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TOP「先生!ゆどうふさんったら案外マニアックなんです!」映画版クレヨンしんちゃん感想集電撃!ブタのヒヅメ大作戦


映画クレヨンしんちゃん・ブタのヒヅメ大作戦
〜「救い」のヒーローとなるべくして生まれた者、その名はぶりぶりざえもん〜


「違うよ、ぶりぶりざえもん。お前はオラの友達で、『救い』のヒーローなんだよ」

この映画、ぶりぶりざえもんという「救い」のヒーローを巡る物語は、クレしん映画の中でも私が最も好きな話です。
かすかべぼうえいたいの活躍、みさえ・ひろし、筋肉・お色気という二組の親が子どもを守るために必死に戦う姿、そして「救い」のヒーロー…
この映画に、明らかに私はさまざまな影響を受けています。
特に、「ヒーロー」のあり方、自己犠牲、「親」という者のあり方について。

なにしろ、序盤の一番のわらいどころからしてイケてます。
まつざか先生の「地獄の『一人じょうず』」も確かに笑えるのですが…やはり、ここには負けます(笑)
SML(正義の味方、LOVEの略だ(笑)!)のエージェント、筋肉…
息子は悪の組織にさらわれたと告げる彼に、「俺たちも連れて行け」と言い募る二人。
だが、それを承知しない筋肉に、彼らは粗茶に下剤を入れて追い詰める!
いきなり濃ゆくなるキャラクターの線!熱い戦い!でも、筋肉はつま先歩き(笑)!
緩急のつけ方も見事、みているこっちも「筋肉、もらすなよ?!」と手に汗握る(←こんなところで握るな(笑))ほど。
そして、かっこよく決めるもらす寸前筋肉↓
筋肉「…馬鹿め、『正義』の味方がクソなどもらすか!」
…ひゃっほう(笑)

しかし、ひろしたちは筋肉を追いすがり…なんと、疾走する船に大ジャンプ!
見事乗り移りに成功した彼らに、筋肉が驚きの一言…
筋肉「お前ら、忍者かッ?!」
それに対する彼らの答えがふるっています。
みさえ「…いいえ、普通の主婦と!」
ひろし「普通のサラリーマン!」
ひまわり「たぁ!」
みさえ「そして、普通のゼロ歳児の女の子!」
ひろし「名前はひまわりだ!」

そして、次のみさえのセリフはすばらしく胸を打ちます。
みさえ「あなたにはわからないかもしれないけど、親っていうのは子どものためだったら何だって出来るのよ!」
その言葉どおり、みさえとひろしは、クレしん映画版で何度も自分の身を張ってしんのすけとひまわりを守ろうとしています。
「普通の主婦」「普通のサラリーマン」であろうとも。
「親」であるから、何でも出来る…「子ども」のいのちを守るためなら!

一方、同じくSMLのエージェント、お色気とともに秘密結社・「ブタのヒヅメ」の手に落ちたかすかべぼうえいたい。
お色気は隙を見て、しんのすけたちを脱出ポッドにのせ、飛行機から逃げ延びさせるのだが…
そこは、だだっ広い荒野。彼らを拾ってくれるはずだった筋肉たちも、飛行機が撃墜されてしまった。
子どもたちはおびえ、為すすべなきか…と観客を落胆させますが。
ですが、ここで意外な人物が活躍です。
それは、かすかべぼうえいたい隊員・ボーちゃん。
はなみずたらした無口でつかみ所のない彼、この映画の中では最高にかっこいいのです。
その重みのある言葉は、超然としていて…
頼れる大人もいない。向かう場所もわからない。おちこみ怖がる仲間たちに、彼ははっきりとこう言うのです…!
ボーちゃん「…どこでもいい。…ここは、地球の上、…怖がらなくて、だいじょうぶ」
そのほか、「ブタのヒヅメ」の目的を、一言
ボーちゃん「…サイバー、テロ」
と、正確に表現するなど(5歳児が!)、この辺、彼が将来楽しみな大物であることを見せ付けてくれます。

「ブタのヒヅメ」の基地に侵入、刺客たちと激しい戦いを繰り広げる筋肉たち!
ここからのシーンは、激しいアクションシーンの連発で、うっかり目が離せません(えっと、大袋博士とアンジェラ青梅のシーンは別にして(笑))
そして、かすかべぼうえいたいも。
電脳世界に精神がダイブしてしまったため、まったく無防備になったしんのすけの前に立ちはだかり、腕を組み合い壁となる…
風間君「かすかべぼうえいたい、しんのすけを守れーッ!」
『おー!!』
マサオ君「おしっこ、もらしそう…!」
ボーちゃん「…もらしたって、かまわない!」
ネネちゃん「ひっかけてやればいいわ!」
風間君「ああ!」

5歳児ですよ。幼稚園児ですよ。
そりゃあ、お話の中のキャラクターかもしれないけど。
普通のオトナよりはるかにでかいママに対して、友達を守ろうとしているんですよ、その身を呈して。
「おしっこもらしそう」になりながらも、恐怖を仲間と一緒に押さえつけて…
涙がにじむ。鼻の奥が熱い。このシーン、この映画の中でもかなり泣ける場面。
お色気とママのバトルもよいです。
愛用の武器、二丁フライパンを手に戦いを挑むお色気!
お色気「…あんた、子ども生んで育てたことある?!」
ママ「そんなもんねえよ!だったらどうした?!」
お色気「…私が、勝つッ!!」


