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◆ A triumphal song(凱歌)
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「思い上がるな、人間どもめ!この暗黒大将軍、勝つために戦場に立ったのだ!」

「奮い立て、ミケーネの戦士よ!闇の帝王とミケーネの民の悲願のため、人間どもを叩き潰すのだァッ!」

「行くぞッ、暗黒大将軍!お前の誇りと俺達の覚悟、どちらが上か勝負だッ!」

戦闘。激闘。死闘。
死闘。死闘。死闘。
その死闘の場に、男は向かう―

機械制御メカザウルスを数機伴い、キャプテン・ラグナは戦場へと飛ぶ。
彼の駆るメカザウルスは…メカザウルス・レギ。
キャプテン・ラグナが所望したのは、彼の師が操ったモノと同系列の機械蜥蜴。
凶暴な肉食恐竜をベースに改造された、あくまで主武器はその背に負う大剣。
マグマを練って生まれた剣は、まさに立ちふさがる「敵」全てを一刀両断するごとくの鋭さ。
近接戦に特に優れるよう設計され組み上げられたそのメカザウルスで、彼は一心不乱に飛ぶ…
メカザウルスが、機械蜥蜴の群れが、蒼い空を切って疾走する。
「…!」
その行く手に、見えた。
くすぶる煙。はじける炎。不吉な破壊音…
戦いの場面(シーン)が、見る見るうちに彼の視界の中に拡がっていく―!
「すでに、はじまっている…!」
ミケーネの兵が、ゴーゴン大公が、暗黒大将軍が戦っている…
そう、すでに死闘はその火蓋を切っている!
「メカザウルスどもよ!まずは撹乱(かくらん)に徹しろ!ミケーネ軍を援護するんだ!」
突如鳴り渡った男の声に、一瞬惑うプリベンター。
顧みれば、そこには空に浮かぶいくつもの黒点…
そして搭乗機のレーダーは示す、それが恐竜帝国軍機であることを!
「くっ、増援かよ!」
すぐさま、手のあいている者は迎撃に向かう。
だが、その声は…彼らにとっては、別の意味を持って響いていた。
「エルレーン!あいつ!」
「…!」
リョウの表情が、強張る。
ハヤトもベンケイも、気づいた―
(来た…)
エルレーンは、息を呑む。
そして、操縦桿をもう一度…もう一度、しっかりと握りなおす。
(とうとう、来た!)
とうとう戦場にやって来た。
あの男が、あの龍騎士(ドラゴン・ナイト)が。
己の剣を従えて、やって来たのだ…
他でもない、この「裏切り者」の自分を殺すために!

「くっ…!」
ライディーンのショルダーに、そのミサイル弾は違わず着弾した。
それとほぼ同時に、炸裂音…
衝撃が機体を揺さぶる。
「くそぉッ!」
素早く、そのミサイルを放ったミケロスに向かい矢をお見舞いする。
ライディーンの弓から跳ね飛ぶゴッドゴーガン…光の矢。
その光の矢は、ミケロスのブリッジをかすめるように突き進んだ。
「…!」
眼前に高エネルギー体が通過する衝撃。
その熱で、ミケロスが苦痛にわななく…
ぎし、びし、という不吉な音が、ブリッジの窓を守る強化ガラスに割り入った。
「…」
所詮、多勢に無勢というところか。
ゴーゴンは心中でそう誰に言うでもなくつぶやいていた。
率いてきた戦闘獣たち。今は最早、スクラップとなって台地に転がっている。
決して、彼らは無力ではない。無力ではなかった。
それが証拠に、プリベンターどものロボットはどいつもこいつも少なからぬ損傷を負っている…
決して、我らは無能ではない。惰弱ではない。
だが、手駒の数に欠けた。
それだけだ。
いつしか、ゴーゴン大公の顔には、笑みすら浮かんでいた―
(だが、それがどうした?)
だからと言って、従容としてあきらめたりはしない。
迫りくる運命の顎(あぎと)に、自ら頭を差し出すようなことはしない。
負けなど認めない。あきらめない。
最後の最後の最後まで、己の勝利を目指して戦って戦って戦って―!
(さあ、来い!「人間」どもよ!)
虎の瞳が、熱を帯びる―
「放て!」
唸りあげる万能要塞が、発射口から光線を放つ!
「うあっ!」
その光線が、ビューナスAの脚を焼く。
強烈な攻撃を受け、超合金NZ(ニューゼット)が耐え切れず溶解する…
「くっ、なめるなあッ!」
だが、それでもジュンの心は折れはしない!
そうだ、宿敵・ゴーゴン大公が決して折れないように…
彼女もまた折れることは出来ない、決して折れない!
「ジュンさんッ!」
「あわせるぞッ!」
「!」
さやかのアフロダイA。洸のライディーン。
脚を奪われ地にくず折れたビューナスをかばうように、その前に立ちふさがり―
「光子力ミサーイルッ!」
「ゴッド・ゴォーガンッ!束ね打ちだッ!」
胸部から放つ光子力ミサイル。幾度も弓が打ち出すゴッドゴーガン!
その全てが乱舞し四方八方に飛び散りながら、一斉にミケロスに向かっていく…!
「ぐうッ、迎撃しろッ!」
ゴーゴンの指令と同時に、ミケロスの砲門が迎撃ミサイルを放つ。
矢が、ミサイルが、次々と目標を砕くことなく散っていく…
しかし!
「?!」
くわっ、とゴーゴン大公の目が見開かれる。
撃ち落され、無駄に爆散したミサイルやゴッドゴーガン…
それらのあげる爆炎の中に、ぎらり、と何かが光ったのだ!
「?!…ま、まずい、迎撃ミサイルを…!」
だが、それはあまりに遅すぎた!
「!」
次の瞬間、ミケロスのブリッジに突き刺さった…
窓を砕き人をはね機器を砕く、それは光子力ミサイル!
「―!」
そして、大爆発!
悲鳴すらあげる暇すら与えず、ミサイルはミケロスもろとも燃え散った…!
蒼天を焼く、真っ赤な火花―
最後のミサイルを放ったビューナスは、ただ無言のままその火花を見送った。
「…終わったわね、ゴーゴン大公」
ジュンの言葉に、返答はない。
バラバラと燃えて焦げる幾千の、幾万もの鉄片が、ただがら、がら、と音を立てて雨のように降り注いだ。

