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◆ ZORA(そして、再び始まる物語)
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そこは、深い地の底。
マグマの朱い海の中、彼らはやはり生きのびていた。
かつて、地上を我が物顔に闊歩していた種族。
しかし、「滅びの風」…ゲッター線という「破壊の女神」の登場により、地上から追われた種族。
…「ハ虫人類」。
ゲッター線は、彼らの身体を破壊する…
そのため地中に潜伏せざるを得なかった彼らではあったが、それでいて彼らは地上へと舞い戻る夢を捨てたわけではなかった。
彼らは、冷凍睡眠を繰り返し、機を待った。
数回、数十回、数百回。代を重ね、意思を受け継ぎ、希望だけを抱いて。
…一度だけ、ゲッター線が異常な弱体化現象を見せた時代があった。
当然彼らはそれをチャンスと見、地上進出を図ろうとした…
だが、その時代には…あの忌まわしいゲッター線を使った超兵器が存在していたのだ。
そしてそれを駆り、彼らを再び地の底に追いやった「人間」たちが。
だから、彼らはその好機をあきらめざるを得なかった。
そして、彼らはまた眠った。
数回、数十回…そして、幾度も繰り返された、目覚めの時。
そのたびに、地上の状況は大きく様変わりしていた。
彼らは調査した。再び自分たちが地上進出をはかる際に、障害となるモノがないかを。
そして、その結果が今、彼らのトップたちの間で話されている…
「…なるほど…」
「それでは、あのアンセスターどもも…」
「はい…どうやら、勢力は以前よりはるかに小さくなったものの、存続しております」
バット将軍が部下たちの調査の報告をまとめて報告している。
「確かにそれは痛いな。…だが、現在の地上勢力の状態…それを補って余りある」
それを聞く玉座の帝王は、一旦渋い顔をしたが…それでも、明るい材料がないわけではないことを指摘する。
「そうですな。…高度な文明は一部の『イノセント』なる者の独占するところとなっているようで、その勢力は極小。
…また、月に移住したサルどもの子孫とやらも、勢力として考えますれば…」
「ふむ、以前の『人間』どもに比べれば、分散しておる上に個々の力も弱体化しているということか」
ガレリイ長官の言に、帝王はうなずいた。
「はい。…それに」
「…うむ。我々には、心強い味方もおったのだな」
「ええ。暗黒大将軍以下、ミケーネ帝国の勇士達は、我々に全面的に力を貸してくれることを約束してくれました」
「そうか、ならば…我々に、勝機は十分にある!」
ばさっ、と紫暗のマントをたなびかせ、立ち上がる巨体の王…
その瞳が、強い意思できらりと光る。
「!…では、ゴール様」
「うむ…!…我々、恐竜帝国は!今より、再びあの『計画』を始動するッ!」
そして、高らかに宣言する帝王。
その言葉に、会議の場にいた者たちの表情が一変する…
「!」
「『大気改造計画』…!」
緊張。だが、希望に、闘志に満ちあふれた表情を浮かべる一同…
彼らを見渡し、帝王は…「ハ虫人」たちの国、恐竜帝国を統べる帝王ゴールは厳かに、威厳あふれる口調で…その「計画」の実行を命じた!
「再び、輝かしい日々を手に入れるために!地上を我が手に取り戻すためにッ!」
『オォオオオォォォオオォォォォッ!』
帝王の言葉に猛る「ハ虫人」たち。
再び、自分たち「ハ虫人」が地上に帰る時がやってきたのだ…
「大気改造計画」を実行し、再び太陽の光の下で、美しい地上で暮らせる時が来た…
だが、彼らはいまだ知らずにいた。
この時代にいるはずのない、いてはいけないはずの…イレギュラーな存在が、そしてかつて彼らに地獄を見せた「人間」たちが、この世界に飛ばされていることを…

壊滅後の地球。荒れ果てた大地が広がる、「未来」の地球…ゾラ。
複数ある大陸の一つ、その片隅で…彼らは、戦っていた。
「くっ…!」
一気に複数のモビルスーツから攻撃を受け、ひるむゲッターロボG・空戦用モード…ゲッタードラゴン。
巨体と剛力を誇るスーパーロボットの一つであるゲッターロボGではあるが、それゆえに機動力の高いモビルスーツ相手の攻撃は避けがたい。
「リョウ!大丈夫か?!」
「あ、ああ!」
マジンガーZのパイロット・兜甲児からの通信に何とか応じるのは、ゲッタードラゴンのパイロット…流竜馬…リョウ。
「リョウさん、僕が援護します!」
「すまない、ロラン!」
と、そこにターンAガンダム…ロランの操縦する真白の機動戦士がやってきた。
一旦彼に任せ、後方に退くゲッタードラゴン…
(何故…)
遠のく戦火を見つめながら。
リョウはまた、こころの中であの言葉をつぶやいてしまう。
(何故、こんなことになってしまったんだ…?!)
