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◆ Soul of Dragon(「龍の魂」)
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「あ…ぉ、」
中途半端に開かれた老爺の口は、ぽっかりと暗い洞穴のようだった。
そこから、無理やり声を絞り出す…
今耳に飛び込んできた彼女の言葉が、信じられなくて。
「な、な、にを…言っとるんじゃ、キャプテン・ルーガ…」
「ほう、耳まで遠くなったと見える、ご老体?」
「なッ…?!」
「では、もう一度言って差し上げようか?」
だが、キャプテン・ルーガはあっさりそれを皮肉り、笑い飛ばした。
もはや立場が上のものに対する態度では絶対にない、彼女の言動…
それに泡を喰うガレリイ長官を冷たい瞳で見返し、キャプテン・ルーガはもう一度高らかに吼えた―
「私の倒すべき『敵』はあなただ、ガレリイ長官!」
ねめつける。黄金の瞳が、怜悧と憤怒を抱き込み、きらめく。
「この私がいる限り!エルレーンには…彼らには指一本触れさせないッ!」
「…?!」
りいん、と涼やかな音が鳴るがごとく―彼女の声が通り渡る。
しかし、その内容は…ガレリイ長官以下、恐竜帝国の「ハ虫人」たちの脳天を砕き割るかのようなものだった。
「な…何をとち狂っておる?!き、貴様…自分の言っておることがわかっておるのか?!」
当然、ガレリイは怒鳴り返す。
何かの間違いではないか、と。口が滑っただけではないか、と、聞き返す。
「貴様…き、恐竜帝国を裏切り、その薄汚いサルどもの側につくと言うのかッ?!」
「…」
キャプテン・ルーガは、無言のまま。
無言のまま、静かに微笑っていた。
つまりは、それが…返答だった。
「…〜〜ッッ!!」
老爺の顔が、一挙に湧き出てきた怒りで歪む。
「き、キャプテン・ルーガ…!い、生き返らせてやった我らの恩を忘れたか?!」
「『生き返らせてやった』…?!…ははっ、笑わせるな、ガレリイ長官!」
ガレリイの傲岸不遜な言葉すら、あっさりと切って返すキャプテン・ルーガ。
そう、彼女はもはや全てを悟っているのだ―
「私を今さら再生したところで、戦況が大きく変わるわけではあるまい。…では、何故私を生き返らせたか…」
背筋に冷水を浴びせかけるがごとくに、ぞっとするくらいに、冷たい声だった。
それは、彼女がガレリイに対して抱く負の感情の強さを、そのまま声にしたかのようだった。
「あなたは怖いのでしょう、エルレーンが!…自分の御する『兵器』でなくなり、己に刃向かうエルレーンが!」
「?!…な、何ッ?!」
図星をつかれ、おたつくガレリイ。
そんな彼に対し惑うこともなく、なおもキャプテン・ルーガは追い詰める。
「だからあなたは私を生き返らせた…
私に対して、あの子が戦えないだろうと知っていたから。
あの子を苦しめ、追い詰めるためだけに、あなたは私を生き返らせた、
…そうではないのか、ガレリイ長官!」
「!!」
「…まったく、あなたというお方は…
まったく変わっておられないのだな、あの頃と!
『仲間』をまるでモノのように扱う…相変わらず、下衆なことだ」
「な、何じゃと?!」
「私を生き返らせようとしたのは、ガレリイ長官…あなたの独断だったようではないか。
帝王ゴール様にすら了解を取らずして、ミケーネ帝国に『魂呼び』を行わせた。
越権行為もいいところだ」
そう言って、キャプテン・ルーガは軽く首をふった。
相手をおちょくるかのように、わざとらしく、大仰な振りで。
「だ、黙れ!貴様なんぞに…」
「それも、エルレーンのこころを壊す、そのためだけにな。
…フッ、私怨そのものではないか、ガレリイ長官!」
「く、くそッ…!」
「だから…私も、」
ふっ、と、金色の瞳が鋭くなる。
「私も…己自身のために、自分の望む『未来』の為に戦う!それだけだ!」
鳴り渡る。それは、彼女の誓い。
「今こそ我が『恐竜剣法』をもって滅ぼそう、ガレリイ!」
鳴り渡る。それは、彼女の宣告。
「…〜〜ッッ?!」
かつて、「鋼鉄の女龍騎士」とあだ名され、恐竜帝国の中でもその武勇を持って名を馳せた勇士、キャプテン・ルーガが下す―
それは、まぎれもない死刑宣告だ!
