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vsゆどうふ 第六試合<vsカメムシ>
ニオイ。香り。芳香。
人間の感覚の中でもっとも研究が遅れており、まだまだ未知の分野たる「嗅覚」というもの。
この現代社会においてわれわれはもはやほとんどが視覚のみに外界の把握をまかせてはいるものの、それでもこの「ニオイ」というものは
われわれに強く強く訴えかける。理性に包まれて浮遊する本能を呼び覚まさんかとするように。
しかしそれゆえに「くさいニオイ」というものは人間をいちじるしく脅かす。
そう、その点でわれわれはあのエメラルドの透明感を思わせる、ほんの指先ほどの虫を恐れねばならない。
その名もカメムシ。なんびとたりともその攻撃を受け無事ではいられない、超破壊兵器なのだ。
しかし人類の英知を持ってすれば、必ずや光明は見えるはずである。
これは、そんなある戦いの記録である。
私の大学は山の山、自然に囲まれた環境の中にある。
緑はさえずる鳥をはぐくみ、好みを落とし、そして虫をも育てて女子大生をおびえさせる。
各種さまざまな昆虫や蜘蛛どもが神出鬼没に現れ、彼女達に恐怖の叫びを上げさせるのだ。
そして私もその罠に、すっぽりとはまっていたのだった。
それは9月。秋の風は台風をともないやがて去っていく、寂しいながらも激しさが同居する月。
私はふと寒波を受けた不意に自然が呼ぶのを感じ、化粧室へと向かった。
ご存知であろうとおもうが(殿方淑女共に)女子トイレではすべてが個室である。
男子トイレでは、そこにはいるものは区切られ守られているという安らぎと引き換えに大変なる勇気を必要とされるらしいが、
女子トイレではその取引さえ皆無、ただただ安楽のみがある。しかしその区切りが悲劇を呼んだ。
一時間目と二時間目のあいま、たった十分の休息時間だった。ふと自然の呼び声を聞いた私は化粧室へ。
いつもどおりに個室へ入り、つつがなく用を終えた。
と、そのときである。私の視界に入り込んできたあるモノがあった。あの、例の気配とニオイをかすかに漂わせ。
『げっ、カメムシ!!』声ならぬ声で私は叫んだ。便器左前方15センチに微動だにしない憎い奴、まさにカメの名にふさわしい。
『ややヤバイ、何とか早いとこ退避せねば』私はいそぎながら、しかし奴を興奮させない程度にゆっくりとズボンをなおす。
しかしその遅々とした動きはむしろ私のほうを駆り立ててしまう。
『速く、早く、は・・・』この狭い個室の中では逃げ場が、ない!
全装備完成!とともに私は再びやつの現在位置を確認しようとした。だが、そのときであった…
『?!』奴の姿はそこにない!そして足元から感知される奴の気配!
「ひいいいいい!!こっちくるううううう!!!」(30ホーン)なおも私に向かって駆けてくる緑色の爆弾!
そしてその接触の瞬間…!
「ぷちっ。」嗚呼、反射的に、反射的にやってしまった。
例のニオイがそこらじゅうに、一辺1メートルの個室の中に、トイレ中に、そして私中に放たれる。
かえりたい…そのニオイをかぎながらわたしはあまりの痛烈さに涙すら浮かべてこういった。