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対決!ゲッP−X(げっぴーえっくす)対ゲッターロボ(1)


晴れ渡る空。白い雲。吹き渡るさわやかな風…
今日の浅間は極めて好天。緑は美しく、空は透き通るように蒼い…
…が、こんなに気分のいい天気にもかかわらず、彼らの表情は浮かなかった。
浅間山のふもとに建つゲッター線研究所・早乙女研究所。
もう2時間あまりも司令室で待たされっぱなしのゲッターチーム…流竜馬・神隼人・巴武蔵。
さすがに、我慢にも限界があった。
「博士、まだなんですかその人たち?いくらなんでも遅すぎませんか?」
「うむ…」
苛立ちが隠しきれないリョウの問いに生返事を返すのは、この研究所の主・早乙女博士だ。
ハヤトもムサシも、口々に文句をたれてくる。
「まったく、はた迷惑な話だぜ」
「本当ですよ!んも〜、オイラ今日釣りに行きたかったのにな〜」
「…本当、すまない君たち…」
「!…あ、ああ、いいんですよ博士!別に博士が悪いってんじゃあないんですから!」
が、早乙女博士が、本当に申し訳なさそうにそう詫びるのを聞くにつけ、慌ててフォローを入れるリョウ。
しかし、博士は苦々しく笑い…頭をかきながら、物憂げにこう言うのだった。
「いや…私が悪いんだよ。あんな約束してしまったからな…」
…ことの起こりは、一週間ほど前。
巨大ロボット・ゲッターロボの開発者としてロボット工学研究の学会に出向いた早乙女博士は、一人の老科学者と知り合った。
彼の名は、呉石博士(くれいしはかせ)。
何と、聞くところによると…彼も巨大ロボットを開発、すでに運用をしているという。
しかも、宇宙ビーストなる外敵の駆逐にそれを用いているらしい。
だが…何よりも早乙女博士を驚かせたのは、その巨大ロボットは「三機の戦闘機を合体させて完成する」ということだった。
それでは、まるでゲッターロボと同じではないか!
そして、早乙女博士がその巨大ロボットの同種であるゲッターロボの開発者と知った呉石博士は、
「同じようなロボット…これも何かの縁。一度模擬試合をしてみないか」と持ちかけてきたのだ…
「…なんで、あんな約束をしてしまったんだか…」
「は、博士。もういいですよ、もう…」
再びため息の早乙女博士。リョウが思わずなぐさめにまわってしまう。
強引な呉石博士に押し切られてしまい…結局、彼のロボットと模擬試合をすることになってしまったのだった。
その約束の日が今日、なのだが…
呉石博士の造ったロボットと、それを操るパイロットを連れてくるはずなのだが、約束の時間を過ぎても、一向に彼らは現れない。
そんなわけで、博士とゲッターチームは、延々こうやって待ちぼうけをくっているというわけだった。
「しかしその…呉石博士ってのも、すごいじいさんだな」
「ゲッターロボとおんなじ、戦闘機が三つくっついてロボットになるんだろ?」
「ああ。しかも、その合体の仕方によって、三形態のまったく違ったロボットになるらしい…ゲッターと同じく」
「何て言うんですか、そのロボット?」
と、にわかにゲッターチームの間で話が盛り上がる。
ふと、リョウは博士にその噂のロボットの名前を問いかけた。
「確か…」
沈痛な面持ちの早乙女博士…
彼の口から、ため息とともに…そのロボットの名前が吐き出された。
「ゲッP−X(げっぴーえっくす)…」
『…』

思わず、三人の顔が強張った。
それは、怒りのためでも動揺のためでもなく、「うわぁ、どうしよう…」としか言い表せない、そんな危うい感覚。
…偶然というには、あまりにも。
あまりにも、アレな…
…と、その時だった。
所員の呼び声が、凍てついた彼らの思考を現実に呼び覚ました。
「博士!呉石博士から…!」
「!…ああ、今行く!」
すぐさま通信機に向かう早乙女博士。
マイクを片手に、その向こうにいるであろう人物に呼びかける…
「…呉石博士、私です。早乙女です」
「お〜っ早乙女君〜!遅れてメンゴ!」
「…」
そこから返ってきたのは、いやに明るい老人の声だった。
やたらと声がでかいので、スピーカーが軽くうなり音をあげている(思わずリョウたちは耳をふさぎたくなった)。
きいいいいーーーん、というハウリングに耳をつんざかれながら、それでも何とか怒鳴りたいのをこらえた。
「く、呉石博士、お約束の時間はもうとっくに過ぎていますよ。宇宙ロボット研究所から、何故またこんなに…」
「いや〜っ、もっと早く出てくるつもりだったんじゃがのお、ちょっとメンバーの一人が…」
顔をしかめながらも大幅な遅刻をたしなめようとする早乙女博士に、老人は言い訳めいたセリフをもごもごとつぶやいた。
と…その時だった。
老人の声を塗りつぶすかのように、別人の声がスピーカーを鳴らした。
「…ったくう、お前が悪いんだぞジン!」
『?!』
その瞬間、ゲッターチーム三人の目が、まさに点になった。
「え、え…」
「い、今の…」
ハヤトとムサシの視線は、自然に彼のほうに向いた。
二人の視線を一身に浴びたリョウは、一瞬きょとん、とした後…ぶるぶるとすごい勢いで首を左右に往復させた。
俺じゃない、俺じゃない、俺じゃない、と。
しかし、ゲッターチームの困惑にもかまわず、スピーカーの向こう側から会話は流れてくる…
「悪い悪い、今度からは気をつけるよ」
「ホンマ、頼むで〜!」
『…』
落ち着いた感じの男の声と、割と高い、関西人らしき男の声…
もちろん、今まで自分たちが出会ってきた誰の声でもない。当然だ。
だが、しかし…何だろう、この胸にふつふつと湧き上がる感覚は。
知らない、いや知っている、知っている気がする、だが知らないはずだ…
この如何ともしがたい、気色の悪い感覚。