「き、キャプテン・ルーガ…き、貴様は、ッ」
そして、そのキャプテン・ルーガに宣告を下されたガレリイ長官。
わなわなと震えているのは―果たして、怒りのせいだけだろうか。
ともあれ、ガレリイは喉を震わせ、罵声を浴びせかけんとする。
「貴様はッ、龍騎士(ドラゴン・ナイト)の誇りまで忘れおったかッ!薄汚いサルどもに情を移すなど…ッ!」
「…っはは、あっはっはっはっはっ!」
…が、その罵倒すら、高らかな哄笑がかき消した。
女龍騎士が笑う、十分に皮肉の色をその中に混ぜ込んで。
何故なら、彼女は笑っていても…金色の瞳は、冷酷に己の「敵」を見据え続けている。
「…?!」
「醜悪なる老爺、己の能力に溺れた策士!ガレリイ長官よ、あなたに龍騎士(ドラゴン・ナイト)の誇りを説教されるとは思わずにいたよ!」
「な…ッ」
「いいか、ガレリイ!…龍騎士(ドラゴン・ナイト)とはッ!」
改めて、真剣な顔つきになるキャプテン・ルーガ。
彼女は誇らかに告げる、真の龍騎士(ドラゴン・ナイト)として!
「…己を『敵』を倒す剣、『仲間』を守る『楯』と化し!己の身命をもって戦う!
それこそが、龍騎士(ドラゴン・ナイト)の誇りッ!」
そう。それこそが、彼女を支える不文律。
「敵」を倒す「剣」、「仲間」を守る「楯」―それこそが、龍騎士(ドラゴン・ナイト)。
気高く正しい、勇敢なる者。古(いにしえ)よりの、「ハ虫人」たちの勇猛さの結晶。
その魂を、今も―キャプテン・ルーガは、忘れてはいない!
「このキャプテン・ルーガは…あくまで、龍騎士(ドラゴン・ナイト)!
その誇りを賭け、私は戦う…『仲間』を守るために!」
「…!」
「る、ルーガ…!」
「仲間」、と言った。はっきりと。
エルレーンの胸が、熱い思いで満たされていく―
あの遠い日、もう二度とは戻れない過去。マシーンランドで、ともに過ごした日々。
自分はすでに、彼女を、恐竜帝国を裏切っているにもかかわらず。
それでも、彼女は自分を「仲間」と呼んでくれるのだ!
…ガレリイのこめかみが、怒りのあまりひくつく。
自分の製造物(それも、「出来そこない」の「兵器」に過ぎない!)を、「仲間」と呼んではばからないその態度。
彼にとってはまともに理解などできない、したくもない、嘘臭い、甘ったるい思い込みの産物。
「な、何が、『仲間』じゃ!そんな、培養液と蛋白質と電気刺激の配合物が!『出来そこない』のがらくた風情が!一体なんだと言うんじゃあッ!」
「ふん、知れたこと!…この子は、私の!」
しかし、ガレリイが散々に罵るその思い込みの産物を、キャプテン・ルーガは誇らかに誓うのだ。
そして、その対象をこう呼ぶ―
かつて恐竜帝国では、彼女以外にそう呼ぶ者がいなかった「兵器」を。
そしてこれからも、彼女以外の「ハ虫人」は決してそう呼ぶことがないだろう―
「…この子は、私の…『トモダチ』だ!」
「…!」
「ルーガ、さん…!」
「…〜〜ッッ!」
エルレーンの瞳から、涙がこぼれ落ちる。
リョウの胸を、奇妙な感慨が貫いていく。
ガレリイ長官の頭蓋を、怒りと動揺が塗りこめる―!
