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◆ "No.0" strikes back...!
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「…?!」
「こ、これは…?!」
「…左様で御座います、お二方…」
暗黒大将軍とゴーゴン大公の驚愕の声が、そのほの暗い部屋の中に反響していく。
彼らミケーネ帝国の勇士は…今、恐竜帝国はマシーンランド内、科学技術庁長官ガレリイの管理する特殊プラントの中にいる。
…かつてに比べ、戦力を遥かに減少させてしまったミケーネ帝国。
だが、彼らもまた、確かに時代を生き抜いてきた。
「ハ虫人」たち同様、深い眠りにつくことで…時を越え、危機を越えてきたのだ。
しかし、往年の戦士たちが再び目覚めたとはいえ、その戦力は単体では心もとない。
そのため、現在では同じ地下勢力である恐竜帝国に身を寄せている状態だ…半ば、食客として。
もちろん、彼ら勇者たちに対しては丁重な態度がとられ、上のものをも下に置かない対応がなされている。
だが、実際のところ…食客としてすら何もする仕事がなく、手持ち無沙汰に日々をつぶしてきた…というのが彼らの本音のところであった。
ミケーネ自身の力量が、十分なところにまで回復するまで…待ち続けるより、他になく。
そんな時だった。
再び地上進出を計画した恐竜帝国、その科学技術庁長官であるガレリイ長官に、「魂呼び(たまよび)」の儀式をしてくれないか、と持ちかけられたのは。
…「魂呼び」とは、その名のごとく…死者の魂を冥界から呼び戻し、骸の中に再び封じ込めるミケーネに伝わる呪術である。
すなわち、死者復活の儀式…
それを請われたのは、もうどれくらい前になるだろうか。
儀式自体は、自分たち二人がいれば困難というほどでもない。
だが、死者をよみがえらせるには、再び呼び寄せた魂を封ずる骸…新たな肉体がなくてはならない、と言っておいた。
「イキモノ」であれ「機械」であれ、何であれ。
すると、今日。
ようやくその身体を再び再生することが出来た、というので、こうして彼のプラントまでやってきたというわけだが…
しかし、彼がよみがえらせろ、というモノ。
それは、何と…彼ら自身もよく知る、宿敵・兜甲児、剣鉄也の盟友…!
「あなた方のお力で、呼び戻していただきたい魂とは…これのモノで御座います」
「し…しかし」
ゴーゴン大公が、困惑に満ちた口調で言葉をはさむ。
「あ奴を、な、何故…」
「いいえ、これはあの流竜馬ではありません。…これは、そのクローン。そして」
それに先んじて、彼の疑問の答えを口にするガレリイ長官。
「…あの不遜なサルどもを殺すための…『兵器』です」
彼によって、『兵器』と呼ばれたモノ。
無数のパイプとガラスで出来た子宮、その培養機に満たされた液体の中に揺らぐ、そのイキモノ…
その顔を、彼らは知っていた。
…ゲッターチームのリーダー、流竜馬…!
「…」
「…同士討ちさせる、というわけか」
「まあ、そうですな…実は、あのサルども『人間』に対し、我々『ハ虫人』は、思考スピードという点で確実に劣るのです。腹立たしいことですが」
「ほう…そうなのか」
「我々『ハ虫人』に比べ、寿命も短く、その身体は遥かに弱体。…しかし、いかんせん…ゲッターチームとの戦いは白兵戦ではなく、機動兵器による戦い。
よって、むしろ重要なのは…機を見、相手の弱点を見切り、そして即座に攻撃・防御行動を行う、思考の速さなのです。
…その点において、我々は圧倒的に不利なのです」
嘆息するガレリイ。憎たらしいが、それは事実そのものであったから。
「…ですが、この『兵器』…奴らと同じ、『人間』ならば」
にたり、と笑むガレリイ長官。今一度、培養機の中で静かに息づいている、己の「作品」を見やる。
「『人間』ならば、その思考スピードは互角。…そして、さらにこのNo.0には、様々な戦闘術などの知識を植え付けてあります。
すなわち、『人間』でありながら、奴らよりも上位。…まさに、『兵器』なのです」
「…しかし、ガレリイ殿」
「何ですかな?」
培養機から視線をはずさないまま、ガレリイに対して問うゴーゴン大公。
その、ガレリイ長官の造った流竜馬のクローンは…いささか、妙なところがあったからだ。
「それにしても…何故、このクローン体は『女』なのだ?貴殿の趣味か?」
そう問いつつ、首をかしげる彼…
そう、今自分たちが目にしている、流竜馬のクローン…
培養液の中にゆらゆらと海月(くらげ)のようにゆらめいているその複製の肉体は…明らかに、女性のものであった。
何も身に纏っていない身体は、なめらかな曲線で縁取られ…小さくはあるが、それは確かにやわらかな胸乳を備えている。
対して、男性のシンボルは持ち合わせていない。
オリジナルの流竜馬は「男」にもかかわらず…何故、わざわざこのような奇妙なことをするのか?
