Now you are in the Website Frau Yudouhu's "Gag and I."
TOP「先生!ゆどうふさんったら案外マニアックなんです!」映画版クレヨンしんちゃん感想集嵐を呼ぶジャングル


映画クレヨンしんちゃん・嵐を呼ぶジャングル
〜誰が「ヒーロー」たるにふさわしいのか?そして、それを誰が決めるのか?〜


アクション仮面 正義の仮面
Go Go Go! Let's Go!
地球の平和を守るため アクション星からやってきた
アクション・パンチ! アクション・キック! アクション・ビーム お見舞いするぜ(YEAH!!)
行け 行け 正義のアクション仮面

「ヒーロー」とは、一体何を持って定義されるのか?
力?思想?それとも…

アクション仮面映画最新作の試写会をかねた豪華客船クルージングに参加する野原一家&かすかべ防衛隊(お母さん方も)。
憧れのヒーロー・アクション仮面の映画に興奮気味のしんのすけ。もう、彼はアクション仮面がだいすきでだいすきでたまらない。
映画の予告ではアクション仮面が負けるみたいだったけど、というマサオ君に対し
「そんなことはない!アクション仮面は絶対勝つぞ!」と力説したり、
アクション仮面を演じている俳優・郷剛太郎に会いに行き(彼らはどうやら知り合いのよう。TV版でのことらしい)、
「もちろんだゾ!アクション仮面のためなら、オラ、どこだって行くぞ!」と宣言したりしています。
この、とても子どもらしい健康なアクション仮面への心酔ぶりは、後々への布石です。

そして、突如船を襲ったサルたちに、大人たちは残らず連行され…船に残るは、子どもたちばかり。
ここで立ち上がったのがかすかべ防衛隊。映画の前半は、彼らかすかべ防衛隊のジャングル大冒険です。
彼らの中でも、やはり私の注目株はボーちゃん
ジャングル探検に際し、コンパス(壊れてたけど)やライターを持ってくる着眼点は、やはり通常の5歳児を上回っています
(それに対し、ネネちゃんやマサオくんは多少近視眼的、風間君はちょっと的が外れていますし、しんのすけは問題外です)

ジャングルの中、そびえ立つやたらとサイケな建物…
その中に君臨するジャングルの王、それがパラダイスキング
彼は、人間社会を嫌いこの島に住み着いた男…この島のサルどもを屈服させ、支配下において過ごしている。
だが、彼の野望はやがてその小さな島では満足しきれなくなった。
彼は、人間たちを奴隷にすることを考えた…サルたちを使ってオトナたちを誘拐したのも、そのためだ!
パラダイスキングは、いわゆる「まとも」で道理的な考えなど解さない、己の道を行く男です。
自分のルールで生き、それに従わないものは排除する…ある意味、それはアウトローとして格好いい生き方かもしれません。
パラダイスキング「まともじゃ王様はつとまらない…
王様ってのは、欲張りで、気まぐれで、残酷で!…退屈してるんだ…!」

…しかし。
実は、私は彼の格好よさに惚れ惚れする一方、彼が哀れにも見えるのです。
彼は「サルのやることには限界がある。人間の奴隷も欲しくなったのよ」といっていますが…
本当は、それだけではないはず。
彼が求めていたのは、同種…つまり、同じ人間からの賞賛、もしくは畏怖なのだ。
例えば、ひろしたちに作らせているパラダイスキング礼賛のアニメも、巨大な像も…それは、サルたちのために作るものではない。
あきらかに、人間に見せるため。人間に、自分の力を見せ付けるためです。
何故、彼はそうしなくてはならないのか?
もし、自分の強さに自惚れ、サルどもを従えてのんきに南の島で暮らすことだけが目的なら、こんな手の込んだことやる必要なんてないのです。
彼の内心にあるのは…やはり、誰かに、同じ人間の誰かに、ほめられたい。自分を見てもらいたいという思い。
つまり、彼は…従順ではあるが、自分に言葉をかけることのないサルたちだけでは物足りなくなっているのです。
在るのは、人間からの礼賛を求める執着。そして、孤独感。
パラダイスキングが登場するシーンで、彼の玉座の周りにあったのは何だったか?
それは、無数のマネキンです。人間の形をかたどった、だが物言わぬ人形。
彼は、「のんびり暮らしたい」と言って人間世界から離れたものの、結局最後には人間を求めているのです。
この彼の心的状態は、誰からもちやほやされる「ヒーロー」、アクション仮面である郷剛太郎への嫉妬となっても出てきます。

