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◆ アメリカからきたロボット!
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「ルーガ!待ってえ!」
恐竜帝国マシーンランドの廊下を急ぎ足で駆けていくキャプテン・ルーガ。
その背にかけられた声にふりむいた彼女の目には、いつのまにかそこにいたのか、友人のエルレーンの姿があった。
…だが、ふりむいたキャプテン・ルーガの顔には、笑顔が見られない。
普段は見られない緊張した雰囲気が漂っている。
「…すまない、エルレーン。…急な話だが…私は、今から…早乙女研究所攻撃のため、メカザウルス・ライアで出撃する」
厳しい口調で短く、それだけ言った。
「?!」エルレーンの顔に衝撃が走る。
…今まで一緒に暮らしてきたが、彼女が実際にメカザウルスに乗って出撃することなどなかったからだ。
…そして、それは「最悪の結果」がありうることも示している。
「る、ルーガ…っ」
一瞬、臆した彼女はかすかに身を震わせた。
…が、それを見て取ったキャプテン・ルーガは、軽く微笑みながら彼女の両肩にぽんと手を置いた。
「…案ずるな。…私が、負けるとでも思っているのか、エルレーン…?」
「!…う、ううん…!」
一生懸命首をふって、それを否定する。
「…ならば、案ずるな。…見ているがいい。私の戦いを…恐竜帝国の戦士としての、な」
キャプテン・ルーガの金色の瞳がきらりと輝く。それは己に対する自信と戦いへの緊張感から生まれた、強い光だった。
エルレーンの表情に安堵が浮かぶ…友人のその強い瞳は、彼女の勝利を信じさせるには十分すぎるほど、美しく強かったから…

「博士…そのジャック・キングとメリー・キングというのは、どんな人なんですか?」
リョウが早乙女博士に尋ねる。
今日、早乙女研究所はアメリカからあるゲストを迎えることになっていた。
テキサスマックというスーパーロボットを独力で開発したキング博士の実子…
ジャック・キングとメリー・キング兄弟が、この早乙女研究所に来訪する事になっているのだ…彼らゲッターチームも彼らを歓迎するため、司令室に集まっていた。
「二人ともキング博士のお子さんだが、とても優秀なパイロットらしい。…ハハ、君たちといい勝負かも知れんぞ」
「えー博士ー、俺たちそんな簡単に負けませんよー」
ムサシが彼らしい軽口を叩く。
と、そのとき通信機に連絡が入る…その聞きなれない声は、若い男のものだった。
「…こちら、テキサスマック。早乙女研究所、もうすぐそちらに到着する」
「…了解。ジャック・キング君だね、私は早乙女研究所の所長、早乙女だ。君たちの来訪を心より歓迎する」
「ありがとうございます、博士」
今度は女性の声。彼の妹、メリー・キングの声だ。
「私たちもあなた方にあうのを楽しみにしていました。そちらでお会いしましょう」
涼やかな声がそう告げると同時に、彼らからの通信が切れた。

研究所の前に合体したゲッター1がそびえたち、空の向こうからくるであろうテキサスマックを出迎える。
ゲッターチームと早乙女博士は、ゲッターロボの前に立ち、遠い空を見上げていた。
「へへ、どっからくんのかなー」
「…アメリカのスーパーロボットか。…どんなものだか、な」
「何でもサポートマシンと合体することによって、攻守ともに優れた性能を持たせた機体らしい。
…もともと宇宙開発のために作られたゲッターとは違い、戦闘用メカらしいからね」
「へえ、そうなんですか……!…あれは?!」
リョウの視界に、きらりと輝く何かが映った。
その光点は見る見るうちに大きくなり、あっという間にその全貌をあらわす…
「!」
「す、すげえ!」
それを見たムサシたちの口から、驚嘆の声が漏れる。
…それはゲッター1と同じ人型の…しかし、はるかに人間の姿に似せて作られたロボットだった。
真っ白いウエスタンルック。胸には星条旗を思わせる星マーク。そして、頭部にはカウボーイハット…まるで西部劇に出てくる主人公のようなロボット。
それが、キング博士の作成したスーパーロボット、テキサスマックだった。
