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◆ 「ウランスパーク」〜Awaking(「眠り姫」の覚醒)
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それは邪悪な偶然か、それとも運命たる必然か。
数千年の時を超え、あの宿命の戦いが…再び、このゾラの地で巻き起こる…
…そしてそれは、一人の少女の「夢」のとおり…
あの、「眠り姫」の覚醒を呼び起こす…

アーガマ、フリーデン、アイアン・ギアー…一同に集いし戦士たち。
今彼らが目指すのは、ガリアと呼ばれる大陸。
そこには、イノセントの長…アーサー・ランクなる人物がいるのだ。
彼らは、そのアーサー・ランクと会談を持とうとしているのだ…
月の民と地球の民、帰還を望む者と、その世界で生きのびてきた者…その両者のエゴが、全面戦争になる前に。
その旅路の途中だった。
アーガマ艦のレーダーが、予定された進路上、とある地点の「異様な大気のデータ」をキャッチしたのだ。
地球上の大気成分とは思えないような…
やがて、彼らはその大気異常が見られた地域に入り込んだ。
そこで、彼らが見たものは…深い森だった。
いや、「森」という言葉が当てはまるのだろうか…そう思ってしまうぐらいに、そこに生えている木々は変わっていた。
巨大なソテツ類、シダ類…
ちらりと目を走らせただけでも、そのどれもがお目にかかることのないような種類ばかり。
…まるで、太古の時代、中生代のような…
「…な、なんだこりゃ…」
「こんな乾燥地帯に、何でいきなり?!」
「そ、それに…何だ一体、この暑さ?!」そう、まるでそこだけ中生代にタイムスリップしたかのようなその場所は、大気すら異様だった。
むっとした、蒸れるような湿気の高さ、それに熱気…
空調設備がフル稼働しているにもかかわらず、機体を通り越して外気の熱が伝わってくる…
驚くべきことに、その気温は50度を越えている…!
「た、確か、この辺一体はずっと砂漠だったはずなのに…」あっけに取られたようにそうつぶやいたのは、シビリアンのジロン…
「何だって…?!それじゃ、これは一体?!」この地で生きてきた彼の言う言葉が本当ならば、この風景は…?!
「!…か、艦長!レーダーに反応が!」アーガマのブリッジ・サエグサが叫ぶ。
「何?!」
「?!…こ、この識別コードは?!」アナライザーにあらわれた識別コードを読み取ったサエグサの顔に驚愕の色が浮かぶ。
…何故ならば、それは…すでに壊滅したはずの「敵」を示すコードだったからだ!
少し離れた場所で、木々が異様にざわめいている…
すると、そこから一斉に何かが飛び出してきた!
目を見張るプリベンターたち。
…うっそうと茂る森からあらわれたのは…!
「?!」
「な…何?!」
「あれは…め、メカザウルス?!」
「そんな!恐竜帝国は滅んだはずなのに?!」困惑するハヤト…
だが、今目に映っているものは錯覚などではない。
それは、数機のメカザウルス…恐竜をサイボーグ改造した、「ハ虫人」の国、恐竜帝国の「兵器」…!
「…!」
「り、リョウ!」プリベンターの誰かが、リョウに向かっていさめるように叫ぶ。
…だが、彼はそんな言葉に耳を貸すことなく、ゲッタードラゴンをメカザウルス軍団の眼前にまで近づけた…!
…かつて、自分たちが滅ぼしたはずの、恐竜帝国。
その恐竜帝国の「兵器」が、何故ここにあるのか…?!
それを確かめるべく、リョウはメカザウルスたち、それを駆るパイロットに向かって怒鳴る!
「一体誰だ、お前はッ!」
「?!…そ、その声は…な、流竜馬?!」その問いに答え返した、数機のメカザウルスたちの中央に位置するメカザウルス…多分、リーダーなのだろう…からの通信。
驚きと戸惑いに満ちた声。
…その声を、彼らは知っていた!
「…バット将軍?!な、何故?!…お、お前たちは、死んだはずじゃ?!」
その声の主を、彼らゲッターチームが忘れるはずがない!
