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◆ Der Tag, der das Dinosaurier Reich zugrunde geht
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「と、東京が…!」
「…ち、畜生ッ…恐竜帝国め!」
その画面を見ていた彼らの口から、思わずそんな言葉がもれる。
早乙女研究所地下シェルター、その殺風景な室内に無造作に置かれたコンソールの一つには、民放のテレビ中継画面が映っている。
ヘリコプターから撮影されたその風景は、これが日本の首都なのか、と我が目を疑ってしまうほど、手ひどく荒廃した…焼け野原が延々と続く、地獄絵図ばかりであった。
「…ご覧ください、この光景を!…これは、っ、映画やドラマではありません!現実なのです!…現実、なのですッ…!」
その画面にかぶさって入る、中継リポーターの声。
彼の声は、涙混じりの悲痛な叫び。
いきなり突きつけられた現実を、恐竜帝国の襲来というとんでもない、信じがたい事実を…自らも恐れ怯えながらも、彼は必死で伝えようとしている。
その時だった。
…中継画面の端のほうから、十数個の黒点があらわれる…そして、それはみるみるうちに近づいてきた。
「あ…国防軍のジェット機だ!」
元気がそれを指で指し示す。
黒点はやがてきらめく翼を持つ、戦闘機に姿を変えた…編隊を組み青空を裂いて飛び去る戦闘機群。
中継ヘリコプターのカメラはその行く手に向けられる…遠い海、その中にそびえたつ巨大な忌まわしき恐竜…強大なメカザウルスが画面中央に映し出される。
一瞬その光景を見守るゲッターチームの顔に安堵の色が浮かぶ…国防軍がようやく動き出したのだ。そして、あのメカザウルスを破壊しようとしている…
しかし、彼らの希望はすぐさまかき消された。
…テレビのスピーカーから響いた、かすかな銃声の連続によって。
きらきらと、何かがメカザウルスの周りにきらめくのが見えた。
それが、メカザウルスが打ち出す無数の砲撃だと気づくのにさほど時間はかからなかった…
何故なら、そのきらめきが美しく青空にひらめくたびに、メカザウルスの周りを旋回する戦闘機が火を噴き、海面めがけてまっさかさまに墜落していったからだ…!
まるで小バエのように簡単に撃墜されていく戦闘機たち。
それが所詮、国防軍が彼ら恐竜帝国に対して行使できる力の限界の象徴だった…
「…」
重苦しい無言が室内を支配する。その絶望的な光景を見て、誰も何も言えないでいる。
「まるで…歯が立たない、か…」
リョウはあまりの光景にいたたまれなくなってしまったのか、テレビ画面から目をそむけ…どさっ、とパイプ椅子に座り込んだ。
「博士…ゲッターは?」
ハヤトが早乙女博士に視線を向け、ゲッターロボについて聞く。
それは、彼ら自身の武器。今まで恐竜帝国と戦ってきた彼らの…そしておそらくは、あのメカザウルスに対抗できる唯一の武器。
「ゲッター線エネルギーをチャージ中だ。だが…」
博士は一旦そこで口をつぐむ。
「…問題は、あの…巨大なメカザウルスが、果たして今のゲッターで倒せるかということだ」
「な、何でですか博士?!…え、エネルギーさえあれば…」
ムサシが思わぬそのセリフに驚いてしまう。
先ほどはエネルギーがなかっただけなのだ、だからエネルギーをチャージしたゲッターロボなら、あのメカザウルスを倒せるではないか、と。
「そうだろうか…」
博士はあくまで慎重な姿勢を崩さない。
あのメカザウルスは、今まで見たどのメカザウルスよりも巨大だった…
先ほどは確かに、マシーンランドを破壊するためにゲッター線エネルギーを使い果たしてしまったため、
必殺武器のゲッタービームを発射することが出来ずに、ゲッターチームはそれとは闘わずして退却してきた。
だが、エネルギーを100%チャージしたからといって、その巨大な敵を倒しうるのだろうか?