テキサスマックは背中のマントを風になびかせながら、ゆっくりと早乙女研究所前に…ゲッターの隣に着地しようとする。
巻き起こった風に、思わずリョウたちは身をすくめた。
ずしんと重い音をたて、テキサスマックは地上に降り立った…並び立つゲッターに引けを取らぬほどの大きさを持った機体が、陽光を浴び輝いている。
ゲッターチームはしばしテキサスマックの威風堂々たる姿に見ほれてしまっていた。
…と、テキサスマックのコックピットから、すたっ、と長身の男が降り立った。
…テキサスマックと同じ白いウエスタンスタイルの服をまとった、金髪の伊達男。
彼はカウボーイハットのふちをつっと人差し指であげ、その水色の瞳でゲッターチームを見回した。
「ジャック…キング君、だね?」
「…ええ。あなたが…早乙女博士、ですね?」
低い、落ち着いた声が男の口から出た。
「はじめまして、早乙女博士!」と、テキサスマックの頭部に位置する帽子型のマシンから、涼やかな声が響いた。
「!」
そちらに目をやったムサシの顔が、うれしい喜びでいっぱいになる。
…そこには、肩までのブロンドの髪をなびかせた、華麗な美少女の姿があった。
彼女は軽やかに地面に舞い降り、兄であるジャックの隣に歩み寄った。
「…君が…メリー・キング君、か」
「ハイ、早乙女博士。お目にかかれて光栄です」
「ああ、こちらこそ…私がこの早乙女研究所の所長、早乙女だ。…そして、こちらが」
そういいながら、後ろに居並ぶゲッターチームを左手で指し示す。
「わが研究所のゲッターチーム…ゲッターロボを操縦するパイロットの三人だ」
「流竜馬だ。はじめまして、ジャック君、メリーさん…」
「…神隼人だ」
「オイラは巴武蔵!よろしく!」
三者三様に自己紹介をするゲッターチーム。
「私はメリー・キングです。よろしくお願いします」
メリーが一歩前に出、礼儀正しく挨拶をする。
…その可憐さにムサシがやに下がるのを、ミチルは確かに見た。
「えへへー、よろしくメリーさん!」
「ハイ、…ムサシ、さん…?」
「そうそう!」
メリーに名前を呼ばれただけでかなり有頂天なムサシ。メリーはそんな彼ににこやかに笑いかけている。
…だが、妹とは違い、兄のジャック・キングはその場から動かない。
…その目は、テキサスマックの隣にそびえたつゲッターロボに注がれたままだ。
「…ジャック君、ゲッターが気になるかね?」
その様子を見た早乙女博士が彼に声をかける。
「…ええ。テキサスマックと同じくらいの大きさがある」
「ああ。俺たち三人のゲットマシンの組み合わせによって、三形態にチェンジできるんだ」
「…三人、で?」
リョウが微笑しながらそういいそえた。
…だが、彼の言葉を聞いたジャックの顔に、軽い驚きと…そして、馬鹿にしたような微笑いが浮かんだのを見て、リョウは一瞬戸惑わざるを得なかった。
「…君たちは、三人で…このロボットを操縦するのか?」
「ああ、そうだが…?」
何故か、幾分冷ややかな視線で自分たちを見据え、そういうジャック・キングに対し、リョウが答える。
だが、それに対する返答は辛辣かつ挑発的なものだった。
「…三人がかりとは、情けないな」
「?!」
「な、何だとッ?!」
「に、兄さん?!」
いきなり早乙女研究所のパイロットにケンカを売り出した兄に対し、思わずいさめようとするメリー。
だが、ジャックはそんなメリーに目で合図し、なおも続ける。
「フッ、本当のことじゃないか、メリー」
「あ、あのなー!おまえらだって二人がかりじゃねえか!」
「俺たちは、兄弟ならではのコンビネーションを買われてテキサスマックのパイロットに選ばれたんだ。
単なる親の七光と思われちゃ困る…だがこうしてみてみると、あんたらはどうもただの『寄せ集め』って感じがするんでな」
「何をッ…!」
リョウの端正な顔に怒りの色が走る。
ハヤトもムサシも、この不遜極まりない男、ジャック・キングに対する嫌悪をまったく隠さない…
それだけで人を射殺せそうなほど強い視線でにらみつけている。
ジャックはしかし、動じない。
にらみ合うゲッターチームとジャック。間に挟まった博士やミチル、メリーがその重苦しい雰囲気におろおろしている…
「…?!」
その時だった。早乙女研究所に、警戒警報が鳴り響く…!
