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◆ 「罪無き」大地の支配者たち
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「メカザウルス隊第一隊、プリベンターと戦闘開始!」
「よし!作戦通り、母艦に攻撃を集中しろ!敵の攻撃は出来るだけ回避し、母艦にダメージを与えるのだ!」
恐竜帝国軍母艦・メカザウルス・グダ。
その艦橋(ブリッジ)では、隊の指揮をとるキャプテン・ラグナの雄々しい声が高らかに響き渡る。
広いブリッジでも、異彩を放って目立つ…その長身。
鋼鉄のアーマーに身を包み、長剣を背に負ったその姿は―まさに、剣豪。
意気を吐く胸板から指揮を飛ばすその指先に至るまで、その肉体は鍛えられあげた筋肉の鎧は、もはや彼が壮年の域にある年齢だと言うことをまったくと感じさせない。
いや、しかしながら―彼の顔には、それを否定する年輪が確かに刻まれている。
龍の眼光をたたえるその双眸のまわりには、彼の負ってきた長く苦しい修行の有様を示すかのように、深いしわが刻み込まれていた。
―と、その瞳が、いらただしげにモニターを射た。
そのモニター画面の中には…戦闘が始まって以来、未だ「あの機体」の「名前」を発見していない。
「ゲッターロボはいたか?!」
「いえ、レーダーでは確認できません。まだ出撃していないようです…」
レーダーを監視するオペレーターは、ラグナの問いに冷静に答え返す。
刻一刻と変わるレーダー画面は、マジンガーZやνガンダムなどの敵機名を表示すれども、彼ら恐竜帝国が宿敵・ゲッターロボの名前を映しはしない…
―が、その時。
「…あッ!」
「どうした!」
「キャプテン・ラグナ!ゲッターロボ…ゲットマシンを発見しました!」
オペレーターの目が、とうとうゲッターロボを発見した―
しかし、奇妙なことに。
オペレーターの操作によって画面に新しく開いたウィンドウに移っているシーンは、戦闘風景ではなかった。
廃棄基地・ポイントZX。
今現在この母艦・メカザウルス・グダが滞空している地点より、程近いその基地内…
透明な強化ガラスのドームの中広がる街、その一角に―それらは、透けて見えていた。
静寂の中に。ぽつん、と、置き去りにされたかのように。
7機の戦闘機・戦車が、そこに在った。
「…?」
「真・ゲットマシンと思われます。その隣にあるのは、獣戦機です」
「…」
キャプテン・ラグナの表情に、かすかな疑念が浮かぶ。
只今、プリベンターたちはわが軍と交戦中にある。
にもかかわらず、主力の一部たるゲッターロボ、獣戦機が戦線より外れている―
いや、むしろ、外されている。
あれは、もしや…待ち伏せ?
…いや、それならば、あれほど外部からはっきりとわかる無防備な姿で、自機のありかをさらすだろうか?
違う、おそらくそうではない。
そうではなく、彼奴らにとっておそらくこの奇襲自体が予想外…
彼奴らがあそこに機体を放置しているのは、開戦前に、既にあの廃基地内に潜入しているからではないか…?
そこまで推察が至るや否や、キャプテン・ラグナは大声で副官を呼ばわった。
「キャプテン・キザラ!」
「はっ!」
「これからの攻撃指揮を、お前に一任する!状況を見て柔軟に判断し、指揮をとれ!」
「は…キャプテン・ラグナはどうされるおつもりか?」
「私は…今から、あの基地内に偵察に行く」
「しかし、偵察任務ならば部下にいかせれば…」
「駄目だ」
副官のいさめる言葉も最後まで聞かず、キャプテン・ラグナは断じた。
ばさっ、と、紅のマントが翻る。
「私自身でなくては駄目なのだ…あそこには、奴がいるかも知れぬ」
背中の大剣が、かすかにわなないたかのように思えた―


(奴を殺すのは、『正当なる』恐竜剣法の伝承者の、この私なのだからッ!)