「貴殿の趣味か」とゴーゴン大公が聞きたくなるのも無理はない、まったく理解できないプランだった。
「ほっほっほ…やはり、気になりますかな?」
…が、その質問はすでに予測済みだ、というような顔をして、ガレリイ長官はあっさりと言ってのける。
「実は、わしにも原因がよくわからんのですが…何体造っても、こうなるのですよ。何体造っても、メス型になるのです」
「?」
「…まあ、本当のところ…この方が遥かに良い、と言えるのかも知れませんがな」
「…それは、どういうことだ?…戦闘の為に造ったというならば、激しい気性と勇猛さを持ち合わせた『男』のほうがよいのではないか?
…事実、流竜馬がそうであるように」
「わしもそう思うがな。…第一、『女』では、肝心の戦場に立った途端、即座に怯えて逃げ出してしまいそうなものだが」
畳み掛けるようにその不利を指摘するゴーゴン大公と暗黒大将軍に対し、あえて…ガレリイ長官は、問い返すことから説明を始める。
「…それは何故です?」
「…何?」
「何故、『女』は、戦場に立った途端、怯えて逃げ出すのでしょう…?」
「それは、至極当然のこと。己の身が可愛いからであろう」
「そうです…そのとおり。そして、それは『生存本能』の為せる技…『女』は、『男』よりも、遥かに強い『生存本能』を持っている。
…それは、子を為し己が子孫を生き延びさせねばならない、という種の保存の本能からきているものかもしれません」
「ふむ…だから、『女』ではいかんのではないか?」
「…まあ、最後まで聞いてくだされ…『生存本能』は、生きることに執着する本能。死を恐れ、それから逃れようとする本能…
『女』は、その本能をより強く持つ。…だから、『逃げ出して、生き延びる』という選択肢を選ぶのです」
「…」
黙り込んだ二人。しいんとした特殊プラントに、ガレリイ長官のかすれ声が響く。
「では…その行動のベクトルを、『逃げ出して、生き延びる』から、『殺して、生き延びる』に変えれば?」
「…!」
「そうです…このNo.0は、強烈なその『生存本能』のベクトルを、ほんの少しだけ捻じ曲げてあるのです。
そのありあまる『生存本能』を、『攻撃性』へと転化させてあるのです」
ガレリイ長官の講釈は続く。
「元々、『人間』というイキモノは…我々に比べ、遥かに弱々しい。
しかし、それ故に…生き延びようという意思、『生存本能』は、ずば抜けて高いのです。
何としてでも生き延びようという衝動…何としてでも、自らと、自らの近しい者のいのちだけは守ろうという衝動」
彼が「人間」を語る口調は、穏やかで、それでいて揺るぎない、堅牢な侮蔑と嫌悪の情に彩られている。
自分たち「ハ虫人」に比べ、異常なまでに「生き延びる」ことに執着する「人間」。
それ故に伴われる邪悪な性質を、ガレリイ長官は淡々と語った。
「だから、奴らは実に愚か…大局的なモノの見方をできないのです。
この世界全体、イキモノ全体のことを慮ることはおろか、自らに固執するあまり、同族同士でも簡単に憎みあい、陥れあい、殺しあう…
まあ、この『兵器』は、その忌まわしいほどに激しい『生存本能』を利用しているというわけです」
そして、培養機に息づく「人間」を見る…
醜いまでに強烈な「生存本能」を、武器として転化させ造り上げた…「兵器」。
「…目の前に立つ者、その者を『敵』と見なせば…こ奴は即座にその者を殺す。己の身を守るために」
「…」
「であるからして、そこには一切の容赦も同情もない…ただ、殺す」
「…」
「ふふ…これ以上に、『兵器』に必要な素質などないでしょう…!」
ガレリイ長官が、そう言いながら…さもおかしそうに、自分で笑う。
「…成る程、な。己が生命(いのち)を何より重んずるが故に、それを守るためならば、他者の生命を平気で軽んずることが出来る…か」
「そうです。…それに、もう一つ」
かつん。
ガレリイ長官の靴の立てる高い澄んだ音が、静かに特殊プラントに響いた。
「こ奴は、己が守るべき者…『仲間』のためならば、どのような場であれ、その身を投げ出すことが出来る。