と同時に、一人の研究所員が慌てた様子で早乙女博士たちのほうに駆け寄ってきた。
「は、博士!…め、メカザウルスです!メカザウルスが、東南東方面に出現!」
「何?!」
穏やかだった早乙女博士の表情に緊迫が走る。
「博士!俺たちはゲッターで出撃します!」
「あ、ああ!頼んだぞ、君たち!」
ゲッターチームは急いでゲッターロボの搭乗口へと駆けて行く。
「…ジャック君、メリー君、すまない。…緊急事態だ。
この研究所に恐竜帝国の連中が襲ってくるようだ…申し訳ないが、話は後だ…!」
早乙女博士も慌てて司令室に向かうべく駆け出した…その後姿を見つめながら、ジャック・キングは何事かを考えているようだった。
「…兄さん。…どうするの?」
メリーが兄に向かって問い掛ける。
「…決まっているだろう。…行くぞ」
それだけ言うと、ジャックは天を仰ぎ見た。
そこには、光り輝く真っ白い巨大ロボット、テキサスマックの姿…メリーも彼の意図をすぐ察したらしく、軽くうなずいて同意を示した。

「きたな恐竜帝国!…このゲッターが相手をしてやる!」
数十分後、ゲッター1は浅間山付近でメカザウルスを待ち受けた…
ゲッター1を操るリョウが眼前に対峙するメカザウルス・ライアに吼える。
ゲッター1のコックピットから見えるそのメカザウルスは、巨大な肉食獣を改造したものらしかった。
しかし、何よりも目を引くのはその両腕。三つの指を持つそれは、物をつかむことに特化しているらしい。
そして、背に背負っている巨大な剣らしき武器だった。
…まるで、「剣士」のようなメカザウルス…そして、そのメカザウルス・ライアに乗っているのは…恐竜帝国屈指の剣の使い手、キャプテン・ルーガだった!
「ゲッターチーム…!…容赦はしない!我が剣の錆にしてくれよう!」
キャプテン・ルーガもリョウに応じた。
だが、両者ともまったく自ら動こうとはしない。相手の実力を測りかねている…
うかつに動けば、それはすなわち大きなダメージを負うことになるからだ。
お互いがお互いの隙を狙っている、そんなじりじりとした空白の時間がしばし流れる。
「…?!」
そのときだった。…メカザウルス・ライアに向かうもう一つの影…真っ白なボディが光をはじき、きらめきながらこちらに一直線に飛んでくる…
「テキサスマック!」
ハヤトがその名を呼ぶ。
「俺たちも助太刀するぜ、ゲッターチーム!」
「…ありがたい!…頼むぜ、テキサスマック!」
彼らの出撃を見ていたジャックとメリーが加勢にあらわれたのだ!