続いて開かれた画像回線…そこに映っていたのは、まぎれもない…バット将軍本人。
…それは、死んだはずの…無敵戦艦ダイとともに滅びたはずの、恐竜帝国の軍指揮官!
あまりの驚き、死んだはずの「敵」の突然の登場に、混乱するリョウたち…
だが、それはバット将軍も同じことだった。
「き、貴様ら…何故この時代に?!」
そう、何故…かつて自分たちが争いあっていた新西暦の時代より、はるか時の過ぎたこの時代に…ただの「人間」にすぎないゲッターチームがいるのか?!
…それも、あの時の若さのままで!
…だが、困惑しつつも、彼らは己のやるべきことを明確に理解していた。
彼らは…自分たちの、倒すべき宿敵!
よみがえろうがなんであろうが、やることはただ一つ…戦って、倒す!
そうこころを決めた両者の間で、激しい言葉の応酬が交わされる…
それは、戦いへの前哨戦。
「それはこっちのセリフだ!…あの時、無敵戦艦ダイといっしょにくたばったはずじゃねえのか、てめぇらは!」
「くたばった…?!…はっ!そう簡単に死んでたまるか!…この、美しい地上を手に入れるまでは!我ら恐竜帝国は決して滅びんのだ!」
「ほざけ!ならば、俺たちが何度でも貴様らを倒してやる!」
「…ふふふ…はは、はあっはっはっはっはっ!」
「?!…何がおかしいッ?!」
「ふん…それはこちらとて同じこと!…我らが宿敵、ゲッターチームよ!やはり貴様らを、我々自身の手で殺さない限り、我々の戦いは終わらんということか!」
「お前たちなどに俺たちゲッターチームは負けはしない!」
「ふん…だが、いつまでそう言っていられるかな?こちらには…『これ』があるのでな!」自信満々なバット将軍。
…何故なら…彼の乗っているメカザウルス・ゾリには、ある秘密兵器が搭載されていることを彼は知っていたからだ。
かつて、ゲッターロボを倒すために開発しようとした武器。
だが、それは結局日の目を見ることなく…
しかし、今。
この武器にて殺されるべき最高の生け贄が、再び眼前にあらわれたのだ!
「何を言ってやがる!…行くぞ、ハヤト、ベンケイッ!」
「馬鹿め!…『あれ』だ!やれッ!」バット将軍が、迫り来るゲッタードラゴンに向けて、あの必殺武器を使うよう命じる…
うなずいた部下は、すぐさまその武器の発射ボタンを押した!
その瞬間だった。メカザウルス・ゾリの頭頂部に光るアンテナが銀色の光を発射した…
その光がゲッタードラゴンを衝撃もなく包み込んだ、その刹那。
「…うあああぁぁぁああああ!!」リョウの身体を激痛が走り抜ける。
「…ぐぐっ、こ、こりゃなんじゃい…」
「し…知るかよ!」ベンケイの問いにハヤトが投げ返す。
が、そのどの声も苦痛に満ち満ちている。
強烈な衝撃が三人のパイロットを襲っているのだ…
まるで、全身が強烈な雷撃に打たれたかのようなショック!
通信機を通してバット将軍が高笑っている!
「ははははははは!…どうだ、思い知ったか?!」
「な…?!」
「我々『ハ虫人』には有害なゲッター線。それを無害にする事は今の我々には出来ん。…だが!」
勝ち誇ったようにバット将軍は続けた。
「貴様らサルどもにも有害な物質に変換する事は出来たのだよ!…ゲッター線そのもののカタマリのようなゲッターロボの中、貴様ら…さぞ苦しかろうなあ!」
「?!」驚きに目を見張るゲッターチーム。
それが、本当だとするなら…自分たちが今いるゲッターロボGのコックピットは、自分たちの棺桶に他ならなくなってしまう!