…それも、『女』の持つ特質…いいや、『母親』の持つ特質を利用しております」
「ふうむ…?よくわからぬが?…先ほど言っておられたことと、矛盾してはおらぬか?」
「ほっほっほ…いいえ、ちゃあんとつながっておるのですよ」
多少頭が混乱してしまったのか、ストレートに疑問の声を上げるゴーゴン大公。
ガレリイ長官は、それも予測のうち、といった風情の乾いた笑い声を上げ、それに応じた。
「…?」
「…恐竜帝国には、このような言い回しがあります…『卵守(も)る母龍こそが、最も猛き勇者である』…と。
自らの子の命を守るためならば、母龍はその身を呈し、死に物狂いで『敵』を討つのです。
そしてそれは…母龍が、己が子のいのちを、自分自身のモノと同一視しているからに相違無い」
「…ふむ…!」
彼の意図することを理解したらしく、暗黒大将軍が低くうなった。
「つまり、己と同じ、いや自分自身といえる生命を守るために、たやすくその命を賭けることが出来る。…躊躇もせずに。
何故なら、その子どもを守ることは、己の生命を守ることと同じほど重要だと感じられるからです」
「…尊き、『母親』の性、か…それを貴殿は利用するというのか」
「当たり前でしょう?…こ奴は、所詮『人間』なのですから。
…しかも、こ奴はわしが造ったモノ。わしがどうしようと、こ奴には文句を言う筋合いなどないのです」
「…」
暗黒大将軍の皮肉めいたセリフも、ガレリイ長官は淡々と受け流した。
彼の言葉に潜む残酷さ、冷酷さに、暗黒大将軍は…誇り高き、気高き勇士であることを自覚する暗黒大将軍は、内心鼻白む思いがしたものの…それでも、自分が口出しすることではない、と思い直し、あえて何も言わないままでいた。
「…まあ、あの三人組の中で、もっともそういう傾向が強かったのが、あの流竜馬だったもので、そ奴のDNAを利用して造ったのですがな…
しかし、いかんせん…ちいと、強すぎた、のですがな…」
「ん?それは一体、どういうことだ…?」
「…いや、まあ…昔のことですよ…」
ガレリイの言葉尻に何やら含むものを感じた暗黒大将軍。
だが、追及する彼に対し、ガレリイ長官はあっさりとその話を流してしまう…ひらひらと手を振りながら。
…と、笑みを目じりに浮かべていたその目が、ふと真面目なものになった。
「…頼めますかな?…いや、また新しく一から最低限必要な知識を教えなおすより、そちらのほうが手っ取り早いものでしてな」
…一瞬の空白の後、ゆっくりと息を吐き出しながら…暗黒大将軍はそれを受諾する。
「…別に、断る理由もない。では、さっそくとりかかろうか…」
「暗黒大将軍…よいのですか?」
「恐竜帝国に世話になっている身だ。このくらいの返礼はすべきだろう」

連綿と続く呪文の詠唱は、あまりに突然に終わりを告げた。
ぶつっ、と断ち切れるような消え方をした呪文に、ガレリイ長官がいぶかしげな顔を二人に向けた…
が、彼らの表情から、その理由はすぐに察することが出来た。
儀式はすでに完了した。それ故に、もはや魂を呼び寄せる呪文は必要ないだけなのだ…と。
それを理解したガレリイ長官は、すぐさまコンソールまで走りより、なにやらボタンをいくつか操作する。
…すると、さあっというかすかな水音とともに、培養機の中に満たされていた液体が排出されていく…
今まで海月のように浮かんでいた少女が、培養機の底にすうっと足をつける。
しばらく、その少女はぴくりとも動きはしなかった…がくりと頭を垂れ、立ち尽くしたまま。
「…」だが、やがて…三人が見守る中、少女のまぶたがかすかに震える。
ゆっくりとその両目を見開いていく…そこから姿を現すのは、ガラスのような瞳。
オリジナルの流竜馬のものより、遥かに冷たさを感じさせる、無表情な瞳…
「…気分はどうだ、…No.0」
「…」ガレリイ長官の声に、少女は…うざったそうに目を向ける。
かすかに朱い色のさした唇が、何事かを紡ぐべく蠢いた…
だが、そこから吐き出された言葉を聞き、ゴーゴン大公と暗黒大将軍は…多少、度肝を抜かれた。
彼女の言葉は、整ったその顔立ちとは裏腹に…ぞんざいで、汚いものだったからだ。