…多少気に喰わない男だが、この状況での加勢はありがたい。
そう思ったゲッターチームは素直にその助けを受け入れた。
…一方、予想外の新たな敵にペースを崩されてしまったのは、メカザウルス・ライアに乗るキャプテン・ルーガ…彼女の顔を、つうっと嫌な汗が流れていく。
(くッ…!…なんということだ!ゲッターロボのみならず、あのようなメカまで早乙女研究所にいるとは?!)
いくら歴戦の勇士キャプテン・ルーガであれ、メカザウルス・ライア一機であの2体のスーパーロボットを倒せるか…その答えはいわずとも知れている。
それどころか、彼らと互角に戦えるかどうかすら、危うい。
(…しかし!!)
キャプテン・ルーガの瞳にいったんなえかけた闘志が再びよみがえる。
手ごわい敵に対し、ひるむことなくメカザウルス・ライアがその大剣を向ける…!
…と、そのときだった。ゲッター1、テキサスマック、メカザウルス・ライアのレーダーに…また新たな機影が浮かぶ!
「?!」
「ま、また何か来るぜ、リョウ!」
「どういうことだ?!」
「…!!」
やがて遥か遠く、空の彼方から…その機影の正体が現れる。凄まじいスピードで風を切り、雲を裂いて飛び込んできたのは…
「ルーガっ!」
「?!…エルレーン!」
それはメカザウルス・ラル…エルレーンのメカザウルスだ!
「お、お前、どうして?!」
「私ッ、私…や、やっぱり、ルーガのことが心配で…!…で、でも、よかった…!
…ルーガ一人じゃ、2機を相手にはできない!…私も、闘うッ!」
そう言いながら力強い瞳でキャプテン・ルーガを見返す。彼女は親友を救うため、戦場に降り立ったのだ…!
「what?!…どういうことだ!…あの…新しい機体のパイロット、あれは…」
「言うなァッ!…言われなくても、わかってる!!」
エルレーンの姿をモニター越しに見たジャックの驚愕に、リョウがぴしゃりと言い放つ。
…とはいえ、ゲッターチームの一員、リーダーと同じ顔をした女が敵のメカザウルスにのっているのだ。
動揺しないはずがない。テキサスマックのもう一人のパイロット、メリーもまた二人を見比べ、困惑しきっている。
「ジャック、今はそれどころじゃない!…とにかく、あいつは敵だ!…恐竜帝国の手先なんだ!」
「…わ、わかった…」
ジャックもリョウの勢いに押され、ともかくうなずく。
テキサスマックの操縦席からそのメカザウルスを改めて見直すジャック。
…最初のメカザウルス同様、背中に大きな剣を背負っている。
「…よし、メリー!俺たちはあの2機目にいくぜ!」
「OK、兄さん!」
テキサスマックはメカザウルス・ラルに銃を向ける…エルレーンもそれに応じ、背中の剣を構えた!
「エルレーン?!」
「私なら、大丈夫!…ルーガ、私はこの白いのと闘う!…だから、ルーガはゲッターを!」
エルレーンはキャプテン・ルーガににっと笑って見せた。その表情は、既に「戦士」のものだった。
「…!…わかった!…すまない、エルレーン!頼むぞ!」
自分のために戦おうとする小さな友人…エルレーンのその存在が、心強い。
キャプテン・ルーガの心に、再び闘志が湧きあがる。メ
カザウルス・ライアはその剣を、自分が戦うべき敵…ゲッター1に向けた!
「まかせてぇッ!…誰だか知らないけど、私…ルーガの敵なら、容赦しないんだからァッ!」
エルレーンも笑顔で応じ、テキサスマックを睨みつける。
「くッ…なんてこった!エルレーンまできちまうなんて!」ムサシが悲痛な声をあげる。
「ムサシ!ともかく、俺たちは…あの最初のメカザウルスを倒すぞ!…あの女は、テキサスマックに任せる!」
リョウの瞳が燃え上がる。その強い意志の燃える目は、眼前のメカザウルス・ライアに注がれている…
そして、2対2の激戦が始まった。


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