「!」
鼓膜を震わす、強大な爆発音。
はっ、とそちらに視線を送る―
そこには、ひときわ巨大な黒と紅の花があった。
燃える炎、噴出す黒煙。万能要塞ミケロスの、断末魔だ。
「ゴーゴン大公…!」
自然に漏れたその言葉は、ただ無駄に空中に融けていく。
もう返答を返すその者は、この世の者足り得ない。
「…」
視線を滑らせる。
あちら、こちらに…戦闘獣の残骸。
もうすでに、戦場に生きて立っているのは…自分ひとりしか残ってはいなかった。
そう悟ったその瞬間、ぐらり、と視界が歪んだ。
思わず、反射的に歯を喰いしばる。すると、視界がまた正常に戻る。
…無理もない、だいぶ血を流しすぎた。
瑣末な痛みなど感じられないほどに、全身が傷におおわれている。
鎧も、兜も、そして頼りにする剣さえ―惨い傷跡を刻まれている。
流れ出す血液の量は、少なからぬ。
限界が来ているのだ。そう悟らざるを得なかった。
「…さあ、残りはとうとう貴様一人だぜ!」
「!」
「ふっ、貴様もじきに奴のいる場所に送ってやる…地獄へな!」
剣鉄也の挑発。
顔を向けると、そこに立つのは…自らと同じように、全身に剣撃の跡を刻まれた偉大な勇者。
グレートマジンガーもまた、満身創痍だ。
だが、それでも剣鉄也の意気は潰えない。
潰えないどころか…なお、猛っている。
最後の一兵となった自分を屠ろうと息をあげている―
「くっくっく…」
「!」
「笑わせるな、剣鉄也ぁッ!」
ならば。
退くことは、在り得ない…か。
「剣鉄也!貴様を地獄に送るのはこの俺だッ!」
「!」
剣の柄を握りなおす。
その切っ先を、剣鉄也に向けて。
猛れ。猛れ。血よ、猛れ。
最後に一矢報いる力を、どうか自分に与えてくれ。
俺が、戦士であるために。
俺が、最後の最後まで―武人であるために!
「剣鉄也よ!貴様との因縁も今日で終わりよ!」
「俺はミケーネを倒すために幼い頃から鍛えられてきたんだ…!この戦いは、俺の宿命だぜ!」
「成る程、宿命の戦いか…!」
そして、同じ戦士たる、あの男との決着を。
同じ武人たる、あの男…剣鉄也との決着を。
「だが、勝者は常に一人!そして、それはこの俺…暗黒大将軍だッ!」
「そうはいくか!平和が戻る日まで、俺の生命はくれてやるわけにはいかないぜ!」
幾十の時代を飛び越えて。
この異境、「未来」の世界において―
それでも、彼らは戦い合う、
まるでそれこそが彼らの運命そのものであったとでもいうかのように!

「うおおおおおおおッ!」
「はあああああああッ!」

駆け出す。
お互いに向かって。
剣を振り上げ。
雄たけびをあげて。

そして、振り下ろされる二振りの剣!

