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Mensch oder Gespenst, wer ist jeweils wer...?


「俺は将軍だ!…将軍だ、将軍だ、将軍だ…自雷将軍だあああぁぁッッ!!」
「リサ、しっかりお逃げ…母さん、いつまでもお前の幸せ、祈ってるからね…」
「今度…今度、生まれ変わってくるときは、『人間』に生まれたい…」
「…私は一番だ、誰にも負けない!」
「俺は、正々堂々と戦いたいんだ!」
「俺の親父やお袋を、そして小さな弟たちをも殺した『人間』どもを、俺は決して許すことは出来ないッ!」
「立て!戦うのじゃ!男は戦って、戦って、戦い抜くのじゃあッ!」


「『鬼』なんてやだぁッ…!…せめて、『人間』に戻って死にたかった…ッ!」



「…」
早乙女博士は、考えていた。
浅間山に広がる鈍色の空を、司令室のガラス窓越しに眺めながら…彼は、考えていた。
ゲッターチームがつい先日撃破した、百鬼百人衆の一人…暴竜鬼。
ハヤトの旧友、「鬼」と化したイサムの末期の言葉。
それが、早乙女博士にふと考えさせたのだ…

「人間」と、「鬼」。果たして、その二者の何が違うのであろうか、と。

彼は、「『鬼』なんていやだ…せめて、『人間』に戻って死にたかった」と、呻吟して死んだ。
だが、彼は一体「鬼」の…何を忌んだというのだろう?
早乙女博士の胸を離れない、その疑問。
もともと、その疑問は…百鬼帝国と対峙してからというもの、彼の脳裏につかず離れず、漂い続けていたぼんやりした疑問だった。
かつて、恐竜帝国と戦っていたときには、そのようなことを考えたことはまったくなかった。
…何故なら、彼らはまったく違っていたから。
爬虫類から進化を遂げた彼らは、哺乳類の自分たち「人間」とは、まったく異質の存在だった…
だが、百鬼帝国の「鬼」たちは違う。
その姿かたちも、まったくといっていいほど「人間」と酷似している…
では、その二者の違いとは何なのか?
イサムは、「鬼」の何を忌んだのか?
その精神が違うとでもいうのだろうか?
いいや、違う。そんなことは言えやしない。
「人間」であっても、その持ちうる精神のかたちは千差万別。単純なカテゴライズなど出来ないほどに多様ではないか。
その能力が違うとでも言うのだろうか?
いいや、違う。そんなことは言えやしない。
「鬼」が「人間」より優れているのならば、我らはとっくの昔に滅び去っているはずだ…彼らの攻撃に砕け散って。
彼らと、我らと。
違っているのは…突き詰めれば、ツノがあるか否か、それだけではないか。
それは、皮膚の色の差と何ら差があるものではないのではないか?
…その己と違う相手を、奇形として見るということすら、まったく同じではないか。
では、「鬼」とは一体、何なのか…?

低く天が鳴る。不快げな唸り声のように。
…と、早乙女博士の胸に、ぱっとその疑問の答えが浮かび上がってきた。

そう、一つ…思い当たるようなことがあった。
戦場で彼らを見た時、いつも感じさせられること…
そうだ、彼らは…いとも盛大に、猛っているのだ。
彼らは、真剣に、素直に、異常なまでに、ある種感動的なまでに…感情を爆発させている。
彼らは、怒り、ねたみ、誇り、嘲り、哀しみ、恐れ、愛し、恨み、笑う。
その感情の発露…それは、驚くほどに「人間」的ではないか?
きっと、我々よりも、率直に。
そして。
彼らは、それぞれがそれぞれなりに、「大切なモノ」を持っていた。
それを守る、そのために戦う。百鬼百人衆として。
その一途な、ひたむきな…己の「大切なモノ」を守ろうとする気概は、本来は尊いものではないか?
それは、とても「人間」らしいことではないだろうか?
生きるために殺す、もしくは逃げる…それしかできない、本能のみしか持たぬイキモノに比べれば、その差は歴然としている。
己の身をはってでも、己の「大切なモノ」を守ることが出来る…その勇気、強き意志は、理性ある者しか持てぬモノだ。
それは、賞賛すべき事柄なのではないだろうか?
そうではないだろうか…誰が、困難にあったからといってホイホイと自分の「大切なモノ」を放り捨てて捧げてしまうような者を尊敬し、認められよう?
その「大切なモノ」を守る、そのためなら、他の全てを犠牲にしてもかまわない。
彼らは惑わない。だから、強い。
…しかし、それこそが…彼らが最も恐ろしく、残酷な…我らの「敵」と成り果てている原因だ。
彼らは、まったくに惑わない。そして、本当に…「他の全て」を犠牲にできるのだ。「大切なモノ」を守るためなら。
たとえ、それが「敵」の命でも。たとえ、それが同族の命でも。
我らは…そこまで、強くはなれない。
我らは惑い続ける。「大切なモノ」を守るために犠牲にせねばならぬモノ、それをも惜しんで、どちらも取れなくなる。
悩み苦しみ、もがき…時にはやけになり、あきらめすらする。
だから、「人間」なのだ。「他の全て」を犠牲にできるほどの気概、それがない、それ故に。
そして、だからこそ我らは、どうにかこうにかやってきた…
妥協し、和解し、納得したり不満を抱いたりしながらも、微調整に微調整をかさね、この社会というものを築き上げてきたのだ。誰もが我慢しながらに。
だが、彼らにはそれがない。
だから、恐ろしいのだ。
彼らはまさに、己が身を炎と化すがごとき勢いで、我らに迫ってくる…他の全てを、犠牲にして。
己の愛する、己の「大切なモノ」のために、その命を張る…百鬼帝国の「鬼」たち。
我らが相手にしているのは、本当は…「鬼」という邪悪な異種族ではなく、「人間」そのものなのかも知れぬ。
「人間」らしさのカタマリ…それこそ、ある意味では人間主義(ヒューマニズム)の体現者たち。
それが、彼ら…「鬼」なのかも知れない…

