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◆ 闇問答(…あるいは、鉄也の転向)
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…。
…ここは、何処だ…
何故、ここはこんなに薄暗いんだろう。
嫌な空気だ…なんだ、この墨でも流したような空気は。まったく視界がききやしない。
俺は、どうしてこんなところに…

…!
そうだ…ミケーネの戦闘獣どもは?!
何処に行きやがったんだ、畜生!
もしかして、この闇の中に潜んでるのか?!
そうして俺の不意をついて、袋叩きにしようって寸法か!
ふん、そんなちゃちな手でこの俺がやられるものかッ!
グレートタイフーンでこの煙幕を吹き飛ばして、お前らのその卑怯な作戦をめちゃめちゃにしてやるぜ。
そしてその姿が俺の目にさらされたが最後、お前らは俺のグレートによって跡形もなく砕け散るんだそうだお前ら戦闘獣どもなんてみんなこの剣鉄也が完膚なきまでにつぶしてやるマジンガーブレードで滅多切りにしてサンダーブレークで貫いてブレストバーンで焼きつくし

『何故、壊す必要がある?』

?!
…ふん…そんなことは決まっている!
それが俺の使命だからだ!

『使命?戦闘獣を壊す事が、何故お前の使命なのだ?』

俺がグレートマジンガーのパイロットだからだ!
グレートマジンガーは、地下勢力ミケーネ帝国から地上を守るために作られたロボットだ!
憎むべきミケーネ帝国の戦闘獣たちを破壊し、平和を守るために作られたロボットだ!
俺はその操縦者!
だからこそ、俺は戦闘獣を壊さねばならんのだ!
奴らこそが俺の「敵」、「人間」の「敵」ッ!
俺は、平和を守るために命を削って戦っているんだ!
「人間」の世界を守るために、みんなのために戦っているんだ…!

『ほう…勇ましい事だな。…では、剣鉄也。お前に質問だ』

何だと…?!

『では、戦闘獣がこの世からいなくなれば…グレートマジンガーは、どうするのだね?』

…!

『平和な世の中が来たら。戦のない世の中が来たら…お前は、どうするのだね?』

…。
そ、それは…

『どうした、何故口ごもる?…平和な、戦のない世の中…それこそがお前の望みだろう?
お前はそのために戦っているのだろう?』

そ、そうだ…
俺は、俺はグレートで、世界の平和を守るため…

『何故言いよどむ?』

…ぐうっ…?!

『くっくっく…何故そうなるか、教えてやろうか剣鉄也?
…それはな、お前は…心の奥底では、そんなことなどこれっぽっちも思ってはいないからだよ』

?!
な、何だと?!ふざけるな!
俺は、俺は、…

『争いのない、平和な世界…お前はそのために戦うといいながら、その実それを望んでいない。何故なら、剣鉄也…お前は、』

『…お前は、いつでも戦いを必要としているからだ…他ならぬ、おまえ自身が』

…!

『もし、この世から争いごとがなくなれば…グレートマジンガーは必要なくなる。お払い箱になる。…そして、お前自身も』

な、何を、言って…

『お前は、戦うために兜剣造に育てられた。
お前の今までの人生は、グレートマジンガーのパイロットになるための訓練…その連続の毎日でしかなかった』

…そうだ…俺は、グレートのパイロットになるために、あの地獄の特訓に耐えてきたんだ。
毎日、毎日、毎日、毎日。
そう、だから、俺には…

『それ以外のモノなど、何一つない。お前は…グレートマジンガーと同じなのだ』

な…?!
お、俺が、グレートと同じ…だと?!

『そうだ、お前ははじめからそうだったではないか。戦うためだけに育てられた、それがお前ではないのか?』

…。

『戦うためだけにお前は在る。お前は、グレートマジンガーという<兵器>を駆るために造り上げられた<兵器>…』

…そ、それは、違う…
お、俺は、「兵器」じゃない…!
俺は、「人間」だ!血の通う「人間」だ!
熱い血の流れる、感情のある…

『そう、感情がある…だから、戦がなくなる日が来る事に怯えている』

…?!