アクション仮面と仲間のピンチに、「お助けしなきゃ!」と決心するしんのすけ。
うまい具合に、ひろしたちが捕まっているろうやを発見、彼らを救出します。
ですが…どうやら、後ろ手に縛られているロープを解くことができなかった模様(しんのすけは5歳児ですからね、握力腕力は微々たる物です)。
これじゃ何もできない、とあきらめかける一同に、しんのすけが「こうやって、おしりで歩けばいいんだぞ!」と、
秘伝・ケツだけ歩きを指導。
キャプテン「ナイスなアイデアかもしれん!」(←おい、オッサン!)
…そして、怒涛のケツだけ歩き!
すばらしいスピードで船内を疾走するケツだけ歩きのシークエンス、ステキです。
『おぉらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらぁ!』
みさえ「人間様をなめんなよ、サルどもおぉぉおぉッ!!」
しんのすけ「他の人たちもお助けするぞぉッ!」
『ウイースッ!!』

『おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおら…!』

…アツイぜ、アツすぎるぜッ…(笑)!

そして、パラダイスキングと郷剛太郎の対決のシーン…!
自身、様々な格闘技に習熟している郷剛太郎…だが、ジャングルでの死闘を繰り広げてきたパラダイスキングにはかなわない。
パライダスキング「でも所詮、お行儀のいいスポーツ格闘技。ルール無用のジャングルの戦いに比べりゃヌルいな。
俺は命がけで戦ってサルどもを屈服させたんだ。俺こそ本物のヒーローだ!てめぇみてぇなガキ相手のいんちきヒーローとは、訳が違うぜ!」
しんのすけの眼前で、郷剛太郎は吹っ飛ばされる。あわててそのそばに駆け寄るしんのすけ。
郷剛太郎「…やぁ、しんのすけくん。…ごめんよ、格好悪くて」
弱々しい負け犬の言葉。しんのすけにパラダイスキングが迫る。
パラダイスキング「どうだ、アクション仮面よりパラダイスキングのほうがカッコイイだろ?!俺のファンにならねえか?」
…だが、しんのすけはうなずきはしなかった!
その小さな身体を義憤と信念に震わせて、大きな瞳をこみ上げてきた涙でうるませて、彼はパラダイスキングをねめつけ怒鳴り返す!
しんのすけ「やだッ!!オラ、正義の味方のアクション仮面が好きだもん!
正義の味方はカッコイイんだぞ、強いんだぞ!悪者なんかに負けないんだぞ!今はやられててもぜったい最後は勝つぞ!
お前みたいな爆発頭に、アクション仮面が負けるわけないッ!!」

その言葉に、はっとする郷剛太郎。
ヒーローとは、強き力や硬き思想を持つモノの代名詞ではない!
「ヒーロー」…それは、人々の声援を受け、困難に立ちふさがり、決死の思い背負って戦う者に与えられし、誇り高き称号なのだ!

そう、この時。
ついに、郷剛太郎は…役者であることを飛び越えて、真の「ヒーロー」…アクション仮面へと変化を遂げたのだ!
立ち上がる郷剛太郎…いや、「アクション仮面」。炸裂するパラダイスキングのパンチ。
ひろし「ダメだぁ…」
しんのすけ「ダメじゃないぞ、お馬鹿!父ちゃんも母ちゃんも、アクション仮面を応援しろッ!!」
しんのすけの言葉に、ひろしとみさえも…やがて、全力挙げてアクション仮面を必死で応援し始める。
その光景に、遠巻きにそれを見ていた人間たちが、いっせいにリングの周りに集まり…声をからして、アクション仮面に声援を送り出すのだ!
その声が、彼に力を与えてくれる。孤独ではないという心強さが、彼に何度でも立ち上がる気力を与えてくれる!
そして、雄々しいアクション仮面の雄たけびが、リングに響き渡る…!
アクション仮面「…う、おぉぉおぉぉおぉぉぉおおおぉぉぉおぉおおぉぉッッ…!!」
パラダイスキング「…うるせえええ!吼えりゃ強くなんのかよぉ?!」