「くっ…!」
「ち、畜生ッ!放しやがれ、クソッタレがァ!」
力任せに暴れて逃げようとしても、それは無駄だ。
怒気をはらんだ忍の罵声すら、両手両足をロープで緊縛されてしまった今では、ただただ間抜けな遠吠えだ。
「ぐうっ!」
銃を持った兵士に乱暴に突き飛ばされ、受身すらとることもできず、ハヤトたちは無様に床に転がった。
冷たいリノリウムの床は硬く彼らを跳ね返し、思わず喉の奥からくぐもった悲鳴が漏れた。
7人の周りを、すかさず兵士たちが囲む。
そして、部屋の前方に向かって気をつけの姿勢をとり…そのまま、静止した。
罠にかかった彼らを補足した兵士たちは、このコントロールタワーの中枢―司令室まで、何故か彼らを引っ張ってきた。
それはどうやら…ここにいる、彼らの親玉の命令だったようだ。
「…ふん、忌々しいイレギュラーどもめ。のこのこと餌に釣られてよくもあらわれてくれたな?」
「何ッ?!」
「てめぇら、一体…?!」
薄闇から姿をあらわす…一人の男。
不健康な青白い顔に、部相応な不遜さを無理やり浮かべたその男は―特徴的な青い制服らしきものをまとっていた。
その一種の軍服にも似た服装に…その服を着る一味に、彼らは見覚えがあった。
それは、彼らプリベンターの「敵」の一つ、この大地の守護者、大地の支配者を自認する一派―
「…イノセント!」
「ふふふ、さっしがよいな。その通りだ」
ベンケイの唸り声に、ビラム司政官は答えた。
その矮躯に、精一杯の虚勢と威厳を詰め込もうと尽力して。
「我々は、この大地の主イノセント。この地を統べる資格を持つ、ただ唯一の『人間』だ」
―が、彼の演説は…過去から来た無礼者、「野蛮人」の茶々がぶちきった。
侮蔑そのもの、と言った表情で彼を射る忍の放つ言葉は、彼らしい啖呵だった。
「けっ、大層な御託並べやがってよぉ!」
「…」
「安全なドームの中でしか生きられねぇ生ッ白いひょろひょろの棒人間どもがよ、何偉そうにいきがってんだ!」
「…くっ、下衆が」
悔しげに、ビラムは顔を歪める。
が、言い返すだけの度胸も根性も持ちえない彼は…すぐさま、その表情を先ほどのとりつくろった傲岸不遜さで塗りたくった。
…塗りたくりきれずに、その口元が緊張と怯えでひくついていたが。
しかし、それでも、勝機は自分たちイノセント側に…既に、在る。
それを知るからこそ、この臆病な男ですら強気でいられるのだ。
「…まあいい。どうせ、そう吠えていられるのも今のうちだけなのだからな」
「何…?!」
「この基地は、」
かすかにどよめく過去の悪夢・イレギュラーたちに…ビラムは、大声で言い放った。宣言した。
「この基地は、間もなく粉微塵に爆破されるのだからな…お前たちイレギュラーごと!」
―思わぬ言葉に、ハヤトたちの間に電撃のようにショックが走る。
「?!」
「な、何だって…?!」
「マウンテンサイクルより発掘した、古代の超兵器…超爆弾で、ただの消し炭となるがいいさ!」
「ち、超爆弾だと?!」
「ああ、そうそう、記録では…かつては、こう呼ばれていたらしいがなあ」
にやり、と笑むビラム。
その奥ににじんだ、わずかばかりの恐怖の色は…やはり、その兵器の恐ろしさを知るが故か?


「…『カク』、と」
『…ッ?!』
多少なりとも誤ったアクセントで発音されたその単語は、それでも彼らの耳に正しく届いた!
そう―それは、忌まわしい、呪わしい、そして決して使ってはならないはずの…!