博士の心の中の暗雲は晴れない…
ムサシたちのように「エネルギーさえあれば」と楽観的に考えることは出来ない。
それは科学者としての経験、相手の持つ能力を分析する能力が彼にそうさせているのだ。
…と、その時だった。
早乙女博士のその考えを裏付けてくれる「彼女」が、再びあらわれた…
突然、ムサシたちのすぐ後ろで、何かがばたん、と倒れる音がした。
続いて、がしゃがしゃん、というパイプ椅子が倒れる金属音。
「?!」
「お、おい!リョウ?!」
それはリョウだった。
…唐突に卒倒した彼は、倒れたパイプ椅子の上に、折り重なるようにして倒れこんでいる。
慌てて彼を抱き起こす仲間たち…
だが、それはあまりにも唐突すぎた。
いつものように、唐突すぎる意識の喪失。
そう、それは彼女の目覚めの合図だ。
「…っ…!」
閉じられた彼のまぶたがぴくりと動いた。
ムサシに抱きとめられたリョウは、少し顔をしかめ…そして、ゆっくりと瞳を開く。
「?!」
「お、お前…」
「む…ムサシくん…はやと、くん…」
「え、エルレーン…?!」
「お、お前…あ、あれから…まだ…!」
そう、彼女が最後に目覚めてから、まだ2日も経っていないのだ。
…たいていの場合、彼女の目覚めは10日あまりに1回だった…
そう、10日に1回が関の山だった。
主人格であるリョウを眠らせ、エルレーンが表に出てくるためには相当なエネルギーを必要とする…
だから、かなりの長い間、彼女は眠ってエネルギーを残しておかねばならないはずだった。
しかしエルレーンは、そのエネルギーのたまりきらないうちに再び目覚めたのだ…
「…」
無言でうなずくエルレーン…
だが、それは限りなく弱々しい。
今のエルレーンからは、いつものようなはつらつさ、快活さはまったく見受けられない。
揺らめく意識をなんとか保っていられるのがやっと、という風情だ。
「だ、だから…な、ながく、…お、起きて、られない、と、おもう…」
そう言いながら、エルレーンは何とか立ち上がろうとする…
よろけるその身体を慌てて支えるムサシ。
…そんな彼に、エルレーンはかすかに微笑った。
「は、博士…」
それでも彼女は何とか博士のほうに必死で歩み寄ろうとする。
ふらつきながらも、懸命に…その足取りはおぼつかない。
「え、エルレーン君!大丈夫か?!」
「う、うん…そ、それより、…き、聞いて」
エルレーンはよく動かない舌で…それでも必死に言葉を紡ごうとする。
彼女の視線の先には、テレビ画面…双頭の巨大首長竜が、東京を思う様に蹂躙する中継画面が映っている。
「あ、あれは…ダイ、…む、むてきせんかん、無敵戦艦ダイ、っていう、メカザウルスなの…!」
「無敵戦艦…ダイ?!」
「…」
問い返したハヤトの方を向き、うなずくエルレーン。
「き、恐竜帝国、最強のメカザウルス…さいごの、きりふだ」
「…ゴールの秘密兵器、ってわけか…」
「うん…そ、それより…は、博士…ダイには、無敵戦艦ダイには…げ、ゲッターロボで、たちむかっちゃ、いけない…!」
「?!…な、何だって?!」
思わぬ言葉を聞いたゲッターチームに衝撃が走る。
…あのとんでもないスケールのメカザウルスを倒すのに、自分たちの最強兵器であるゲッターロボで立ち向かうな、とは…?!
「ど、どうしてだよ?!…そ、そりゃさっきはやられちまったけどよ、それはゲッター線エネルギーをマシーンランド壊すのに使い切っちまってたからだよ。だから、今度は…」
「…!」
ムサシの抗弁に、エルレーンは何度も首を振る。
ぎゅっと目を閉じた彼女の中で、かつて聞いたことのある誰かの言葉…それは、キャプテン・ルーガが教えてくれたのかもしれない…が、よみがえる。
その言葉を思い起こしながら、エルレーンはうわごとのようにつぶやいた。
「だ、ダイは…ほかの、メカザウルスとは、ちがう…!…マシーンランドの、ご、五倍の、堅さの、装甲…で、おおわれ、てる」
「ご、五倍だって?!…あ、あのマシーンランドの?!」
「うん…だ、だから…ゲッター1の、トマホークも、ゲッタービームも、…ゲッター2の、ドリルも…ゲッター3の、ミサイルも…!
