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TOP「先生!ゆどうふさんったら案外マニアックなんです!」映画版クレヨンしんちゃん感想集栄光のヤキニクロード


映画クレヨンしんちゃん・栄光のヤキニク・ロード
〜夢見たのは幸福なる光景、それを目指して彼らはただ走る〜


「あんたが熱海ラブなら、こっちは春日部ラブなんだ!」

朝、超貧相な食卓。怒りのあまり、みさえを糾弾するひろしたち…だが、それもこれも、晩御飯の「超高級焼肉」のための倹約!
そんなばかばかしくも平和なシーンで始まる今回の映画は、前回・前々回と違って、いかにもクレヨンしんちゃんといった感じがしますね。

さて、野原一家の朝食風景に割り込んだ招かれざる闖入者…それは、白衣姿の風采のあがらなそうな男。
「かくまってくれ」と言い募る彼に困惑する野原一家だが、そこに彼を追ってきたと思われる怪しげな一味…堂ヶ島(ダンディ)率いる男たちが乱入。
その異様さに恐れを抱いたひろしたちは、一目散に家を逃げ出すのですが…
(ところで、この科学者さん、堂ヶ島に「帰ったら毛穴さっぱりパックの刑だ」といわれ、ちびらんばかりにビビリまくっております…い、一体、どんな刑罰なんだ?!)

…だが、恐ろしいことに!彼らの一味は、情報操作という手口に出ます!
ニュースで「凶悪犯一家」「捕まえたら報奨金」という嘘情報を流され…町の全員が彼らの敵に回ります!
しんちゃんの通う幼稚園の先生たちも、となりのおばさんも、しんちゃんの憧れの人・ななこおねいさんすら!
人間、所詮こんなもんなんだなあ、という虚脱感と無常観を味あわせてくれるのに十分です
(あと、烏合の衆を動かすにはやっぱりマスメディア、という事実)。
とんでもないのは、テレビキャラクターのアクション仮面すら「のはらしんのすけ、とんでもなくハレンチな子だ!」ということを堂々と言い切ることです。
くそ〜、子どものこころを踏みにじりやがってえっ!!
そりゃあしんのすけは「ケツだけ星人!」とかいって、思いっきり尻を見せたりもするし、自分のぞうさん見せたがるし(一歩間違えば露出狂)、グラマーな人にはすぐナンパ仕掛けるし…
…って…アレェ〜(笑)??

何とか地下へと逃げ込んだ野原一家、しかしそこに怪しい一味の追っ手が!
その攻防戦の中ででくわした、組織の幹部・下田から「組織の本部は熱海にある」との情報を偶然つかみます。
ひろしの実家に逃げ延びるはずも、実家のぎんのすけじいちゃんすら連行されていくというシーンをテレビで見てしまった彼ら…もはや、逃げ場はどこにもないことを悟ります。
公園の半球形トンネルの中に潜み、疲れきった身体をしばし休める…
そこからヒロシが見上げた天井、そこにぽっかり開いた穴には…いつもと同じ、蒼い空。
「なんでこんなことになっちまったんだ…」
その思いは、平和な日常を奪われたという怒りに変わり、彼らはこのふざけたマンハンティングを仕掛けてきた組織に殴りこむことを決意します。
そして、再び我が家に戻り、超高級焼肉を食べるために!
この野原一家の再起のシーンがとても好きです。
今まで追われるだけだった者が、腹くくって戦いに自分から飛び込んでいく…ぐっと来ますね。

ヒッチハイクでともかく熱海まで行こうとする一家…みさえの恐ろしいハントで事故一丁上がり(笑)
しかし、その次のヒロシ(女装)も恐ろしいハントを…え、止まっちゃうの(笑)?!
…あ、っていうか、女装した男だってバレバレで、それで乗せたんだ…なるほどね(笑)
このドライバーさん、ヒロシにほれ込んだらしく「俺が熱海まで連れてってやる」とかっこよく言い切ります。
そして、組織の攻撃を身体を張って止め…彼らを逃がそうとするのです。
くぅ、カッコイイ(笑)!
ですが、彼らは組織に追われるうちに、散り散りになってしまいます。
しかし、三者三様とはいえ…彼らはやはり熱海を目指します。
みさえはジンジャー(笑)を駆って。
ひろしはひまわりとシロとともに走って。
しんのすけは…あれ?…道間違えて…かすかべに逆戻り?!