「き、貴様、こ…後悔するぞ、必ず後悔するぞ、キャプテン・ルーガ!」
「…後悔?馬鹿な」
怖じた老爺の強がりも、静かな微笑で踏みにじり。
そして…女龍騎士は、軽く目を伏せ、穏やかな声で言うのだ。
「素敵じゃないか、『人間』の『トモダチ』ができたなんて?」
「!」
「そして…かつてあの子は、我々『ハ虫人』のために戦って散っていった」
「…」
「だから、今度は…私の番と言うわけだ、妥当だろう?」
そう言って、とうとう黙り込んだガレリイに対し、キャプテン・ルーガは笑んだ。
意表を突くほどに、それは穏やかな笑みだった。
そこには、今から自分の身に降りかかるであろう悪夢に対する一切の後悔も恐怖も感じられない。
それが故に、逆にガレリイには恐ろしく映った―
…と、ここで、ガレリイ以外の「ハ虫人」がはじめて口を開いた。
それは、有人機メカザウルスの中の一体…キャプテン・ルーガとともに作戦に参加していた、恐竜帝国の他のキャプテン。
「き、キャプテン・ルーガ…!あ、あなたは、自分が一体何をしておるかわかっておられるのか?!」
「…ああ、キャプテン・トウガ…だった、か。…ああ、よくわかっているとも」
「あなたは…あなたは、我々『ハ虫人』を裏切るというのか?!恐竜剣法の伝承者、剣聖たるあなたが…」
「…」
キャプテン・トウガの言葉は、「裏切り者」を糾弾するというよりは、むしろそれは慰留の請願に近かった。
それはそうだろう、今目の前にいるキャプテン・ルーガは…いわば、伝説の人物。
今や断絶した「完全なる恐竜剣法」…5つの奥義を全て会得した、最後の剣士。
まさしく「剣聖」である彼女を無遠慮に屠ることなど、彼らにはとてもではないができないことだった。
だから、彼は叫ぶのだ。彼女が意思を翻すことを望んで。
「そして、『人間』どもに組しようとする…何故だ?!『人間』どもになど!
外敵の迫るこの事態においてすら、お互い反目しあい、だましあい、戦いあう!
同じ種でありながら殺しあう『同族殺し』などに…
何故、このような『イキモノ』を信用できるというのだ、キャプテン・ルーガ!」
キャプテン・トウガの言葉は、「ハ虫人」の抱く思いそのもの。
それは、キャプテン・ルーガが先ほど自ら語ったものと、何ら代わり映えしなかった。
「人間」たちは、内心の胸の疼きを押さえながら、それを聞く…
否定もできない。反論もできない。
自分たちは…彼らにそう罵倒されても仕方がない、そんなことを繰り返している―
…だが。
キャプテン・ルーガは、静かに言った。
「…キャプテン・トウガ。私は、『人間』を信用したつもりはないよ」
「?!」
「私が信用したのは、あの子。
私は、『トモダチ』を、エルレーンを…
そして、その勇敢な『仲間』、ゲッターチームを信用したのだ」
「…!!」
その言葉に、恐竜兵士たちがざわめいた。
どよめく声の波の中…もう一人のキャプテン、キャプテン・ギランが声高に問うた。
十分に動揺の混じった声で。
「キャプテン・ルーガ…それが、それが、あなたの『栄光』なのか!
