービームが胸から照射される…!
そのゲッタービームはメカザウルス・ラルに直進し、跡形もなく焼き尽くす…はずだった。
「?!」
リョウの目に信じられないものが飛び込む。
メカザウルス・ラルは、ビームが当たる寸前、ひらりと高く舞い上がり…それをかわした。
…そして、それだけではなかった。
先ほどまでメカザウルス・ラルが浮遊していた方向には…早乙女研究所!
「…ふふ、リョウ…私、さっき…ゲッター線バリア装置を破壊しにきたっていったけど…」
エルレーンの勝ち誇った声。もはや、自分の勝利を確信して。
…同時に、ゲッターチームの胸に…予測できる最悪の結果が浮かんだ。
「しょ、所長!げ、ゲッタービームが…?!」
「?!…そ、そうか、しまった…!」
研究所司令室の早乙女博士がようやくそれに気づくが…遅すぎた。
ゲッタービームはそのまま直進し、やがて研究所を覆うゲッター線バリアに突き進み…
「本当は…リョウに、壊してもらう…つもり、だったんだ」
エルレーンの言葉と同時に、ゲッタービームはバリアの表面に触れた。
かしゃぁぁああぁぁぁあん!!
硬質なガラスが砕け散るような音とともに…ゲッター線エネルギー同士が反応し、ゲッター線バリアは…こなごなに消えうせた。
「!!」
「ば、バリア…が?!」
「…な、なんてこった…!!」
自分たちの失態で、自分たち自身の技でバリアを破壊してしまった。
ゲッターチームにショックが走る。呆然とその光景を見つめている…
だが、その間隙をつき、エルレーンのメカザウルス・ラルは肩口からありったけのミサイルを発射する!
「!!」
リョウがそれに気づいたが、既に無数のミサイルは…研究所を捕らえてしまっていた。
「うわぁぁぁあああ!!」
「は、博士ッ!!」
連続する破裂音。激しい振動が司令室を襲う。
…研究所を襲ったミサイルは射出口、タワー、そしてゲッター線バリア装置を破壊した。後には、無残な瓦礫が残るのみ。
「……!!」
その光景を、リョウがギリギリと唇をかみしめて見つめている。
「きゃはははははは!…これで、お仕事、おしまいッ!」
エルレーンがきゃらきゃらと笑い声をたて、そう宣言した…
「くそっ!!」
ゲッター1はそれでもなお、メカザウルス・ラルに対し攻撃を仕掛けようとする…
だが、その前にメカザウルス・ラルの推進装置に火が入った。
「!!…ま、待ちやがれッ!」
「…言ったでしょ?…今日の、私の、仕事は…あなたたちの相手じゃ、ないの。…バリア装置は破壊したし…私はもう、帰還するわ」
「そうはいくか!…ここまでコケにされて、そのままハイそうですかといくかよ!」
いつもはクールなハヤトも怒りをあらわにしている。
「そうだそうだ!」
ムサシも応じる。…だが、それに対しエルレーンは…軽く唇の端でかすかに笑うだけだ。
「…ふふ、…もし、生きていたら…また会いましょう、ゲッターチーム?」
「逃がさん…えっ?!」
そのとき、ゲッター1のレーダーに、新たな機影が映る…
恐竜帝国の、新しいメカザウルス!
エルレーンが研究所のバリア装置破壊に成功したのを受け、一気に勝負をかけるつもりらしい…!
「じゃあね、リョウ!」
「待ちやがれ!…エルレーン!貴様も、俺たちゲッターチームと闘えッ!!」
リョウの怒号。だが、あっさりとエルレーンはそれを拒絶した。
「バリア装置を破壊したら、ゲッターには手を出すな、って言われてるの。…ホラ、もう見えてきた…あなたたちの相手は、あっちよ…」
「!!」
ゲッターチームの目にも、そのメカザウルスが映った。
「リョウ!来るぞ!」
「わかってる…!!…貴様ァッ、エルレーン!」
新たな敵に気をとられたリョウの目に、隙をついて遥か彼方に飛び去らんとするメカザウルス・ラルの姿!
このままでは逃げられてしまう、そう思ったが…別のメカザウルスが既に攻撃範囲内に入っている…
丸腰の研究所から、これ以上はなれるわけにはいかない!