…き、きっと、ゲッターの、武器は、何も…ダイには、つうじない!」
「…!!」
「そ、そんな…」
そのエルレーンの言葉を聞いたゲッターチームの表情が、あっという間に絶望にとらわれていく…
自分たちの持つ力、その全てが…あの邪悪なるメカザウルス、恐竜帝国最強のメカザウルスには通用しないというのだ。
自分たちの取りうる手段その全てが、まったくの無為になるだろうと…
「そ、それじゃあ、何も俺たちゃできないってのか?!このまま指をくわえてみてろって言うのか?!」
そのどうしようもないかのように思える事実に、思わずいらだったようなどなり声を上げてしまうハヤト。
その声は震えている。怒りとやるせなさで…
「ち、ちがう…は、はかせ、きいて」
…しかし、エルレーンは知っていた。
だから、彼女は何とかそれを伝えようと口を再び開く…
目を見開き、薄れる意識を必死に支えながら。
「ああ…何だい、エルレーン君」
「む、無敵戦艦、ダイは…た、たしかに、強い。…でも、たった、たった一つだけ…じゃくてんが、あるの…!」
「弱点?!」
その言葉に、はっとなるハヤトたち。思わず声を合わせて問い返していた。
「うん…!」
よろめきながら、エルレーンはテレビに近寄っていく…
そして、彼女は弱々しく、その画面に映るメカザウルス・無敵戦艦ダイのある「一点」を指し示した…!
「こ、ここ…!」
「…口…?!」
「…」
エルレーンはかすかな微笑みを浮かべてうなずいた。彼女の指が指し示しているもの。
それは、凶悪に吼え狂い、ぶんぶんと長い首を持って振り回される、メカザウルスの恐竜部分の頭部…その、口だ!
「…き、恐竜ジェット機の、発射口…だ、だから、ここは、この口は…ダイの、中、…メインエンジンのある、機関部まで、つながってる…!」
「!」
博士の目に輝きが宿った。それは勝利につながる、起死回生のアイディア…
「こ、ここから、何か…ば、ばくだん、みたいなものを、ほうりこめば、…きっと…!」
「そ、そうか…!」
何度もうなずく博士。
…そう、あの口を攻撃するのだ。そして、内部から確実に破壊する…!
これなら、いかにあの無敵戦艦ダイの装甲が堅くとも関係ない。もろい内部から破壊すればいいのだ…!
「…!」
その途端、ぐらっ、とエルレーンの身体がかしいだ。
そして、彼女は前のめりになって倒れていく…
彼女が床に激突するその前に、慌てて駆けよりエルレーンを抱きとめるハヤト。
ぐったりとする彼女を仰向けにし、少しでも楽になるようにしてやろうとする。
ハヤトの腕の中で苦しげに息をつくエルレーン…その額には汗が浮かび、つらそうな表情が浮かんでいる。
…以前目覚めてからまもなかったエルレーンは、ただでさえ残り少なかったエネルギーを使い果たしてしまった。
とうとう、無理がきかなくなってしまったのだ。
「!…え、エルレーン!」
「だいじょぶ…ふ、ふふ、でも…もう、ダメ…いしきを、たもって、いられ、ない…また、ねむっちゃう…み、たい…」
ひゅうひゅうと音を立てて何とか呼吸しながら、エルレーンはそれでも弱々しく笑った。
ささやくような声で…もはや、言葉を継ぐことすらままならない…自分を心配げに見下ろすハヤト、ムサシ、ミチル、博士にそう言って笑いかけた。
「ああ…!…ありがとよ、エルレーン…!お前の教えてくれたダイの弱点、こいつのおかげで…俺たちは、勝てるぜ!」
その彼女のあまりの痛々しさは、切なさすら感じさせる。
ハヤトはうっすらと涙のにじんだ目でエルレーンを見つめ、それでもにやっと笑ってそう言ってやった。
「そうよ、エルレーンさん!…後は、任せておいて!」
エルレーンの手を握りしめ、ミチルはきっぱりと言う…
その瞳には、自分たちの勝利を信じる強い光が再び宿る。
「…うん…!」
「そうだよエルレーン!…今度起きたときは、きっとパーティーだぜ!…だから、楽しみにしてろよ!」
と、ムサシが…心配そうな顔で彼女を見守っていたムサシが、おどけたような口調で突然明るくそう言った。
「パー…ティー…?」
「そうさ!…恐竜帝国を倒した、お祝いの…!」
そして、エルレーンに向かってにっと笑った…