「く…くそ、っ!」
「こ、このまま…じゃ…俺たちのほうが死んじまう!」
ゲッターロボGを動かすエネルギー源、そのゲッター線自体が…変質し、リョウたちの身体を激痛となって責めさいなむ悪魔と変わる。
電撃にも似たその痛みに、三人はただ苦しむことしかできない。
(どうすれば…どうすればいい?!このままでは…)
リョウはかろうじて気を失わないその状態で必死に考えていた。
自分たちのゲッターロボG、それ自体が自分たちの身体を蝕んでいくその一方で…
だが、その意思に反して身体はまったくいうことを聞いてくれない。
「は…ハヤト…ベン…ケイ…」
ハヤトもベンケイも、もはや衝撃に耐えるのが精一杯の様子だ。
モニターの向こうで苦しんでいるのが見える。
(ち…ちくしょう!)何とかゲッタードラゴンを動かして、その光線から逃れようとするものの…指一本動かない。
動かそうとしても、しびれきって神経が麻痺してしまったかのように、腕はまったく動かない…
…激痛のせいで気を失いかけているのか…
だんだんと、周りの音が小さくなっていく。
仲間たちからの必死の通信、苦しむ自分たちを嘲笑うバット将軍の不快な声、メカザウルスの猛る咆哮…
その全てが遠ざかっていく。
全ての音が飲み込まれていくような感覚をリョウは感じていた。
ただ、現実味のない浮遊感だけを今は感じている。
不思議な感触だ。
(…ああ。死ぬのかな、俺)
ゆっくりと落ちていくそのなかで、リョウはふとそう思った。
そして、暗闇。
(ハヤト…ベンケイ…ごめん、俺…もう…)
だが、漆黒の闇に意識が飲み込まれるその時、リョウは声を聞いた。
闇を切り裂くかのような、激しく雄々しい雄たけびを。
それは確かに、昔聞いたことのある、「誰か」の声だった…!

「げ、ゲッターチームッ?!」一人突出したゲッタードラゴン…
そのドラゴンに、メカザウルス・ゾリの頭頂部アンテナから発射されたあやしげな銀色の光がまといついている!
激痛に苦しむ彼らの悲鳴とうめき声が、全機に伝わる…
「た、助けにいかなきゃ…!」慌てて数人の仲間がゲッタードラゴンを救援に向かおうとした。
…が、その時。
通信機を通して聞こえる、小さな声がそれを阻んだ。
「…大丈夫…」
「?!…ティファ?!」それは、フリーデンのティファ…
彼女の言葉に驚く仲間たち。
唐突なティファのセリフに、思わずその動きを止める。
彼女の瞳は、見えないものを見ていた…それは、ある予感。
かつて夢で見たあのビジョンが、すうっと眼前によみがえる!
「…目覚める」
「え…?」
「『眠り姫』…」
「!」彼女がつぶやいた言葉に、はっとなるガロード…
それは、あの「夢」のことではないか!
今、この戦場で…その予知夢が、実現しようとしているのか?!
「戦う…私たちのために、戦う…血まみれの、剣を持った、『眠り姫』…!」
確信するティファが見つめる先には、呪いの銀光にとらわれしゲッタードラゴン。
…そして、そのコックピットにいる「彼」の中で…今まさに、その「眠り姫」が目覚めようとしていた…!

そこは、深い深い、薄暗い闇の中。かすかな朱を帯びた闇の中で、彼女は眠っていた。
身を胎児のように丸め、深く永い眠りの中に漂う…
だが、その空間を突如、無数の流星が裂いた。
白くたなびく流星は、彼女に一挙に降りかかる!
『?!』いきなり身体に走った衝撃。…そして、その流星が…それは、彼の思考…彼女に伝える。
今、彼女の分身がどのような状況に陥っているのかを。
止む事なく降りかかる思考のシャワーの中、とうとう…そのときは訪れた。
くわっ、と両方のまぶたが開かれた。そこから姿をあらわすのは、透明な輝きを持つ瞳…
すっくと彼女は立ち上がり、両手を伸ばす…身体全体で、その白い光の雨を受け止める。
行かねばならない。彼女はそう直感した。
軽く跳躍し、より表層へ、表層へと上昇していく…
両手を上空に高く掲げ、彼女は叫ぶ。
声の限り、自らが救うべきその人の名を、いとおしい自分の分身の名を…
そして、それこそが…「眠り姫」の覚醒、そして運命の幕開けになる…!
