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◆ つながる絆(再び、交差する道)
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「…やめろぉッ、鉄也さんッ!!」
青年の叫びに、偉大な勇者が動きを止めた―
いや、止めさせられた、というべきだろう、その操縦者は…今は、ダンテの操り「人形」なのだから。
ゲッタードラゴンの前に、その声の主が歩み出てきた…
兜甲児、そして彼の「鉄(くろがね)の城」・マジンガーZ!
「鉄也さん、あんたが殺したいのは俺だろう?!…だったら、俺を殺せよッ!」
「?!」
「甲児君ッ?!」
甲児の絶叫に、ジュンとエルレーンの表情が強張る。
だが、甲児は真剣だ…真剣な顔のまま、モニターに映る鉄也に向かって問いかける。
「鉄也さん…なんで、何でなんだよ?!何で、あんたは俺をそんなに憎んでるんだ?!」
甲児の瞳に、うっすらと涙が浮かぶ。
あの日、遠い昔…自分のいのちを助けてくれた、剣鉄也…
頼もしい兄貴分、自らの目標…彼に向かって、必死に甲児は呼びかける。
「俺たちは『仲間』だろ?!一緒に戦ってきた、『仲間』じゃねえか…!」
「…ろす…兜甲児は、俺の…『敵』、だ、ッ」
だが、操り「人形」には、自らの意思などない。
まともな「答え」一つひねり出すことすら出来ず、壊れたレコードのように、鉄也は同じ言葉を繰り返しただけだった。
「…」
甲児の全身を、嫌な脱力感が覆っていく。
彼は、沈痛なため息をついた。
甲児は、再び顔を上げ…きっ、と、鉄也をにらみつけた。
「…わかったぜ、鉄也さん!」
「…」
甲児は、鉄也に向かって怒鳴りつける。
鉄也は、無言。
洞穴のように真っ暗で、何もない瞳でこちらを見返す、モニターの中の鉄也…彼に向かって、甲児はこう叫んだ。




「だったら、俺を撃て!」




「?!」
思わぬ言葉に、ジュンとエルレーンの表情が変わった。
…同時に、ダンテの表情にも、いぶかしげなものが浮かぶ。
変わらないのは、鉄也…操り「人形」の、鉄也だけ。
しかし、甲児は叫び続ける。先ほどと、同じ…彼の決断を。
「そんなに憎いのなら、俺を撃てよ!」
甲児の瞳には、涙。
ただの自暴自棄のようでもあった。ただの自殺行為のようでもあった。
だが、少なくとも…今の甲児は、真剣そのものだった。
「このいのちもマジンガーZも、鉄也さんとはじめて会ったときに助けられたモノだ!」
「…」
「だから、今!それを返すッ!」
血を吐くようなセリフが、やけに静まり返った戦場に鳴り渡る。
「だ、だめえっ、甲児君ッ!」
「そ、そうよ、何を馬鹿なことを言ってるのッ?!」
「…いいんだ、エルレーン、ジュンさんッ!」
彼の暴挙(にしか思えない!)を慌てていさめんとする二人に、甲児はきっぱりと言ってのけた。
消しきれない恐怖と緊張、だがそれらを強い意志の力で押さえ込んで…!
「これで、いいんだ…もともと、鉄也さんに助けてもらったいのちなんだ!」
そのセリフは、高ぶる感情で多少歪んで響いた。
それでも…そこに秘められた甲児の思いは、揺らいではいない。
かつて、自らと、その相棒・マジンガーZを救ってくれた「偉大な勇者」…グレートマジンガー、そして剣鉄也。
あの時、彼らがいなければ、失われていたいのちだった。
ならば…あの時拾わせてもらったいのち、それを鉄也に返そう、と。
それを、鉄也が望むなら…!
しかし、甲児の決意を、鉄也は聞いてはいない…
グレートマジンガーは、その場に静止したまま。
当たり前だ、今の彼はただの「人形」にすぎないのだから!
そして、その操り「人形」の主・ダンテが、次の行動をとろうとした、その時だった…
「?!」
マジンガーZ・ビューナスA・ゲッタードラゴンのモニターに、同時にその光点があらわれた。
その光点は、まっすぐこちらに近づいてくる…
しかし、それは…苦境に陥っているエルレーンたちを、救ってくれるようなモノではなかった。
「…ダンテ殿!」
「ほう、ガレリイ長官…か」
ダンテに呼びかけたその光点の主…恐竜ジェット機からの声に、彼らは愕然とした。
それは、まぎれもない「敵」・ガレリイ長官…恐竜帝国の科学技術庁長官!