その正体を、「彼ら」は…「彼ら」にあった瞬間に、何となく理解してしまった。

「よぉ!君たちが、ゲッターロボに乗る…ゲッターチームかいッ?!」
『…』
はあ、とも、そうだ、とも言えず、呆けたように立ち尽くすゲッターチーム。
今、彼らの目の前には…四人の男がいる。
早乙女研究所・玄関前のスペースに降り立った三機の戦闘機。
そこからあらわれたのが彼ら…すなわち、呉石博士と、彼の研究所である宇宙ロボット研究所所属・ゲッP-Xパイロットである。
初対面のゲッターチームに対して、早速そのうちの一人が…気安い笑顔とともに、明るく声をかけてきた。
が…ゲッターチームは、何とも言葉を見つけられないまま、ぼけえっと彼を見つめている。
ゲッPチーム三人のリーダーらしき彼…
そこそこの長身。それはありがちだ。
太い眉。それもよくある。
黒目がちな、きりっとした瞳。少ないわけじゃない。
少しくせっ毛の髪。まあ、そういうのも。
両耳の横でぴん、と天に上向いたもみあげ。まれにいると思う。
そして、全身から嫌というほど漂ってくる、「俺は熱血硬派なんです」という少々暑苦しいオーラ。体育会系なら割とありがちだろう。
…だが。
それら全てを兼ね備えている、となると…これはまさに、珍しすぎることではなかろうか。
つまり、彼は…異様なほどに、ゲッターチームリーダー・流竜馬と同じファクターを兼ね備えた男であった。
それは、まるで仕組まれたかのように…
と、点目で自分を見つめたまま動かないゲッターチームをいぶかしんだのか、彼の表情が多少怒ったようなものに変わった。
「なぁんだなんだ、何でそんな目で見るんだよ!」
「ふ…富士山から来た山ザルがめずらしいんだろうよ!」
すると、すぐさま鋭いツッコミが彼の後ろから投げられた。
それは、腰までのロングストレートヘアをなびかせた、涼しげな瞳の…如何にも「私クールガイなんです」という雰囲気を醸し出した男だった。
「ああ、彼はどうせ二号機に乗るんだろうなあ」と、ゲッターチームの三人は思った。
「おいちょっと待てジン!『山ザル』ってなぁどういう意味だこらッ?!」
「ほう?自分の事を言われたという自覚はあるらしいな!」
「ちょ、ちょっと、ケイ兄ぃ、ジン〜…」
そして、はじまる小競り合い。
お互いをにらみつける暑苦しい人とクールな人。
慌てて彼らの間に入り、いさかいを止めようとするもう一人のメンバー…
言うまでもないことだが、彼はもちろん二人より背が低く、がちっとした体型で、顔は「美形」というようなタイプの男ではなかった。
正真正銘、三号機の男だ。
『…』
あまりに「条件が揃い過ぎた」ゲッPチーム…
呆然とする(元祖)ゲッターチームの前で、彼らの言い争いはなおもヒートアップする。
「まったくう!それがリーダーに言う言葉かってんだ!」
「ふん…今日は、いやにリーダー風を吹かせるじゃないかよ、え、ケイさんよ!」
「…何ぃ?!…ゲッPチームのリーダーは俺だ!リーダーの命令には従うんだ!」