…例え、後の歴史に裏切り者の名を刻まれようと、あなたは…
たった一人の小娘のために、道を誤るというのか!」
「…後の歴史など、私の知ったことではない…
私は、すでに死んでいるはずのものなのだから。…さあ、」
キャプテン・ルーガの返答は、しかしながら揺るがない。
これから裏切り、見限ることになる同胞たちを見据え、促す。
「どうする…私と戦うか?この逆賊を討ち取るか?!」
「な…わ、我々、『ハ虫人』は…お、愚かな、薄汚い『同族殺し』の『人間』どもとは違うではないか、キャプテン・ルーガ!
ど、どうして、お、同じ種たるあなたに剣を向けられよう?!」
「ふっ…薄汚い『同族殺し』…か。…だが…!」
刹那、キャプテン・ルーガの表情がにわかに険しくなる。
「…あの、何も知らなかった、小さな子は…そのためだけに造り出され、そして戦わされたのだ。
そのようなことをさせた我々が…」
「…」
「…罪なき者であるはずがない…!」
おぞましい過去を吐き捨てるかのように語る。その過去に関わっていた己自身をも断罪するかのように語る。
その眼光の鋭さと暗さに、キャプテンたちは気圧された―
そして、悟った。
彼女の背負う物の重さを。
彼女を駆り立てる物の強さを―
「…エルレーン」
「…!」
…と。
彼女が、彼女の友の「名前」を呼んだ。
「ハ虫人」では、彼女以外に呼ぶ者のなかった「名前」を…
キャプテン・ルーガの表情が、わずかに曇った。
「エルレーン…私は、お前に詫びなければならない…」
「…ルーガ…?」
「私は…お前を、もっと早くに…なんとかすることができたはずなのだ。
お前が『人間』に…ゲッターチームに惹かれていることを知りながら、あんなにも恐竜帝国で苦しんでいたのを知りながら…
私は、お前を行かせる事をためらった」
「…」
「私は、もっと早くに…お前を、ゲッターチームのもとへ行かせるべきだったのだ」
彼女は、吐息とともに…長い間負ってきた、その慙愧の念を吐き出した。
「だが、私はそれをしなかった…
お前を、そばにおいておきたかったのだ。…手放したくなかった。
『人間』たちのもとへ、行かせたくなかった…」
…単なる、未練。
とどのつまりは、そういうことだったのかもしれない。
キャプテン・ルーガは、エルレーンを自由にしなかった彼女の選択の理由を、そう実感していた。
そして、その故にたどった残酷な運命の結果を…彼女は、深く悔いていたのだ。
「…その私の我が儘が、結局お前を…地獄の苦しみに突き落とす羽目になってしまった。
すまなかった、エルレーン…」
「ううん、ルーガ…!」
…だが、詫びるキャプテン・ルーガに、エルレーンは必死で首を振る。
その透明な瞳を涙で揺らめかせながらも、彼女は懸命に言葉を継ぐ―
「私は、ルーガがいたから、…ルーガがいたから、生きていられたんだ!
恐竜帝国で、どんなに冷たくされても、『バケモノ』扱いされても…
ルーガがいてくれたから、私は…!」
「だ、黙れえッ!」
…その時。
喉がひきつれるような大声が、彼女の言葉をかき消した。
「黙れ、この『裏切り者』めが…わしに逆らった『裏切り者』ふぜいめが、何を…ッ!!」
「…『裏切り者』、だと…?!」
ガレリイの口汚い罵倒。
しかし、キャプテン・ルーガは…彼が飽きずに幾度も繰り返す、その単語すら否定する。
「…ガレリイ長官…あなたはやはり、わかってはおられないようだな!」
「な、何じゃと?!」
「…あの子が我々を裏切ったのではない!
一番最初にあの子を…エルレーンを裏切ったのは、我々『ハ虫人』のほうだ!」
「?!」
「あの子を自分勝手に生み出し、そのくせ完全な『捨て駒』として扱おうとした!