しかし、エルレーンたちの耳に入った彼らの次の会話は、さらに彼らを揺さぶった。
「如何なさったのだ、貴殿がここまで来られるとは?」
「ふふ…なあに、わしの造ったコントロール装置がきちんと働いておるか、気になっての…」
「ああ、おかげで…魔神皇帝は、我が手足のごとく動きまするぞ」
あまりに場の状況に合わない、世間話じみたガレリイ長官とダンテの会話…
その中にあった言葉に、エルレーンの胸がざわざわとかきたてられる。
「な…」
乾いた唇から、かすれ声が漏れた。
「そ、それじゃ…あ、あなたのせいで、あなたのせいで、あのマジンガーが…ッ!」
「ん…?」
ふと、漏らされた嘆息に目をやったガレリイ長官…
が、その途端、彼の表情が一変した。
モニターに映る、その姿…それはまさしく、自分が造り出した、あの無能な流竜馬のクローン…No.0ではないか!
「?!…な、No.0?!き、き、貴様…生きておったのかッ?!」
「違う!…私は、No.0じゃない!」
「な…?!そ、その、声は…き、貴様、貴様は、ッ、」
跳ね返ってきたその否定のセリフに、彼の心臓はわなないた。
大きく開かれた、ガレリイ長官の口は…相当の動転と驚愕の末、ようやくそれを言葉にすることが出来た。
「な、No.39…?!」
「…そうだよ、ガレリイ長官!」
「な、何故、何故、貴様が…何故…?!」
「…あの子は、私!あの子と私、溶けていっしょに、一つになった…!」
「?!」
わけのわからない、到底理解し得ないことをほざくNo.39に、ガレリイ長官の困惑は深まる。
しかし、No.39は…エルレーンは、凛とした声で、そんな彼に向かって宣告した!
「ガレリイ長官!もう、あなたには、あの子を返さない!
あの子は、私の中で…ずうっとずうっと、いっしょにいるんだからッ!」
「…!」
老いたガレリイの顔中に、怒りと混乱と動揺、その全てが醜悪極まる表情となって広がった。
何ということか…信じられない、だが実際に眼前にある、この事実。
「人間」どもに捕らわれたNo.0は、同じ流竜馬のクローンであるNo.39に身体を乗っ取られた…
そして、彼奴は新たな身体を手に入れたのだ…あの、No.39は!
強烈な動揺が、長官を襲う。開かれた彼の口は、何も音を生まぬままに、ただ無力に開き続けている…
「…ふ、ふん…ちょうどいいわ!」
だが…無理やりそれを押し込めたガレリイ長官の目が、今度は残酷な興奮の輝きを帯びる。
「ダンテ殿の加勢になれば、と連れてきたこ奴ら…貴様を始末するのにも役立ちそうじゃ!」
「…!」
ガレリイ長官の絶叫じみた指令が飛ぶ。
すると、それに従い…あまたの影が姿をあらわす。
不気味に唸るそれらの影は、鋼鉄に身体覆われた機械蜥蜴…メカザウルスたち!
「…」
機械蜥蜴の群れは、禍々しい叫び声を上げながら、じりじりとマジンガーたちを追い詰めていく。
彼らを取り囲む群れ…それらを率いるようにそびえ立つのは、魔神皇帝…マジンカイザー。
そして、彼らの「仲間」であるはずの…グレートマジンガー!
「くくく…それでは、別れの時ということだな」
「…」
ダンテの、胸糞が悪くなるほどに穏やかな声。
勝ち誇った彼の言葉、その声色には…むしろ、哀れみと温情の色すら混じっていた。
ダンテの口が、にたあっ、と…笑みの形を作ってみせた。
「ふふふ、ふははははははは!成仏するがいいぞ、兜甲児…!」
「…おおっと、そういうセリフを吐くには…まだちいとばかり早いんじゃないのか、ダンテさんよぉ!」
唐突に、男の声が…ダンテの嘲笑を断ち割ってみせた。
天空高くから落ちてきた、その男の声は…甲児たちがよく聞き知っていたモノだった…!

「?!」
「あ…」
ジュンの顔が、安堵でゆるんだ。
ダンテの顔が、驚愕に歪んだ―
太陽の光でまばゆく光る、その姿。
大きな翼が空に広がる。強大なる、それは邪神…
「し、真・ゲッター…!」
「り、リョウ…ッ」
「待たせたな、エルレーン!俺たちが来たからには、もう大丈夫だ!」
涙で潤んだエルレーンの瞳に、その神々しい姿が映りこむ…
黒い翼をはためかせ宙を舞う、真・ゲッター1の姿が!
「で、でも、どうして?!」
「メカザウルス・ロウが勝手に発進したって聞いたからよ!
