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Monologue〜早乙女ミチル〜
Marguerite


今日は、びゅうびゅうと風が強く吹いている。
髪の毛をひるがえし、うっとうしいくらいに。
今日も私はこの場所に来た。この、風吹き渡る小高い丘に―
今日は、あの人の月命日。
だから、私はこの丘に来た。あの人のための、小さな花束を持って。
いつも、判で押したように白い花。小さなマーガレットの花束。
自分でもワンパターンだと思うが、それでいいのだとも思う―
何故なら、あの人はマーガレットが好きだったから。

ものごころついたときから、あの人は私の近くにいた。
達人お兄様と、あの人と、私と―そして、元気。
私たちは仲のよい四人兄弟だった。
…とはいっても、元気が生まれたのは結構後だったけど。

けれど、達人お兄様は死んでしまった―
そして、あの人も。
私たちは、二人兄弟になってしまった。
それでも、お母様は捨てようとはしない。
お兄様やお姉様のモノを、捨てようとはしない―

「…ミユキお姉様、また来たわよ」

返事は、当然のことながら返らない。

私たちは仲のよい兄弟だった。
特に、お姉様と私は―同性どうしだったから、なおさらに。
幼いころ、私はいつもお姉さまの後ろをついて歩いてたし、お姉様もそんな私を何かと面倒見てくれた。
達人お兄様が、私をちょっといじめて遊んだりした時、真っ先にかばってくれたのもお姉様だった。
…そういう時、結構お姉さまは好戦的で、お兄様に負けないぐらいの取っ組み合いをして見せたものだ。
だけど、そんな時以外は…お姉様は、いつもふんわりと、おっとりとした物静かな女の子だった。
どちらかというと、いつも元気ではしゃぎまわっているほうが性にあっている私だから、そのうち私はお姉様の後ろをついて回ることはしなくなっていった―
でも、お姉様が大好きなのは変わらないままで。
一度、お姉様のために、大きなクワガタを持っていったこともある。
…その時のお姉様ったら、おかしかった。目をまんまるにして、「やあああああっ?!」って叫んだっけ。
その後、怖がってショックで泣いてしまったお姉様を見て、お母様は私を叱った。
「お姉ちゃんを泣かすなんて、なんておてんばなのミチル!」
私はお姉様を喜ばせたかっただけだったのにね。
そんなふうに、好きな遊びもぜんぜん違ったから、だんだん一緒に遊ばなくなっていったけど―
けれど、お姉様は時々…私に遊びを教えてくれた。
リリアンもそのひとつ。
小さな筒の形をしたプラスチックの編み機、そのてっぺんにあるツメに紐を順番にかけていくと…きれいな組み紐ができる。
私は最初、どうしてもこれがうまくできなかった。
けれど、お姉様がそれを鮮やかにやってみせるものだから、私もそうなりたくて仕方なかった。
しつこいくらいに「教えて」と迫る私に、お姉様は困ったように微笑って―結局、Yesと言ってくれた。
出来の悪い生徒がちゃんと組みひもを作れるまで、お姉様は丁寧に、根気強く教えてくれた―
今でも、リリアンで私は組みひもをきれいに組める。お姉様が教えてくれたとおりに。
そう、お姉様はやさしかった。
そういえば、お姉様は私によくオムレツをわけてくれたっけ。
お母様が作るオムレツはおいしいから、自分のを食べてしまってからも、みんなもっと食べたがる。
私も例にもれずおねだりしたけど、お母様は「卵ばっかり食べるのは身体によくないのよ」といって新しくは作ってくれなかった。
けれど、そこでむくれてしまった私に…お姉様は、さりげなく目で合図してくる。
そうして、お母様が見ていない隙に、私のお皿に自分のオムレツの半分を入れてくれた―
お姉様だって、お母様のオムレツは大好きだったはずなのに。
ひたすらに、やさしいひと。それがお姉様だった。
自分がいやな目にあっても、お姉様は―ただ、哀しそうな微笑を浮かべて、耐えるだけ。
お姉様は、哀しいくらいにやさしいひとだった。

あの人がうちからいなくなったと同時に、研究所からゲッターQの設計図が消えた…
そして、あの人は「人間」ではなく、「ハ虫人」だった。
その事実が示すものはたった一つだろう、
そのことがわからないほど私は子どもではないし、
そして見て見ぬ振りをできるほど、忘れられるほど大人でもなかった。

あの人は、私たちの家に…早乙女の家に入り込んで、ゲッターの情報を盗んだ。
そうして、私たちはようやく知った。
何故、あの吹雪の日、私たちの元に…ちいさな子どもが迷い込んできたのかを。
そうして、何故五年前に突如姿を消してしまったのかも。

お姉様は、ずっと耐えていたのだろうか。
「敵」である種族、「人間」の中にいて。
あの哀しげな微笑の裏には、光を照り返すような「ハ虫人」の皮膚が息づいていたのだろうか。
その「ハ虫人」は、それとも―笑っていたのだろうか。
嘲笑っていたのだろうか、その外見に易々とだまされ、自分を家の中に入れてしまった私たちを?




びゅうびゅうと風が泣く。
風の中では、その他の音などかき消されて飛んでしまう。




あの、哀しいくらいのやさしさも、すべて演技だったのだろうか?
あの人は、本当は笑っていたのではないか?
そうして、ただひたすらに…チャンスを待っていたのではないか?
私たちのことなど、歯牙にもかけずに―




ああだけどそれを疑ってしまったらすべてが終わってしまうような気がするから、
あの人のすべてを憎んでしまうような気がするから、
だから私はあえてそれを考えない、
だから現実を、事実だけを見るのだ。

あの人は、早乙女ミユキは、
私にリリアンのやり方を教えてくれて、
オムレツを半分私に分けてくれて、
ゲッターロボをメカザウルスの攻撃からかばって死んだ、
そうして真っ白いマーガレットの花が大好きだった―


私の、「お姉様」だったのだ。



テレビ版ゲッターロボ第22話「悲劇のゲッターQ(クイーン)」、その後と言う感じで。
早乙女家は、恐竜帝国との戦いにおいて二人の「子ども」を奪われています。
一人は、長兄・達人。そして、もう一人は―
けれど、例え真実がそうだったとしても。
彼女は、彼女たちは忘れないのでしょう、
きっと、ずっと―