リョウたちは、無念さにギリギリと歯をくいしばりながらただ彼女が退却していくのを見ているしかない。
「…じゃあね、バイバイ☆」
戦場には似つかわしくないほど、明るくて無邪気な声が最後に通信機から響き…
そしてエルレーンの操縦するメカザウルス・ラルは彼らの前から消え去った…

それから、数時間後。
絶体絶命のピンチに陥ったゲッターチームであったが、その研究所を襲ったメカザウルスを辛くも撃破することに成功した。
しかし、メカザウルス・ラルによる被害は思いのほか甚大であった。
ゲッター線バリア装置は、被弾位置がよかったためか、運良く簡単な修理で直りそうであったが…
しかし、研究所を守る防護壁であるゲッター線バリアがいとも簡単に破られてしまった事は事実であった。
…ガン、ガン、ガンッ!連続した鈍い衝撃音が司令室に響く。
「り、リョウ!やめろ!」
「リョウ君!落ち着いて!」
ムサシとミチルが必死で止める声も聞かず…
リョウは、ひたすら自分の頭を、堅い壁に打ち付けている。何度も、何度も。自らを罰するかのように…
「リョウ!」
ムサシが彼の両肩をがしっとつかみ、無理やり壁から引き離す。
リョウの額は打ち付けたときの衝撃で赤く染まり、かすかに血すらにじんでいる。…そして、壁にもその赤い跡が残っていた。
「放せ!…畜生、俺が、俺が…!…ゲッタービームでバリアを壊しちまったせいだ!そのせいで研究所が!」
「リョウ!それは違う!…俺たちの誰だって、あいつがあんな事考えてるなんてわからなかったじゃねえか!」
ハヤトがひたすら自分を責めるリョウをいさめる。
「そうだぜ!…別に、リョウのせいじゃねえよ」
ムサシもそれに同意した。…まったくそれは本当のことだった。
まさか、ゲッタービームでバリアが破れるとは…
だが、リョウは自分を責めずにはいられなかった。
ゲッター1のパイロットの自分が、もっと早くあの女を撃墜してさえいれば…
いや、それよりも、何よりも…あの女に、自分のクローンであるエルレーンに再び敗北した自分が、許せなかったのだ!
「畜生…あの女…!」
わなわなと震えるリョウの唇から、怒りの言葉がもれる…あまりにその怒りは激烈だった。
普段の彼が見せるような、正義感から来る怒りではない。もっとどろどろとした…憎悪まじりの怒り。
ゲッターチームの誰も、そんなリョウに声をかけられないで、立ちつくしている…
と、そこに早乙女博士が司令室に入ってきた。そこに流れる異様な雰囲気に一瞬驚いたようであったが、すぐに気づかないふりを装った。
「…博士…すみません。俺の判断ミスで…」
「いや、リョウ君…君たちのせいではないよ。…気にすることはない」
責任を一身に背負おうとするリョウに、博士は優しく言葉をかけてやった。
「しかし…驚くべきは彼女だな…」
早乙女博士が一人ごちる。
「…」無言でそれを聞くゲッターチームの面々。
「ゲッター線は高いエネルギーを秘めている…それゆえに、様々な攻撃を防ぐバリアを構築する事ができるわけだが…
まさか、同じ高出力のゲッター線を使ったゲッタービームで破壊しようとするとは…彼女は恐ろしく、頭の切れる…パイロットだ」
彼の言葉を、複雑な思いでリョウたちは聞いていた…確かにエルレーンの攻撃は、恐ろしく的確であった。
今まで自分たちに見せていたものとは、まったく違う。闘う者としての実力…そして、それは明らかに自分たちを上回っている。
「…お父様、バリア装置は…」
「それは大丈夫だ。…もう同じ手は喰わん。…だが…また彼女は、ゲッターにとどめを刺さずに退却した。それが…わからん」
早乙女博士は無精ひげをなでながら、再び湧き上がる疑問を口にした。
以前…最初にメカザウルス・ラルによって攻撃を受けたときも、エルレーンはゲッター1にとどめを指す直前に…
別のメカザウルスを操縦するキャプテンにその役を譲り、自らは引いた(もちろん、ゲッターチームが彼を撃墜したのだが)。
…そして、今回も、自らはとどめを刺さず、そのまま帰還していった…
何故彼女自身がゲッターロボを破壊しなかったのか?
「『バリア装置を破壊したらゲッターには手を出すな、って言われてる』って言ってた…なんでそんな命令…受けてるんだ?」
ムサシが彼女の言った言葉を思い出し、その意味を考える。だが、答えは出ない。
「さあ…わからん…」
ハヤトも首をひねるばかりだ。
その理由はわからない。だが、それでも早乙女博士はその理由を考えずにはいられなかった…
それはゲッターチームも同じだった。
しかし、リョウだけは…まったく違う思いを胸に宿していた。
(…エルレーン…許さん…!次は、絶対に…!)
握りこぶしが真っ白になるほど、強く手を握りしめる。
闘志と怒りが、リョウの中で燃えさかりつづけていた…


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