それに、ゲッタードラゴンやマジンガー、ビューナスまで格納庫からなくなってりゃ、いくらなんでもおかしいと思うだろ?!」
「ぐ…ぐっ、だ、だが…たかが一機増えたところで、このマジンカイザーの『敵』では…」
「馬ァ鹿、そんなはずねぇだろッ!」
「な…?!」
動揺するダンテに追い討ちをかけるよう、別の男の声がそこに割って入った。
驚きの色がダンテの青白い顔に浮かび上がる。
彼が見渡した、地平線…その遥か彼方から、三つの影。
その影は見る見るうちに大きくなり、鋼鉄の巨人の姿に変わる…
超電磁ロボ、コン・バトラーV。
超電磁マシーン・ボルテスV。
そして、勇者・ライディーンの姿に!
「よう、お前ら!まだ無事みたいだな!」
「み、みんな…!」
「!…鉄也君!」
ジュンの顔に、喜びが広がる。
そう、彼らもまた駆けつけてくれたのだ…鉄也を救うために、自分たちを救うために!
…と、グレートマジンガーを見た健一の瞳に、驚きが走る。
だが、「仲間」の発見に彼らが安堵するより先に、甲児が大声でこう叫んだ。
「健一!鉄也さんは、ダンテの野郎に操られてるんだ!」
「?!…な、何ッ?!」
「ちっくしょう、何てこったい!」
眉根を寄せる洸、毒づく豹馬。
今、目に映るグレートマジンガーは…今は、彼らの「敵」だというのだ!
「おい、鉄也!お前何馬鹿なことやってんだッ、正気に戻りやがれ!」
「…」
「鉄也君!しっかりするんだ、鉄也君ッ!」
「…」
声をからし、鉄也に呼びかける「仲間」たち。
だが、その彼の返答のかわりに…ダンテのリングが、しゃらん、と音を鳴らした。
「?!」
「う、うわあッ?!」
ドリルプレッシャーパンチの一撃が、ライディーンを襲った。
間一髪身をそらし、ライディーンはその攻撃から逃れたが…
「ぐ…」
「まったく耳を貸さず、か…」
「ふん、私の妖術がそんな簡単に破れるものか!
…ちょうどいい、剣鉄也よ!彼奴らを皆殺しにしてしまえッ!」
「…」
ダンテが、吼えた。
グレートマジンガーが、動いた。
「!」
「な、なあッ?!」
「て、鉄也ァッ?!」
洸の驚愕。健一の叫び。豹馬の怒号。
辛くもグレートマジンガーの放ったブレストバーンから逃れたライディーン・ボルテスV、そしてコン・バトラーV。
もう少し反応が遅れていれば、その熱光線で間違いなく彼らは焼かれていただろう…
彼らの背筋に、嫌な緊張が走る。
「…」
「く…正気に戻れよッ、鉄也君ッ!」
健一が、偉大な勇者の中に在る鉄也に、声の限り怒鳴りつける。
…だが、返ってくるのは、無言。
いや、そのかわりに…グレートマジンガーが、また動いた。
脚部から、鋭い光が飛び出した。それを勇者は右手で受け止め、振りかざした―
「…!」
マジンガーブレードを構えたグレートマジンガーは、迷うことなく…まっすぐ、その切っ先を彼らの「仲間」に向けた。
「鉄也…ッ!」
ジュンが唇をかみしめる。
だが、その時…彼女は、背後に迫る別の気配に、かろうじて気がついた。
慌ててジュンは光子力ミサイルを放った。
そのミサイルに撃たれ、のけぞって吹き飛ぶメカザウルス…
だが、メカザウルスは次々とその牙を剥く。
そう、彼らは…すでに、無数のメカザウルスに囲まれているのだ!
そして、グレートマジンガーとメカザウルスたちは…スーパーロボットたちに、一斉に飛び掛った。
「…!」
仕方なく、彼らも覚悟を決めた。
天空剣を、超電磁ヨーヨーを、ゲッタートマホークを、ゴッドアローを構え、その群れに立ち向かう…!

「…」
端ではじまった戦闘を醒めた目で見下すダンテ。その表情は、あくまで尊大なまま。
「ふふ…あの阿呆どもは、しばし剣鉄也とメカザウルスたちに任せておくか」
ダンテの口角が、かすかに持ち上がった。
「では、貴様はこの私が…マジンカイザーで相手してやろう、兜甲児!」
「く…ッ!」
ひるむ甲児。
だが、彼が戦う体勢を整えるより先に、相手の初撃が飛んできた。
「う、うおッ!」
「ははは、はははははははははははは!」
紙一重でその剛拳をかわす。
マジンガーを貫かなかったその拳は、自らの意思あるかごとく…再び、魔神皇帝の腕に戻っていく。
甲児の額を、嫌な汗が流れていった…
彼の耳を貫く、ダンテの狂笑!