『お前は、怯えているのだよ…』

お、俺が、怯えている…だと?!
ば、馬鹿な!そんなはずはない!
俺は、俺は、何物にも怯えてなんかいないッ!

『お前は、怯えているのだ…やがて、戦がなくなり、平和だが怠惰な日々が来た時に、』

違うッ!違うッ!違うッ!
俺は怯えてなんかいないッ!
黙れッ、黙れえッ!

『グレートマジンガーもその役目を終え、晴れがましい世界の表舞台から姿を消す時に、』

畜生ッ、黙れといってるのがわからんのかッ!
俺は怯えてなどいないといっているだろうッ!
俺は弱くないッ!怯えたりなんか、しないッ!
俺は…




『…お前自身も、まわりの<人間>から捨てられる…それに、怯えているのだ』




…!!




…。




『苦しいな…剣鉄也?』

…ああ…苦しい…
俺は、俺は、きっと戦い続ける事でしか、あの人に認めてもらえないんだ…

『そうだ…兜剣造に認められるためには、お前は戦い続けなくてはならない。
涙と苦痛と恐怖にまみれた戦いをくぐりぬける、血まみれの<兵器>の…剣鉄也。
それが、あの男が求めていたモノだから。
…あの、兜甲児とは違ってな…』

そうだ、俺は甲児君とは違う…
所長と血のつながりがある、本当の「子ども」の…甲児君とは、違う。
本当に平和な世の中が来れば、所長はきっと甲児君に会いに行く…
俺とジュンを置いていく…

『そうだ。兜甲児は違う…あ奴は、何もかも与えられて生きている。
周りの者からの親愛も、鉄(くろがね)の城・マジンガーZも、
…そして、そのうち…<父親>の愛さえもあ奴は手に入れるだろう』

そうだ…
だけど、それが当たり前なんじゃないのか…
そうさ、血のつながった親子なんだもんな。
だから、甲児君は所長と一緒にいるべきなんだよ、
…例え、戦いが俺よりも下手くそでもな…

『兜甲児よりも、自分のほうが強いというのか。兜甲児よりも、自分のほうが兜剣造の役に立てるというのか』

ああ、そうさ!
俺は、戦いのプロだ!
ガキの頃から、とんでもなく厳しい特訓も続けてきた!数え切れないくらいの「敵」を打ち破ってきた!
ぬくぬくと生きてきた、あんな甘ちゃんなんかとは違うんだッ!
そうだ…俺は、強い、奴より強いんだッ!

『そう…お前は、強い。
…しかし…そのお前より弱い男が、お前の居場所を奪っていくのだ…
不条理だとは、思わぬのかね?』

…う、ううっ…!
だ、だが、…俺に、何ができるというんだ!
何が言えるというんだ!
俺には何も言う権利なんてないッ、所長の邪魔なんて出来ない!
俺は、だけど、俺は…!

『哀れなり…剣鉄也よ。グレートマジンガーという<兵器>を駆る、<兵器>…』

…。

『そのように思い悩み苦しむのならば…いっそ何も考えなければよい』

…?!
な、何だ?!
闇が、闇が、突き抜けてくる…?!
重い、何だ、この闇は…
ああ、畜生、入り込んでくる…俺の、頭の中に、闇が、闇が、真っ暗な闇が





























…そうだ。
俺は、もっと早くから、ずっと昔から…ひそかにそう願ってきたんじゃないだろうか。
自分でも気づかない、こころの奥底の深い深い部分で。
ああ。
そうだ、俺はそれを願っていたのかもしれない。
ああ。
そうだ。
そうだったんだ。

そうだよな。
俺だって、「人間」なんだ…
しあわせになろうとして、何が悪い?
俺だって「人間」なんだから、そうしようとするのは当たり前じゃないか…!





『剣鉄也よ。お前が殺すべき<敵>は誰だ…?』





俺が、殺すべき「敵」は…




兜 甲 児 だ。





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