明るいムサシの笑顔、でもどこか無理をしている、笑顔。
「…ふふ…そうかあ…」
だから、エルレーンも彼に微笑みを返す。
それはとても、はかなげで弱々しいものだったけれど。
「…!」
…と、エルレーンの左手が…ゆらり、と動いた。
…そして、自分の右手を握りしめていた、ミチルの手の上に重ねられる…
エルレーンは必死で目を見開いている。透明な瞳が、「トモダチ」を見つめている…
「まけないでね…ぜったい、まけない、で、ね…はやとくん、むさしくん、みちるさん」
「…!…ああ、まかしとけ!」
「ええ!もちろんよ!」
彼女のその手に、ムサシとハヤトも手を重ね合わせる。
ミチルも、しっかりエルレーンの手を握り返した。
重ねられた彼らの手から、ほのかなあたたかさを感じる。
自分を安堵させるような、やさしいあたたかさを…
(…ああ…そうだ、…「人間」だから、だ…)
薄れいく意識の中で、エルレーンはそう思った。
そして思い起こす。かつて自分を抱きしめてくれたいとしい「人間」、リョウもそうだったことを。
(あったかい…「人間」だから、あったかいんだ…)
そう思うと、こころの中が安らいでいくのを感じた。
自分の手をやさしく包み込んでくれている、彼らのあたたかさ。
ハヤト、ムサシ、ミチルのあたたかさ。
「…!」
エルレーンは、最後にふっと微笑んだ…
そして、すうっとその瞳が閉じられる。
それと同時に彼女の身体からがくりと力が抜け…意識を失ったエルレーンは、ぐったりとハヤトの腕の中で眠りについた…
「…エルレーン…ありがとうな。…お前、無理してまで…起きてくれて、教えてくれたんだな」
ムサシはエルレーンの手を握りしめ、そっとそうつぶやいた。
ハヤトとミチルも、無言でうなずく…
「お父様…」
「…ああ、もちろんだ。…彼女のくれたヒント…無駄にはしない!奴の、最大、そして唯一の弱点…!」
博士は静かな闘志を燃やした声で、きっぱりと言い放った…
そして、テレビ画面を睨みつける。そこには無敵戦艦ダイ。自分たちが倒すべき「人間」の敵、最後の敵…!
「あの口から、奴を…無敵戦艦ダイを必ず砕くんだ!!」

「これが…三段式ゲッターロケット弾だ」
薄暗くされた室内。その中央に配置されたスクリーンに…工員達が何かを取り囲んで作業をしている光景が映っている。
彼らが作っているのは、かなり大きな筒状の物体…それらは全部で三つあり、ロケットの頭部・胴体部・尾部に別れている…
それぞれ縦の長さが各ゲットマシンほどもある、戦闘機用のミサイル弾にしてはかなり巨大な部類に入るものだった。
「三段式…ゲッターロケット弾?」
「そうだ。それぞれのパーツにゲッター線エネルギーを限界までチャージする。これらをゲットマシンの底部に装着…無敵戦艦ダイの上空で合体させ、ここ」
早乙女博士は説明を加えながら、スクリーンに別の画像を映し出した。
…それは、無敵戦艦ダイを映した静止画像。
そして、彼は手にしたポインタで、その無敵戦艦ダイのある一点を指し示す。
「この恐竜ジェット機の発射口…すなわち、ダイの口にぶちこむ!」
「口に…?!」
リョウが思わずそうつぶやく。
「そうだ。…計算の結果、2000m以上近づくとダイの射程距離に入ってしまうことがわかった。
これはロケット弾の命中率から考えても、口に入るか否か…そのギリギリの距離だ。
…だから、ロケット弾を合体させた後も、その限界ギリギリまで近づき…そしてミサイルを切り離し急速離脱する必要がある」
「…」その説明を聞くゲッターチームの誰もが重い顔をしている。
博士の説明が意味するもの、それはすなわち…この作戦が非常に危険を伴うもの、そして大変な操縦技量を必要とするものであるということなのだ。
さすがの歴戦の戦士、ゲッターチームであっても…それを聞く表情は、硬い。
「大変危険だが…もはや、この方法くらいしかない…」
「…博士、何故ゲッターロボで戦わないんですか?…ゲッター線エネルギーさえあれば、さっきだって…」
リョウのその質問を、博士は途中でさえぎった。
「いや…それは無理だろう。…あのダイの装甲は、思ったよりもはるかに頑強だ。ゲッターの武器が通じる相手じゃない」