「こ、甲児君ッ!」
「え、エルレーン!来ちゃダメだッ!」
「小賢しいわ!」
ダンテの手の中のリングが、しゃらん、と涼やかに鳴った。
命を受けた魔神皇帝は、すぐさまその命令どおりに動いた。
「う、うあッ?!」
「…!」
マジンガーZを全身でかばおうとしたゲッタードラゴン、その顔が思い切り殴りつけられた。
そのパンチの衝撃に耐え切れず、ゲッタードラゴンは為すすべもなく吹っ飛んだ。
甲児の目の前で、紅の巨人が…横っ飛びに、軽々と吹っ飛ばされていく様が展開された。
そして、かわりに現れたのは…あの、凶悪な悪霊の手に落ちた、彼の魔神皇帝!
すぐさま、戦う姿勢をとろうとしたマジンガー。
だが、それは遅すぎた。
マジンカイザーの右拳が、空を斬った―
強烈な衝撃。それに続くのは、耳を覆いたくなるような、金属がきしり、きしみ、砕ける音。
一瞬、甲児は何が起こったか理解できずにいた…
だが、次の瞬間…甲児の顔から、ざあっと血の気が引いていった。
魔神皇帝の拳は、目の前にはなかった。
その代わりに…マジンガーの黒い背中、その一点から…まるで、生えるように突き出ていた。
マジンカイザー、その右拳は…マジンガーZの腹部を貫いたのだ。
調合金Zで出来た、頑強なマジンガーを!
「う、うわあああッ?!」
「!」
「甲児君ッ?!」
エルレーンの悲鳴。
マジンカイザーは、なおもその拳を前へ、前へ進めようとする…完全に、マジンガーを粉砕しようと!
が、ほぼそれと同時に、真っ赤なパイルダーは、マジンガーの頭部から上方に飛び出した。
本能的に危機を悟ったのか、思わず甲児は切り離し(パイルダー・オフ)のボタンを押していたのだ―
急激な上方への圧力に、顔をしかめる甲児。
その圧力の変化をこらえ、甲児はパイルダーから下を見た…
「あ…あ、ああ、」
がたがたと震える、甲児の肩。
ホバーパイルダーから見下ろす光景の中には、嘘のような悲劇。
マジンガーの右腕が引きちぎられた。まるで、紙子細工のように、たやすく。
放り捨てられたその超合金Zの拳…かつては機械獣たちを破砕したはずの拳が、いともたやすく!
続いて、左足が根元から持っていかれた。もぎ取られたその付け根から、まるで血のようにオイルが噴き出す。
同じマジンガーの「兄弟」、プロトタイプ…マジンカイザーの豪腕によって!
そして最後に、魔神皇帝は…操縦者を失い、抗する力も失った己の「兄弟」を、思い切り蹴り飛ばした―
どぉぉぉぉん、という鈍い音。土煙。
マジンガーZが、大地に力なく倒れ伏す。
片手、片足を失い、胴体にはぽっかりと穴を開けられた、壊れた「人形」…
それが、マジンガーZの成れの果てだった。
強力無比、堅牢足ることで名を馳せた、あの「鉄(くろがね)の城」の…!
「お、俺の…俺の、マジンガーが…俺の、マジンガーZがあッ!」
甲児の喉から、震える声が絞り出される…
「うおおおおおお、ダンテ…畜生ぉぉおおぉぉぉぉぉぉッ!!」
「ふはははは、兜甲児!心配することはない!貴様もじきに送ってやるわ…マジンガーZと、同じ場所になァッ!」
「…〜〜ッッ!」
ダンテの勝ち誇った高笑いとともに、魔神皇帝から繰り出される無数のギガントミサイル。
ホバーパイルダー目がけて飛んでくるそれらを必死に回避しながら、それでも甲児はまっすぐにマジンガーを見ていた。
己の真下に在る、ぼろぼろに破壊された哀れな姿をさらす―自らの分身!
沸き起こる悔しさと怒りに、痛いほどに歯を喰いしばる。
が、その甲斐なく、甲児の瞳からほどなく絶望の涙が吹き出す―
しかし、今の甲児には、相棒を失ったショックに泣き濡れているような余裕はない。
視界を歪ませるその涙を無理やりこらえ、甲児は操縦桿を握る。
そして、せめてもの返礼に、彼はダンテをにらみつけた。それこそ、その眼光だけで相手を射殺せるほどに、鋭く…
だが、悪霊の貼り付けた陰湿な笑みは、徹底した勝利の予感と破壊の快感に裏打ちされ…決して、そのような眼光などでは揺らぐことがなかった。


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