Now you are in the Website Frau Yudouhu's "Gag and I."
TOPマジンガー三悪のお部屋マジンガー三悪・ショートストーリーズ>ドクター・ヘルの華麗なる一日


ドクター・ヘルの華麗なる一日


ドクター・ヘルの朝は早い。
一度目が覚めたらだらだらと寝床にとどまるような莫迦なことはせず、さくさくと起き洗面を済まし、六時三十分には屋外に出て体操を行う。
伊豆諸島近海・地獄島にも、美しい朝の光が降り注ぐ。
さわやかな陽光の下で身体を動かしていると、まだ寝惚けていた頭も起動していく。
もちろん、共にしているのはAMラジオ。
NHKラジオ体操は日本に来てから知ったが、特にラジオ体操第二のアクティブ感がお気に入りだ。
雨の日は地獄場内の自室にて体操をしているという。


その後、朝食。
毎朝ライ麦パンとスプレッド、コーヒーという決まったメニュー。
多すぎず少なすぎずの量を取り、すぐに機械獣の研究開発に取り組む。
午前中いっぱいは研究から離れることはない。
ドクター・ヘル曰く、「朝にインスピレイションを刺激されることが多い」とのこと。
若かった頃は夜遅くまで研究に没頭することが常だったが、現在ではむしろ朝方に集中してしまう生活スタイルを取っている。
特に最近アイデアを得るために調べているのが、野生動物の生態学。
同じ地球上に生きる動物…特に肉食動物の狩りの仕方や反応は、そのまま機械獣の攻撃パターンに反映される。
このようにして、ドクター・ヘルの技術の粋たるメカロボットは生まれてくるのだ。


十二時少し過ぎになると、ドクター・ヘルは昼食をとる。
昼食はその時々によってバリエイションが変わったりもするが、基本的には「じゃがいも」を欠かすことはない。
ドクター・ヘルの祖国(裏切って捨てた場所をそう呼ぶことも最早無いかもしれないが)では、常時食されている大切な野菜だ。
チーズを絡め、溶けたところをアツアツで食すのがヘルのお気に入り。
その他、肉や野菜なども含め、たっぷりと時間をかけて食事する。
warmes Essen(温かい食事)を取るのは、一日の内でも昼食だけだ。
昼食の最後は、濃く入れたエスプレッソ。
ミルクや砂糖は好まず、苦み走ったその琥珀の液体を流し込み、マッドサイエンティストは再び研究に舞い戻る。
時折はあしゅら男爵・ブロッケン伯爵と戦略会議を行ったり、機械獣開発工場の様子などを視察に向かうこともある。
光子力研究所との交戦も行ったばかりであるため(残念ながらマジンガーに惜敗した)、今日のところは新たな機械獣の製作が火急の課題。
そのためヘルは、昼食後より休むことなく研究に明け暮れた。


しかしながら、午後四時ともなるとさすがの老科学者にも疲れの色が見える。
長時間根を詰めることがすなわちそのまま良き成果に結び付くわけではない、ということをよく知っているドクター・ヘルは、ここでその日の研究を仕舞とする。
そして、おもむろに向かうのは…地獄城を出たすぐそこにある岩場。
そこで釣りをするのが、ドクター・ヘルの趣味の一つなのだ。
世界征服を狙う悪魔の科学者が?と感じてしまいそうになるが…
こうやって釣竿を握り、遠く遠く海面をぼんやりと見つめている様子からは、まったくそんな風を感じさせない。
このように、研究で凝り固まった頭脳を安らがせ、ニュートラルな状態に戻すのも、一流の研究者であったヘルならではの時間の過ごし方なのだ。


夕日も沈み、夜。
夕食はハムを乗せたパン数切れと簡素に済ませたドクター・ヘルは、これから何をするか…
もちろん興がのればまた機械獣開発にいそしむこともあるが、今日のところはそうでもないようだ。
そのような時はどうするか…
ドクター・ヘルは、おもむろに…研究室のコンピュータの前に坐し、ネット通信を始めた。
もちろんヘルの科学力をもってすれば、通信網に滑り込むことは容易。
世界中に張り巡らされたインターネットの波に乗り、各国に散らばった同志と…同じ悪の道を歩む者…語らう。
もしくは、ネットを通じて知った気晴らしに興じることもある。
愚民どもの作った娯楽であれども、そこから知れることはまだまだ数多くある。
超弩級の才能を持ちながらも学ぶ意欲を失わないドクター・ヘルは、夜の時間を有意義に、それでいて優雅に過ごすのだ。


午前零時。
日付が変わるその頃になると、老科学者は床につく。
一日中働いた心地よい疲労とともに、彼の精神はすとん、と眠りに落ちていく。
広いベッドの中、彼が見る夢は如何ばかりか…?
きっとそれは、彼がこの愚昧で哀れな世界を統べ、そして本来在るべき正しい形へと導いていく、輝かしい「未来」の夢だろう。

そして、また朝が来るまで。
素晴らしき、燦然と光り輝く夢の中で、ドクター・ヘルは「未来」を見ているのだ。



2011年トツゲキ一番様の「風雲!地獄城」に載せさせていただいたゲスト原稿です!
このころTwitterが流行りだしたんですかね、ネタにしているということは…
まあ、ヘル様そういうの好きそうかなと思って…新技術とかすぐ試したがりそう( ´∀`)