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vsゆどうふ 第十四試合 <vsセミ>


昆虫のエネルギー、そしてその能力にはまったく驚かされるばかりだ。
考えてもみよ。
何故蝶はあのような細い身体で、あの巨大な羽を羽ばたかしめるのか。
蚤はあの己の身体と対比すればアンバランスなまでの脚力を、何故持ちえるのか。
ああ、それに比べて我々ホモ・サピエンスとは何と非力か。
彼らが我々に牙むかんとする時、人類の英知はそれを阻み得るのだろうか?

私のバイト先のコンビニでは、何故か妙な虫をよく見かける。
やはり、24時間浩浩と明るいせいか、虫が寄って来るのだ。
もちろん、見かけたら追い払う。捕まえる。そして潰す。
食べ物売ってる店なんだから。
一度、謎の蛾のような虫を発見した時、
店長に命じられてそれを抹殺したこともある
「○○さんなら<←私の本名>多分ヤレるわ」)。
しかし。
虫というのは、本当に怖い生き物だ。
何しろ、頭を潰してもまだ動いているのだ…
これは反射の為せる技だろうが、怖い。ものすごく怖い。
それを実感させてくれる出来事が、この夏にあった。

それは、八月。夏真っ盛り。
その暑い昼下がり、私は今日も仕事に精を出していた。
…と、その時だった。
静かな店内を、奇妙な音が貫いていったのは。
「ばちばちばちばばばばちばちばちばちぃっ」
(…?)
その激音に、思わず顔をあげる私。
だが、見たところ店内に異常はない。
改めて、私は仕事の伝票整理に戻った。
が、刹那。
「ばちばちばばちばちばちばちばちっ」
(…??)
何だろう、どうやら入り口のほうから聞こえるようだが。
しかし、相変わらず店内に異常は見当たらない。
…いや、何か…においが、する…?
「ばばちばちばち、ばちっ!」
そして、とうとう。
私は、その怪音の原因をこの目で見てしまった。
「…〜〜ッッ?!」
…何かが、空中から、舞い落ちている。
その茶色い破片は、ばらばらと…その下のコピー機の上に降りかかる。
その上にあるものは…誘蛾灯!
怪音の出所は、その中だ!
そして、その中で暴れているのは…
「ギャアァーーーーーーーーースッ!」(心の叫び)
セミだーーーーーーーッッ!
そう、セミ
夏の主役たる彼だった!
彼は一体何をとち狂ったのか、こともあろうに誘蛾灯に飛び込み自殺を図りやがったのだ!
お前蛾じゃないだろう、と突っ込もうにも、もう遅い。
「ばばば、ばちばち、ばちばちぃっ!」
彼が暴れるたび、誘蛾灯のまわりに張り巡らされた高圧電流は、彼の身体を焼ききっていく。
ばらばらとコピー機の上に落ちてきたのは…彼の羽根、彼の身体の破片だったのだ!
「ばちばちばちぃっ!ばばばちぃっ!」
「ひいぃぃいぃぃっ!暴れるなーーーッ!」
セミがもがき苦しめば苦しむほど、暴れた身体に電流が流れ、
焼き落とされたセミの身体が粉状になって落ちていく。
…焦げる嫌なにおいとともに。
生きながらにして焼かれる。まさに焦熱地獄。
ああ、それにもかかわらず…彼はなおもあがく、あがく。あがきつづける。
昆虫のエネルギッシュさを見せ付けるかのように。しぶとさを誇示するかのように。
「ば、ば、ば…ばちばちぃ!」
「うわあぁぁぁああぁぁ!もう成仏してくれーーーーッッ!」
悲痛な絶叫にも似たその音を聞かされる私はたまったものではない。
私は、「早く死んでくれ、早く安らかになってくれ」と
必死で祈りながら、その音を聞くまい聞くまいと、意識をあえて別方向に捻じ曲げた。

…それから、かれこれ一時間。
ようやく彼の断末魔の叫びは、なりをひそめた。
そのことにほっとする私のこころに、ふっと浮かんだのは…
「…よく一時間も生きていたな、恐るべき体力よ…まあ、安らかに眠るがいい。
…ところで、セミよ…」

「…貴様のまきちらかした、この羽根だの破片だのは…
私が掃除せねばならんのか?!」


P.S.やっぱり私が掃除しました(泣)