「か、『核』だって?!」
「馬鹿な…正気か?!」
予想通り、いや、予想以上に慌てふためくハヤトたちの様子に、多少ビラムは怖じてしまった。
過去の「人間」どもが、これほどまでにその言葉、その兵器に怯えている―
顔色を失い目を見開くその表情は、彼らの驚きが嘘偽りのものではないことを如実に示している。
…やはり、それほどまでに…あの「カク」なるものは恐ろしいのか?
そのようなモノを、果たして使ってもいいのか…いくら、「敵」を殲滅するためと言えど!
―だが、所詮彼は小役人。
ボスであるカシム・キングの命に逆らえるはずも無く。
ビラムは、己の保身、そしてイノセント社会での己の出世のために…再び倣岸の仮面をかぶり、薄っぺらな虚勢を張って、こう言ってみせた。
「まあ、どうやら予定外のゴミも混じっているようだが…構いはしない。
トカゲどもも巻き添えにできるのなら、一石二鳥だ」
「!…まさか…」
亮の表情が、変わった。
「まさか、はじめからそのつもりで…はじめからそのつもりで、俺たちをここに!」
「?!」
「ふふふ、ご明察だ、その通りだよ…」
我が意を得たり、とばかりに、ビラムは無理やり不敵に笑ってみせた。
彼らイレギュラーの絶望の表情を心地よく見ながら…
「だが、今さらわかったところでどうにもならない!お前たちはここから見ているがいい…あのトカゲどもと戦う『仲間』たちを!共に仲良く吹っ飛ぶその時までなぁ!」
「…〜〜ッッ!」
そう言うなり、ビラムはその場から去ろうとした。
芋虫のように転がされた7人の横を、蔑みの視線を(そして、いくらかの恐怖まじりの視線を)向けながら歩く―
「…〜〜ッッ!!」
「うお?!」
しかし、その歩みは、強烈な衝撃で吹っ飛んだ。
縛られた両足、だがわずかに動くつま先に全身全霊の力を込め―彼女は、思い切り地面を蹴る。
刹那、彼女の身体はまっすぐにビラムの足に向かって飛ぶ!
「うげえッ!」
両足に強烈な体当たりを受け、ひ弱なシビリアンはこらえることもできず間抜けに床に転がった。
どよめく手下たち。すぐさまに、銃口を彼女に向ける…
そう、今ビラムにタックルをかまし転ばせたのは…エルレーン。
怒りの表情にその美貌を燃え立たせ、彼女はビラムをねめつける!
ふらふらよろよろと立ち上がったビラム…
その顔は、多少の擦過傷と…そして、部下の前で恥をかかされた屈辱にまみれていた。
「…き、貴様…貴様、よくも、ッ!」
「!」
怒りでぶるぶる震えながら、ビラムがエルレーンに近づく。
わずかにたじろぐエルレーン。
が、両手両足を縛られた今の彼女では、受身をとることすらできない―
「…!」
「エルレーンッ!」
助けに入ろうとその身を叱咤しても、同じく両手両足を縛られたハヤトたちの身体も動かない―!
「がッ?!」
悲鳴。少女の頭部が、はじかれたように跳ね飛んだ。
そのまま、弓なりに身を折って…彼女は倒れる。
ベンケイは思わず、強く硬く両手を握り締めていた―
ああ、こともあろうにあの男はエルレーンの頭を思い切りブーツで蹴飛ばしたのだ…
手足を縛られろくに動けない少女の頭を、力一杯蹴ったのだ!
「ぐ…うッ」
「エルレーン!」
倒れ付したエルレーン。
ため息のような、うめき声を一つあげ…それきり、全身脱力したかのように、目を閉じて動かなくなった。
「エルレーン!エルレーン!」
「おいッ、待てこの野郎ッ!」
必死に呼びかける沙羅。足早に去っていくビラムに怒鳴りつける忍。
が、当然のように、もはや振り返ることなく―ビラムはその場から退場した。
後に残るは、彼ら7人のイレギュラーと…わずかな見張りの兵のみ。
「く…!」
「畜生…ッ!」
吐き捨てる。
だが、動きを封じられ無様に床に転がされた今の自分たちに、他に何ができようか?
「ベンケイ、エルレーンは…?!」
「き、気を失ってるみたいだ…」
「エルレーン…!」
「くっそお、あの野郎…ッ!」
思わず立ち上がろうとしたハヤト。
が、その途端鋭い痛みが手首と足首に走り―まともに立ち上がることもできず、転ぶ。
立ち上がろうとした勢いの分だけ強く身体を打ちつけ、痛みが彼を打ちすえる…
それでも、何とかエルレーンに近づこうとするが―兵士どもに阻まれ、歯噛みした。
「と…とにかく、ここから出なきゃ!ここから出て、皆に知らせなきゃ!」
「だ、だがよ、どうやって?!」
ベンケイの言葉に、すぐに悲痛な問いかけが跳ね返る。
「通信機も取り上げられちゃったしね…」
「俺たちの獣戦機まで戻れれば何とかなるだろうが…」
「無理だよ、足まで縛られてるんじゃあ…」
「けど…けどよ、だからといって、このままここで死ぬなんざ俺は御免だぜ!」
だが、忍がそう叫んだところで、この状況がどう変わるわけでもない―
殺意と憎しみを込めて自分たちをねめつける古代の「人間」、自分たちの祖先を―
銃口を突きつけた見張りどもは、へらへらと笑いながら見ているのだった。


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