「…いいわけねぇだろうが…最悪だ、前と変わらねぇ」
「!…ふん…ずいぶんな口をききおるわ」
培養機の中から発されているため、かすかにこもって聞こえるクローンの…ガレリイ長官は「No.0」と呼んだ…声。
その声は、流竜馬のモノにも似ていて、それでいて違ったようにも聞こえた。
「…何故だ」
その声が問う。
「何故、俺を…また、造った?」
「…」
「俺を処分しておいてよ…何故、また俺を造った?」
一瞬の、間。
その後に、ガレリイ長官が答えた。
「…No.0よ」
「…」
「お前が造られた目的…その使命を、果たさせてやろう」
ガレリイ長官は、薄く笑んだ。
そして、命じた…かつて、このクローンを造り植えつけたモノと、そっくりそのまま同じ命令を。
「ゲッターチームを、お前のオリジナル・流竜馬を…お前の手で、殺すのだ」
「…!」
その言葉を聞くなり、今まで無表情だったNo.0に変化が起きた。
端正な顔に憤怒と憎悪が一挙に浮かび、ぎりぎりとその目つきが鋭くなる…
身体を突き上げるような怒りに焼かれ、少女が思い切りその両腕を振り上げるのが、培養機のガラス越しに見えた。
…ばあぁああぁんっ!
「…ふざけるなぁッ、くそったれぇぇえええぇッ!!」力の限り、培養機のガラスに両腕を叩きつける。
まるで、ガレリイ自身を殴り飛ばそうとでもするかのように、激しく。
「?!」
少女の唐突な激昂、マグマの噴火のようなその激烈さに、暗黒大将軍たちは一瞬言葉を失った。
「…!」
「っ…ぐうッ?!」だが、ガレリイ長官はその様を見ても慌てることもなく、ただ黙ってコンソールを再び操作する…
すると、培養機を縦に貫くように、緑光の電撃がガラスのポッド内を走り抜ける。
ショックビームによる拘束を受け、少女は苦しげなうめき声を上げた。全身に走る痛みに身をそらし、びくびくと震えている。
「ふふん…そう猛るでないわ。相手が違うじゃろうが!」
「な…何言ってやがる…き、貴様ら、『ハ虫人』は!…お、俺を殺しやがったじゃねえかッ!
その、貴様らが!また俺を造って…させようってことがそれかよ?!手前勝手にもほどがあるぜッ!」
だが、それでも彼女は決して膝を折らない…
全身を電撃でさいなまれながらも、その顔だけはガレリイ長官に向け続け、歯を喰いしばり、視線だけで相手を射殺せそうなほど鋭い目つきで彼をにらみ続け、叫び続ける…
「わははは…!…確かにの!」彼女の抗弁を、ガレリイ長官はさもおかしそうに笑い飛ばした。
その態度が、No.0の怒りをさらに燃え上がらせる。
彼女は身をしならせ、再びガラスをがあん、と殴りつける。
電撃の痛みをこらえながらも、ガラスを砕こうと…ガレリイ長官を叩きのめさんと、何度も何度も全力かけてその白い腕(かいな)を振り下ろす…
「?!…ふ、ふざけやがって!…お、お前ら『ハ虫人』は、俺の『敵』だ!…殺してやるッ、殺してやるッ、貴様らなんてぇッ!」
「お、おい?!」
「ガ、ガレリイ殿?!」
があん、があん、があん…
連続する鈍い音。衝撃で揺さぶられる培養機。
彼女の力では、その培養機の強化ガラスを破壊することはあたわないようだが…
しかし、それでも、ミケーネの勇士たちの肝胆を寒からしめるには十分すぎるほど、少女のその様は異様であった…
…確かに、ガレリイ長官の言ったとおりではあった。
その少女は、尋常でなく好戦的…攻撃的、そして、凶暴だった。
オリジナル・流竜馬の強い「生存本能」…それが何の制限もなく、他者への「攻撃性」へ転化させられた。
その強烈な攻撃性の発露を、暗黒大将軍たちは半ば呆然として見守っている…
「…忘れおったか、馬鹿者め…お前の本来の『敵』は…お前のオリジナル、流竜馬…そして、ゲッターチームじゃろうが」
ふん、と鼻を鳴らすガレリイ。
…が、突如…その口調が、多少変化した。
「そして、お前が、もし…その本来の『敵』を倒すことに成功したら、…No.0よ」
「…」
「…我々は、お前に…何でも望むモノを与えてやろう」
「…?!」
今まで激しくガラスの子宮の中で暴れていた少女は…それを聞くなり、ぴたり、と動きを止めた。