それでも懸命に戦おうとしたあの子を、どこまでも追い詰めたのは…我々恐竜帝国の側ではないか!」
キャプテン・ルーガの告発が、通信機を通じて響き渡る。
彼女の言葉が、エルレーンに思い起こさせる…
うっすらと、透明な瞳に涙が浮かんできた。
そう、あの女(ひと)は、自分を真に知っている。
「あの時代、エルレーンは…
早乙女研究所のゲッター線バリア装置を破壊し、
正体不明機を撃墜し、ゲッターナバロン砲を探し出して破壊し…
あまつさえ、その命と引き換えにゲットマシン・イーグル号を大破させた!
…それほどの戦果をあげたものが、キャプテンどもの中にいたか?!」
自分を本当に、見ていてくれた女(ひと)。
守ってくれた女(ひと)。笑ってくれた女(ひと)。愛してくれた女(ひと)…!
「つまりあの子は、対早乙女研究所戦において最も武勲をあげた戦士なのだ!
そのエルレーンに、我々恐竜帝国の者がいったい何をしてやった?!
…何も、報いなかったではないか!
いや、それどころか…あの子を『バケモノ』扱い、『兵器』扱いし、怯えさせていただけではないか…
エルレーンが、『人間』という、それだけで!」
キャプテン・ルーガの金色の瞳は、きっ、とガレリイを見据え…吐き捨てるかのように言い放った。
それはまるで、あの小さな少女を貶め、見捨て、省みなかった、「ハ虫人」という種族全体に対して怒りをぶつけているかのようだった。
「…こうなることは、すでにもう決まっていたのだ!
恐竜帝国があの子を『兵器』として扱い…ゲッターチームが、あの子を『人間』として扱った時からな!」
「…」
「もうよいだろう、ガレリイ長官…あの子は十分、苦しんだではないか!
あの時代、我々恐竜帝国と!『人間』、ゲッターチームの板ばさみになって!
己すら殺すほど、苦しんだではないか…!」
キャプテン・ルーガの声音は、義憤が故か…震えてすらいた。
口を閉ざしたガレリイに、彼女は毅然と言い放つ。
「それに、とっくの昔に、恐竜帝国はあの子に見限られている…
この期に及んでもまだそれがわからんのか、ガレリイ長官?!」
「…〜〜ッッ!!」
ここまで言われるにつけ…とうとう、老爺の線が、切れた。
「…い、」
今までぽかんと暗い穴を開けていた口が、大きく歪んだ…
「いけぇえええい、全機、攻撃態勢!」
「…!」
「あ、あの、あの裏切り者を!メカザウルス・ライアを、あの女もろとも焼き尽くせェッ!」
そして、杖を振り回し、ガレリイは絶叫する!
そして命ずる、「ハ虫人」たちに。
自分に逆らう裏切り者を滅せよ、と、キャプテン・ルーガを誅殺せよ、と―!