そう、先ほどエルレーンの言ったことが事実であるなら…そして、それは実際に事実なのだろう…
マシーンランドの五倍の硬さの装甲を持つこの無敵戦艦ダイに通用する武装などゲッターロボにはない。
あのマシーンランドですら、ゲッター線チャージャーを使用し、挙句の果てにゲッター線エネルギーをほぼ使い果たすほどのエネルギー量を必要としたのだから…
「…」
博士の言葉を聞いたリョウは、黙り込んでしまう。
…だが、その表情がさえないのは博士の答えがかんばしくないものだったからだけというわけではなさそうだった。
彼は軽く顔をしかめ、片目を閉じてそれに耐えている…
「…ん?どうした、リョウ君」
リョウのその様子に気づいた博士が問い掛ける…
「い…いえ…」
軽く頭をふって、意識をしっかりさせようとするリョウ…
いつのまにか、その顔色ははたからみても少し青ざめていた。
「!…また、頭痛…か?」
ようやくそのことに気づいたムサシ。心配そうに声をかける…
「…ああ…」
そう答えるなり、リョウの顔が口惜しさでゆがむ。
「…畜生!何だって、こんな時にまで、俺は…!…本当に夢遊病だっていうのかよ…?!」
そして、そんな言葉で自分を罵る…
こんな大事な局面…恐竜帝国が滅びるか、自分たちが滅びるかという重要な戦局において、肝心のメインパイロットの自分がこんな有様とは…!
突発的に意識を失い、記憶が吹っ飛んでしまう…そして、目覚めた時には不快な頭痛。
この奇妙な現象にはもうかなり慣れっこになってしまったとはいえ、このような状況にすらそれが起きた自分の身体に、いらだちと怒りを隠しきれないようだ。
「…」
だが、彼以外、ゲッターチームのメンバーは全て知っている。
それは、先ほどエルレーンが目覚めたせいなのだと。
その頭痛はおそらく、副作用といえるようなものなのだろう…
リョウと同じモノ、同じDNAで出来た「兄弟」同然の…いや、それ以上のつながり、共通点を持つエルレーン。
…しかし、「彼女」は「彼」ではない。
明らかに、別の精神、別の性格、別の記憶、別の意志をもつ「人間」なのだ…
その「人間」が、一時的とはいえ本来の人格であるリョウを眠らせ、身体を乗っ取り、操るのだ…
無理やり眠らされた彼の側に、何らかの障害が起きてもおかしくはない。
彼の場合は、それが不可解かつ不愉快な頭痛だというわけだ…
しかし、当然のようにリョウはそれを知らない。
「大丈夫か、リョ…」
「大丈夫だ!…こんな時に、おちおち休んでられっかよ!」
少しつらそうなリョウを気づかうハヤトに、それでも彼は気丈に言い返した。
そして、きっ、と気合を入れると、少なくともその表情からは苦痛の色が消えうせた。
「あ…ああ、わかった」
「…それでは、さっそく…ロケット弾のドッキング訓練に入ろう…時間がないのだ、我々には」
リョウの調子を心配しつつも、それでも早乙女博士はそう言って話をしめくくった…
…そう、彼らには時間がない。
いまや、刻一刻と東京は破壊され、焦土と化し…そして、そこは恐竜帝国の前線基地へと姿を変えていっているのだ。
国防軍も頼りにならない今、もはや彼らに対抗できうるだろう唯一の可能性…
それは、彼らと長きにわたる戦いを繰り広げ、勝ちぬいて来た早乙女研究所。
そしてその勇敢なパイロットたち、ゲッターチームなのだ…

「…よし、それじゃ訓練を開始する!」
「はい!」
自らのゲットマシンにそれぞれ乗り込んだゲッターチーム。
彼らは早乙女研究所後上空で待機していた…ミサイル弾ドッキングの訓練を行うためだ。
地下シェルター内のコンソールから早乙女博士が指令を飛ばす…
その後ろで、ミチルが真剣な目でその様子を見守っている。
このミサイル弾攻撃は、三段階を持って行われることになっていた。
まず、ミサイル弾頭部を持つイーグル号のパーツに、ミサイル弾胴体部を持つジャガー号が後方より接近、頭部と胴体部を合体させる。
二機は近接したそのままにスピードを保ち、飛行しつづける。
続いてミサイル弾尾部を持つベアー号がジャガー号に後方より接近、胴体部と尾部を合体させる。