『…リョオォオオォォオォオォオォッッ!!』

「…う、うおぉぉおおおぉおぉぉおぉぉおぉぉおおぉっっ!!」
全機の通信機を、すさまじい雄たけびが貫いた!
それと同時に、今まで動きを止めていたゲッタードラゴンが動き出す…!
そして、その刹那。
…がしゃあぁああぁぁん!
甲高い、何かが砕け散るような音がメカザウルス・ゾリの上方をかすめていった。
メカザウルス・ゾリの頭部にあった、ガラス状の白い半球が…細かなガラス片に姿を変え、そこからばらばらと落ちていく。
「なっ…?!」
バット将軍が何が起こったのかを認識するその前に、忌まわしい銀色の光がみるみる失せてゲッターロボからも消えていく。
ざくっ、と乾いた音を立てて、メカザウルス・ゾリの半球を砕いたゲッタートマホークが地面に突き刺さる。
「…?!」見ると、ゲッタードラゴンは…トマホークを投げつけたその姿勢のまま、再び動きを止めていた。
…だが、あの苦痛にのたうっていたゲッターチームが、まさか…?!
ようやく怪光線から解放され、全身を襲う激痛が薄れるように消えていく…
「…りょ、リョ…ウ」ライガー号・ポセイドン号のモニターには、今ゲッタードラゴンを動かし、あの怪光線を止めたリョウの姿が映っている…
彼は操縦桿を握り、がくりと首を垂れている…うつむいた彼の表情は、見えない。
「い…」
…と、小さな声が彼の唇からもれた。
「…?」
彼が一体何を言おうとしているのか聞き取ろうと、ベンケイが通信機に耳を近づけた、その時だった。
がばっ、とリョウは顔を上げる…が、その表情。
まるで少女漫画のヒロインのように、瞳はうっすら浮かべた涙でうるうるしている。
それに、ふにゃあと下がった両眉…まるでいじめられた子犬のような、半泣きの表情。
…確かに身体は「女性」であるし、まつげも長くきれいな顔立ちではあるのだが…
普段のリョウは、むしろきりっとした漢っぽい表情をしているので、そのギャップたるやとんでもないものがあった。
「…いったあぁああぁぁぁぁぁあああぁぁいっっ!!」
そして、全通信機を貫いたのは…突拍子もない、戦場には似つかわしくない…「女の子」の叫び声だった…?!
「?!」
「あ?!」
「…?!」
…緊迫した戦場と、その…何といっていいのだろうか…まるでわがままな女の子が、転んでできた傷の痛みに文句を言うような感じの声色と…
しかも、その声の主は…熱血直情漢気炸裂(身体は「女性」とはいえ)・流竜馬…?!
そのあまりのギャップに、一同、目が点になる。
プリベンター側も、恐竜帝国側も…
「いったぁい!身体が、痛いよぅっ…」ぎゅうっ、と自分の身体を抱きしめ、痛む体をかばうような体勢をとるリョウ。
…だが、どうしようもなく、その姿勢は…女っぽく見える。
が、彼はきっと視線を上げ、モニターに映るバット将軍をにらみつけた。
そして、怒り心頭に達した、というような口調で言い放つ。
「…よくも、やってくれたねっ!リョウが死んだら、どうするのさぁッ?!」
…そのセリフも、まったくわけがわからない。
奇妙なことに、その声も…リョウの喉から出たものにもかかわらず、普段聞く彼の声とはまったく違っていた。
なんだか鼻にかかったような、甘ったるい響きをも持っている(怒っているにもかかわらず)。
「?!」
「り、『リョウが死んだら』って…」
「お、お前がリョウだろ?!」
「…な、何を言っとるのだ、流竜…」その言葉に困惑しまくる一同。
プリベンターのメンバーだけではなく、恐竜帝国側も混乱を隠し切れない…
だが、それに続くリョウのセリフは、彼らをさらに驚かせた。
「これ…ひょっとして、『ウランスパーク』?!無理だって言ってたのに、まさかできたなんて…!」
「?!…な…何故、何故貴様が、この武器の名を知っておるのだ?!」その思わぬ「敵」のセリフに驚愕するバット将軍。
…自分はこの武器の名を言ってもいないにもかかわらず、それを何故流竜馬が知っているのか?!