…だが。
機械蜥蜴の群れは、動かなかった。
「…」
「…」
メカザウルスの群れは、動かない―
ガレリイ長官からの通信が届いていない、というわけではないだろう、現にその耳障りな怒鳴り声は、プリベンターたちにも聞こえているのだから。
しかし、キャプテンたちは動かない。兵士たちも、同じように動かない。
だから―有人メカザウルスの中で、キャプテン・ルーガのメカザウルス・ライアに向かっていくものは、一つもなかった。
「…?!」
「な…?!」
驚いたのはガレリイ長官だけではない。
「人間」たちも、そして身構えていた当の本人、キャプテン・ルーガですら、あっけにとられている。
「な、何故、貴様ら動かんのだッ?!」
「…」
「命令じゃ!わしの命令に従えんと言うのかッ?!」
「…」
がなりたてるガレリイ。
それを聞くキャプテンたちも、しばし無言でいたが…
「き、キャプテン・トウガ!キャプテン・ギラン!撃て!撃つんじゃ!あの…」
「…それは謹んでお断りさせていただくとしよう、ガレリイ長官」
しかし、とうとう穏やかな声で―だが、十分に冷淡な声で、明らかな反意を示した。
「?!…な、…何を言っておる?!」
「我らは、彼の方を斬る刃など持ち合わせておらんのでな」
「きゃ、キャプテン・トウガ?!」
「ガレリイ長官よ。我ら恐竜帝国のキャプテンは…正当なる、気高き龍騎士(ドラゴン・ナイト)を嬲り殺しにすることはしない。
誇り高き龍騎士(ドラゴン・ナイト)は、そのような暴虐を好まない」
「彼の方の言葉は尤もだ。…『敵』の精神を動揺せしめるためだけに、眠りにつきし勇敢なる戦士の魂を弄ぶような非道を行うあなたの命令になど、我らは答える義務を持たん」
「…」
「このような馬鹿げた粛清になど、付き合ってはおれん」
「高潔なる『龍』の魂を失われたか、ガレリイ長官」
龍騎士(ドラゴン・ナイト)の誇りをもってして、彼らはガレリイを退けた。
そして、それは彼らの配下の者たちも同じ思いのようだ―
微動だにせぬまま、彼らはキャプテン・トウガ、キャプテン・ギランの言葉を聞いている。
「彼の方をよみがえらせたのはあなただろう、ガレリイ長官」
「ならば、その片は自分自身でつけられるといい」
「き…貴様ら、貴様ら…!」
わなわなと震えながら、ガレリイが抗弁するも…所詮は、無意味なこと。
龍騎士(ドラゴン・ナイト)の意思は、堅かった。
彼らは、義はどちらにあるのかを、キャプテン・ルーガとガレリイ長官の会話からすでに見抜いていたのだから―
「…」
「…」
「…あなたたちの判断に感謝する、キャプテン・トウガ、キャプテン・ギラン」
「いや…礼を言われることではない」
「あなたの矜持に敬意を示したまでのこと…」
彼女の礼の言葉に、二人は首を振る。
「キャプテン・ルーガ殿に免じて、この場は去ろう…だが忘れるな、『人間』どもよ」
「我々『ハ虫人』は、決してお前たちを許しはせん」
それだけをプリベンターたちに言い放ち、一瞥をくれる二人のキャプテン。
マグネットアンカーウェーブで動けない彼らに対しても、どうこうしようという気はもはやないようだ…
「それでは…我々は一足先に帰還させていただく」
「では、ガレリイ長官。また、マシーンランドで…あなたが生きて帰れたら」
「…」
存分に慇懃な、だが同時に冷たい言葉だけを呆けた老爺に残し、二人のメカザウルスはバーニアをふかす。
部下たちも、無言でそれに習う。十数機のメカザウルスが、動く。
最後に、キャプテン・ロウガ、キャプテン・ギランは…同じ龍騎士(ドラゴン・ナイト)に短い礼をした。
「それでは、…さらばだ」
「武運を祈る。…過去よりよみがえり、そしてまた死せざるを得ぬ龍騎士(ドラゴン・ナイト)殿よ」
二人のキャプテンの言葉に、キャプテン・ルーガは視線のみをもって答える。
目礼。それだけだった。
だが、それだけで十分だった。
「…」
キャプテン・トウガ、キャプテン・ギランの駆るメカザウルス、そして彼らに付き従う部下たちの駆る有人機のメカザウルスたちが、次々と180度反転、戦場から離脱していく。
一機、また一機と…真っ白き煙を巻き上げて。
その有様を、「人間」プリベンターたちは、動けぬままにただ見ていた。
そして、唯一残された母艦…メカザウルス・グダの連中どもも、もちろんガレリイ長官も。
己の戦略を、己の手駒、己の内側から崩された彼の表情。
まだこの場の状況が理解しきれていないのか…それは不恰好にゆるんだ、まるで弱々しい笑みのように見えるものだった。


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