追い詰められたパラダイスキング…そう、彼は「ヒーロー」ではない。少なくとも、「人間」の「ヒーロー」ではない。
彼を叩きのめそうと意気あがる大人たち…彼らの相手をさせるためにサルたちを扇動します。

…が。
ひろし「ほお〜ぅ…いいのか、そんなこと言って?」
ぴしゃり、とケツを叩きます。いぶかしげなパラダイスキング。
そして、次の瞬間!
『おぉらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおら…!』
恐怖のケツだけ歩きに、ビビリまくるサルども(笑)!
うひゃあ、そりゃあ怖いよな、このわけわからんパワー(笑)

だが、サルどもを制し、森に帰らせても…パラダイスキングを倒すことは出来なかった。彼は、いつの間にか逃げてしまっていたのだ!
もうそれでもいい、とばかりに、彼らは島をあとにするのですが…
平和が戻った客船に、再び奴の影が!
…ジャイロコプターで空から攻撃を仕掛けてきたのは、やはりあの男…パラダイスキング!
パラダイスキング「お〜い、奴隷どもよく聞け!奴隷があるじに逆らうとどうなるか、たっぷり教えてやるぜぇ!」
アクション仮面は、登場時に使っていた、背に背負う形になっている小型ジェット機を使って戦いを挑む!
しんのすけもやっぱりついてきて(笑)
激しいドッグファイトの末、なんと彼は空中に放り投げられてしまう…!
必死で「つかまるんだ!」と足を伸ばし、しんのすけを助けようとするアクション仮面…しんのすけも、それに応じて手を伸ばす。
が…何と、彼がつかんだのはアクション仮面の股間
アクション仮面「おぉぉ…ッッ?!」(←すっげえかわいそう)
しんのすけ「おぉ〜、正義の味方はたまたまも丈夫なんだね!」
アクション仮面「当然だ…!」

人類の半分が、このシーンで思わず股間を抑え涙するであろう(笑)
…ちなみに私は、抑えないけどな、あっはっはっは〜
(しかもこの5歳児、こともあろうに追い討ちであと一回同じことを繰り返します(笑))!
戦いの末、しんのすけの「ケツだけアタック」により、とうとうパラダイスキングは失神します…
悪とはいえ、それは人命。「正義」たる「ヒーロー」なら、どうするべきか…答えは、明白。
パラダイスキングをつかみ、爆発するジャイロコプターから飛び降りるアクション仮面としんのすけ…!
船の大人たちに囲まれて、さしものパラダイスキングも敗北宣言をせざるをえませんでした。
パラダイスキング「…参ったぁ…!」
そして、青空高く、気持ちよく響き渡っていく二人の笑い声。
しんのすけ「正義は勝つ!わっはっはっはっはっはッ…!」
アクション仮面「わっはっはっはっはっはっはっ…!」


「正義」、というのは、極論誰だって振りかざせます。ある程度の道理と情の判断がそこにあれば。
ですが、「正義」の「ヒーロー」になるためには、それだけではたらないのです。
その人を信じ、認め、愛し…そして、声援を送ってくれる者たちの存在。
それがなければ「ヒーロー」にはなれないのです。
だから、この物語の郷剛太郎は…役者でありながら、「ヒーロー」。しんのすけたち、オトナたちの声援によって、彼は「アクション仮面」となったのです。
そして、その期待を背負って、強いが孤独な「王」(「王」は「ヒーロー」ではない!)に立ち向かう…
その姿は、見る者の胸を焦がし、震わせます。
アクション仮面の雄たけびのシーンなんか、泣けて仕方ないです。