「…だってぇ、見たことあるもの、そのメカザウルス」
「…な、何じゃと?!」しかし、流竜馬はこともなげにそう言うのみ。
「そのメカザウルスを見たことがある」…恐竜帝国で開発されたメカザウルスを、「敵」である彼が何故見る機会を得られたのか…?!
「…!」ようやく、その全ての謎を解決できる唯一の可能性に気がついた者がいる。
…ライガー号のパイロット、そして「彼女」を知る者…神隼人!
「お、お前!」
「!…ハヤト君!大丈夫?!」
「お前…」
ハヤトは、モニターのリョウを見つめ…「彼女」の「名前」を呼んだ…!
「『エルレーン』…か?!」
すると、リョウの…「エルレーン」と呼ばれたリョウの表情が、まるで光がさすように明るい笑顔に変わる!
「!…わあっ、ハヤト君…!私のこと、覚えててくれたの?!」
自分の「名前」を呼んだハヤトにうれしそうに話し掛けてきた。
懐かしそうな目で彼を見つめている、その「エルレーン」…
「あ、ああ!もちろんだ!」
「?!…は、ハヤト?!」笑顔でうなずきかえすハヤトに対し、ポセイドン号のベンケイはわけがわからないままだ。
いきなりおかしくなってしまったリョウ。
そして、そんな彼を「エルレーン」という、まったく知らない名前で呼ぶハヤト…
全てが自分の理解の範疇から超えてしまっていた。
「え、エルレーン。何故お前、今…」
「…リョウの中で、ずうっと眠っていたけれど…このままだと、リョウが死ぬと思ったから!…だから出てきたの!」
「!」
「あ、あのー…」…それでも、何とか事態を理解しようと、会話に割り込んできたベンケイ。
…すると、「エルレーン」が彼に向かってにっこりと微笑んできた…それは、リョウが絶対しないようなかわいらしい微笑みだった。
「!…ベンケイ、君…?」
「は?」
「くるま、べんけい君。…ベンケイ君。そうだよね?!」
「は、はぁ…」自分の「名前」を確認するように呼ばれ、仕方なくうなずくベンケイ。
「私、あなたと会うの初めてだよね?!…うふふ、うれしいな!あなたとこうして会えるなんて、思ってもみなかったよ!」
「…?!」そう言って、小首をかしげ、照れたように微笑う「エルレーン」…
が、ベンケイはただ目を白黒させている。
「…ベンケイ。こいつは…リョウじゃねえんだ」
「え…?!」
「ど、どういうことだ、ハヤト君?!」
ハヤトの唐突なセリフに、戸惑いを隠せないベンケイ、そしてプリベンターたち…
が、そんな彼らを尻目に、モニターに映る「リョウ」…「エルレーン」はにこりと微笑いかけて見せる。
「そうだよぉ、ベンケイ君…私、は…」
そして、改めて自分の「名前」を名乗った…!
「私の『名前』は、エルレーン…!リョウのクローンなの!」
「く?!」
「クローン…だと?!」
「な…そ、それでは、貴様…貴様は、やはり…No.39か!」
「!」エルレーンの言葉を聞き、バット将軍もようやくそれが誰だかはかがいったらしい…
あれは、かつて自分たち恐竜帝国が作り出した、流竜馬のクローン「兵器」…No.39だ!