事の発端は、ある一つの戦争だった。
それは、異星人、軍、国家、様々な者を巻き込んだ、地球規模の闘争だった…
その戦争を、「バルマー戦役」と呼ぶ。
自分たちゲッターチームは、「ロンド・ベル」と号された特殊部隊に所属し、
迫りくる脅威と戦ってきた…それが、強大な力持つ者…スーパーロボットを駆る者の義務。
その戦いのクライマックスは…遠い宇宙で迎えた。
自分たちが命をかけて最後に戦った相手は、ヒトですらなかった。
それは、宇宙怪獣…知的生命体を皆殺しにするという…
知的生命体・「人間」を殺そうとする彼らは、その本拠地…すなわち、地球を狙っていたのだ。
その意味も罪も重みすら考えない、邪悪なその本能だけで。
…激しい戦いだった。だが、数億を越すその宇宙怪獣を各個撃破など到底できたものではなかった。
そして、最終的に、自分たちが取った手段…
それは、戦艦・エクセリヲンのエンジンを暴走させ、爆発…全てを飲み込むブラックホールを人工的に作り、そこに宇宙海獣たちを葬るというものだった。
戦いの末に…その作戦は成功した。
宇宙怪獣を殲滅し、「人間」を、地球を救うことができたのだ…
だが、それは苦渋の決断でもあった。
何故ならば、エクセリオンの爆発は、ブラックホールのほかにも恐ろしいモノをも生み出すからだ…その巨大なエネルギー量ゆえに。
…生み出されるのは、衝撃波…
地球を取り巻くコロニーはおろか、地球自身の地軸すら変えてしまうほどに、強烈な。
その破壊が不可避であることを、自分たちは熟知していた。
熟知していながら、その手段をとったのだ…
それ以外に、方法を見つけえなかったから。
その後、戦いは終わった。
だが、その衝撃波の到来を控え、地球を守る方法を見つけねばならなかったのだ。
…そのリミットは、数ヵ月後。
世界有数の頭脳集団が考え出した、それを防ぐための作戦。
…"Project AEGIS(イージス作戦)"。
それを浴びた全てのモノを石へと変えてしまう、邪悪なる蛇の化身・メデューサの視線…
彼女の首を埋め込んだ神器、女神アテナの楯…全てを跳ね返す楯・「イージスの楯」。
その名をとって、その計画はそう名づけられた。
自分たちロンド・ベル隊は「プリベンター」と名を変えた。
ある者は去り、ある者は残った。
そして、自分たちのような残った者は…各々の場所で、イージス作戦を展開するために必要なエネルギー、そしてバリアーを張るためのシステムの構築にかかった。
…これは、自分たちの戦いが生んだ結果なのだ。
宇宙怪獣が滅びても…まだ、自分たちの戦いは終わってはいない!
この衝撃波という危機から、自分たち自身の手で地球を守ってみせる!
本当の「勇者」になるために!
だが、その邪魔をし、地上での覇権を一手に握ろうとした者たちがいた。
…ティターンズ。彼らの妨害工作に…それは有形無形に、縦横無尽に、時には露骨、時には密かに行われてきた…どれほどこのイージス計画がダメージを受けたことか。
しかし、自分たちプリベンターは決して膝を折らなかった。戦い、少しずつ状況を変えてきた…
そして、とうとう彼らとの決着をつけるときがやってきた。
マクロスシティ…自分たちプリベンターは、そこで行われるティターンズの式典を止めようとした。
そして、その作戦が成功したかに思えた、まさにその時だった…
ネオ・グランゾン。
シュウ=シラカワ博士が駆る、凶悪強大なロボットが突如その場に現れ、攻撃を仕掛けてきたのだ。
その攻撃は強力無比。ただでさえティターンズとの戦いで消耗していたため、プリベンターは苦戦を強いられた…
しかし、最終的に…奇跡的ともいえるかもしれない…自分たちは、そのネオ・グランゾンを撃破した…!