ガレリイを見るその視線には紛れもない疑心が浮き出てはいたが…少なくとも、話だけは聞く気になったようだ。
「…」
「…どうだ、悪い話ではなかろうが」
コンソールを操作し、電撃も止める。
かすかな火花をはぜる音を最後に、少女を拘束していたショックビームは消えうせた…
ショックから解放された少女は、ゆっくりと息をつき…改めて、ガレリイに向き直った。
「…本当かよ、…本当に、『何でも』、俺の望むモノをよこすってんだな」
「おお」
「…」
「何でも」という箇所に強く抑揚をつけ、強調して問うたNo.0。その問いに、あっさりと肯定の意を返すガレリイ長官…
強化ガラスの向こう側、その少女がすっと目を落とすのが見えた。
そして、一瞬逡巡した後…彼女は、望む条件を口にした。
「…俺の、望むモノ…ふたつ、ある。…その、両方ともをよこせ」
「ほう、欲の深いことだな。…して、それは?」
「…ひとつは…ロウ。俺の『トモダチ』を、俺の大切な『仲間』を」
「…ふむ、よかろう。どうせ再生産するつもりじゃったからな。そっちは、すぐに用意してやろう…
まあ、貴様の乗るべき機体は、すでにもう一つ用意してあるのだがな…」
「…?」提示された一つ目の条件に、たやすく同意するガレリイ。
…彼が言う、「すでに用意されている、乗るべき機体」が何を示しているのかわからず、少女は多少困惑したような顔を見せた。
「…では、もう一つとは?」
「もう一つ…俺は、」
もう一つの条件を問われたNo.0。
きっ、と眼をあげ、強い意思を込め…彼女は、はっきりとした声で、こう宣言した…!
「俺は、『自由』になりたい…!」
「!」
「…ふん」No.0のその望みに、驚きの表情を見せるミケーネの勇士たち…
対して、ガレリイ長官は…ただ、嘲笑にも似た冷ややかな笑いをにじませただけ。
だが、No.0は…彼女の望むことを、力を込めてもう一度宣言する。
「俺が、ゲッターロボを破壊し、ゲッターチームを抹殺したら!…俺とロウ、俺たちを『自由』にしろ!」
「…それは、恐竜帝国から離れるということか?」
「ああ、そうだ!…俺は、『自由』になる!『自由』に生きてやるんだ!貴様ら『ハ虫人』からも、…この、うっとうしい恐竜帝国からも!」
「…」
「…今言ったこと、本当に守るのか、ガレリイ!」
ガラスの向こう側に見える老人に向かい指を指し、吐いたセリフの真偽を問う少女。
「ああ。誓ってやろう」
「『約束』するな?!」
「…ああ、『約束』してやる」ガレリイ長官は、間髪いれずうなずいた…
やはり淡々と、その報酬を誓約した。
「…!」
その時だった。
暗黒大将軍とゴーゴン大公の目の前で…
そのNo.0が…「流竜馬」が、にたり、とその端正な顔を歪める。
唇の端が持ち上がり、長いまつげで縁取られた大きめの瞳が、さらに大きく見開かれる。
ガラスのようなその瞳の中に、彼らが見たもの…
それは、闇色の光、そして狂気のかけら。
そして、開かれた唇から発されたのは…
「…っくっくっく…ひゃあっはっはっはっはっ!」
「…!」
「ひゃははは…そうか、そうかよ!…ひゃははは、いいぜぇ。…なら、俺は!」
恐ろしいくらいに下卑た、邪悪な高笑い。オリジナルとは似ても似つかぬほどの…
右腕を胸の前で折り曲げ、手をぐっ、と強く握る。
まるで、ゲッターチームのいのちを握りつぶさんとするかのごとく…
「…俺は、殺してやる!俺の『敵』、流竜馬を、ゲッターチームを…殺してやる!」
「…」
もはや、ゴーゴン大公と暗黒大将軍は、何も言えないまま…その少女の狂気まじりの哄笑を聞いている。
ガレリイ長官に促され、自分たちがこの世に再びよみがえらせたモノ…
その鮮烈なまでの邪悪さ、そしてオリジナルとの強烈な差異。
そのすさまじさに、彼らは二の句も告げぬまま、ただ特殊プラントに響き渡るNo.0の笑い声を聞いている…
「あははは、ひゃはははっ、あーっはっはっはっはっはっ…!」


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