「あら…どうしたの、お父様?」
独思にふけっていた早乙女博士の精神を、娘のミチルの声が呼び戻した。
はっとなって前を見ると、いつの間にかそこにはパイロットスーツ姿のミチルがいる。
「…いや、何でもないよ、ミチル」
「そう?…みんなもうとっくに準備できてるみたい。私も行きますわ」
軽く笑みをつくろい、そう言うと…娘は一瞬、きょとん、としたようだったが、やがてふっと微笑んで、明るくそういってきた。
…そういえば、もう訓練の時間だったか。
そんなことすら忘れていた自分に、苦笑してしまう。
「ああ…頼んだぞ」
「はい!」
勢いよく返事を返し、きびすを返してミチルは去っていく…
その背中を見つめながら、再び早乙女博士の思考は自分の中にもぐっていく。

百鬼帝国。「鬼」と己を呼び、そう呼ばれる…「人間」の亜種族が生き、統べる国。
最も「人間」らしく、それが故に「鬼」たれる者達の…
そして、我らはすでに見た。その「人間」らしさの片鱗を、彼らの中に。
だから、ためらわざるを得ない。彼らに銃口を向けることを。

…だが。

…だが、これもまた…「人間」のありよう、その一つなのかも知れぬ。
「人間」は生きるため争うのだから、争ってきたのだから…それは、やはりまぎれもない事実。
そして、自分もまた…自分の求める理想のため、ゲッター線という強大な力を彼らの手に渡すわけにはいかない。
だから、戦う。それを選ぶ。



その時、早乙女博士の心に突如去来する、一つの本質的な疑念。
ゲッター線研究に没頭し、それに執着する自分…
それを百鬼帝国の手に渡さぬため、彼らの要求に屈しようとはしない自分。
ひょっとしたら、自分こそが…「鬼」なのかもしれない。
未来ある若者たちを、そして自分の娘すらを、彼らとの激しい戦いに追いやっている…自分の「大切なモノ」を守るために。

軽く、怖気が振るった。

思わず、早乙女博士は…右手を自分の額にやってみた。






そこには…「まだ」、何もなかった。






自雷鬼。彼は、己の「大切なモノ」…「将軍としての未来」を守るため、他の全てを犠牲にした…
「人間」らしい、それ故に「鬼」だった。
白骨鬼。彼女は、己の「大切なモノ」…「娘」を守るため、他の全てを犠牲にした…
「人間」らしい、それ故に「鬼」だった。
地虫鬼。彼は、己の「大切なモノ」…「トモダチ」を守るため、他の全てを犠牲にした…
「人間」らしい、それ故に「鬼」だった。
胡蝶鬼。彼女は、己の「大切なモノ」…「トップとしてのプライド」を守るため、他の全てを犠牲にした…
「人間」らしい、それ故に「鬼」だった。
鉄甲鬼。彼は、己の「大切なモノ」…「誇りと名誉」を守るため、他の全てを犠牲にした…
「人間」らしい、それ故に「鬼」だった。
蛇王鬼。彼は、己の「大切なモノ」…「復讐の意思」を守るため、他の全てを犠牲にした…
「人間」らしい、それ故に「鬼」だった。
牛剣鬼。彼は、己の「大切なモノ」…「戦いの信念」を守るため、他の全てを犠牲にした…
「人間」らしい、それ故に「鬼」だった。


"...Nun, löst unser Rätsel, wenn ihr könnt:
Mensch oder Gespenst, wer ist jeweils wer...?!"

(「…それじゃあ、出来るものなら答えてみろよ、この謎に…
 『人間』と『鬼』、どっちが一体、どっちなのか…?!」)