一方の電脳世界。しんのすけとぶりぶりざえもんの前に、ついにマウスが現れます。
そして、ハッキングするべきターゲットへの道を開く…
マウス「さあ、行け!思う存分暴れてこい!お前は、世界を恐怖で支配するために生まれたのだ!」
ぶりぶりざえもん「…そう、私は、恐怖の支配者。世界中の人間どもがわたしの前にひれ伏す…」
だが、しんちゃんはきっぱりとこう言うのです。
しんのすけ「違うよ、ぶりぶりざえもん。お前はオラの友達で、『救い』のヒーローなんだよ」
マウス「黙ってろガキッ!」
ぶりぶりざえもん「『救い』のヒーロー…」
その言葉に、彼の中の何かが感応したのでせうか。ひまわりの妨害で消えたマウス…
今しばしの猶予を得た彼は、しんのすけにこう頼むのでした。
ぶりぶりざえもん「…その話、もう少し聞かせてくれ」
このあたりに、私は非常な希望を感じられるのです。
「人間」(ぶりぶりざえもんは人間ではありませんが、非常に人間くさい…ある意味人間的な生命体です)とは、誰もが「高み」を目指そうとするイキモノなのだ、と。
崇高、高潔、慈愛。
美しく気高い存在になりたがり憧れ、そちらに向かおうとするものなのだ、と…
たとえ破壊のために造られたとしても…
だから、しんのすけから「『救い』のヒーロー」という、己のあるべき姿を知らされた彼は、その言葉の真の意味を知りたがるのです。
そして、己自身を。

しんのすけの「『救い』のヒーロー」のものがたり、ぶりぶりざえもんの冒険。
その果てに「『救い』のヒーロー」の何たるかを悟ったぶりぶりざえもんは、造られた存在理由、悪の破壊を捨て去り、しんのすけと和解します。
しんのすけ「…立派だぞ」
ぶりぶりざえもん「お前もな…!」
股間を思い切りつかみ合い、称えあい認め合う二人。
彼ららしい、実に彼ららしい。
だが、大袋博士のワクチンソフトは、すでに彼を死に至らしめていた。
ぶりぶりざえもん「そうか…これからは、人助けをしようと思ったのに…もう、だめらしい」
ぶりぶりざえもんの足が、腰が、どんどんと光の粒になって消えていく。分解されていく彼…
大袋博士「…痛みはあるか?」
ぶりぶりざえもん「いや、大丈夫だ」
大袋博士「…そうか……すまない」
ぶりぶりざえもん「いいってことよ、これも人助けだ」

驚くほどに彼は淡々とその運命を受け入れました。
自分の存在が、邪悪な目的のために作られたのならば。
己の消滅もまた、「人助け」だと。
壮大な夕暮れ。オレンジ色に染まる、彼の姿。
ぶりぶりざえもん「…また…こんな眺め、見られるかな…?」
大袋博士「もちろんじゃよ!…おまえは、ここまで、自分の足で登ってこれたじゃないか!」

彼には決してない「未来」を、博士は…だが、きっぱりと、希望を込めて語った。
そして、最後の別れ。
ぶりぶりざえもんは、しんのすけに向き直る。
ぶりぶりざえもん「しんのすけ」
しんのすけ「えっ」
ぶりぶりざえもん「…本当は、私のちんちんのほうが大きかったよな?」
だが、しんのすけは…泣きそうになりながらも、首を横に振った。
ぶりぶりざえもん「馬鹿!…こういうときは、うそでも『うん』って言うもんだ!…じゃあな…!」

彼ららしい、彼ららしすぎる別れのシーン。
そして、ぶりぶりざえもんは…無数の光の粒へと分解され、美しい夕焼け空の中へと溶け込んでいったのだった…

マウスの押した自爆装置により、基地が炎に包まれる!
ブタのヒヅメのメンバーも一人残らず飛行船に乗せ、そこから何とか脱出をはかろうとする一同。
だが、あまりに多くの人員を収容した飛行船は、重量オーバーで飛び立たない…
炎と光のスペクタクルが襲い来る、その恐怖のあまり…思わず、しんのすけはこう叫ぶのです!
しんのすけ「…助けてぇッ、…ぶりぶりざえもーーーん!!」
そして、次の瞬間しんのすけの目の前に現れたものは…実体化した、ぶりぶりざえもん!
彼は飛行船の底部に取り付き、一生懸命上へと押し上げます。
その一押しが飛行船を空中高くまで運び…しんのすけたちを「救っ」た、ぶりぶりざえもんは、ゆっくりと炎の海の中へと落ちていくのでした…
その様を見ていたのは、しんのすけたった一人。
そう、彼は助けてくれた。
救いを求めるものの叫びに答えて、その身を張って…!
この映画、最後の泣きのシーンです。
「『救い』のヒーロー」となった、ぶりぶりざえもん…彼の、最後の「お助け」なのです。

ぶりぶりざえもんが「正義」のヒーローではなく、「救い」のヒーローであるという点。
ここも、私が個人的に気に入っているところです。
もし彼が「正義」のヒーローならば、彼は規範たらねばならない。それが、「正義」の持つ一面だから。
だが、彼は「正義」ではない。
困っている人を、苦しんでいる人を、苦境にある人を救う…「救い」のヒーロー。
下品でわがまま、人を喰った上に見栄っ張り。だけど、憎めない。
だが、彼はヒーローなのだ。「救い」のヒーロー…自己犠牲の魂を持った、愛すべき英雄。
それが彼、ぶりぶりざえもんなのだ。