だが、その時であった。
…砕け、爆発するネオ・グランゾン…だが、爆心に異変が起こった。
強烈な爆発が生んだのか、それとも、ネオ・グランゾンの持つ未知のエネルギー源が暴走したのか…
そこに生まれたのは、重い闇。
異常な時空の歪み…その歪みは、仲間たちを次々と飲み込んでいった。
そして、自分たちのゲッタードラゴンも…
ばちばちと散る青い火花。墨を流したような、どす黒い闇の渦…
その中に吸い込まれるやいなや、全身を強烈なプレッシャーが襲ってきた。
見えない力に、ぐいぐいと身体を押さえつけられている…
やがて、その力に翻弄され、真っ暗な暗黒空間の中で…意識を失った。
…そして、次に目を覚ました時…その場の風景は、既にマクロスシティのものではなかったのだ。
風吹きすさぶ砂漠。黄色の砂塵が吹き荒れる場所…自分たちは、砂漠地帯のど真ん中に墜落していた。
すぐ近くには母艦であるアーガマ、そして数機の味方機がいたものの…いっしょに戦っていたはずの仲間たちは、どうしても見つからなかった。
…それどころか、自分たちが今どこにいるのかさえわからない…
はじめは、ネオ・グランゾン爆発のショックで乾燥地帯にでも飛ばされたのだろう、とたかをくくっていたのだが…
自分たちの置かれた環境は、そんなもので済んではいなかった。
その世界は異様だった。地形はおろか、通り過ぎる町々、人々も…
自分たちよりもはるかに劣る科学技術力。そして、人々の語る言葉から…ある一つの真実、一つの推理が導き出されるに至った。
信じがたい、信じられない…だが、認めざるを得ない真実。
ここは、「未来」の地球…それも、衝撃波による壊滅後の地球なのだ。
自分たちの時代からどれぐらいの時間がたっているのか、定かではないが…
ともかく、この世界は、自分たちの世界ではない。
すでに衝撃波による壊滅(カタストロフィ)も遠い過去の出来事となっているようで、それは神話にすらなっていた。
そして、この世界は、ある決定的な事実をあらわす証拠そのものだった。
…イージス作戦は、失敗したのだ…
だが、そのことに落ち込んでいられる時間などなかった。
早く、他の仲間を探さなければ。
幾つもの場所を巡った。幾つもの街を越えた。
そして、散り散りになった仲間と合流することに成功した…しかし、その時にはもう既に遅かった。
合流した仲間たちはそれぞれ、この時代の「人間」たちと行動するうちに、既にその戦いの構図に組み込まれてしまっていたのだ…
「イレギュラー」という呼び名で呼ばれて。
ある者たちは、シビリアンのブレーカー・アイアンギアー隊とともに。
ある者たちは、月のディアナ・カウンターと対立する、地上のミリシャ勢力とともに。
そしてある者たちは、バルチャー・フリーデン隊とともに…
月の民と地球の民、様々な陣営に分かれて争いあう「人間」たち…
彼ら「未来」の「人間」たちと関わりあうこと、それはすなわち、その戦いに身を投じざるを得ないということ。
しかし。
自分たち、過去の世界の人間が…この時代に干渉することは、果たして許されるのか?!
(だけど、退けない…俺たちは)
リョウの胸に、再びよぎるあの苦い思い。
この未来の世界に飛ばされてから、この世界の戦いに巻き込まれてから…幾度となく自分たちに迫ってくる…
(俺たちは、この世界でも戦わなきゃならないのか?!)
リョウの、そしてこの世界に飛ばされた全てのプリベンターの抱くその問いに、答えられる者はなく。
…ともかく今は、目の前の困難を何とかしなくては。
彼は再び、迫りくる敵に向かっていった…


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