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幻肢(phantom limb)とブロッケン伯爵


幻肢(phantom limb)
この言葉を、皆さんは聞いたことがあるだろうか?
これは、事故や外科手術等で失ってしまった手足、身体の一部などが「まだ存在している」かのように感じられる現象のことである。
無くなったはずの身体器官が、いまだそこについているような感覚があり、四肢を失った人の9割がそれを感じると言う説もある。
また、これに加えて、その器官が「痛い」という感覚すら生まれる場合があり、これを幻肢痛(phantom pain)と言う。
既に存在しないはずの器官、しかしその失った腕だの脚だのの感覚をリアルに感じられる…
この不思議な現象は、「脳の再配置」によっておこるといわれている。
通常、ヒトが手足などの感覚を感じるのは、大脳における「体性感覚野」と呼ばれる分野の働きによるものである。
この体性感覚野に属する神経細胞は、それぞれの身体の部分に対応しており、これを図式化したものは「ペンフィールドの身体地図」として知られている。
これらの体性感覚野と各身体パーツとの結びつきは、成人以後は変化しないものだと思われてきた。
しかし、そうではなく、成人であってもこの神経細胞結合の組み換えが起こる場合がある。これが「再配置」である。
つまり、幻肢や幻肢痛とは…この「脳の再配置」によって、失った部分に対応していた体性感覚野の神経細胞が
別の身体部位に属する神経細胞に取り込まれた結果なのである
(例:失った「左腕」の細胞群が、「顔」に属する細胞群に取り込まれる→「顔」を触られると、「左腕」を触られているような気がする)。


我らがブロッケン伯爵は、見てのとおり「首から上を(もしくは、首から下を)失った」男であるわけだが…
では、そんな彼は、果たして幻肢を感じているのだろうか?


私見ではあるが…おそらく、その答えは「否」である。
それは、彼が登場する様々なエピソードから推察した結果である。


結論から言えば、ブロッケン伯爵にとって、「(首から下の)身体」というモノは、無意識下で「非自己」とみなされていると考えられる。
何故なら、彼は…その身体から、何の感覚も感じ取れていない可能性が高いからだ。
そして、感覚が通わぬなら…それを「自己」と認識するのは、あまりに難しいことだろう。


第60話「マジンガーZ 秘密兵器発射!!」などでは、気が急く彼は地獄城司令室を出て行こうとするのだが…
何と、身体だけで出て行こうとして、Dr.ヘルに呼び止められているのだ(「こら、頭を忘れていく奴があるか!」)!
明らかに、頭と身体の統制が取れていないのである。これでは幻肢どころではない。

第58話「前線基地 地獄城!」…ここでは、やはり彼の頭と身体との連携がうまく取れていないシーンが見られる。
作戦がうまくいかなかったブロッケン伯爵。ムカッと来た短気な彼は、思わずその辺にあったものをつかんで床にたたきつけるのだが…
それは、何と自分の頭だった!
で、床に思いっきりぶつかって痛がる彼。
普通、いくらかっとなったからといって、自分の身体を投げようとは思うまい。

そして、もっともその不統制振りがはっきりでているのが…第77話、「瀕死の参謀 ブロッケン伯爵」である。
そこで、何と彼は…アイアンカッターに胴体を真っ二つにされてしまうのである!
そこでの彼の反応を見てみよう:

グールで飛行中、マジンガーZに発見されてしまうブロッケン伯爵!
ブロッケン伯爵「姿を隠すことが出来ない以上、堂々と戦わなくては男がすたるぞ!」
とかいいつつ、グールで戦闘に入ろうとする。
だが、その時…マジンガーの放ったアイアンカッターが、グールのブリッジを切り裂いていった!

ああ、こともあろうに…ブロッケン伯爵の身体をも、腰部で真っ二つにぶった切って!

鉄十字「ブロッケン伯爵!」
二つに裂かれた胴体の周りを囲み、叫ぶ鉄十字。
ブロッケン伯爵「おい、ブロッケン伯爵!しっかりしろ!」
その彼らに混じって、真っ二つになった胴体に呼びかける伯爵(笑)
鉄十字隊員が一人、そのそばに駆け寄った。
ぴくりとも動かぬ胴体をゆさぶり、必死に呼びかける鉄十字に向かって…
ブロッケン伯爵「鉄十字!自分のことは自分でやる!
いいか!とにかくブラスターA7は潜入に成功した!グールは引き返すのだ!」

と、やたら冷静に指示を飛ばす伯爵(首)。
指示を受けた鉄十字は慌てて任務に戻り、グールを後退させる…
一人残ったブロッケン伯爵(首)、身体に向かって…
ブロッケン伯爵「ブロッケン、しっかりするのだ!
俺が誰だかわかるか?俺は俺だぞ、おい!」


本人、1000%マジメなのが逆に笑えますが(いや、笑っちゃいかんだろ笑っちゃ)…
この中で明らかなのは、ブロッケン伯爵(首)にとって、身体は「ブロッケン伯爵、しっかりしろ!」と呼びかける対象
つまり、「自分ではない=非自己」だということである。
もちろん、「自分のことは自分でやる!」と言っていることからして、
ブロッケン伯爵は、知識としては「この身体は自分であり、自分の一部である」ということを認識しているのだろう。
しかし、その前後のやり取りを見ると…彼(頭)は、ぶった切られた身体を完全に客体化している。
想像もしなかった光景に錯乱したブロッケン伯爵、思わず無意識中での認識がもろに出てしまったのだろう。

ここから、彼の身体に搭載されたテクノロジー…脳波感応装置(首が、その身体を動かすための装置)の性能がわかるというものである。
どうやら、この脳波感応装置…
首から身体へ指令は飛ばせても、身体が感じる感覚を首(つまり、脳)に返す「フィードバック」能力が備わっていないらしい。
つまり、正太郎君のリモコンと鉄人28号のような関係であると思われる。
正太郎君がリモコンで操作すれば、鉄人28号はバンガオーッと自由に動かせるわけだが、
とはいっても、正太郎君が鉄人の受けた爆撃などのダメージを感じるわけではない。
一方通行の関係、といえば一番はっきりするだろう。
ヘルの造った脳波感応装置は、「脳の再配置」を彼に起こさせなかったのかもしれない。

だから、ブロッケン伯爵は…よみがえった当初、結構苦労したんじゃないかと思うのだ。
身体の感覚がない、ということは、つまり…動作の調整に非常な不都合を生じるからだ。
例えば、紅茶の入ったティーカップをつかむとしよう。
我々は難なくこなせる動作だが…
それは、「カップの重みを感じ、持ち上げる時の勢いと力を調整し」「カップの素材に合わせた適度な力で取っ手を持つ」という作業。
身体からのフィードバックを感じない伯爵だとどうなるか?
…多分、一回ぐらい…カップの取っ手をメチャクチャ強い力で掴んでしまって、カップをぶち割ったりしたんじゃないでせうかねぇ…?
もしくは、カップの重みがわからないから、思いっきり勢いよく持ち上げてしまって顔面に紅茶をぶちまけたり。
ああ、こんな日常的な動作すら大作業。慣れるまで、さぞ大変だったでせうねぇ…

そんなわけで、我らのブロッケン伯爵は…日常生活を普通の人同様に送れるくらいにまで回復するため、
リハビリ生活をくぐりぬけてきた、努力の人だったのであります(←本当かよ)。

後日追記:これを書いたその後、もう一度第77話をみてみたのですが、
何か怪我を痛がっている描写もありました。
…やっぱ、違うのかも(笑)