今回、かすかべぼうえいたいの面々は…いきなり、「仲間」であるはずのしんのすけを組織の幹部のひとり・天城に売ります
しかも、その主犯は…あの、マサオくん
あのビビリの、何より危険を、異常を恐れる彼が。
彼は、何と自分から密告したというのです!
…このあたり、「小悪党」こそがいちばんとんでもないことをしでかす、という一面をついてるようです。
しかし、しんのすけが連行されていき、報酬のお菓子の大袋(!)を前にしても、誰もそれに手をつけない。
くれなずんでいく畳敷きの部屋の中、座り込んだまま…彼らは、まったく動かなかった。
彼らの心の重さと罪悪感が感じ取れて、印象深いシーンでした。

だが、追われるしんのすけを逃がす手伝いをしたのも、やはり彼らかすかべぼうえいたい!
マサオも、罪滅ぼしに自らの身を呈して時間を稼ごうとするなど、泣かせてくれます。
大混戦の中、堂ヶ島や部下が迫る中…風間君はしんのすけに大事な自転車の鍵を渡し、熱海まで行けと促します。
自分の大事な、自転車を。「壊れてもいい」とまで言い切って。
ねねちゃんも、ボーちゃんも、それにうなずき…必死で時間を稼ぎます。
彼らの間の深い絆を見て、心つかれました。

ひろし&ひまわり&シロ、みさえ、しんのすけ…三手に分かれてしまった野原一家は、それでもそれぞれがひたすらに熱海を目指します。
その道行きのあまりのハードさに、彼らは一度はあきらめかけます…
ですが、そんな彼らを再び立ち上がらせたのが、最高級焼肉という夕食の風景(何故かこのシーン、全員恐ろしいほど美形になってます(笑))!
そして「よっしゃああ!」とばかりに再起し、熱海へひた走るエネルギーを燃やすのです…
いくら最高級焼肉だろうと、ひとりで喰うなら意味がない。
彼らの脳裏にあるのは…家族四人+一匹で囲む食卓。そして、だからこそそれは取り返す価値がある。
野原一家、無辜の民を襲った理不尽なる出来事。
そのゆがみを叩き潰し、その光景、その平和な光景のある我が家へ帰るために!

さて、今回の悪役「スウィートボーイズ」(有限会社)の面々。実は、彼らもまた「家族」というモノを見せてくれます。
心を寄せていた天城を跳ね除ける堂ヶ島…彼の返答は唯一つ、定期入れに入った…家族写真。
天城もまたそれを見、彼の「家族」に割り込むことの不可能さを瞬時に悟り…一人さびしく身を引きます。
下田さんは…ご妻君がお弁当とともに到着すると、あっさりかえっちめーやした(笑)ラブラブらしいです、はは。

スウィートボーイズのボスとの対決…彼らが執拗に野原一家を追い回したのは、やはり朝食時に乱入してきた科学者のせい。
なんでも、熱海を活性化させるため強力な催眠装置を開発したが、そのパスワードを…あの時、録音しちゃったらしいです。
しんのすけのすかしっぺすらパスワードになってしまったわけで(笑)ああ、笑っちゃう。
ですが、ボスの目論見はやはり熱海の活性化などではなかった…
彼の目的は、自分の観光ホテルを倒産するにまかせた、救いの手を差し伸べなかった熱海を破壊し、更地に戻すことだった!
しかし、彼の邪悪な企みは野原一家に阻止されてしまいます…
装置を奪ったしんのすけの命令により、誰も彼もがぶりぶりざえもんに(笑)!
いちめんのぶりぶりざえもん、いちめんのぶりぶりざえもん、いちめんのぶりぶりざえもん(笑)!
でも、塩沢さんが…うう。
…ともかく、そのぶりぶりパニックから命からがら逃げ出したボスも、ロープウェイで追い詰められ…とうとう、恥も外聞もなく頼み込みます。
私は熱海を愛しているんだ、あなた方の力を貸してくれ、と。
…ですが、ひろしはそれを聞き、しばし黙考したあと…彼を殴り飛ばし、こう言い放ちます!
「あんたが熱海ラブなら、こっちは春日部ラブなんだ!」
だから、お前の妄執など知ったことではない、と。
それはお前がやるべきことであって、熱海の人々とともにつくりあげていくものなのだ、と…
自分たちは、自分たちの町、春日部でそうするから…

そしてしんのすけが催眠装置で下した最後の命令により、すべては「なかったこと」にされ…彼らは、かすかべの我が家へと戻ります。
その帰り道、熱海の商店街で、ヒロシは…あのドライバーさんをみかけます…ですが、彼は言葉をかけることなく、立ち去りました。
もともと、会うはずのない人だった。けれど、助けてくれた人だった…

あいかわらずすっげえアクションシーン(野原一家・ファイヤーの場面は爽快だぜ!!)
それに、しんちゃんの自転車シーンなども必見ですね。
補助輪が両方とも失われた自転車、恐怖にまみれながらも足を止めないしんのすけ…だが、いつの間にかその自転車はまっすぐに進んでいることを発見したときの彼の歓喜!
「おお〜!オラ、自転車に…乗ってるかぁあああああああああい!」
あおりのシーン、きらめく効果、まさしく「補助輪なし自転車はじめて乗れた」時の、あのいわく言いがたい全能感を表現していてすばらしいです!

「オトナ帝国」「戦国大事変」のように泣ける映画ではないけれど、その分野原一家の団結力、かすかべぼうえいたいの分裂・リユニオンが描かれており、
決して退屈しない映画です(シナリオの矛盾はまあおいといて)。
「幸せな、家族の光景」
それを取り戻すために戦う野原一家…
「焼肉」という、その「家族の幸福」の象徴を中心に編まれたこの映画、笑いどころも多いですよ、ちゃんと^^