これで三段式ゲッターロケット弾は完成し、いつでも発射可能となる…
三機のゲットマシンはその状態を保ったまま、目標に接近する。
そして目標より2000mの地点でそのミサイル弾を切り離し、目標に投下…
ゲットマシンは急いで反転、その場より急速離脱する。
すなわち、ゲッターロケット弾の攻撃を成功させるためには、何よりもまず三つに分かれたロケット弾のパーツを合体させることに成功せねばならないのだ。
「ジャガー号、イーグル号にドッキング開始!」
「了解!」
博士の合図に従って、ジャガー号のハヤトはイーグル号への接近を開始する…
そして、静かに近づいたジャガー号は、イーグル号の底部に取り付けられたミサイル弾頭部の合体部分に、そろそろと自らの底部にある胴体部の合体部分を近づけていく…
と、イーグル号に後方からの軽い衝撃。
そしてジャガー号がぴったりとイーグル号の後方につけている事を確認する…
がっちりと二個のパーツは組み合わさり、ゲッターロケット弾の前半分が完成した。
リョウとハヤトはそのまま飛行を続ける…
そして、次はベアー号のムサシの番だ。
「よし…!それでは、ベアー号、ジャガー号にドッキング開始!」
「は、はい!」
ムサシは博士の命令に、一瞬びくっ、と飛び上がってしまった。
…先ほどから、心臓の鼓動がやけに大きく響いている。
まるで今にも壊れそうなほど、強く速く脈打っているのがわかる…
ムサシはベアー号を少しずつジャガー号に近づけていく。
操縦桿を握るこぶしが、あまりに力を入れているせいか白くなっている…
「!」
がぁんっ、という激しい衝撃が、イーグル号とジャガー号、そしてベアー号に走る。
そして、本来ならばジャガー号に近接したままになるはずのベアー号が後方に少しはじかれた…
ムサシの狙いは、微妙にミサイル弾の真芯をはずしてしまったのだ。
「うおッ?!な、何してやがる、ムサシ!」
特に強い衝撃を受けたのは、後ろからぶち当たられた格好になるジャガー号だ。
ハヤトも思わず声を荒げて、ムサシに怒鳴ってしまう。
「す、すまねえ!」
自らの失敗に慌てながら、謝るムサシ…
その額には緊張のあまり、冷や汗が玉のように浮かんでいる。
「ムサシ君、落ち着いてもう一度だ!」
博士が動揺するムサシを落ち着かせ、もう一度トライするように指示する。
「は、はい…!」
もう一度機体を立て直し、ベアー号の姿勢を整えるムサシ。
そして再びジャガー号に近づく…軽い衝撃。どうやら今度は、ミサイル弾の合体に成功したようだ。
「よし!…三機ともそのスピードをキープ!…目標地点を補足!」
「はい!」
イーグル・ジャガー・ベアーの三機の順に並んで滑空するゲッターチーム…
そして、先頭を飛ぶイーグル号・リョウの視界に、白い線で丸く描かれた目標地点が現れた!
「…今だ、リョウ君!」
その地点から2000m…その圏内にイーグル号が到達するその直前、博士がリョウに合図を送る!
「はいッ!」
リョウはミサイル弾切り離しのスイッチを押した!
…すると、三機の底部にくくりつけられていたミサイル弾は、がちゃっ、という金属音とともにゲットマシンから離れ…そして、その勢いのまま目標地点に突き進む!
同時にゲットマシンは三機とも身をひるがえし、反転して急速離脱を行う。
「…!」
ざくっ、という、乾いた音。
…ミサイル弾は、まっすぐに目標地点の園内に突き刺さった…それを見とどけるゲッターチーム、早乙女博士、ミチルの顔にぱっと笑みが浮かんだ。
「よし、いいぞ君たち…!…これで、加速も加え…約五倍の破壊力を出せるだろう!」
現在はそのゲッターロケット弾にゲッター線エネルギーはチャージされていない。
…だが、その空っぽのミサイルであれ、ゲットマシンの加速の影響を受けすさまじい威力を見せていた。
ミサイル弾のゆうに3/4以上は地面に吸い込まれており、そのすごさを見せ付けている。
これが、ゲッター線エネルギーを限界までチャージしたゲッターロケット弾であったなら…
おそらく、あのメカザウルス・無敵戦艦ダイであれども強大なダメージを受けることは避けられないだろう…!