「…!」
「ぐうッ…!」
剣が、交錯する。
ぎりぎりと、力押し。
瞬時離れる。再び攻撃。
交わす。突く。そらす。薙ぐ。防ぐ。退く。押し切る。いなす。
幾度も幾度も幾度も幾度も、両者の合間で剣がひらめく。
あまりの緊迫した空気は、彼らの周りに障壁を作るかのよう。
誰もが、目を見開き見守っている。
邪魔など、できるはずもない―
これは、他ならぬ彼らの、彼ら自身の戦いなのだ!

「…くっ!」
グレートマジンガーが、たまらず一歩退く。
その胸には、剣で刻まれた傷が増えていた。
「…」
だが、暗黒大将軍とて優位ではない。
彼の踏みしめる大地には、止まることなくぽつ、ぽつ、とこぼれ落ち続けている…
彼の傷から流される血が。

お互い、どちらともなく。
臨界を感じ取った。
それ故、どちらともなく剣を構えなおし、相手を睨み、一瞬の隙すら見逃さぬほどの緊張を持って、その時を待つ―

それは、刹那。
両者はまったく同時にお互いに向かって駆け出した―
剣が、剣が、空を切り裂いた!
そのまま両者は駆け抜ける、そして立ち止まる、
切り結びはたったその一瞬で全てを決した―!






…風が、吹き往く風が、うおおおおおん、と、唸りをあげた。






「…!」
「…」






―グレートマジンガーの、右肩に深い斬撃の跡。
噴き出すオイル。はじける火花。
そして―






暗黒大将軍の顔には…本体の、老将の顔…深々と、マジンガーブレードが突き刺さっていた―






「ば、馬鹿な…!」
巨人が、よろめいた。
膝を折る。大地が、わなないた。
必死に息を吸おうとする老人の顔。
その口から、大量の血があふれ出す…
ごぼっ、という不吉な音を立てて。血の海が、そこに拡がる―
「ぐふッ…剣鉄也よ、これで勝ったと思うなよ」
だが。
それでも、暗黒大将軍は…最期まで、戦士たらんとする。
彼の目は、決して宿敵からそらされない。
偉大な勇者をねめつけて、彼は宣告する。
「俺が死のうとミケーネは滅びぬ…
必ずや次に続く者が!七つの軍団を率いて、地上を取り戻すッ!」
空を仰ぐ。蒼空を。
目にしみるような蒼天が―彼の視界を埋め尽くした。
それは、「自由」だ。「自由」の色なのだ。
あの小娘が身命を賭けてまで望んだ、「自由」の色だ―
「今の俺に必要なのは、地獄の責め苦にも耐える勇者の歌だ…!」
「暗黒大将軍!」
「ふは、ははは」
ごおごおと風が泣く。
旋律もない、音階もない。
今まさに死す勇者を送る勇壮なる歌は、聞こえては来ない。
だが、彼の耳には聞こえていたのかもしれない―
ごおごおと泣く風の音が、勇者のための歌となって。
「ふはははは、ははははは…!」
哄笑。暗黒大将軍の哄笑。
乾いた風に散らされていく、影をおびた哄笑。
暗黒大将軍が、笑っている。
喜びでもなく、悲しみでもなく。
ただただ、笑う―
「は、は…は、」
また、ごぼり、と、血が吐き出された。
その吐血が、彼の最期の哄笑を断ち切った…
老将の瞳が、光を失う。
―ばちゃり。
その手から…とうとう、剣がこぼれ落ち、自らがこぼした血の海に沈んだ。
がくん、と膝が折れ、そのまま前のめりに。
倒れ伏す。
血の色に染まった大地に、暗黒大将軍の巨体が倒れ伏す。
―風の音が、止んだ。
ぴたり、と、止んだ。
誰も、何も言わなかった。
一人の勇者の死を、何も言えぬままに見送った。
「…!」
頬を伝っていったのは、涙。
見開かれた透明な瞳から、こぼれ落ちる涙。
「…え、エルレーン?!」
リョウの声に、戸惑いが混じる。
モニターの向こう、ゲッタードラゴンのコックピット内にいるエルレーン…
彼女は、確かに泣いていた。
「お前、どうしたんだ…?!」
「わ…から、ない」
問われたエルレーンは、だが自分でも訳がわからない、というように首を振る。
にもかかわらず、涙は後から後からあふれだす。
理由も知れぬのに、止まらない涙に困惑するエルレーン。
「え…」
「わからない…でも、…ッ!」
もしかしたら、それはあの少女が泣いているのかもしれない…
かつて、あの老将と言葉を交わし、こころを交わした、あの少女。
ミケーネ最後の大将軍、暗黒大将軍の死を悼む―
…同じ、「自由」の蒼空を望んだ者だから。




剣鉄也の言葉が、その蒼天に…静かに、響き渡った。




「暗黒大将軍…歩む道を誤ってしまったが、お前は勇敢な将軍だった!」





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