「…」
「…」
リョウとハヤトの表情が、何とも言えないものになった。
彼らのやり取りは、二人に否応なく思い出させた…
というより、あまりの情景の同一性に、「これは、バラエティでよく出てくる『再現ビデオ』ではないか」と勘ぐってしまったほどだ(だいぶ頭のほうも疲労が激しくなってきたようだ)。
と…二人の争いに嫌気がさしたのか、今まで二人を止めようとしていた三人目の男が、すまなそうな表情を浮かべながらこちらに近寄ってきた。
「すいませんなぁ、いきなり人ん家でケンカして…ほんましょうもない二人やわぁ」
「…なあ、あの…」
「?」
その時だった。
彼の顔を、しばらくじいっと見ていたムサシ…彼の口から、ぽつり、と思わぬ言葉がもれだした。
「…あんた、天王寺…力じゃない?」
「!…ありゃ、そういえば、あんさんは…確か、…巴武蔵?!」
「お〜っ、お前やっぱ天王寺かぁ!」
その「名前」はどうやら的中していたらしく、三人目の男の表情がぱあっと明るくなる。
どうやら、彼もムサシのことを覚えていたらしい。
「え…む、ムサシ、」
「お前ら、知り合いなのか?」
ぽかん、とした顔で、事の成り行きを見ていたリョウとハヤト。
彼らの戸惑い気味の問いかけに、ムサシたちは笑って答えた。
「ああ!こいつとは、去年の柔道部の全国大会で会ったことあるんだ!」
「ワイの西条学園は準決勝までしか残れんかったから、ムサシはんとはあたらんかったけど…残念やね」
「そうかぁ、でも…お前、こんなこともやってたんだなぁ」
「そりゃあムサシはんこそ」
「あっはっは〜!」
「はっはっは〜!」
そして、お互いの肩を叩きつつ、けらけら笑う三号機二人。
「…」
「…」
「あ、いかんいかん、忘れてた。こちらのお二人にも挨拶せんと」
と、ムサシと笑いあっていた彼…
ぼーっとその光景を見ていたリョウたちに向き直り、にかっ、と音がしそうなほど人懐こい笑顔をみせた。
「ワイ、天王寺力(てんのうじりき)って言います。ゲッPのパンサー号に乗ってます。よろしゅうに!」
「よ、よろしく…俺は流竜馬だ」
「神隼人だ」
「で、さっきのうるさいのが、」
リキが親指をぴっと立て、ゲッPチームの残り二人を示し、紹介しようとしたその時。
それに気づいた二人のうちの一方が、ぷんすか怒りながらやってきた。
暑苦しい男…リーダーのほうだ。
「おいちょっと待てよリキ!お前何リーダーの俺を差し置いて…」
「あ〜もう、リーダーならリーダーらしくしといてくださいな!まったく!」
「ってなわけで…俺はゲッPチームのリーダー、百舌鳥恵一(もずけいいち)!ケイって呼んでくれ!搭乗機はファルコン号!よろしく!」
その場に浪々と響き渡るあまりにでっかい声に、向かい合ってそれを聞かされたリョウは思わずのけぞってしまった。
天真爛漫で元気そのもの、という感じの青年だが…ちょっとばかし、勢いがよすぎるような気がする。
だが、まあ、悪い奴ではなさそうだ…
「あ、ああ。よろしく…俺は、」
と、自己紹介をしようとするリョウを手で制したケイ、にっ、と笑って明るくこう言った。
「ああ、さっき聞いたからわかってる。ええっと…君が巴武蔵君、」
「いえ違います」

「君が流竜馬君、」
「違うんだが」
「で、君が神隼人君!」
「…って、兄ぃ、ワイですやん!」
根こそぎ間違っていた。
「…あ、あの、リキ君…この人、大丈夫?」
「う〜ん、この人、たまにこうなるんやわぁ。『あの病気』が出ちゃったんかもしれませんわ」
『あの病気』?」
「ええ、実は…」
「…おいリキ、俺はさっきからほったらかしなんだが」
「!…ああ、ジン!ごめんごめん!」
説明をしようとしたリキのセリフの途中に、もう一人の男の声が割って入った。
長身長髪、切れ長の瞳をしたその男は、ゲッPチームの最後の一人。
彼は、ふぁさっ、と音がしそうなほど垂れた髪を派手にかきあげながら、己の名を名乗った。
「放出仁(はなてひとし)、ジンでいい。シャーク号のパイロットだ」
「よろしく、ジン君」
「こちらこそ」
握手しようとするリョウに応じ、ジンも手を伸ばす。
と…握手を交わす彼らの耳に、こんな会話が聞こえてきた。
「…んじゃあ、君が流竜馬君?!」
「オイラ、巴武蔵だよ…」
「…あんた、大丈夫か…?」
流れてくるへっぽこな発話の主は、やはりゲッPチームのリーダー。
彼の相手をしているハヤトとムサシは、困惑仕切りといった様子だ。
頓狂なリーダーの振る舞いを横目で見るジンとリキは…呆れたような恥じているような、そんな微妙な顔をしていた。
「…すいません、兄ぃがあんなんで…」
「ウチのリーダー、アホなんだ。気にしないでくれ」
「…」
リキとジンの言葉を聞きながら、そしてケイとハヤトたちのやり取りを遠く聞きながら…
何故かリョウは、強烈な情けなさと恥ずかしさを感じていた。


…が。
ケイの有様のせいで、何故自分が肩身が狭くなるような気がするのか、何故やりきれないような感覚を抱いてしまうのか…
その理由ばかりは、さっぱりわからなかった。