「…ふいー、…す、すまなかったな、ハヤト…」
ため息をもらしつつも、先ほどの自分のミスをハヤトに謝るムサシ。
「まあ、いいけどよ。…これが本番でなくて、ありがたかったってところだぜ」
ハヤトは軽く笑んでそれを流した。
…もちろん、彼なりの軽い皮肉も付け加えて。
「あ、ああ…」
しかし、ムサシはそれをそのまま聞いていた…言い返すこともせず。
「よし、それではさっそく出撃準備に取り掛かろう…!帰還してくれ、みんな!」
『はい!』
訓練が上首尾に終わった安堵からか、その返事の声も明るいリョウとハヤト…
だが、ムサシだけは違っていた。
「…」
操縦桿を右手で操りながら、彼は自分の左手を広げてみた…
その手のひらは、いつのまにかにじんでいた汗でじっとりとべたついていた。
不快だった。
一瞬だけ…かすかな、嫌な予感が頭をよぎった。
だが、それに気づくや否や、慌ててそれを打ち消すムサシ。
ごしごしと身につけていたマントの端でその手のひらをぬぐう。
何度も何度も、彼は手のひらをぬぐう…
その不安も嫌な予感も、全てすべて拭い去ろうとするかのように…

「…それぞれのゲットマシンへのミサイルパーツ取り付けは完了した。…いつでも、飛び立てる」
ゲットマシン格納庫。
ミサイル弾の取り付け作業、全ての整備が終わった三機のゲットマシンを前に…全ての研究所所員、早乙女元気、早乙女ミチル…そして早乙女博士が集まっていた。
全員総出で、今より東京湾へと出撃するゲッターチームを見送る。
その誰の顔も、やや硬い。
恐れと不安、だがそれでも心の中に燃えつづける希望…ゲッターチームへの期待が、複雑に入り混じって彼らの面にあらわれる。
「…」
無言のまま、彼らの視線を受け止めるゲッターチーム…
「…いよいよ、だな…」
ぽつり、とリョウがそうつぶやいた。
「…」
だが、ハヤトもムサシもその言葉に返事を返さない。
ただ、黙ってうなずくだけ…
…大勢の人間が集まっているにもかかわらず、格納庫の中は驚くほど静かだった。
張り詰めた緊張感と悲壮さが、少し蒸し暑い格納庫内の空気に満ちている。
…と、唐突にムサシが明るい声を…場違いなほど明るい声をあげた。
「…おっし!それじゃあ、行こうぜ…リョウ、ハヤト!」
かすかに格納庫内に反響する、どこかおどけたような彼の言葉。
…そのセリフの能天気さに…そのセリフがまとった、懸命な能天気さに…誰もがふっと微笑みをもらした。
彼の立場、彼の真の気持ちを痛いほど悟りながらも。
「ムサシ…」
「そうだな、そうと決まったら…善は急げ、か」
「…ああ、そうだな…!」
リョウとハヤトも、かすかに微笑った…
そして、ムサシに向かいうなずきかける。
そして、彼らは三々五々自らのゲットマシンに向かって駆け出した。
リョウ…流竜馬は、真紅のゲットマシン・イーグル号に。
ハヤト…神隼人は、純白のゲットマシン・ジャガー号に。
ムサシ…巴武蔵は、鮮黄のゲットマシン・ベアー号に。
ほぼ同時に、三機のゲットマシンのエンジンが始動する。
ジェットの炎がゲットマシンの後方に伸びる…
「頼んだぞ、ゲッターチーム!」
いよいよ出撃する彼らに向かって、最後の言葉をかける早乙女博士…
『はい!』
三人はきっぱりとした口調で…それに応じた。
「…ゲットマシン・イーグル号、発進!」
「ゲットマシン・ジャガー号、発進!」
「ゲットマシン・ベアー号、発進!」
三機のゲットマシンは同時に発射口を飛び出し、大空に吸い込まれていった…
その向かう先は東京湾、無敵戦艦ダイ…!
それを見送りながら、ミチルはそっと祈る…ただ、彼らの成功を、彼らの生還だけを祈る。
彼女の必死の祈りが、ぽつりと小さな声になってその唇から漏れた…
「…がんばって、リョウ君、ハヤト君、ムサシ君…!」


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