「何故かは知らぬが…ま、まあいい。…貴様が今ゲッターの中にいるのは好都合だ!」
にやりと笑って、エルレーンに命令を叫ぶ。
「…今すぐゲッター乗組員、残り二人を殺し…ゲッターロボごとこちらにくるのだ!」
「な、何ィ?!」ハヤトが反応する。
「喜べ!今こそ宿敵ゲッターを倒す時だ!さあ、二人を殺しこちらにくるのだ!!」
「え、エルレーン…さん」だが、バット将軍の声にもベンケイの声にも、彼女は答えない。
「…ど、どうしたのだ。早く!」妙な無言に気おされながらも、バット将軍が叫ぶ。
「…イ・ヤ・だ!」
「?!」
「いーやーだッ!ぜぇったいに、嫌ッ!」
ぶんぶんと首を左右にふり、思いっきり拒絶するエルレーン。
「な、何…?!」
「私、リョウを守るの!」
「な、何を?!」
「私は、私はっ…リョウを、殺そうと、したのに…リョウは、私を助けてくれたの!私を、救ってくれたの!」
いったん言葉を切り、強い光を目に宿してバット将軍をねめつける。
「だから私は、リョウを守る!ハヤト君を、ベンケイ君を、ゲッターチームを守る!」
「な…き、恐竜帝国を裏切るというのか!」
「…そんなのは、ずっと前からだよ!」
「!」
「バット将軍…今度は、こっちが命令するよ!」
「なッ…?!」
予想外の展開に動揺するバット将軍をびっと指差し、彼女は凛とした声で命令した…!
「…今すぐ、ここから消えて!そして、二度とゲッターチームに近づかないで!」
「何をッ?!」
「同じこと何回も言わせないで!…ここから、消えてよ!リョウたちの前から、消えちゃえッ!」
だが、まるで、子どもがわがままを言い通すような口調で。
しかし、彼女の表情は真剣そのものだ。
強い敵意が顔にあらわれている…
「エルレーン…!」
「…ふ、ふ…ふざけおって!…できそこないの『兵器』の分際で!わしに命令とは…?!」
だが、そんな命令などに従うはずもない。
「兵器」風情に命令口調でモノを言われるという侮辱に、バット将軍は怒りに肩を震わせる。
「もうよいわ!貴様もゲッターごと始末してやるっ!」そして、その「兵器」の廃棄処分を即座に決定した…!
「…」彼の返答を受け取ったエルレーン。
彼女はしばらく、じいっとそんなバット将軍を見つめていた。無表情に。
…が、その唇の端に、薄い笑みがふっと浮かんだ。
「…ふぅん、馬鹿だね」ゆっくりと、かぶっていたヘルメットを脱ぐ…そして、邪魔くさそうにそれを後方に放り捨てた。
がらん、と音をたて、ドラゴン号の床に転がるヘルメット。
ヘルメットを脱ぎ捨てたリョウの顔には…いつのまにか、今までプリベンターの誰も見たことがないような表情が浮かんでいた。
…冷酷な、微笑み。殺意にきらめく瞳。
「?!」
「馬鹿だね、バット将軍…せっかく、昔、知ってた人だったから…生きのびる、チャンスを、あげたのに!」
「な…?!」
「じゃあ仕方ないね…殺すよ、バット将軍!」彼女は、あっさりとそう言ってのけた。
「殺す」という、リョウなら使わないような言葉を使って…!
「!」
「え、エルレーン!」
「大丈夫、ハヤト君!…見ててね、私が…バット将軍たちを、殺してあげるよ!」
ハヤトたちを安心させるようにそう言って微笑うエルレーン…
冷酷なその言葉とは裏腹に、なんてやさしげに彼女は微笑むのか?!
…一瞬、ハヤトの胸をよぎる過去。
戦うモノとしての、「兵器」としての、エルレーンの顔…
(ああ、こいつらは簡単に死ぬだろう)ハヤトの胸を、確信がよぎった。
何故なら、彼は知っていたからだ。
リョウと同じモノ、そしてリョウとは違うモノ…エルレーンの強さ、その闘う力を。
ドラゴン号のコックピットに座る、エルレーン。
静かな微笑みをたたえ、闘志を燃やす少女…
そして、プリベンターたち、恐竜帝国軍は見ることになる。
再び目覚めし、血まみれの「眠り姫」…その恐ろしさを。


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